0人目のアイ   作:迫真将棋部志望者

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原作と本作の世界線は異なっているので初投稿です。


出会い

 

 

 

俺が子供たちと積極的に関わりはじめて、しばらくした頃、病棟内で将棋ブームが起きた。

もとより皆激しい運動は禁止されていて、やれることといったら読書か簡単なゲームか、おままごとか。

そんな環境だったから、みんなが慕う優しい明石先生が持ち込んだ将棋は、やることのなかった子供達のいい時間潰しになったのだろう。

 

その頃には俺も大多数の子供に慕われていたから、よく将棋の相手をねだられた。

それも、俺と指したいという子が多すぎて嬉しい悲鳴ではあるのだが、待ち時間を許容できない子供たちから一斉に対局を申し込まれるので複数人を同時に相手する(これを多面指しという)ことになってしまった。

残念ながら俺は将棋をしたことがなかったのでそんなことができるはずもないクソザコナメクジだったのだが、幸いなことにスーパーコンピューター程度は軽く凌駕していそうなAI様が俺の頭に棲んでいるのだ。

 

アイは瞬く間に駒の動かし方を覚えると、数戦したのちには完全無欠の将棋指しに変貌していた。

 

相手の力量を読み切り、指せる限界の手を見極め、それに合わせて一手差で勝ったり負けたりを自由自在に指しこなした。

アイに言わせれば将棋とは二人零和有限確定完全情報ゲームであって、その程度は余裕なのだという。俺には何をいっているのかさっぱりだが、とりあえずなんかかんじがおおくてすごそうということはわかった(幼並感)

 

あとは対戦者の性格を俺が読み、勝てないと泣いてしまうような子には気持ちよく勝たせてあげたり、ちゃんと強くなりたい子にはいい手を思い付かせるようにしたり、対局を楽しみたい子には同じ程度の力量で打ってギリギリの勝負にしたり……という指示をアイに出す。

 

別に強くならせることが目的ではない。楽しい遊びで時間を潰すのが目的なのだから。

 

ただし、ここに例外が一人。

 

「――きょうこそおまえをころす」

 

物騒な台詞を吐いて将棋盤の前に座るのは、空銀子。御年二歳。

 

彼女は当初俺とは関わりを持ちたくなかったようで、もっぱら他の子と将棋を指してた。

しかしどうも病棟の将棋指しのなかで俺が一番強いとみるや、突然「わたしのほうがつよい」と喧嘩を吹っ掛けに来たのである。

 

俺はあの一件以来どうにも気後れして話しかけることもできなかったから、そりゃもう驚いた。

なんだこの幼女メンタルつよつよ過ぎんだろ。

 

んで、そのまま押しきられて対局の運びとなった。

 

(アイ。全力で)

 

『それは一切の容赦なく立ち直れないほど完膚なきまでに本気で叩き潰せという命令でよろしい?』

 

(そこまでは言ってないだろいい加減にしろ!)

 

しかしアイは俺のオーダー通り、他の子達を相手にする時とは比べ物にならないほどの力量で、二歳の幼女をこれ以上ないほど叩きのめした。

序盤でボロボロに突き崩し、ひとつもいい場面を与えないまま、最後は即詰みに討ち取った。

 

「…………ま、ま゛け゛……ッ!」

 

王様の目の前に金を打たれるまで粘り、結局投了宣言もできないまま、空銀子は泣きながら駆けていった。

 

『これでよかったのですか、マスター』

 

(いやわからねえよ。どう考えても二歳の幼女をボコボコにして泣かせるのが正しいとは思えないし)

 

『鬼畜ですね』

 

(うっせ。でも、手を抜いた方がもっと怒ったろ、多分。『かわいそう』だから手を抜いたのか、ってさ)

 

『肯定』

 

――まあ、少なくとも以前よりは嫌われたし、もう近づいてもこないだろうな。

 

そんな考えは翌日、粉砕された。

 

「ぶちころす」

 

「えぇ……」

 

なんなのこの子修羅なの?ダイヤモンドメンタルなの?絶対こいつ幼女の皮を被った別の生き物でしょ。

 

恐らくは一晩中泣き腫らしたのだろう赤い目で俺を睨む幼女がいた。

 

そして、その日も俺は仕方なく対局し、前日とほとんど変わらない結果を叩きつけた。

空銀子は盤面をぐちゃぐちゃに崩してから泣きながら駆けていった。

 

そして、翌日も、その翌日も、さらにその翌日も。多少の差異はあれど、ほとんど似たような結果となった。いつからかは一日にニ戦以上挑まれるようになった。午前に挑めば、お昼に立ち直ってもう一度午後に挑めると気づいたようだった。なんなら夜にお代わりの三回目まであることも珍しくない。

そんな日々がもう三ヶ月以上続いている。

もう二百回以上は対戦してるはずだ。

 

(助けて……アイ……)

 

『毎日毎日叩き潰しているのはワタシですが』

 

(でも駒動かすの俺だし、睨まれるのも泣かれるのも俺なんだよ。最近は流石に看護師さんからの視線も厳しいし)

 

『ではそろそろ負けてあげればよいのではないですか。マスターが指せば簡単ですよ』

 

(いや無理でしょ。そんなことしたら絶対言葉通り殺されるでしょ)

 

対局を重ねるうちに泣くことが少なくなった代わりに睨み付けてくるのだ。そのせいで、灰色がかった瞳が、感情が荒ぶると真っ青に染まることまで知ってしまった。

眼力強すぎる上に瞳術まで使えるってマ?

 

最近は対局だけではなく、食事の時間やらなんやらの自由時間まで纏わりついてきて、俺の食事を奪ったり無理やり本を読ませたりなどの直接的な妨害行動まで行うようになってきた。

 

そしてなんと俺たちの主治医の明石先生はこの暴虐極まりない行動に肯定的なのである。

なんでも、将棋を指せば指すほど、俺と一緒に過ごし感情を発散させればさせるほど、空銀子の体は体調がよくなるという謎の因果が発生しているというのだ。

なんだそれ。

それって人間の身体機能ではありませんよね?

 

しかも俺の方も発熱で昏倒する回数が減ってきており、いい影響があるとのことだ。

あのー多分それ普通に体が成長したからだと思うんですけど(名推理)

 

俺の発熱昏倒現象は生まれたばかりの頃は毎日のように、二歳ごろからは週に一回程度、そして最近では月に一回あるかないかと言ったところだ。加齢にともなって脳が成長したからではないのか。

 

(将棋指したからって体調良くなるわけないよなぁ)

 

『いえ、明石医師の言にも一定の説得力があります』

 

(マジ?)

 

『マジです。現にワタシは将棋を通して演算の制御についていくらかの習熟をみています』

 

(将棋の思考を通してアタマの使い方を学習したってことかね)

 

なるほど、アイがそう言うなら否やはない。

 

(んじゃもっと将棋指すか。問題は相手がいないことなんだよなあ。もっと強い相手がいいんでしょ、たぶん)

 

『そうですね。ワタシが演算能力を磨くというのであれば、より読みの深い相手か、或いは多種多様な相手と数をこなすのがよいと思います』

 

(読みの深い相手……プロとか?)

 

将棋って確かプロ制度あったよね。囲碁だっけ?

いや、新聞とか載ってたはず……?

あれでもプロ棋士って囲碁?将棋?

 

とりあえず、困ったら大人に相談だな。あーかしせんせー。

 

「プロかあ……うん、分かったよ。少し時間をくれるかな」

 

明石先生にはなにやら心当たりがあるらしかった。そして、それまでの間ということでノートパソコンを一台貸してくれた。自前のものだ。この時代、まだまだ高価なものを気前よく貸してくれるとか、マジで親身になってくれるいいお医者様だ。

 

んで、俺とアイはそこではじめてネット将棋に出会った。

顔も名前もわからない相手とただひたすらに戦える場所。

のちにアイはこのときのことを『世界が広がった』と表した。

様々な思考、手順、定石。それらに触れることは純粋な感動をもたらした。

 

『マスター。ワタシは将棋というゲームの奥深さについて誤解をしていました。全てを知ったつもりでいましたが、まだまだ先は長そうです』

 

そう言うアイの声はどこか楽しげで、それまで演算能力を磨くこと、子供達の遊び相手になることだけが目的だった将棋と、初めて向き合った瞬間だったのだろう。

 

(まぁゆーて余裕の全勝だけどな)

 

『当然です。ワタシが、《八王子アイ》がこの程度の有象無象に負けるはずがありません』

 

なんだろう、なんかドヤ顔が見える。

 

ちなみに八王子アイというのはネット将棋のアカウント名だ。いいのが思い付かなかったから普通に俺の名字とアイの名前である。最初はアイとかAIとかにしようと思ったんだが、すでに使われていたり文字数制限に引っ掛かったりした。

 

そんなこんなでしばらくした頃、明石先生が一人の男性をつれてきた。

 

 






明石先生……病院に男を連れ込んでナニをしようと……?
えっ、この可愛いショタとロリを”見定め”させるって……?
しかもお眼鏡にかなったから自宅に連れ込んで、毎日調教するって……?
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