0人目のアイ   作:迫真将棋部志望者

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アイちゃんがこわれちゃ~う‼ので初投稿です。




対局

 

 

「先生。この子達が、お話しした子供たちです」

 

明石先生に先生と呼ばれたその男性は俺達のことを見て、「ほう……この子達が? 話には聞いとったけど、ホンマに子供やな……」と目を丸くしていた。

なお、俺たち、というのは俺とアイのことではなく、俺と空銀子のことだ。この白く小さい悪魔は最近ではどこに行くにもついてくるので看護師さんたちにすら俺の付属品のような扱いをされている。呪いの装備かよ。

今ではトイレやお風呂にも突入しようとしてくる始末だ。どうも俺の強さの秘密がそこにあると睨んでいるらしい。ねーよそんなもん。

 

そのうちエスカレートして頭を切り開かれそうで怖いねんな。実際俺の頭の中にはアイがいるからそれで正解!俺は死ぬ。

 

(みかど)くん、銀子ちゃん。この人はとっても偉い将棋の先生なんだ」

 

「偉い先生……プロですか?」

 

「うん。清滝鋼介八段だよ。A級棋士さ」

 

「一期で落ちてもぉたがな……」

 

清滝プロは悲しそうな顔をした。

 

(永久棋士とかいうなんか凄そうな称号を持ってるくせに一期で落ちる?それは永久ではないのでは?)

 

『マスター……永久ではなくA級棋士です。プロのなかでも上位の実力であることを意味します』

 

マ? 勘違い恥ずかしい……。

 

『以前明石医師がB級とC級もあると口にしていました。ワタシもそれがどの程度の水準なのかは分かりませんが』

 

内心赤面している間にも明石先生と清滝プロの会話は続いていた。

 

「どうする?六枚落ちくらいで指すか?」

 

「いえ、角落ち……可能であれば平手でお願いします」

 

「はぁ!? ひ、平手はいくらなんでも流石に……まだ三歳やろ?研究会でわしに勝ち越してた君がそこまで言うんか?」

 

「正直なところ僕には帝くんの才能は測れません。手も足も出なかったものですから」

 

清滝プロは怪訝そうな顔で、俺に向き直った。

 

「みかどクン、やったね。平手でええんか?」

 

「そうしていただけるのであれば。できるだけ強い人と戦ってみたいので」

 

(と、うちのアイが申しております)

 

『しかしこの冴えないおっさんはどうにも強そうに見えませんが』

 

(それは流石に失礼すぎる感想だろ……お前一番態度悪いって言われてるぞ)

 

そうして結局平手で対局が始まった。

最初は渋々といった様子で指していた清滝プロも、二十手を超える頃には真剣な顔つきになっていた。

 

(しかしカッケーな。駒を持つ手つきとか打ったときの音とか。プロっぽいわぁ)

 

『ぽいではなくプロですよ。マスターが指すと、つまみ上げてぺち、ですからね』

 

(おう見ろよ見ろよこの可愛らしい紅葉の手を。こんなちっちゃなお手々でどうしろっていうんだ!)

 

脳内で言い合っている間にも対局は進む。

アイはここまで全てノータイムで指しているが、清滝プロは徐々に一手に時間をかけ始めた。

 

『遅延戦術とはプロにあるまじき行いですね。ネット対局でも遅延して結局時間切れで負ける者のなんと多いことか』

 

(いや、それは遅延戦術じゃなくて、単に考え込んでいるだけじゃないか?)

 

でもまあ確かに清滝プロは考える時間が長い。ネットじゃ持ち時間は互いに三分とかが多く、長い設定でも三十分だし院内で指すときもそんなに考え込む相手はいない。唯一、空銀子だけ長いっちゃ長いが。

だからまあ暇なのでこうしてアイとお喋りしてしまうんだが。

 

(にしてもプロっていうのは凄いな。アイとちゃんと将棋を指してる)

 

『初めて、まともに駒組をしている気がします』

 

どっしりと腰を落ち着けたような、そんな重さが感じられる盤面だ。ポンポン決着がつく対局ばかりを見てきたからなんか新鮮。

 

しかし、そんな局面にも変化が訪れた。

ついに清滝プロが攻めに出る。そして、それをアイが華麗に躱し、逆に清滝プロの陣形を崩しにかかる。

 

止まらない。一手の綻びだったはずなのに、蟻の穴から堤が決壊するように、見る間にボロボロになっていく。

 

最近は俺も棋力が上がってきたのか、なんとなく盤面の意味が分かるようになってきた。質問すれば逐一アイが丁寧に解説してくれるというのが大きいが。

 

(完全に崩れた?)

 

『はい、すでに詰んでいます。後手がここで同竜とすれば以下十三手詰めです。他はすべてより短手数の詰めです』

 

形勢は俺が見ても、どう考えても覆らないほどにアイが優勢だ。ほぼ形が崩れていないアイの陣形と、一人追いたてられるようにボロボロの陣形から飛び出してきた相手の王様。駒の数も圧倒的な大差。

 

手順は粛々と進んでいき、しかし、命の灯火が消えようとしているはずの清滝プロはなぜか怪訝そうな顔でこちらを見てきた。

なんだ?

もう負けが確定しているような表情ではないが……。

 

そして、十三手目。逃げ疲れ包囲された王様に止めを指すべく、俺はアイの指示通り最弱の駒を王様の目の前に打ち付けた。

 

これで終わりだ。

 

「うーん、これは……」

 

「えっと……」

 

しかしなんだか様子がおかしい。清滝プロは俺の顔と盤面を交互に見て悩んでいる様子だし、明石先生はなんだか申し訳なさげな、情けない顔をしている。

 

(なんだ?どうした?アイは分かるか?)

 

『さあ……プロが子供に負けて悔しい、などといったことではなさそうですが』

 

俺は振り向いて、長々とした対局中もずっと俺の背後霊のごとく(盤面が見えないので椅子の上に)立っていた空銀子を見ると、彼女は信じられないといった表情だった。

 

「え、なに?」

 

「……まけ。みかどの」

 

「ファッ!?」

 

負け?なんじゃそりゃ。

 

「あー、帝くん。打ち歩詰めって知ってる?」

 

「え?いや、知らないです。なんですか?」

 

(アイ、分かる?)

 

『歩を打って詰めることでは?』

 

(あっはい)

 

「打ち歩詰めっていうのは、将棋のルール、反則負けの一つだよ。歩を打って相手玉を詰ませてはいけないんだ。詰み手順の途中で歩を打ったり、既に盤面にある歩を進めて詰ませるのは問題ないんだけれど」

 

「は?」

 

『は?』

 

「あー、つまり、この対局は君の反則負けということになる。……いや、ごめんね。ルールについてちゃんと詳しく教えたことはなかったね……」

 

『は?しらないが?なんだそのクソルールふざけるのも大概にしろ!知ってたら四手増えるけど別のルートでの詰みもあるし?負けてないし?負けてないんだよ!そもそも――』

 

うわあアイが壊れた。

脳内で喚くポンコツAIの言葉を意識的にシャットアウトしつつ、明石先生に話しかける。

いや、この結果は想定外だったなマジで。ちゃんと勉強しておくんだった。

 

「あー、明石先生。今度ルールブック見せてもらっていいですか?」

 

「あ、うん。勿論。いや、本当にごめんね。帝くん、すごく強いから、初歩的なことをすっかり忘れてたよ……」

 

「ちなみに銀子ちゃんは」

 

「しってるし。ばかみかど」

 

「うっ」

 

胸が痛いですね……これは痛い……。

ミスが多すぎんだよね、それ一番言われてるから。

 

 

 

 

 






詳しい棋譜とか書いても一般読者兄貴にはキツいと思うのでふわっとした感じで。将棋描写見たいなら小説じゃなくてリアル対局中継、見よう!
藤井聡太七段マジでラノベみたいなスペックと戦績してる……。
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