0人目のアイ 作:迫真将棋部志望者
運営様が投稿日付設定にイクイクセットを用意してくれているので初投稿です。
「ちなみに、帝くんは他の反則については知ってるかい?」
「えっと、二歩がダメっていうのは知ってますけど。あとは駒が動けないところに進めるとか」
二歩は最初に教えてもらった。駒が動けないってのは歩や香車を最上段に成らせずに進めたり、桂馬を最上段や二段目に成らせずに進めてしまうことだ。
「じゃあ連続王手の千日手も知らないわけか……」
「ええと、千日手って?」
(アイ、わかる?)
『ふーっ、ふーっ、……ふぅ。いえ、知りません。知るわけないじゃないですか。ワタシみたいなポンコツが』
おっ賢者タイムか?
一発抜いた後の自己嫌悪、ありますねぇ!ありますあります。
俺が内心は首を縦に振りながら、現実では首をかしげていると、明石先生は目に手を当てて俯いた。
「んー、そうか、そうだよね……。千日手っていうのは同じ局面が連続して四度現れたら勝負を無効にして、先手後手を入れ換えて指し直すっていうルールなんだ」
『なんですかそのしょうもないルールは……』
「ほえー……将棋に引き分けとかあったんですね……」
「双方の玉が入玉して決着がつかないときも持将棋といって引き分けになることはあるね。その場合は駒に点数を付けて数えたりするんだ」
「ヴォー……」
「千日手にも反則があって、連続王手の千日手という。文字通り王手のかかる千日手が発生したときは王手をかけた方が負けっていうルールだね」
『なんとも微妙な。それならば連続王手の千日手を玉頭への打ち歩で受けた場合裁定はどうなるのです』
(??? お前は何を言っているんだ?)
『反則――この
んにゃぴ……よくわかんなかったです。
だいたい俺はまだ千日手が具体的にどういうものなのか理解できていない。
まあいいか。えーと、アイが聞きたいのは……。
「そうしたら王手を打ち歩の逆王手で受けて千日手が成立した場合はどちらが負けになるんですか?」
(こういうことだよね?)
『肯定』
「ん……それはとても難しい問題だ。正確に言えば、
『ルールが定まっていない?えっ何それは(ドン引き)頭おかしなるで』
(最後の審判って名前カッコよくない?)
『ちょっと黙ってろ』
(ヒエッ)
しゃぶってよ、怒ってんの?(棒読み)
現実に起きないならいいんじゃないのか。よぐわがんにゃい。
その時、対局が終わってからずっと静かだった清滝プロが目にはいった。そういや挨拶してねえや。
「清滝プロ」
「……ん、なんや?」
「いえ、まだ言ってなかったと思いまして」
そういやこの挨拶を言うのは初めてだな。聞く方ではあったんだが。
「負けました」
頭を下げる。負けたら「負けました」、勝ったら「ありがとうございました」。明石先生に教えてもらった将棋の挨拶である。
「あ、ああ。ありがとうございました」
「ありがとうございました」
まあケチはついちゃったけど面白かったな。いい経験になった。
『は?負けてないが。こんなクソゲーのルールを知らなかったくらいで負けとかあり得ないから。カスが効かねえんだよ(無敵)』
頭のなかで喚くこいつ以外はな!
(バッチェ効いてますねぇ!(頭)冷えてるか~?)
『人間の屑がこの野郎……二度とこの世界にいられないようにしてやる』
(すいません許してください!何でもしますから!)
『ん? 今』
なんかこいつ最近どんどん口が悪くなってる気がするんだけど誰のせいだ?
絶対、対局のたびにぶち頃すとか頓死しろとかとか言ってくるやつのせいだよな。
(頃すと頓死って字面似てない?)
『誤字ですよ。殺しますよ』
(誤字じゃないが。物騒な字を使うんじゃありません!)
そういや俺にさっきバカと言い放った、アイがお口わるわる~になってしまった元凶の空銀子は……。
ウィヒ! なんかめっちゃ睨んでる!
しかも俺ではない。清滝プロをだ。
(なあ、マジでこいつ人頃したことあんじゃねぇの?)
『この年齢で可能なのは出産時に母親を殺すことくらいだと思いますが』
不謹慎なマジレスはやめろォ!(建前) やめろ……(本音)
特にここ難病患者の病棟なんすよ。
いや俺も不謹慎だから言う資格はないが。
でもまーじですっげぇ睨んでますよコイツ。目力で人頃せそう(野獣の眼光)
二歳児がしていい顔じゃないんだよなぁ。
語録の洪水で純粋な原作&将棋ファンを振り落としていく残酷な選別。