やっ……ほら……魔物狩りの祭典があったじゃないですか。終わったら書こうと思ってたわけじゃないですか。終わった途端にムフェトジーヴァやるわけじゃないですか。それやりたくて祭典頑張ってたところがあったので、頑張るじゃないですか。装備作れて、よっしゃあと終わったら書こうと思うじゃないですか。マム・タロトが始まるわけじゃないですか。その繰り返しで、作りたいもの作れるまで頑張ってました。
その内アルバトリオンまで実装されるし、じゃあとことん……とやってたらこんなに空いてしまいました。そしていつも通り話が進みません。
【ケース32:超平凡級の男子高校生の会話(どうでもいいことが大半)】
デデンッ!
「問題。相手に質問をして“はい”か“いいえ”で答えてもらい、相手が頭の中で描いている答えを当てるゲームをなんというでしょう」
「チェ・ジウの質問!」
「ちげぇよ。じゃあ剥き歯笑顔で杖突きながら夜道を一人歩く能力者の通称は?」
「あ、それ解る。一方通行さんだ。一方通行さんはなんで剥き歯笑顔で夜道歩いてたんだろうね」
「まず答えを聞かせてもらいたかったのよきっと。じゃあ次ね。一方通行で知られるアクセラレータ。実際はなにを指す言葉?」
「加速装置~」
「正解~、装置じゃなくても加速させるもんの総称やね。反射が主なのに、なんでアクセラレータって名前がついたのか……謎だなぁ夜道剥き歯スマイルさん」
「そういえば……結局本名ってなんだったんだっけ。俺の時間軸じゃあ明かされてなかった」
「こっちもやね。たしかー……苗字が二文字で名前が三文字の、珍しくもない名前……じゃっけ?」
「そんな情報あったっけ? ヌヌー……ん? ていうかさ彰利。あの世界で珍しくもない名前なんて存在する?」
「あ。…………アタイらの“珍しくもない”が一切通用しねー世界じゃもんねぇ……」
「………」
「……普通に考えて、御坂美琴と亀山くんくらいしかまともな名前ない気がすんじゃけど」
「亀山くんって誰だっけ」
「……やっぱそげな認識よねぇ……」
場所は戻って大樹のてっぺん。
気絶した耳長族をモミアゲさんが背負い、トンガリさんが重い剣を持つことで戻ってきたそこで、モブさんとトンガリさんは退屈しのぎに問題を出し合って遊んでおりました。
「ほいじゃあ次は中井出が出題者ね」
「よし。じゃあ……最初は気体、次に顔面、次に口から杭を発射、そのくせ最後はプロレスで堂々と戦う。だーれだ」
「サタン様じゃねーの!!」
「なんでそれでわかるんだよ……」
問答に対しての、モミアゲさんの正直な気持ちが吐露されました。
さて、聖剣はトンガリさんの手でしっかりと樹碑に祀られ、エルフさんがキリストさんのように磔状態で放置されてから既に大分経つわけですが、三人は案外暇しておりました。
なにせ気絶しているとはいえ外人(外の人というそのままの意味)が現れたのです。目的を聞かない限りは勝手に動き回られても困るので、起きるまで待つ必要があったのです。
「じゃけんどもサタン様って律儀よねェ~ィェ。口から杭を発射してマリキータマンを始末出来るほどの実力者なのに、いざ戦うとなればプロレスで戦ってくれるんだもの」
「そりゃああいう世界だもの、戦う手段はプロレスだろ」
「杭打ちは?」
「罪への制裁だからセーフ」
「マジで!?」
「じゃあ次の問題行こうか」
「オウヨ、パーペキに答えてやンョ」
「……問題。パープルソフトウェア原作、秋色恋華のOPで南条伊吹がテニスで戦ってる相手は?」
「あれ絶対アシュラマンだろ」
「だよな」
世界は平和でした。一人、問題の意味もよくわかっていないモミアゲさんだけが、なんのこっちゃと首を傾げています。
「いやいやダーリン? 首を傾げるのは早ェェェェゼ? なにせこりゃあダーリンとて話されりゃあ“ああ確かに”って頷くに違いねー」
「晦一等兵。テニスで、一発テニスボールを打ったあとに三個連続でボールを飛ばせる存在が居るとしたら、どんな存在だと思う?」
「…………千手観音?」
「三発ってところに目をつけろよもう! だから貴様はモミアゲなんだこのモミアゲ!」
「モミアゲは関係ないだろモミアゲは!」
「まあそれはそれとして。晦~」
「……なんだよ」
「さ、太鼓叩いてホヴァってみよう。悪魔以外が呼び寄せられたら貴様の勝ちだ」
「もういいだろ忘れてくれても! あれは俺が悪かったから!」
「ウホレヒ!」
「ウホレヒ!」
「………」
「やらん?」
「やらんわ!」
「まったく……じゃあ今後はもう人の行動を頭ごなしに悪魔的とか言うのやめなさい! わかったわね!?」
「なんでオカン風なんだよ……ていうかお前ら誰かが何かしらツッコまないと、治まりどころを忘れて脱線し続けるだろ」
「ほいじゃあ治まりどころ。ウホレヒ。ほれやれ? 出来るっしょ?」
「晦よう……人にゃあ一丁前のこと言っておいて、自分はカッッピョ悪そうだからやだとか最低の行為だぞ?」
「そこから無駄に広がるってわかってるからしたくないんだよ……。頼むからわかってくれ……」
「じゃあ広げないと約束するぜ? なんならノレっち呼んで悪魔的制約の下に誓っても……ええんじゃぜ?」
「おお、俺もするする」
「条件どぎゃんする? 中井出が爆発四散するとか?」
「コココ……! へたっぴだなぁ~彰利一等兵……! 条件の出し方がまったくなっちゃいない……へたっぴ……!」
「なんと!? ならば中井出! てめーの意見を聞こう!」
「うん。いいかい彰利一等兵。これはフェアな取引ヨ。条件を出すなら俺も彰利も、もちろん晦も巻き込まなきゃあだめだ。で、URを持った上での爆発四散なんて、晦一等兵が頷くわけがない」
「オー……まあぶっちゃけ自分だけは無様をさらさない条件とか出してきそうやね」
「お前らの中で俺はどれだけ格好つけたがりなんだ」
モミアゲさんの質問に、二人はニコォオオオオオと極上ガイアスマイルをします。
「じゃあ晦、今すぐスパイダーマッポーズ取って?」
「出来るか!」
「ほらー、晦はすぐそうやって、出来ることを断るー。“出来るか”? やらないだけじゃないか」
「ダーリソはほんにそういうノリの悪いところがあるでよ。アタイそこだきゃちょっぴりカナスィー。いやね? そりゃね? 場のノリを優先してなんでもかんでもやれとか言うのはほんとクソだとは思うよ? アタイらの高校にもそげなこと言って、やればやったで“馬鹿みてー、ウケるー”とか小ばかにするクソが居たのも事実。でもここに居るのはアタイらなんじゃぜ? 今さらなにを恥じ入る必要がございますかってんだい」
「じゃあ彰利、今すぐ中二病真っ盛りみたいな行動とってみてくれ」
言われて即座に準備開始。眼帯、包帯、カッコいいポーズを流れるようにして見せて、その口から漏れる、耳にするだけでも頭の中が痒くなるような言葉を恥もなく唱え切り、最後にステキポーズでフフンと笑ってみせた。
「甘いな親友。俺という男は、やると決めたならば躊躇はしない。たとえそれが己の人間性や理性に逆らう行動だとしても、俺は喜んで反逆しよう。世界の理だの神の意志だの運命だの……知ったことか。生き様というのはな、親友。己の足で刻んでいくものなんだぜ。他人が決めたルールの中に、なるほど、確かに生きる方法も知る方法もあり、それらが俺を生かしてきたのだろう。つまり───」
「彰利一等兵。……長い。“モノ書きにナルォオオ”の小説のタイトルより長い」
「失礼な! 中二病は“タイトルに意地でも最強つけなきゃいけない病”とは違うやい!」
「あーもうほらみろ脱線した……!」
「でもYOだってYO、ランキングとか見てるとほんに最強って文字ばっか並んどんのよ? アタイ胸張ってベットできるよ。ランキングページ開いて『Ctrlキー+Gキー』で検索出して“最強”って打ち込んで、一個たりとも引っかからなかったら舌噛み千切って咀嚼して飲み込んで呼吸困難で死んだってええよ」
「それこそURに守られてる状態じゃ大したベットでもないだろ……」
「それ言われるとオラ辛ェ」
「……けど、その、なんだ? なるるぉお? そこってそんなにその、最強って文字が溢れてるのか?」
「ナルルォオっていったら最強じゃぜ?」
「あそこで最強の文字がなかったことなんて、どの程度の期間があったかどうかってレベルじゃないか? ていうかそっちでもそうなのな」
「オウヨ、アタイらの時間軸でも最強じゃったぜ?」
「うわー……」
凄まじいですね、最強。
ちなみにハイファンタジー(日間)のみのランキングページを開き、最強で検索すると検索結果が100を軽く超えます。時に150すら超えます。
「ちなみに彰利は小説とかだとどんなの見る? やっぱファンタジー?」
「アタイ恋愛系。昔粉雪に奨められてネ? 読んだらこれがケッコーおもしぃのYO。中井出は?」
「俺はホラー系とか読んで、夜にヴェンジョ行けなくなるタイプ」
「ちょっと格好良く便所言うな」
「晦はー……現実+ファンタジー系とか好きそうだよな」
「そのケは結構あるやもやね。あ、ちなみに悠介? 意識の無いお子に口移しとかで回復薬とか飲ませるのって、“仰向けで寝ゲロ”レベルで死ぬからやめようね?」
「……んん!? え? ねげろ、って……寝てる状態でゲロ、ってことだよな、彰利。……うそだろ? 死ぬのか?」
「マジで死ぬのYOダーリソ。ゲロや水分が器官塞いで窒息死。水ならまだすぐに吐き出せるやもじゃけど、ゲロはマジでヤヴェエ。なのでファンタズィー名物【口移しポーション】はヘタすると人殺しに繋がるからやめませう」
「そう。よーく覚えておこう、異世界冒険初心の者達よ。オールマイトも言っていたが栄養吸収ってのは胃でやるんじゃなく腸でやるもんだ。ならどうすりゃ効率よく吸収されるか……お分かりですな?」
そう、新事実。
瀕死の冒険者には奥義【サポジトリング・ポーション】を使いましょう。
経口摂取をした場合、“胃が吸収できるもの”はアルコールのみと考えましょう。十二指腸、小腸、大腸と吸収され、体を癒すまでを待っているのは愚かというものです。
んん? なんです? 命より恥が大事? 結構。貴様はそこで乾いてゆけ。というものです。
「瀕死の恋人……このままでは死ぬと魔王に宣告され、彼が取った行動とは───!」
「魔王の前で恋人に坐薬式回復薬摂取って、死んでいいと思うぞその恋人」
「なに言うのダーリソ! そうしなきゃネゲローム効果で恋人が窒息死するやもしれねーのじゃよ!?」
「恋人の性別がどっちにしたって精神的に死ぬわ!!」
「しかしなるほど。もし憎い存在を殺したいと感じた時は、坐薬に毒を仕込めばいいわけか。なにせ───」
「吸収率は無類だ」
「14キロの砂糖水っぽく言うな。大体、腸って意味で言うなら吸収力だろ」
「グ、グムー」
ちなみにサポジトリとは坐薬のことです。
吸収力は無類ですが、アルコールはやめましょう。
「あ、意識のないおなごを、ってので思い出したけどさ。死んだおなごにぶっちゅして目覚めさせたのって、なんてお話だったっけ」
「眠れる森のランニングスリーじゃなかったっけ」
「なにやったんだよ美女」
「いやほら、なんか棺に入って運ばれてた美女が、ランニングスリーくらって喉から毒リンゴが飛び出したとか」
「狂気だなおい! ほんとなにやれば運んでる人にランニングスリーされるんだよ!」
「あ。アタイそれ知ってる。王子様がネクロフィリアなお話じゃよね? めんこいからって死体を傍に置きたがって、死体を運んでた子分にナックルされるやつ」
「……なぁ。ほんとなにやったんだよその美女……」
「記憶が確かなら毒リンゴ食っただけ」
「よし、書いた人おかしいわ」
「ていうかさ、なんか白雪姫と眠れる森の美女、混ざってない?」
「ホ? ……あんれ? 同じ話じゃなかったっけか」
「ん? ……え? あれって違う話だったか?」
「え? いやー……真面目に訊かれるとちょっと。え、えーと? 針に刺さって呪いをかけられて、100年眠るのが美女じゃなかったっけ? で、毒リンゴが白雪姫。どっちも王子様にキスされて目覚める、みたいな話」
実際にはどちらもキスは関係なかったりしますが。
白雪姫はリンゴが喉に詰まって仮死状態。美女は目覚めるべき100年後にたまたま王子様が来ただけ。たまたま来た名前も知らない男に寝込みを襲われたのです。夢も希望もロマンスさえもありません。
「てーかYO? 王子だろうがなんだろうが、いきなり寝ているおなごの唇を奪うような、男の本能真っ盛りのゲス野郎と結婚する姫も美女もとんでもねぇよね。普通相手の正気疑わない? それまで大変な苦難を乗り越えてきた恋人同士で、大切な人が死んでしまったから最後の別れとして口づけを、とかならわかるよ? なのに出会ったばかり、性格も口調も知らんおなごにいきなりぶっちゅって。……普通に考えてヤヴェエよね」
「童話とかに冷静にツッコミ入れるな。怖い」
「悠介も考えてみれ? 目が覚めたらいきなり王子様のドアップで、その口からネチョォリと唾液の橋が伸びたりしたら」
「おぞましいわ!! やめろ!!」
「一方では妖精さんに毒リンゴで死んでしまったって報告まで受けてるんだよな……。それを城まで運んでとか……その上で唇奪うんだぞ晦……」
「………」
「初めて会った死体の女性に可愛いからって口づけをする。死体だってわかってるなら、その口づけした口でいつか出会う伴侶とキスするんだよな……。いやー……やばいな、王子様」
「ネクロ・フィ・リア王子殿下であらせられるなら、きっとその相手も結婚した直後に……」
「………」
「…………」
「なぁ。起きたエルフが身動き取れない状況で震えてるんだが」
「「ややっ!?」」
エルフさんは目覚めておりました。
そして、死体愛好家の王子の話や寝ている女性を襲う王子の話を聞いて、“人間……ヤベェ!”と割とマジで怯えておりました。なにせ自分も寝ていたのです。しかも男を襲う喩え話までされたとあっては、人間の男性に怯えるのも当然です。
しかしモブさんはそんなエルフさんの心配を正しく受け取ると、安心させるように言うのです。
「安心するんじゃエルナレフ……ゲロを吐くほど怯えるようなことじゃあない……落ち着け、落ち着けよ。簡単なことさ。人間の中でヤベェのはいつだって王族だ。王子には気を付けなさい」
『───!!』
そしてエルフさんはひどく納得し、安心したといいます。
そう、エルフであれば皆が知っていることです。人間は、汚い。だがそれを統率しているのは、率いているのは王であり、その王を遠目に見たこともある彼は、デヴ王に嫌悪感しか抱けなかったのです。
何故って、国民にデヴが居なかったからです。そして国民が見る王への視線も、とても敬意の籠ったものではなかったのも確信を抱かせる理由になります。
そんな心境を抱きつつ、磔状態の彼は木々に願い解放してもらうと、彼らと向き合って自己紹介に踏み出します。
『すまない。急に来訪して急に気を失ってしまうなど。私は───』
「あ、待った。エルフさんだよね? 森から森へと旅をする。名前を当ててみるから、当たったら僕にオメデトウ」
『エッ!?』
「オッ、中井出ったらやるじゃねーの、名前当てゲームとは」
「キキキ……! 言っておくがこの博光は相手の名前を当てるのに関しちゃあズヴの素人だぜ? 今まで何人もの猛者どもが“そうじゃねーよ”とツッコんだほどさ」
「いやそれダメじゃべョ。ほいじゃあ例題一問。どこぞの地下迷宮の底の底で、封印されし金髪の吸血鬼のお嬢ちゃんがおりました。名づけられた名前は“月”を例えた名前でしたが、本名は?」
「………………げろしゃぶか、フーミンだな」
「エルフさん、自己紹介の続き、お願いします」
「なんで!?」
「「なんでじゃねぇよタコ!!」」
「は、ははぁ~ん? さては貴様らこの僕が当てられないとでも思ってるな? さっきのは何かの間違いさ! ていうか地下迷宮の封印されし吸血鬼さんってあれでしょ? あの~ほら、封印した人が変態だったっていう」
「そうなのか!?」
「オ、オウヨ。17歳とはいえ外見幼女を裸に引ん剝いて、柱に埋め込んで封印するようなイカレた存在なのは確かじゃけんども……中井出YO? あれって300年の内に服が朽ちたってことはないん?」
「封印石柱の中に埋まった部分まで?」
「あ。有り得ねーワ、変態だったわ封印者」
「ちなみに封印者って?」
「叔父」
「狂気!!」
「い、いや~……この博光も思い出してきたけど、そういや叔父だったね……。いやうん、最終的にはいろいろあるんだけど、なんで敢えて裸で……? やっぱり“愛しているんだ……”の意味ってアレだった……?」
「やめれ。で? 名前、憶えとる?」
「えーとたしか~……いやマテ。僕らが体験しているこの異世界生活が“そう”なんだとしたら、僕らの物語はきっと誰かに監視されているッツ!! ……ネタバレ、ヨクナイ」
「とか言っといててめぇ~、どーせわからねーだけなんだろ~~~っ! え~~~っ!?」
「ムキキー! 嘘じゃねー! あんまり小馬鹿にする気なら明日の朝刊乗せるぞテメー!!」
「朝刊ねーべョ!!」
「グ、グゥムッ……! じゃあちょっと耳を貸しなさい! ~……ゴニョニョゴニョゴニョ」
「それリーゼロッテさんじゃねーか! アヴァタール! リーフェンシュタールじゃねィェー!!」
「あれ? そうだっけ?」
渡りの森人は戸惑いました。何を言っているのかさっぱりなのです。が、彼らが懸命に“知識をぶつ合っている”ということだけは受け取れたので、邪魔だけはせずに待っていました。律儀です。
「というわけで、エルフさん。あなたの名前はデッカードだ」
「マジで!? 妖精の長じゃねーの!」
「なんの話だ」
「「カタストロフ!」」
「なんの話だ!!」
詳しくは“勇者カタストロフ”という漫画をどうぞ。
『あ、ああいや、私の名前は……』
「違うの!?」
『い、いや、だから───』
「クォックォックォッ、中井出もまだまだじゃねぇ……。エルフっつーたらアレじゃぜ? なんか“エル”か“ファ行”がついてなきゃあいけねーんじゃぜ?」
「ヴァ行に続いてなんだよファ行って……」
「エルフの名を表すような名前。エとルとファがなんか異様に多いの。あとヴか。傾向として、ア行、ラ行、ファ行じゃね」
「SAOのリーファさんとかそのものって感じでございます。OK一等兵?」
「お前らさっきデッカードでミスったばっかだろが」
「や、性別に寄るところもあるからいいんだって晦。エルフじゃなくてもアルヴってのもあるしさ」
「んー……アルヴってのは?」
「確か精霊とか妖精とかエルフって意味だと思った。北欧神話とかそっちの知識だったかな。アルヴヘイムってのは妖精の国って意味でよかったと思う」
「オウヨ。つーわけでそれらも踏まえて、このエルフさんの名は───“ヴ”だな」
「力強い、強き名前だな」
「……え? いや……彰利? それ、名前なのか? あ、あー……ぶ?」
「ヴ、じゃよダーリソ。“グ”よりもきっと強ェェェェぜ? “ボ”には負けそうだけど」
「……?」
モミアゲさんはただただ困惑しました。
ちなみに“ボ”は“ギ”とともに“うしおととら”に出てきた妖にございます。ゴンさんの所為でやたらと強い印象を抱かせる結果になりましたが、そんな強くなかった筈です。
そしてエルフさんは困惑しきりです。
「というわけでこのエルフさんの名前は太陽神ラーゼフォンで」
「おーい提督ー? 長どころか神になってるぞー」
「や、違くて。“タイヨウシ・ンラーゼ・フォン”がフルネーム」
「フルネームそれかよ!」
「良い出汁が出るんだ」
「しかもフォンって
わいわいと騒ぐ中、エルフさんは頬をコリコリ、こほんと咳ばらいをすると、とうとう自己紹介に踏み出しました。
『……あ、ああその。私の名はクァドガング・アドムー。森渡りのエルフだ』
「おいこら掠りもしてねぇじゃねぇかたわけども!!」
「ちげーよダーリソ騙されるでねぇ! うそです! 全てうそなんです!」
「エルフなのにエもルもファも無いなんて! そんな馬鹿な! この人実はエルフじゃないんだ! 騙されるな晦!」
「どっからどう見てもエルフだろうが! 違うって言える箇所があるなら言ってみろ!」
「「首が長くない」」
「そこ!? ぇっ……首っ…………え!? 首!?」
FF11をプレイした人は妙な偏見を持っているものです。そう、エルフは首が長い。しかしあれはエルヴァーンであってエルフではないので注意が必要です。エルフは弓術や精霊術などが得意とされておりますが、エルヴァーンは肉弾戦が得意で脳筋とも云われ、むしろ魔法方面の才はありません。そしてあまり商才はないようです。
「エルフさん! あなたまさか───エルヴァーンなのでは!?」
『エルフだが。なんなんだ? その……エルヴァーン? というのは』
「タルタルを括約筋で絞め殺す伝説の首長族です」
『なんなんだ!? いやっ……なんなんだ!? エルッ……なんっ……!?』
エルフさんはエルヴァーンという種族に恐怖しました。それはもう心底。
あと異世界でも括約筋の名前は括約筋で合っているようです。
「なぁ……いいからさ、とりあえず挨拶しよう……な? 頼むからさ……」
「クォックォックォッ、しょぉおおお~~~がねぇなぁああ~~~っ! まったくよぉお~~~っ、しょぉおおお~~~がねぇなぁ~~~~っ!」
「貸し一つだからなー、晦ー」
「冗談じゃないんだが!? なんでそうなる!」
「いやいや、俺達がお前に貸し一つってこと。いっつも引っ掻き回してすまねぇすまねぇ」
「じゃけんども、こうでもしねーとダーリソったら叫ぶことも燥ぐこともしねーデショ? 騒ぐこと忘れると、人間表情とか感情とかが死んでいくからね」
「……まあ、自分がぶっきらぼうかも、っていうのは自覚があるけど」
「ホホ、“かも”じゃってよこのモミアゲめが」
「ここまで来てまだ確信してないって……晦よぅ」
「俺そこまでしみじみ言うほどぶっきらぼうか!?」
「じゃあ自己紹介始めっべー!」
「えっ……いやおい───」
「じゃあ僕からねだって僕提督だもの!」
「……あー、ああ。まあ始めてくれるならいいんだけどな」
割といつものことなので、モミアゲさんは盛大なる溜め息を吐きながら、様々な想いを飲み込みます。
そうした中でモブ提督さんたちはニコオとスマイル(0円)を見せつけて、自己紹介を始めるのです。
「───我こそは元・原沢南中学校迷惑部提督! 中井出博光である!」
「そしてアタイこそが月の家系が闇の代表! 弦月の最後の一子! 弦月彰利である!」
「あ、っと、俺か。俺は───」
「ジョワジョワジョワこのお方こそ晦神社が神主代理! 晦悠介であるのYO!」
「ヌワヌワヌワすげぇだろコノヤロー! なによりもこの美麗なるモミアゲから放たれし威圧感! 彼はモミアゲに真龍王を宿す龍の契約者よ~~~っ!!」
「………」
自己紹介をしようとしたところ、己の一歩前の左右に立った二人が両手を添えて中腰になるような姿勢で勝手に紹介を始めました。
モミアゲさんはどこか遠い目をしたのち、二人の頭を掴むと、お手々の皺と皺を合わせるかのようにゴゴッツァアとぶつけました。
「ギャア
「も、悶絶ーーーっ! もんぜっ……~……
良い音が鳴りました。とても痛そうな音です。
モミアゲさんはその音と友人達の大激痛ヴォイスだけで、これまでの鬱憤がスッキリするのを感じます。
「ええと、悪い。改めて、俺は晦悠介だ。モミアゲがどうとかは気にしないでくれ」
『? いや、見事なモミアゲだと思う。かつて髪に魔力を込め、蓄積していた魔女を見たことがあったが……これほどまでの威圧感を髪に秘めた男性は初めて見た』
「是非そのまま忘れてくれ」
『……かつてのヒト族は、評価を無暗に表に出さず、謙虚だったと聞く。なるほど、あなたは正しくヒト族なのだろうな。あの、空より舞い降りて破裂したのに復活した存在とは明らかに異なる存在。あなたは人だ。出会えて嬉しい』
「───」
モミアゲ経由でようやく人族と認められた、みたいな雰囲気に、モミアゲさんは軽く泣きたくなったそうです。
エルフなんて存在に出会うことを密かに楽しみにしていたモミアゲさんはこうして、痛がるモブさんを素直に殴る瞬間へと至ったのでした。