イナズマイレブンRTA 雷門ルート   作:nrnr

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 一年間未投稿をギリギリで免れ人権を失わずに済んだので初投稿です。

 そしてまたしてもファンアートをいただきました! こんな低頻度更新の小説のことをここまで愛してもらえてウレシイ……ウレシイ……。
 というわけで載せさせていただきます!

【挿絵表示】

 またまた豆腐餅様より、今度は蓮宮司杏子ちゃんです。かわいい(確信)。どことなく影のある雰囲気なのもヨシ!
 こんなのが唯一自分を認めて引っ張り上げてくるとかこれもう不動の情緒わかんねぇな……。
 


パート39 挫折と再起と

 

 今更こんなことで心折れないRTA、はーじまーるよー。

 

 

 今回は雷門が不幸にも黒塗りのあホに目をつけられたせいでボロ雑巾にされてしまったところから。

 お茶の間に大変ショッキングな光景が流れてしまいましたが、沖縄にいるホモくんにはどうすることもできません。エイリア学園がテレビのジャックを終わらせたことで画面は普通のニュース画面……もとい今のエイリア学園との試合についての臨時ニュースになっていますが、特に新しい情報があったりはしないので画面を消しましょう。

 

「ひ、ひどい……あんなやり方……」

「…………星崎」

 

 子供たちがエイリア学園のやり口(なお最後のは冤罪な模様)に恐れ慄いたり、土方が痛ましげな顔でこちらを見てきたりしていますが無視だ無視! 放置されたままの昼食を急いでかっこみます。

 ごちそうさま。じゃあ俺、特訓行ってくるから(棒読み)。

 

「ちょっと待て! まさか無理してないだろうな?」

 

 してないんだよなぁ……。

 

 事実、メンタルデバフは入っていません。風丸の離脱が確実かどうかはホモくん視点では分からない、かつこの後に確実に発生する栗松の離脱を知らないというのもありますが、一番はやはり第二部序盤で既に仲間の長期離脱を経験しているというのがすごく……大きいです。

 風丸の好感度を稼ぎまくっていた場合はワンチャン軽度のデバフが入る可能性もありますが、そうで無いのなら半田達入院組と同じような流れなので特別何かがあるというわけもなく。傷ついていないわけではないものの気持ちを切り替えることはできる、くらいの精神状態だと思われます。

 とはいえ土方はそんなことを知る由もなく、また今まででメンタルデバフを発生させていた場合は鬼瓦刑事から気にかけるように言われていることすらあるため、無理していないと主張するだけだと強がりだと思われてカウンセリングのような会話をする羽目になることがあります(1敗)。じゃけんちゃーんと土方が納得できるような理屈を提示してから特訓に行きましょうね〜。

 

 (ヘーキヘーキとまでは行かないけど無理ってほどでも)ないです。

 ここでホモくんがうだうだ悩んでいても雷門イレブンの状況が好転するわけでもないし、そんなんじゃTDNタァイムの無駄遣いだぞお前ら! だったらその時間を自分が強くなるために使ってた方が良いに決まってるだろ!

 エイリア学園に負けるなんて今までもあった事だし、それを雷門イレブンの仲間が乗り越えられないはずないんだよなぁ(栗松は除く)。むしろここでくよくよしてる方が雷門イレブンの信頼を裏切ることになる……裏切ることにならない?

 

「……そうか。なら、無理だけはしないって約束するんだ、いいな?」

 

 アッハイ。

 

 さて、HJKT兄貴の許可も下りたのでいつもの場所に特訓に行きましょう。ここからはまたしばらく同じことを繰り返す日々になるので、またしても暇を持て余すみ な さ ま の た め に ぃ

 

 

 ここから沖縄に至るまでの地上最強イレブンの動きについて補完しておきます。え、クッキー⭐︎? ヴァラノワール? そういう拷問は見なくていいから(良心)。

 

 まずザ・ジェネシスで大ダメージを受けた風丸は当然ですが離脱→入院となります。しょうがないね。

 そして入院した先でエイリア学園……というよりはその内部にいるとある野心溢れる男に洗脳される形でエイリア石を手にします。闇堕ち自体はもう少し先ではありますが、この先はこちらから接触しようとしない限りは連絡すら入ってくることはありません。というわけで次はダークエンペラーズ戦で会おう(無慈悲)。

 

 そして大して好感度を稼いでいなかった栗松に関しても、圧倒的な力の差に心が折れたことでイナズマキャラバンを去っていきます。こちらも次に会うのはダークエンペラーズ戦です。強敵にボコされただけで心が折れるとか、それメンタルの鍛え方が足らない。

 いや、コイツに関しては好感度さえ上げていれば残留はわりと容易ではあるんですが、それをやるメリットを挙げろと言われるとんにゃぴ……。栗松は目金程ではないとはいえ大器晩成型のため、RTAで育成するうま味ははっきり言ってほぼ0なんですね。離脱させないために好感度イベでロスが発生し、残留させたらさせたで会話量が増えてロスになるとか頭にきますよ~。やっぱ栗松はRTA走者の敵、はっきりわかんだね。

 

 そんな離脱組は置いておいて、次は肝心要の吹雪について。

 風丸に庇われたことで負傷こそ免れたもののメンタルがバキバキになった吹雪ですが……このパターンの場合、なんとアニメほんへの流れよりもメンタルデバフが重くなってしまいます。自分の不甲斐なさのせいで仲間を傷つけてしまったと事態を重く受け止めてしまうんですね。おまけにアツヤ人格が士郎人格に対して「お前が俺に変わらないから風丸があんな目に遭ったんだよ!」と責め立て、更にデバフが悪化する始末。

 

 こんなことを言うとまた視聴者兄貴に「あっ、おい待てぃ(江戸っ子)。染岡と豪炎寺がいればメンタルが多少マシになるって前に言ってたはずだゾ」と言われそうですが、それはそれで本当のことです。

 本来の流れにおいては、お前のメンタルガバガバかよ状態でも完璧になることにこだわって試合に出ることを選択した結果、沖縄で行われるイプシロン改との試合の際でついにアツヤのシュートすらあっさり止められたことで士郎・アツヤ双方共に多大なメンタルダメージを負って精神崩壊からの戦線離脱(ただしキャラバンは降りない)となってしまいます。対して、現時点の吹雪のメンタルデバフは重度ではあるものの精神崩壊するほどではない……もとい、士郎人格はともかくアツヤ人格はまだギリギリ余裕を残している状態です。つまり、ほんへのこの時点よりは悪化していても沖縄時点よりはマシってワケよ。

 そして染岡・豪炎寺の二人がいることによって本来はかなり先、第二部終盤に発生するはずだった吹雪のメンタルケア関係のイベントが前倒しになり、この時点で発生するようになります。染岡が飴担当、豪炎寺が(ファイアトルネード)担当となることで効率的に吹雪を立ち直らせてくれることでしょう。

 

 そしてもう一つの問題点……栗松や吹雪の状態に気付けなかったことで曇ってしまう円堂についてですが、これについてはさほど心配はいりません。

 

 というのも、まず原作に比べると風丸が負傷離脱になった、もといメンタルが折れたわけではないことにより、一番ダメージを受ける部分がほぼ免除となります。ここで円堂がダメージを食らう割合としては、こちらで色々と引っかき回さない限りは風丸5:吹雪3:栗松2くらいであり、この割合というのもあくまで風丸がメンタルブレイクした場合のそれなため、負傷離脱である今回だと風丸分は本来の1割程度に落ち着くのです。

 え、仲間だった期間からすれば吹雪と栗松の割合は逆のはずだって? まあそこは……ただ強敵相手に心が折れただけなのと前から予兆があったのに気付けなかったのでは差が出てくるのも致し方なしというか……。なんならホモくんみたいなメンブレ経験者がいたのにまた気付けなかったみたいな感じで割合が増えている可能性まであります。ホモくんのせいです、あ~あ。

 

 そんなこんなでダメージ総量は半分程度まで減り、既にこの時点で円堂が心折れる可能性は0。軽度のデバフ程度なら発生する可能性はありますが、その程度であれば現在も雷門に所属したままの豪炎寺大先生が何とかできる範疇です。

 ファイアトルネードの一発でも食らって説教を受け、その後にチームメンバーに温かい言葉をかけてもらえばそれなりに立ち直ることができ、プラスでこの後立向居が諦めずに【マジン・ザ・ハンド】を習得するのを見届けるイベントが発生することでブーストがかかって完全復活って寸法よ。

 ……なお、豪炎寺がいるにも関わらずメンタルデバフが入った場合は再走となります。豪炎寺のファイアトルネード治療法でも気分が上向かない場合、立向居が【マジン・ザ・ハンド】を習得したとしても「キャプテンとしての責務も果たせない上にGKとしてすら立向居がいれば何とかなるんじゃないか」と思い詰めて円堂が自分の存在意義を失う後押しにすらなり、結果としてこの時点では表向き何とかなりつつもどこかしらのタイミングで離脱からのDE入りしてしまいます(1敗)。よっぽどアホなプレイングをしない限りはそうはならんやろ案件ですが念の為。

 

 また、こ↑こ↓のタイミングまでで不動が加入していた場合のみ、不動が落ち込み気味な雷門を煽ることで本人は意図せずとも結果的に雷門が立ち直るのに一役買うという本作オリジナルイベントが挟み込まれます。

 このイベントを発生させることができれば不動↔地上最強イレブンの好感度がそこそこ上昇するため、今後不動が試合に参加するようになったとしてもそこまで反感を買われずに済むようになり*1、ここで好感度調整が起こったことで第三部で不動が疑いを持たれてあーだこーだのくだりがほぼほぼカットされてロスの可能性が大幅に低くなります。不動はさっさと雷門にツンデレて、どうぞ。まあそこまでやっても試合には出られないんだけどね!

 

 で、それらのイベントを終えた頃には立向居が加入、吹雪が一時戦線離脱し、吹雪という最大戦力の一人が使い物にならなくなったことのカバーのために最近噂の“炎のストライカー”とやらを探しに沖縄に来るという流れになります。

 以前も触れた通り、ほんへにおいてはその“炎のストライカー”が豪炎寺かもしれないという理由もあって沖縄に来た雷門イレブンですが、今回のルートの場合は単純な戦力増強のためとなります。ここまででホモくんが火属性かつ炎の演出があるシュート技を多用していた場合は豪炎寺の代わりにホモくんかもしれないと思われる形にはなりますが、そんなんわざわざする必要なんてないでしょ(正論)、ということで今回の雷門イレブンは沖縄にホモくんがいることなんて予想もしていません。沖縄に着いて早々に雷門イレブンがホモくんについて聞き込みを始めるとかいうクソアホロスは発生しないので安心してクレメンス。

 

 ……え、じゃあ“炎のストライカー”っていうのは結局だれなのかって?

 それについてはどうせすぐに判明するのでここでは説明しません。もうすぐ出番ですしおすし。 

 

 

 まとめると、今走は風丸・栗松離脱、吹雪メンタル軽傷、円堂メンタル安定、不動の好感度アップという流れになります。様々なチャートを組んでみましたが、やはり一番タァイムが安定するのはこれらの要素が揃っている場合でした。

 とはいえ、こうして一通り説明しはしましたが、今のところホモくんがそれらの事情を把握する方法はありません。テレビ中継されるのはエイリア学園との試合だけだからね、しょうがないね。鬼瓦刑事に連絡を取って確認すれば把握できなくもないですが、そんなことをすればロスが発生するのでやりません。ここまででちゃーんとフラグを成立させてさえいればまずガバることはないため、ここは今までの自分がミスをしていないことをお祈りして合流の時を待ちましょう。

 

 

 では、代り映えのしない特訓もそろそろ終わりを迎えそうなところで今回はここまで。

 ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 雷門イレブンがピンチに陥るのは、何も初めてのことじゃない。円堂守はそれをよくよく知っている。

 エイリア学園の襲撃が起こってから──否、そもそも雷門サッカー部が始動してから今日まで、トラブルやピンチが無いことの方が珍しかった。

 

 部員が少なくてグラウンドでの練習も練習試合も出来なかったこと。初試合が中学サッカー界一の実力者である帝国学園だったこと。何度も廃部の危機に晒されたこと。

 影山によって命を狙われたことがあった。相手の卑怯な戦法で追い詰められることもあった。強大な相手との試合で、一人、また一人とピッチに立てる選手が減っていくことだって一度や二度のことじゃない。

 

 それでも雷門イレブンは立ち上がってきた。今日に至るまで、例えどれほどの強敵が立ちはだかろうと、決して諦めず、屈さず、最後には勝利を掴んでみんなで笑ってみせた。

 

 けれど。だからこそ。

 その“みんな”の、大切な仲間の心が折れてしまったら────自分(キャプテン)はどうすればいい?

 

 

 

 風丸が入院という形でイナズマキャラバンを去っていき、彼に庇われた吹雪が心に深い傷を残した。

 強敵との終わりの見えない戦いに、栗松が心折れた。そんな彼は置手紙だけを残して誰にも告げぬままに姿を消し、稲妻町に帰ったのか、あるいは傷心のままにどこかを彷徨っているのか……今はどこにいるのかもわからない。

 

 風丸が入院しただけだったなら、傷ついて、苦しい思いはしても、こうまで思い悩むことはきっとなかった。

 確かに仲間が一時的にであってもチームを去らなければいけなくなるのは悲しいし、悔しい。エイリア学園のことが許せない気持ちだって強く胸にあっただろう。しかし、先に離脱した仲間達と一緒にいつか怪我を治して戻ってくる日を待ち遠しく思う形に落ち着いたはずだ。

 

 ……風丸が去らず、吹雪がああも落ち込むことがなければ。あるいは、風丸がいなくなったとしても、吹雪が何らかの形で持ち直したのならば。

 いいや、それはただの責任転嫁だ。予兆はいくらでもあった。あんな風に思い詰めている仲間の姿を、自分は確かに何度も見たはずだ──今はこの場にいない星崎、彼が影山の暗躍によって思い悩んでいた時に。

 もうあんな思いはさせないと誓ったはずなのに。今度こそ見落とさないと決めたはずなのに。それなのに、自分は何もできなかった。自分も色々と考えることがあった? そんなものは何の言い訳にもならない。結局自分は仲間の悩み一つ見抜けず、また同じ過ちを繰り返してしまったのだ。

 

 …………吹雪とはまだ出会って日が浅い? 詳しい事情を知らなかった以上は防ぎようがなかった?

 だったら──だったら。ずっと仲間として近くにいて、何度も同じ苦難を乗り越えた栗松の気持ち一つわかってやれなかった自分の愚かしさを、一体何とすればいい?

 

 円堂にとって誤算だったことがあったとすれば、それは誰もが己のように強く心を持てるわけではないと知らなかったことにある。

 円堂だって悩んだことはある。焦る気持ちによって視野が狭まったことも。しかし彼は、それらの苦しみを最後の最後で乗り越える強さを持っていた。

 円堂自身はそれを仲間に支えられたからだと認識しているし、そういった側面があるのも事実。それは円堂以外の他の雷門イレブンのメンバーだって同じことだ。

 

 けれど一つだけ、致命的な違いがある。たったそれだけ、しかし残酷なまでの違い。

 その一つが、他者によって支えられている部分の多さが、今に至るまで折れずに走り続けた円堂と現実の前に心折れて逃げ出した栗松の決定的な差だった。

 

 

 そもそも、栗松の心はそう強いわけではない。

 強敵相手には怯えて逃げ腰になることもある。帝国や世宇子を相手にした時に勝てるはずがないと早々に諦めてしまう悪癖だってある。栗松自身の実力が中学サッカー界においてはトップ層に位置するレベルのものだったとしても、そのトップである雷門イレブンの中では特別秀でているわけではないというのも彼の若干後ろ向きになりやすい性格に拍車をかけている面があった。

 それでも今までずっと戦ってこられたのは、強く頼れる仲間がいたから、そして“ここまで頑張れば報われる”という明確な目標地点があったから。……そのどちらかが、あるいはどちらもが欠けてしまえば、怯える心を奮わせることがどうしたって難しくなってしまう。

 

 エースストライカーである豪炎寺や染岡ならばシュートを決められると信じていた。キャプテンならばゴールを守り切れると信じていた。仲間と一緒ならどんな強敵だって突破できると信じていた。何度ピンチになったとしても、最後にはその信じた心は報われて、試合を勝利で飾ることができた。

 しかし、そのビジョンはエイリア学園によって粉々に砕け散る。どれだけ諦めずに喰らい付いても圧倒的な点差で敗北する。弄ばれた仲間が負傷していなくなっていく。新しく頼りになる仲間が増えて、それでもエイリア学園に負けることは多くあり、倒しても倒しても更に強いチームが現れる。

 

 一体いつまで戦えばいい? 一体あとどれだけ頑張ればいい?

 どれほど強くなれば自分達はエイリア学園に本当の意味で勝利できるのか。どれだけのチームが存在して、その最後に現れるチームはどんなに強いのか。……そもそも、その最後のチームにまで自分達は辿り着けるのか。

 

 栗松は、そのビジョンを描けなかった。終わりの見えない戦いの中でまだ見ぬ強敵に心を昂らせるほどの強さが無かった。

 ……あの、ザ・ジェネシスとの試合で、そんな心の弱さを持っているのが自分ばかりだと気付いてしまった。

 

 もしもあの場で心が折れたのが栗松だけではなかったのなら、あるいはその傷の舐めあいだってできたかもしれない。しかしそれはたらればの話だ。

 あの試合で心が折れていたのなんて終盤の吹雪くらいで、それだってザ・ジェネシスの強さに恐怖したからというわけではない。あのいっそ鬼気迫るとすら言える暴走の仕方はかつての星崎と似ていた。結局そこにあるのは何かしらの信念、あるいは栗松には分からないもの──強迫観念といったもので、それに突き動かされる姿は、栗松からしてみたら結局は強者のそれでしかない。

 そして吹雪以外の仲間は、それこそ雷門中サッカー部が始動した最初の頃からの仲間であるメンバーは、栗松以外はちっとも心が折れたりなんてしていなくて。栗松ばかりが臆病なのだと、弱いのだと、それを突きつけられているようで。

 

 だから栗松は逃げ出した。それこそが自分の弱さの証明だと頭のどこかで理解はしていても、心がもうこれ以上惨めな自分を見つめることを拒絶してしまったのだ。

 

 

 そして、奇しくもそんな栗松の逃避によって、いよいよ円堂は己の挫折と、心の弱さと向き合うことになる。

 即ち、キャプテンとしての己の責務を果たせなかったことに対する自責の念。ザ・ジェネシスに勝てなかったことはこの際大した問題ではない。大切なチームメイトの異変一つ見抜けなかったことこそが、彼のキャプテンとしての存在意義を大きく揺らがしていた。

 

 陽花戸中の屋上の上、込み上げる言葉にならない思いのままにフェンスに拳を叩きつける。

 こんなことをしたところで何にもならないことくらい分かっている。ゴールキーパーとして何よりも大切な手を無駄に傷付ける行為だとか、物に当たる──それも善意で自分を滞在させてくれている学校の施設にそんな恩を仇で返すようなことをしているとか、そんな正論はいくらでも頭の中に浮かんできて、それでも己の中のやり場のない感情を発露させるにはこうするしかなくて。そしてそんな風に自分の責任から逃げているとしか言えない行動をすることの情けなさに自己嫌悪して、そんな負の連鎖の繰り返し。

 

 どうすれば。

 どうすればよかった。どうすればいい。

 

 何度頭の中で繰り返しても答えは出ない。誰かが答えを教えてくれるわけもない。

 

(俺は……何で、キャプテンだなんて胸を張って言えてたんだよ……)

 

 今まで築き上げてきたものを否定したくなんてないのにそんなことを考えてしまう時点で、今の円堂にまともな答えが出せるわけなんてないと、そんな簡単なことにすら気付かない。気付けない。

 円堂は一向に無くなる気配のないやるせなさのままに再びフェンスに拳を叩き込むと、何も声を上げることすらできないまま、ずるずるとその場に崩れ落ちた。

 

 

 

 …………そんな彼の姿を、もちろん雷門イレブンの仲間達は見ていた。

 

 円堂と同じく……とは少し違うものの精神的に不安定な吹雪、そんな彼に付き添っている染岡と豪炎寺、そして落ち込む円堂達など知らぬといわんばかりの様子でさっさとキャラバンに引っ込んでいった不動を除く仲間の全員が円堂を見つめ、しかし誰一人として声をかけられない。

 ここで円堂に慰めの言葉をかけるのはそう難しいことではない。次こそ勝てるように頑張ろうと、去っていった仲間の分まで戦おうと、そう口でならいくらでも言える。しかし、あるいはだからこそ、それを口にすることは雷門イレブンの誰にもできなかった。

 

 今の円堂のショックは、重圧は、他の誰にも完全に理解できるものではない。

 仲間が傷ついていなくなるという一点ならばかつての鬼道にも当てはまるが、仲間の心が折れてしまった、そのことに気付けなかったとなれば話は変わってしまう。ただでさえ日本の、それどころか地球の命運なんてものをキャプテンとして背負うことになった円堂の負担は計り知れないのに、大切な仲間をそんな形で失ってしまったことについてどうして分かったような口を聞けるだろう。

 無論仲間の誰もが円堂は必ず立ち上がると信じているが、それは彼が傷つかないということを意味しているわけではない。信じていたとしても、人として、仲間として、心配する気持ちはいくら大きくても足りないくらいなのだ。

 

 そうして、複雑な感情に足を取られた雷門イレブンは、ただうなだれる円堂の姿を見守ることしかできぬまま。もはや声すら上げずに俯くだけとなった円堂との間に痛いくらいの沈黙が落ちて、ただ時間だけが過ぎていく────。

 

 

 

 

 そうなるはずだった未来は、一つの荒々しい足音によって断ち切られる。

 

 ガンガンと、まるで建物のことなんて気にもしないような、むしろわざとそんな風に音を立てて苛立ちを表現するかのような足音。心ここにあらずといった様子の円堂を除いたその場の全員が反射的に音がした方、即ち後ろを向けば、そこには不機嫌極まりないといった顔を隠しもしない不動が階段を上ってくる姿があった。

 その姿を見た瞬間に険しい表情を浮かべた鬼道や佐久間といった面々の姿など気にも留めず、不動はそのままずかずかと居並ぶ雷門イレブン達を押しやり、真っ直ぐに座り込んだ円堂の元へと足を進める。あまりにも堂々としたその動きに誰もが制止できぬまま、不動は円堂の正面に立ち塞がり──。

 

「そんな風に無様を晒すくらいだったら、お仲間と同じようにさっさと尻尾巻いて逃げたらどうだぁ?」

 

 そう、心底鬱陶しいといわんばかりの声音で吐き捨てた。

 

「────え?」

「不動、貴様!」

 

 何を言われたのかが一瞬理解できず、円堂は思わず顔を上げる。そして声を荒げて駆け寄ってきた鬼道が自身に掴みかかろうとするのをするりと躱し、不動はぼんやりと自分を見上げてくるだけの円堂をきつく睨みつけた。

 

「じゃあ何だ、コイツがメソメソウジウジしてるのに付き合ってエイリア学園のことを放っておくってのか?」

「だ、誰もそんなこと言ってないだろ!?」

「言ってるようなもんだろうがよ。このチームのキャプテンがやる気ないんだぜ? しかもゴールキーパーに代えはいないときた。これでエイリア学園と戦うって方が冗談だろ」

 

 淡々と、口調こそ揶揄するようなものではあれど平坦な声色で並べ立てられる言葉に色めき立つ雷門イレブン。しかし肝心の円堂はその切りつけるような鋭い言葉に再び俯くことしかできない──それが事実であると思ってしまったから。

 そんな円堂の様子を見た不動は舌打ちを一つ。そして次の瞬間、抵抗がないのをいいことにその胸倉を掴みあげた。

 

「いいか、もう一度言うぜ。やる気ねぇ足手まといでいるくらいだったら降りろ。お前だのお仲間だのの気まぐれに付き合ってるほど俺も世界も暇じゃないんだよ。だったらそこらへんで適当なキーパー捕まえた方がずっとマシだ!」

 

 そうだ、不動明王はこんな所で立ち止まるわけにはいかない。世界がどうなろうと関係ないと言っていられた自分はあの日、真・帝国学園が崩壊した日にいなくなったのだ。

 それは決して世界が良くなってほしいだの、エイリア学園の暴挙を許せないだの、そんなありきたりで真っ当な理由からではない。不動明王という少年の今までの人生で培ってきたものをひっくり返してそんな綺麗事を本心から口にするなんて馬鹿なこと、余程の天変地異が起きない限りは有り得ないだろう。

 だからこれはお為ごかしだ。不動自身もそれを十全に理解して、それでもそう口にする。少しでも目の前の気に食わない馬鹿を使い勝手のいい状態に戻すために。少しでも早く先へ進むために。

 

『私にはあなたの力が必要なのです。……いいえ、あなたでなければならない』

 

「お前らがどう思ってようが知った事か! 俺は強くなる……誰よりも強くなって、もう一度この先で待ってるはずのあいつに会って、俺に任せて良かったって、あいつの見る目が正しかったのを証明しなくちゃならないんだよ……!!」

 

 脳裏に蘇る、あの何よりも己を奮い立たせる言葉。プライドも何もかもをへし折られた今の不動を支えているそれだけは絶対に裏切るわけにはいかないのだ。

 あの日差し出された手は確かに正しかったのだと、蓮宮寺杏子が託した相手はそれを成せるだけの強さがあったのだと、不動明王にはそうするだけの価値があったのだと、それを証明しなければならないのだから!

 

「…………不動、お前は」

 

 その悲痛とも言える響きが込められた叫びに、雷門イレブンで最も彼を認めていないと言ってもいい鬼道と佐久間すらもが動きを止める。

 しかし、今の不動にとってはそんな彼らの感情の揺らぎすら不愉快なものに感じられてしまう。今更同情でもするつもりかよ、内心でそんな風に唾を吐きつつ、不動は相も変わらず言葉の一つも口にしない円堂の襟をつかんでいた腕を放すとくるりと踵を返し、来た道を再び荒々しい足音と共に立ち去って行った。

 

 

 そんな不動を沈黙と共に見送ったメンバーの胸に芽生えたものは、果たして何だったのか。

 不動のしたことは決して許されることではない。今の一連の言葉も、結局は雷門イレブンも世界も関係ない、自分の優秀さを認めさせたいという真・帝国時代から変わらぬ価値観が故のもの。間違っても改心したわけではないのは誰が見ても一目瞭然だ。

 それでも、その言葉の正しさだけは誰にも否定できない。雷門イレブンの親しい間柄とは隔絶している立場の彼だからこそ投げ込むことができた波紋は、少しずつ、しかし確実に仲間たちの心を動かしていく。

 

「──そう、だよな」

 

 ぽつりと円堂が納得したように呟く。

 それは、不動の理念に対する納得ではない。動機に対する納得だった。

 

「みんな、待ってるんだ。俺達のことを信じてくれてる……半田も、影野も、マックスも、宍戸も、少林寺も、星崎も、風丸も……きっと栗松も、心のどこかではそう思ってくれてるはずなんだ」

 

 少し冷静になった頭で考えてみれば、そういう考え方だって出来ることに気付く。

 本当に栗松が何もかもを諦めてしまったのなら、そもそも一人で誰にも相談せずにいなくなるなんてことは無かったはずだ。もっとやけっぱちになって、自分達の前でもう無理だと、諦めようと口にすることだって出来たはずなのだから。

 それをしなかったということは、つまり栗松は円堂達ならば成し遂げられるかもしれないと心のどこかで思っていたのだろうと、円堂はそう胸に刻み込む。例えそれがどれだけ希望的観測に基づいたものであろうと、栗松なら、仲間なら信じる気持ちを必ず持っていると円堂は信じているから。そうしてゆっくり休んだ栗松をはじめとする仲間たちがいつか笑顔で戻ってこれる場所であれたらいいと、そう思う。

 

 そのためにも、こんな風にただ落ち込んでいるだけの時間を過ごすわけにはいかない。

 

 もたれかかっていたフェンスに手をかけ、ゆっくりと体を持ち上げる。

 まだ傷ついた心が癒えたわけではない。風丸がいなくなったことも、吹雪と栗松の心が傷ついていたことを見抜けなかったことも、円堂の心を責め立て続けてやまない。

 それでも、まだ円堂には立ち上がる理由がある。それを思い出した以上、円堂の中からこのまま蹲ったままでいるという選択肢が消え失せるのは当然のことだった。

 

 拳を作り、それを胸元に当てて深呼吸。そしてそのまま拳を空に向かって突き上げる。

 諦めたりなんてしないと、最後までがむしゃらに駆け抜けてみせると、そう宣言するかのように。

 

「──特訓、やろうぜ。もっと強くなって、次はヒロト達に勝ってみせるんだ!」

「円堂……!」

 

 駆け寄って来ながら心配そうに、しかし嬉しそうな表情で自分を見守る雷門イレブンのメンバーに、円堂は少し不器用な笑みで応えてみせた。

 

*1
皆無ではない。当たり前だよなぁ?




 
・ホモくん

 仲間が負傷離脱することに慣れてしまった悲しみ。それもこれも影山ってやつのせいなんだ!


・円堂

 これでも「サッカーによって仲間がいなくなる」的な思考にならないあたり原作よりは曇ってないんだよなぁ……。このあたりは公式が最大手。
 この後立向居の一件で完全に立ち直った。


・栗松

 ナレ死ならぬナレ離脱。本編と何も変わらないのに触れるのもなんだし許してクレメンス……。
 風丸が心折れなかったせいでこの場で本当の意味で心折れたのが栗松だけになり、結果自分を情けなく思う気持ちによってメンタルダメージが増加した。まあRTA的には誤差だよ誤差。


・不動

 見ての通り結構メンタルがガタガタ。RTAの圧倒的被害者。
 結果的に良い方向に進んだだけであって、別に雷門イレブンに心を許してはいない。まあそもそもコイツに関しては本編見ててもコイツから歩み寄るってよりは雷門イレブン側から歩み寄らない限り和解の道はないタイプだからしょうがないね。
 
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中学サッカー界最強のゴールキーパーと言われながら、世界へ挑むチームの選考試合にすら呼ばれなかった彼に生まれ変わった誰かが、その玉座を死守しようとする話。▼書いていた前作のリメイク版です。▼現在:脅威の侵略者編▼柴猫侍様より頂きました、本作の表紙絵です。▼【挿絵表示】▼


総合評価:6822/評価:8.85/連載:65話/更新日時:2025年12月31日(水) 18:00 小説情報

超次元サッカーTS転生者の便乗ヴィクトリーロード(作者:アマシロ)(原作:イナズマイレブン)

イナズマイレブンの世界に転生し、笹波雲明の幼馴染となったTS転生者が、ヴィクトリーロードに便乗することで超次元サッカーを満喫しようとするけど無事に雲明に脳みそ黒焦げにされる話。


総合評価:3572/評価:9.07/連載:25話/更新日時:2026年01月02日(金) 19:01 小説情報


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