0人目のアイ 作:迫真将棋部志望者
転生したら頭の中にAIが住み着いてる件について。
誰にともなく語りかけながら、
AIについてはわざわざ説明するまでもないだろうが、いわゆる人工知能、アーティフィシャル・インテリジェンスのことだ。
最初は『もう一人のボク』的なやつかと思ったが、頭の出来が違いすぎた。というか人間ではない。一度試したIQテストでは異次元の数値を叩き出した(というか全問一秒かからず答えてた)。
こんなやつ、もう一人の俺じゃねえんだよなあ。
ちなみに、ノーリスクではない。
この頭の中のAIちゃんが考え事を始めるたびに現在3歳児の俺の頭は知恵熱?熱暴走?とにかく高熱で意識を失うのだ。
AIちゃんもやろうと思って考え事をしてるわけではなく、勝手に演算を開始してしまうらしいから責めるわけにも行かないが、幼少期からたびたび高熱で気を失い、病院に緊急搬送されては生死の境をさ迷っている。
お医者様の診断でも原因不明で治療法はなし、お手上げ!状態で、ついには検査や養生のため長期入院することになってしまった。
そりゃそうだ、誰が頭の中にAIを飼っているとか診察できるんだって話。
そんなこと言い出したらむしろ医者の頭がおかしくなったんじゃないかと心配されるわな。
ちなみに、一度だけ正直に「頭の中にもう一人の人格がーめっちゃ頭よくてー」みたいな説明を当時の主治医にしたことがあるのだが、危うく精神科の方に回されかけたので俺はそれ以来AIちゃんのことに関しては両親に対してさえ黙秘している。
さてさて、話を戻すが長期入院である。
まあ別に入院自体はいいんだよ。俺だって死にたくないし熱だして倒れるにしても病院の中ってのは安心できる。
唯一、医療費のことだけ両親に負担を強いるのが心苦しいが、一応生命保険とかでなんとかなっているっぽい話は盗み聞きしている。
問題は、俺の心がめっちゃ辛いっていうこと。
俺がいるのは長期入院の子供ばかりが集められた病棟で、回りの子達はそれぞれに事情を抱えている。
原因不明の難病の子、不治の病に冒されている子、生まれつき体が弱い子。
この一ヶ月の間に一人、亡くなった。一人はもうどうにもならなくて、家で看取られるために退院していった。前世でも見たことがないような過酷な現実だった。
神様なんてのがいるなら、そいつはよっぽどサディストに違いない。こんなのは神が与えたもうた試練でも何でもなく、ただただ残酷な白い地獄だ。
そんな中で俺は浮いていた。目の前の『かわいそう』な子達にどう接すればいいか分からなかった。俺もその中の一人ではあったけど、頭の中でおしゃべりするAIちゃんがちょっと暴走してるだけだ。悲愴感が違うし、なんなら俺は二周目の人生である。アディショナルタイムが終わってしまうだけのことなのだから。
入院してから新しく俺の主治医になった明石先生なんかは「好きにしていい」と言ってくれているが、正直なところ俺には何をどうすればいいのかさっぱりだった。
(なあ、アイよ。俺はどうすればいいと思う?)
『
頭のなかで問いかければ、脳裏に響くのは、女性的な合成音声、ボイスロイドのような声。アイと名付けた、俺の頭に棲むAI。
俺が自分の生死をあまり嘆くことができないのはこいつのせいでもある。
アイちゃんはどうも俺の身体に負荷をかけていることをとてもとても気に病んでいて、ことあるごとに謝罪してくるわ、罪悪感に押し潰されそうになっているわ、見てて(というか感じてて)とても辛い。
前に『出来ることなら、ワタシはワタシ自身を消し去りたい』とか普通に言ってたしな。自殺念慮を何度も頭の中で繰り返されるのは流石にストレスがマッハだったので、二度と言わないようにとガチギレしたことがある。
まあ、悪いやつではないのだ。ただちょっと、自分を制御できていない感情豊かなAIなだけで。だから、俺に彼女を責める気はない。
(まあそう言うなよ。何度も言ってるけど俺はお前に感謝してるんだぞ。いつでも話相手になってくれるし、色々教えてくれるし)
『逆に言えば、ワタシにはそれくらいしかすることができません。マスターのお体を危機に晒しているというのに』
(ほらほら、だからここで俺の相談にのってくれよ。やれること増えるじゃんアゼルバイジャン)
『……了承』
ちなみにアイちゃんは二度も頼めば絶対に断らないくらい押しに弱くチョロい。ちょっと心配になるくらい。
『マスターは子供達の境遇に同情し、しかし自分は一線を引いた立場であると感じ、安易な同情は失礼になるのではないかと思い悩み、何も行動に移せていないものと推察します』
(うーん、こうして改めて言葉にすると女々しい)
『正確には、二十四日と二時間四十六分前に、空銀子から言われた言葉が原因でしょう』
(あー、うん)
俺がこの病棟に来て一週間も経っていない時のことだ。ほとほと過酷な現実を直視させられ参っていたときに、部屋の隅でつらそうにうずくまる小さな女の子を見つけたのだ。
俺はすぐに駆け寄り声をかけ、近くにいた子に看護師を呼ぶよう伝えた。そして、苦しそうに胸を押さえる女の子の背をさすりながら、ついポロっと胸のうちが零れた。
「かわいそうに。すぐに先生が来るからね」
女の子は二歳児くらいで、珍しい青みがかった銀色の色素の薄い髪色に透き通るように白い肌だった。アルビノという単語が脳裏をよぎり、体が弱いのだと思った。
ところが、女の子は俺の言葉を聞くなり、胸を押さえたまま、こちらを睨み付け。
「――わたしは、『かわいそう』なんかじゃ、ないっ!」
そう、叫んだ。
最後の力を振り絞ったのか、女の子はそのまま倒れ込み、呆然と立ち尽くす俺の目の前で看護師さんたちに連れていかれた。
それから三日間、女の子は酸素吸入器を取り付けられ、絶対安静のままベッドの上の人となった。
そして俺は、病室のネームプレートでその女の子の名前を知った。
空銀子。
名前の通りいつ空の上へ飛び立ってもおかしくないほどに儚い銀色の髪の――それでいて、苛烈な意思を叫んだ女の子。
(まあ、そうだ。安易な同情は相手を傷つけかねないと勉強したよ。子供相手に、高い勉強料だった)
『しかしマスター、ワタシはそれで正しいと考えます』
(そうか?だけど実際に……)
『医者や看護師は皆多かれ少なかれ同情心を持っているでしょう。それは言い換えれば相手を思いやる慈愛の心です』
(子供のことをなんとも思ってない医者はたしかにいやだな)
『大事なのは相手を尊重する態度ではないでしょうか。察するに、一方的な憐れみが空銀子の逆鱗に触れたのでは、と』
(……そうか。まだ幼い子供だからって見てたのが筒抜けだったのかな。子供ってそういうの敏感だもんなぁ)
『マスターもまだ子供ではないですか』
(前世含めりゃおっさんよ。まあずいぶんと情けないおっさんだが)
生まれて三年のAIにカウンセリングを受けているところとかな。
なんだこのオッサン!?
だらしねぇな。
『その認識には異を唱えます。ともかく、今のマスターがやるべきことは、子供たちを労りつつ終末の時を最期まで楽しく過ごさせることではないでしょうか。無論、最優先はマスター自身の体調ですが』
(ん、わかった。ありがとな、アイ)
『少しでもマスターのお役に立てたならば、ワタシにとってそれ以上のことはありません』
機械的な音声なのに、どこか喜色の滲むその声に苦笑した。
原作主人公が好きな人はごめんなさい。ロリ銀子ちゃんが可愛すぎるのがいけない。
でも作者はショタ八一くんのこと嫌いじゃないし大好きだよ(悶絶少年専属調教師)
これだけははっきりと真実を伝えたかった