ボケ者どもの理想村(ムラビディア)   作:凍傷(ぜろくろ)

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それぞれに合いそうな属性のお話

【ケース7:村人に合いそうな属性って……土? いやいや】

 

 ザッザッザッザッザッザッザッザッ……!

 

「ET!」

 

 ザッザッ!

 

「ET!」

 

 ザッザッ!

 

「ET!」

 

 ザッザッ!

 

「ET!」

 

 ザッザッ!

 

「I've never been to M78!」

「アァイヴネェ~ヴァビィ~ントゥ~エェ~ムセヴンティエェ~イ!!」

「Give me the figures of a nurse and a maid!」

「ギィ~ヴミィ~フィ~ギュア~ズナースァ~ンドメェ~ィ!!」

「M78星雲には行ったことがなァーい!!」

「M78星雲には行ったことがなァーい!!」

「オ~レェ~にナースとメェィドのフィ~ギュァをッくれェーッ!!」

「オォ~レェ~にナースとメェィドのフィ~ギュァをッくれェーッ!!」

「「父~さんに俺はオタクだと伝えてェ~くれェ~ッ!!」」

 

 あるところのある寂れた村にて、朝の運動と称して村の外周を走る男が二人居ました。

 二人は何故か渋い顔をして、走る自分の足音をリズムに歌を口ずさみます。

 しかしそれがどういうわけかM78星雲の話やフィギュアの話になっていたりも。

 それを眺めていたモミアゲが美麗な男が溜め息ひとつ、声をかけました。

 

「お~いアホども~、そろそろメシにするぞ~」

 

 晦悠介という名前の彼は、苦労人とステータスに認識されている通り、こういった妙なところで貧乏くじを引いていく男なのでしょう。

 言ってしまえば周りに振り回されてばかりで溜め息が絶えない男です。

 

「なんだ天才てめぇ! このアホに何用か!」

「この天才が! 急に呼びつけて何の用だ天才てめぇ!!」

「あーはいはい……アホども言って悪かったから、天才てめぇとかわけのわからん罵倒文句はやめろ、たわけども」

「そうそうそれで良いのです」

「たわけに対してアホなんて、ひでぇ言い草だぜまったくダーリンこの野郎」

「お前らそれでいいのかよ……」

「「私は一向に構わんッッ!! あ、ところで朝飯なに?」」

「………」

 

 彼は静かに、この異界の地で自分の胃が無事でいられるのかを案じたそうです。

 

……。

 

 モグモグガツムシャグチャゴチャムシャーリ

 

「なぁ……ひとつ訊いていいか?」

「ンォ? ん、ぐっ……おいおいダーリン? 食事中に会話とかマナー違反じゃあねぇの?」

「そうだぞ晦一等兵、お前それは……ダメだろ」

「昨日散々騒いでおいてよくそんなことが言えるな……!」

「言うだけならタダだし。で? どした?」

 

 優雅に動かしていた箸を持つ手を休め、二人は話を聞く姿勢を取りました。

 それを見たモミアゲが美麗な少年は、はぁ……と溜め息ひとつ、訊ねるのです。

 

「あのさ。姿勢もよく手の動かし方も綺麗なのに、なんでそんな汚そうな音が鳴るんだよ」

「あ、それアタイが無意味にマナー悪そうな音を出したから。月奏力って言ってね? 音とか奏でられるんじゃぜ?」

「これでもかってくらい無駄な力の使い方だなおい……」

「まったくだぜ彰利一等兵。そこは最後に飲み物を倒してこぼす音も混ぜなければ」

「OHジョナサン?」

「OHジョナサン」

 

 ジョナサン・ジョースターは食事のマナーがなってませんでした。

 そんな、ささやかな記憶のお話。

 

「や、アタイだってそうしようとしたんじゃぜ? したっけダーリンが声かけてくっからYO」

「おいおい晦一等兵、そこはもうちょい待ってやらねば」

「ンもうせっかちなんだかるァん」

「やかましい」

 

 さて、彼らが食事をするこの場は寂れた村の中心。

 焚き火をする場が設けられ、鍋と木製の椀などが用意されたそこで、老人らと食事をしている最中である。

 

「しっかし美味ェねコレ。なにコレ」

「“ビメェ”ってなんだよビメェって」

「あぁホレ、うまい、って美味って書くデショ? 美味はフツーにビミだし。言葉を崩せばウメェにもなるなら、奇妙に混ぜてビメェでもええんじゃねぇかねぇと」

「相手に無駄な理解力を求める喋り方をするなよ……。あー、で、話は戻るんだが」

「え? なんか小説界隈でやたらと顕著(けんちょ)って言葉が増えたいつかのこと? それとも好きなおなごの話?」

「お、おい晦一等兵、いきなりソワソワすること蒸し返すなよぅ」

「いつまで話が戻ればそんな話題になるんだたわけ! した覚えもないわ!」

「そったらことねぇだよ? 案外アタイだけが何十回か繰り返した中でしたかもしれねぇんじゃぜ?」

「どんな生命体なんだよお前は」

「超生命体トランスフォーマー!!」

 

 なんということでしょう。彼の正体は“何かを劇的に変える超生命体”らしいのです。

 そんな彼に、一般人たる彼は素直な言葉を届けました。

 

「この愚か者が!」

「そういう意味で言ったんじゃねィェー!!」

「そういう問答はいーから。で、これからどうするって話だろ?」

「オウヨ! えー、ちゅーわけなんでー! ……やっぱきちんと精霊降ろすところから始めん? このままじゃなに用意しても足しにもならんとよ」

「って言ってもだぞ彰利一等兵。実際問題、俺達みたいな地球育ちの連中に、異世界で言うところのその~……精霊? との関連性があるとは思えんのだが」

「それなのよねー。アタイもそれ気になってた。生涯でいっちゃん関連性のあるなにか~とか言われてもね、地球産まれって時点でアウツな気がするのYO」

 

 村の老人は話を聞きつつも、炊き出された食事を一心不乱に食べていました。それはそうです、つい最近までろくなものを食べられなかったのですから。

 食べやすく、胃にもやさしい雑炊を口に、ハフハフと汗を掻きながら食べていました。

 そんな老人たちを優しい表情で見つつも、一般人はふと思い立ちます。

 

「あ、でも月の家系……だったか? それの神と死神なお前らならなんとかなるんじゃないか?」

「中井出YO……てめぇもたまには活躍せんと……」

「なんで俺しみじみそんなこと言われてるの!? 俺だって活躍したいよ割と心の底から!」

 

 「貧弱一般人になに望んでんだー!」と、涙を浮かべて叫ぶ彼は割りと必死でした。

 しかし出来ることが実際に無いとくるのだから、「うう、ちくしょう」と言いつつ雑炊を頬張ります。

 

「生涯で一番関係のある……か。なぁ提督。たとえばどっかの時間軸で、お前が間違って異世界に飛ばされる、とかあったりしないのか?」

「死ぬ未来しか見えんのだけど」

「いやいやちげーべョ中井出YO()ォオ? そこは転移特典とかでなんかわからんけどスゲー能力とか得て、ついでに精霊とかと知り合うとかそういう流れじゃねーの」

「…………特典、URなんだが」

「………………マジでごめん」

「ぃやっ……あ、の……だな………………悪い」

 

 既に転移した上に、転移特典がアンリミテッドリヴァイヴァーでした。彼は、それはそれはとても切ない表情でそれを二人に伝えたのです。

 鼻をスンと鳴らして頬張る雑炊は、なんだかしょっぱかったそうです。

 

「まぁこげな事態なんてそーそーなぎゃあも(ありませんし)、その上でどげな精霊と関係があるかをちぃとばかし考えてみっべーョ」

「……そだな。ちなみに彰利的に、提督はどんな精霊と関係があると思う?」

「精霊っつーたらあれじゃろ? 地、水、火、風、雷光闇に、無属性のどれか」

「ドラマCDのテイルズオブファンタジアか。あのチェスターの言い方、好きだったなー」

「時代遅れの熱血スポコンヴァカとか、アタイ……好きじゃぜ!?」

「実力で劣るんだから、頑張って追いつこうとしてるチェスターに対して、“時代遅れの熱血スポコンヴァカ”はちょっと言いすぎだよなぁアーチェさん」

「よくわからんが、努力に時代遅れもなにもないだろ」

「ダーリンたらこれだから……」

「妙なところで純粋だからなー、晦一等兵は。まあ、らしい」

「で、中井出に合いそうな精霊じゃったね? 自分的にはどーなのよ中井出YO」

「え? 俺? そりゃお前………………物理攻撃しか出来ない無属性じゃないか? “才能のカケラもありませんね”とかギルドとか王の前できっぱり言われて」

「うーわー……モノスゲーありそう。しかも隠された才能とかスキルもありませんでしたパターンな感じ」

「………《美ッッスィイイイイン!!》」

「提督、ここ、決めポーズ取る場面じゃないと思うぞ」

「やだなぁ晦一等兵。それは俺が決めることであって、ここぞと思ったからこそキメたんじゃあないか」

 

 彼は彼という自分をよく知っていました。ようするに才能なんてありません。

 異世界転移をしても荷物持ちと食事当番、雑用などをパーティーの皆に押し付けられて、最後には“このチームに相応しくない”とか言われて追い出される存在です。

 そして彼自身もそれをわかりすぎていて、「え? お前今更気づいたの? 言うの遅いよ? 頭大丈夫か?」と平気で返せそうなくらい自分を知っておりました。

 そのくせ、お決まりの“アイテムや装備は置いていけよ。それは俺達が手に入れたものだ”もシカトして逃げ出しそうなくらい外道です。

 

「じゃあ提督は無属性として、彰利は?」

「アタイは闇やね。で、ダーリンは問答無用で月か雷属性ね?」

「お? 神っていったら光とかじゃ……ないな。○○の神様~ってのも結構あるし」

「おっほっほ~、アタイてめぇのそういう柔軟な考え方、結構好きヨ?」

「はっはっは、よしたまえよ彰利一等兵。あ、ところでなんで月? 雷ってのも」

「ただのアタイの主観YO。ほいじゃあ今日はそこんところをイメージしつつ、舞いを奉納してみっべーョ。したらなんぞか起きるかも……じゃぜ?」

なにも起きない(・・・・・・・)にこの博光は米の一粒を賭けようッッ!!」

「それ俺が創ったんだよ!! ていうかセコいな提督! 米の一粒!?」

「て~か夢もキボーもねーこと言うんじゃねーザマス。えーから御神体創造して、精霊降ろすベ」

「やっぱりそうなるのか……まあ、創造は受け持つ。実際、なんとかしなきゃ廃れ切るだけだもんな」

「アタイはそういう方向のサポートを。闇なら辺りを暗くしたり、月ならそれっぽい演出を、とかね」

「……無属性に合うシチュエーションっていうか、場のそのー……空気? ってなんだろね」

「………」

「………」

「………」

 

 そうして。三人は無言のまま、静かに雑炊を食べ終わるのでした。


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