2027年、デジモンアドベンチャーのVRゲームが発売された。ミコトはさっそくプレイを始めるのだが。

デジモン短編集から独立させました。

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デジモンアドベンチャーLeb deinen Traum 電脳世界と現実世界が交差するとき、僕らの物語が進化する!

デジモンアドベンチャーLeb deinen Traum

電脳世界と現実世界が交差するとき、僕らの物語が進化する!

 

 

2027年8月1日深夜、ミコトはNowloadingのロゴが右端にある巨大なディスプレイに展開されるPVに次第にテンションが上がっていく。デジタルモンスター生誕30周年プロジェクト、第5弾として、本日発売されたばかりのゲームソフトのダウンロードができるようになったばかりなのだ。

 

ゴーグル型のインターフェースを付けることで、擬似世界を体験できる次世代ゲームが、これから始まろうとしている。この次世代ゲーム機は、インターフェースの機械を通して、ゲームを現実だと誤解させることで、擬似的にリアルな感覚を楽しめることで有名になった。

 

一般に普及してから、小学生が買えるくらい低価格になった。ミコトは小学生ではないが、デジモンアドベンチャーが小学生たちが主人公なことを考えると、主人公は小学生にしようと思っていた。傍らにおいてあるiPhoneには、ネットで一番大きい掲示板の専用スレッドがゲーム板で乱立していた。

 

日参しているスレッドを開いたミコトは、ものすごい勢いで消費されていくスレッドに、何度も更新ボタンを連打する。製品版はゲームを予約したお店が開店しないと、入手することができない。だから、ダウンロード版を選んだミコトたちが、世界で一番早く、このゲームをプレイすることができる、というわけだ。

 

iPhoneごしの掲示板は、祭り状態になっている。だから、ダウンロードが開始された瞬間、一気にネットがつながっているゲーム機の通信速度が重くなったのだった。

 

ダウンロード画面を眺めながら、ミコトは、暇つぶしに、これからプレイするゲームの仕様を確認し始めたスレッドの住人たちの会話を読んでいた。

 

 

・シナリオ

分岐がなくて、誰が遊んでも同じルートを通って、イベントもエンディングも同じなのが、日本のRPGでお約束になってる1本道シナリオだ。フリーシナリオは、ルートが分岐する上に、イベントも全然違うし、結末も違ったりする。

 

・キャラクターメイキング

容姿、性別、年齢を問わない、多種多様なキャラクターメイキングができる。属する勢力によってシナリオが変わる。

 

・グラフィック

体験版をプレイした有志が検証した結果、細部にまでこだわりがみてとれる。映画やゲームでしか出てこなかったものまで再現している模様。CMネタや誤植で生まれた架空のデジモンがネタとして仕込まれていることがある。スタッフ遊びすぎ。

 

アニメをモデリングにしたキャラクターだが、CPUに高度AIが搭載されているため、リアルを追求したグラフィックでも浮いている印象はうけない。ただし、NPCはリアルな思考をするため、ゲームをするからといってハメを外すとシナリオに影響がでる。

 

 

第一弾として、デジモンアドベンチャーが発売されたわけだが、これから数年おきに、テイママーズやフロンティアなどが実装されていくことが発表されている。住人たちは、どんなキャラクターを作るのかについて盛り上がっていた。ようやくゲーム画面が表示される。ニューゲーム、コンティニュー、設定、アルバム、オンライン、のコマンドが表示される。ミコトは、ニューゲームを選択した。

 

 

[キャラクターメイキングを開始します]

 

 

性別は、迷うことなく、男を選択する。女でもよかったが、特権である服装や髪型の変更は、デジモンアドベンチャーのシナリオだと意味をなさないことが判明していたからだ。たった3日の大冒険、しかもサマーキャンプからデジタルワールドを冒険する半年間は、おなじ衣装である。無理もない。

 

年齢は小学生一択。出身地も東京一択。そして、外見を決める。RPGなら、初期ステータスやスキルを決められるが、デジモンが戦うアニメ世界では、登場人物たちは(無駄にハイスペックで小学生には思えないが、設定上は)普通の子供だからないようだ。

 

ここでミコトの手が止まる。シナリオを選択するうえで重要な要素が出てきたのだ。属する勢力はどれですか。平たく言えば、どの立場でゲームを楽しみますか、というやつだ。選ばれし子供たちの立場になって、パートナーデジモンと一緒に冒険する王道展開もよし。ゲンナイさんと一緒に選ばれし子供を導くセキュリティ側でもよし。敵側の勢力になって、選ばれし子供と戦うもよし。

 

ほかにもデジモンアドベンチャーでは出てきていないが、デジモンワールドに存在する公式の勢力の名前もある。これはプレイヤーの選択によって、シナリオがどんどん変化していくことを予感させた。

 

どうしようか、と考えた挙句、ひとつに絞りきれなかったミコトは、おまかせ、のコマンドを入力した。ゲームを初めてのお楽しみってやつだ。ここで延々考えているわけにはいかなかったからだ。

 

 

さて、いよいよメインのキャラメイキングである。

 

 

真っ暗な世界に立っていると、数メートル先の床に突然丸い円が生まれる。真っ白に発光し始めたそれは、逆さまにした懐中電灯のように、三角柱の光を目の前までのばしていく。目の前にホログラムが現れた。

 

映りの悪いテレビのような、時々砂嵐が入るホログラムである。うっすらと色付いた。そこにいたのは光だ。彼女はぺこりとお辞儀をした。

 

チュートリアルだからか、吹き出しでメッセージウィンドウが表示されている。

 

 

【『デジモンアドベンチャー~leb deinen traum~』をお買い上げいただきありがとうございました。本編を始める前に、いくつか説明をさせていただきます。あなたはデジモンアドベンチャーをご存知ですか?】

 

 

首を縦に振ると、ありがとうございます、と光は笑う。動作確認もかねての質問だったようだ。デジモンアドベンチャーについての説明をするのか尋ねられ、首を振ると、かしこまりました、と光は頷いた。

 

このゲームではコントローラーがないため、プレイヤーの動作や台詞がそのままゲームに反映されてしまう。基本的にリアルタイムでゲームが進行し、1つのミッションごとに自動的にセーブされる。下のメッセージウィンドウを確認するか、メニュー画面にある会話ログを確認すると、スムーズにゲームができる。

 

セーブやマップ、主人公のデータ、デジモン図鑑の確認などはすべてメニュー画面でできるので、デジヴァイスをチェックすること。なにか質問はありますか、と聞かれたので、大丈夫っすよ、と首を振った。

 

どうせwikipediaに載ってる様な情報を説明するだけだろうし、さっさとゲームを始めたいミコトにとっては時間が惜しい。

 

 

【それではキャラクターメイキングを開始します】

 

 

光の隣に、もうひとつホログラムが出現する。ズボンをはいたマネキンと、スカートをはいたマネキンが出現した。

 

 

「あなたは男性ですか、女性ですか」

 

 

男性のマネキンをタッチすると、スカートをはいたマネキンが消えて、ズボンをはいたマネキンが前に出てきた。

 

 

【出身地はどこですか】

 

 

男性のマネキンのさらに隣には、日本地図が出現した。きたきた、無駄に凝り性なスタッフが作り上げた最初の大きな分岐点。ベータ版をプレイした有志のまとめによると、首都圏かそれ以外かで序盤の導入が違うらしい。

 

しかも、登場人物にゆかりのある地域を選択すると、そのキャラとの間に特殊なイベントが用意されているっていうんだから、恐れ入る。まあ、初回プレイだし、無難に自分のリアル出身地を選択する。

 

当時の自分が選ばれし子供になったらって気分を味わいたいなら、絶対に選べってみんな言ってたし。太一たちのクラスメイトっていう序盤導入もひかれるものがあるが、あいにくミコトは首都圏には程遠い田舎暮らしであり、東京の地理が全く分からないのだ。

 

感情移入できない。田舎の小学生がどうやって巻き込まれるのか、お楽しみはこれからだ。

 

 

【年齢はいくつですか】

 

 

小学生、中学生、高校生、大学生、社会人、と言葉が並ぶ。

 

 

【この選択肢で立場や能力が決定します。小学生ならばデジモンの初期能力は最低値となりますが、成長率が高く、特殊能力を多く取得することが可能です。逆に、社会人に近付くほどデジモンの初期能力は高く設定できますが、成長率や特殊能力の習得に制限がかかります。

 

また、選択した職業によっては、あらかじめ特殊能力が追加されており、ストーリーに影響をおよぼします。ただし、選ばれし子供とパートナー、以外のデジモンとのかかわり方を選択することもできます】

 

 

小学生以外は周回プレイ推奨のようだ。初回プレイのため、小学生を選択する。

 

 

【小学生を選択されたあなたは、9人目の選ばれし子供として、デジタルワールドを冒険することになります。よろしいですか】

 

 

もちろん、そのつもりだしな、とYESボタンを押すと、今度は1年生から6年生までの選択肢が出現した。

 

 

【選ばれし子供たちと同級生だと、友人であるという特典が付きます。初期の信頼度が高めに設定されます。あなたがピンチになると助っ人として登場したり、同じグループとして行動しやすくなります。

 

その分、他の子供たちよりも信頼度があがりにくいので、注意してください。他の学年を選択しても、なんらかの特典が発生します。重要なキャラクターと親交を深めたり、デジタルワールドの謎に迫るイベントに関われるかもしれません】

 

 

やっぱ初見プレイだし、無難に太一たちと同じ小学校5年生にしよっかなあ、とミコトは5の字を押した。他の学年も気になるけど、周回推奨の気配がびんびんする。序盤から詰むのはごめんだぜ。

 

 

【それでは、あなたにふさわしいパートナーを選びますので、いくつか質問にお答えください】

 

 

3体のデジモンから選択しないのは、デジモンアドベンチャーのパートナーデジモン=精神的な意味でのもうひとりの自分という特殊設定があるからだろう。

 

スタンドやペルソナといわれるそれだ。周回するときは攻略wikiをみながら好きなデジモンを選べばいいし、せっかくだから今回は素直に出てきたデジモンをパートナーにしよう。

 

 

【第一問:あなたは缶けりをしています。味方はみんな捕まり、全力で走れば缶を蹴飛ばせる場所にあなたは隠れています。そして、鬼の一人がこちらに近付いてきました。あなたはどうしますか】

 

 

1.全速力で缶を蹴りに行く。

 

2.その場から離れて様子をうかがう。

 

3.見つからないように息をころす。

 

 

【第二問:あなたは隠れ鬼をしています。捕まっている友達を助けるために、鬼の陣地に入ったとき、友達をイジメるクラスメイトも捕まっていました。みんな助けることも可能ですが、あなたも捕まってしまいます。あなたはどうしますか】

 

 

1.友達だけ助ける。

 

2.友達もクラスメイトも助ける。

 

3.友達にどうするか聞いてから決める。

 

 

【第三問:あなたは習い事が終わり、両親の迎えを待っています。しかし、1時間たっても迎えがきません。みたいテレビがありますが、時間的には余裕があります。歩いて帰れる距離ですが、両親は待っていろといいます。あなたはどうしますか】

 

 

1.両親の言うとおり、迎えを待つ。

 

2.テレビに間に合うギリギリまで待つ。

 

3.すぐ家に帰る。

 

 

【第四問:あなたは卒業に必要な検定試験に行く途中で、受験票を用水路に落として困っている友達と会いました。手伝えば友人の受験票は救出できますが、その場合は遅刻になり受験できるかわかりません。近所の人が応援に来てくれるには時間がかかります。どうしますか】

 

 

1.友人の手伝いをする。

 

2.近所の人に任せて試験に向かう。

 

3.試験会場に電話し、近所の人を待つ。

 

 

【第五問:あなたの友達がクラスメイトにカンニングされたかもしれないと相談してきました。カンニングを先生に伝えればいいことですが、あなたもあなたの友達もそのクラスメイトがカンニングするような子だとは思えません。あなたならどうしますか】

 

 

1.見間違いかもしれないので、様子見にとどめる。

 

2.すぐに先生に伝える。

 

3.カンニングされないように、対策を練ってみる。

 

 

 

 

 

【ありがとうございました】

 

 

ぺこりとお辞儀をした光のすぐ隣に、ぺたぺたというかわいらしい足音が聞こえてくる。ひょこ、とホログラムの隅から先が黒い黄色いクチバシがのぞく。いったん引っ込んで、今度はくちばしからこっちをのぞく真ん丸な赤い目まで見えた。

 

そーっと覗いているつもりなのか、ホログラムの隅に赤い爪と紫色の退化した羽をかけている。先が白い紫色の細長い耳が垂れている。紫色のペンギンだ。

 

 

すぐ横にはデータが表示される。

 

ペンモン

 

レベル:成長期

 

タイプ:鳥型

 

属性:ワクチン

 

南極基地のコンピュータから発見された、ペンギンに似た鳥型デジモン。氷に覆われた地域に生息するため、暑さに弱いのが欠点だが、人懐こい性格で後ろについてはひょこひょこ歩く。また翼は退化しているため飛べず、歩く速度も遅いが、腹這いになって氷の上を滑ると時速60㎞以上のスピードが出せる。また水中でも器用に泳ぐことができる。

 

 

【あなたのパートナーはペンモンです】

 

 

「・・・・・・」

 

「えーっと」

 

「・・・・・・ん?」

 

「なんかいえよ!」

 

「なにを話せというのだ」

 

「いやいやいや、なんかしゃべろうぜ、ペンモン。めっちゃ期待に満ちたまなざし向けといて、そんな無口キャラされてもこっちの反応に困る。っつーかなにをって、なんかあんだろ、挨拶とか自己紹介とかさ」

 

「お前がミコトであり、私のパートナーだ。それ以外に必要なものなどないだろう」

 

「あるわ、ありまくるわ!なんかあんだろ、もっとこうさあ!」

 

「ふむ・・・・・・少し会いたかったぞ」

 

「あーもう、素直じゃねーな、お前!ここはこう、ばんざーい、って喜んどくもんだろ!」

 

「なん・・・だと・・・!?や、やめろ、そ、そういうのは慣れてない・・・」

 

 

ばんざーい、と両手をとって遊んでいるミコトに戸惑うペンモンに、光が笑っている。っなせ、と手を振り払ったペンモンは、ごほん、と咳払いをして距離を取った。

 

 

「・・・・・・やれやれ、手のかかるテイマーだな。ここからはホメオスタシスではなく、私が説明するとしよう。心して聞くがいい。さっそくだが私の初期能力はこれだ」

 

 

HP:56

 

MP:32

 

AT:7

 

MG:5

 

POW:5

 

SPD:6

 

LUC:5

 

 

「攻撃力と素早さ高めか」

 

「そう、私はアタック型に分類されている」

 

「まあ序盤は苦労しなさそうでよかったぜ、ビンタだもんな、お前の技。これで魔力型だったら、地味にきついし」

 

「おっと、やるじゃないか。私の初期技を把握しているとは」

 

「まあ、そりゃね。デジワーから出てるし、わりと古参だよな、お前」

 

「そこまではしらんが、力を貸すに値する人間だとはわかった。今後とも、よろしく・・・・・・な」

 

「おう、よろしくな」

 

「さて、次はお前のアバターだ」

 

 

ミコトの目の前に、小学5年生のサイズになったマネキンがやってきた。

 

 

「どうやらすでに準備してあるようだな、どれにするか選べ」

 

 

ペンモンの言葉と同時に、NOWLOADINGの文字が並ぶ。しばらくして、ミコトが予約特典としてすでに所持していた、なりきりのコスプレ衣装が開示される。もしくは連動しているSNSで利用しているアバターとして、すでに取得しているアイテムが表示される。ちょっとした着せ替え状態だ。

 

 

赤い帽子にゴーグル、黒いシャツ、赤いジャケット、赤のラインが入ったパンツを着ている男の子である。

 

 

「せっかくだから、オレはこの赤い服を選ぶぜ!」

 

「・・・・・・・」

 

「(ちらっ)」

 

「・・・・・構うとつけあがるからな、無視だ無視」

 

「やだこの子冷たい」

 

「っるせえな」

 

「ひでえ」

 

「・・・・・・」

 

「正直すまんかった」

 

 

ごほん、と咳払いをして、ペンモンはミコトを見上げた。

 

 

「じゃあな、ミコト。お前と会える日を待っている。アディオス」

 

 

 

 

 

 

そして、2時間が経過した。満足できるキャラが出来上がったミコトは、早速iPhoneを手にとった。みんな考えることは同じなのか、渾身の出来を公開するプレイヤーがたくさんいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前らすげーなあ、クオリティ高え!製品版のオレは、もうどんなキャラ作るか決めてんだ

 

>>XX

なに?

 

>>ヒント

夏戦争

 

デジモン世界に恋愛機械はあかんwwwwwwwww

 

節子、それヒントちゃう、答えや

 

映画違いだそれー!

 

オナジカントクダモン

 

カントクノリメイクエイガダモン

 

選ばれし子供達オワタww

 

まさかのデジモンプレイwww

 

まだ冒険も始まってないのに、敵がいきなり究極体とかどんな無理ゲーw

 

進化中に攻撃するやつにどうやって勝てっていうんですか、やだー

 

つーか同じカントクならまだよくね?

それをいうなら、オメガモンも、もともとエヴァのパク・・・・・

おっと、誰かきたようだ

 

おいやめろ

 

おいやめろ

 

それが404の最期の言葉だった

 

これがのちの404foundである

 

おまえらwwwwwなんでそっちなんだよwwwwwちげーよ!俺には婚約者のフリをしてくれって、言ってくれるような美人の先輩なんて、いないけどな!(T_T)

 

(´;ω;`)

 

゚(゚´Д`゚)゚

 

(´;ω;`)

 

全俺が泣いた

 

みてくれ、これをどう思う[画像付き]

 

どう見ても太一です

 

どう見ても漫画版太一です、本当にありがとうございました

 

ちょwwwかぶったwwwオレもvテイマー01の主人公だぜ![画像付き]

 

>>XXX,XXX

結婚オメww

 

おまえらwww

 

デーモン逃げてー!今すぐ逃げてー!ダブルアルフォースブイドラモンとか死ねるwww

 

まさかの太一ちがいwww

 

アグモンからブイドラモンにバグ進化はできますか?

 

調整中

 

遊戯王じゃねーんだからやめろwww問い合せたら、できます(キリっ)って言われたから、オレは決めたんだ!

 

なんだってー(AA略

 

うそだろ、まじかよ、今回の30周年気合入りすぎだろ、俺たちの知ってるXXXXじゃないっ!?

 

しっかし、1000体以上もいるデジモンの進化ツリーを再現とか、スタッフ過労死すぎわろたwww

 

もうやめて!スタッフのライフはぜろよっ!?

 

お願い、死なないでスタッフ!あんたが今ここで倒れたら、テイマやフロ、セイバーズ、クロウォ発売の約束はどうなっちゃうの!?ライフはまだ残ってる!ここを耐えれば、デスマーチに勝てるんだから!次回、xxxxスタッフ、死す!デュエルスタンバイ!

 

Wwwwwww

 

Wwwwwwwwwwwww

 

やwwwめwwwwwろwwwwww

 

くっそ、こんなのでwwwwww

しっかし、そこまで再現してるとなると、リデジやワンダースワンもありか?

 

秋山遼はまずくね?一応テイマーズに出てるし

 

追加シナリオで秋山遼ありそうだよなー、楽しみだ

 

デジアドとテイマーをかける少年か

 

ポスターでははぶられてるけどな!

 

やめたげてよー

 

ここで、ようやくアップロードできた画像をミコトは貼り付けた。

 

それなら僕はデジワー2![画像付き]

 

懐かしいなあ、おいw

 

まさかのデジワー2だと・・・・・・マイナーすぎワロタwwww

 

これまた古、いやマイナーなとこから乙

 

意外と再現度高くてワロタ

 

このスレ、仕事人多すぎぃ!どうしてこんなにクオリティが高いメイキングができるんだよ!

 

なんでデジワーじゃないんですかねえ

 

そんなのかぶるからに決まってんだろwwwたった数時間で何人の初代デジワー主人公が生まれたとおもってんだよwwwww

 

育成ゲームからターン制のバトルゲーに進化するんですね、わかります

 

レベルを上げると、自動的に進化するんですね、わかります

 

それってどこのRPG?

 

でも、あの主人公ってゴーグルつけてたよな、こうして見ると案外いけるな、乙

 

つーかメイキングで一日終わりそう、ワロタ

 

 

ネタになりそうな画面が現れたら、また画像をアップしよう、と決めたミコトは、早速ゲームをプレイし始める。先行者はすでに攻略wikiを充実させているだろう。

 

チュートリアルくらいは、終わらせようと思ったのだ。ゴーグルを装着させてください、という画面が表示される。ミコトは、ゴーグルを付けた。そして、ゲームを開始するアナウンスが流れる。意識が暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オープニングもなく、ミコトの視界は暗転した。

 

 

「ミコト、起きなさい」

 

 

ゆさゆさと肩をゆすられて目が覚めた。ふあと大きな欠伸をして、大きく伸びをすると骨のなる音がした。

 

 

「よく寝てたわね」

 

「まあ2時間もあればなあ」

 

 

若い女の人と男の人がいる。どうやらミコトの両親の設定のようだ。思っていたよりも低い視界に戸惑いながら、ミコトは辺りを見渡した。ここは車の中のようだ。後部座席で寝ていたらしい。まなこをこすりながら前を見ると、カーナビモードを解除する男性の操作により、カーナビの画面は1995年3月4日と表示されている。ってことは、今は7歳か。こんなもんかな、と手をグーパーしながら考えた。

 

 

光が丘テロ事件が起きたとされる日だ。

 

 

どうやら時系列順にイベントが進んでいるようだ。さっそくメニューを開きたくてポケットを探ると、白いポケベルがベルトに引っかかっていた。メニュー画面を開くと、世界が一瞬固まる。そして周りがさっきまでいた暗闇の空間にかわり、隔離された空間になった。さまざまなコマンドの中、メニュー画面を開いて、ミコトは目を走らせる。

 

 

【エピソード1:じてんしゃとしょうねん】

 

【クリア条件:おばさんのマンションにいこう】

 

 

セーブをしながら、ミコトはメニューモードをきった。

 

 

自動車の外には、見上げるほど大きな高層マンション群が並んでいる。でっけー、とつぶやいたミコトに、そうだろ、と頭をなでながらお父さんは笑った。おばさんの部屋は13××ってお母さんが教えてくれる。ご丁寧に太一の家のお隣である。これは太一たちと知り合うフラグがびんびんだ。ミコトは期待に胸を膨らませて、駐車場を抜ける。お父さんたちに連れられて、歩道橋を渡り、いくつかの歩道と階段をぬけ、いくつものマンション群に囲まれた憩いの場となっている公園に通りかかった。

 

 

「よーし、いいぞ、太一。その調子だ」

 

 

若い男性の声がする。思わず足を止めると、あら、とお母さんが笑った。補助輪をとったばかりの不安定な自転車にしがみつきながら、必死で自転車をこいでいる男の子がいる。放さないで、放さないで、と必死で男性の支えがなくなることを怖がっている。ちらちら後ろをみて、絶対に話さないでよお父さん、と今にも泣きそうな顔で男の子は叫んでいる。ぶかぶかなゴーグルが首にかかっている。わかった、わかった、と苦笑いしながら男性は頷いている。隙あらば手を放す気満々だ。男の子が前を見た瞬間、男性は容赦なく手を放した。

 

 

「ミコトもあんな感じだったわね」

 

「転んでは大泣きしてたよな」

 

 

どうやらミコトは既に自転車に乗れるようだ。からかうような口調に、いらっとするのはなんでだろう。うるさいなあ、と怒った顔をしていると、すねないの、とお父さんとお母さんはわらった。

 

 

がしゃん、という音がした。からからから、と自転車のタイヤが空回りする。

 

 

「うう、う」

 

 

せいだいに頭を打ち付けたようで、真っ赤な顔をした太一が目を潤ませている。あわてて男性が駆け寄ってくる。うわーん、と泣きはじめてしまった太一に、ちょっとびっくりした。なんかアニメとキャラ違うな。

 

まあ、4年も前だし、こんなもんかな。でもこの時には既に目玉焼きを造るほど手先が器用なわけで、スペックはあるはずなんだよな、随分と泣き虫だなあ、この太一。

 

男性が男の子なんだから頑張ろうと慰めていると、ぐずぐずしていた太一がごしごし目をこすって、こくんとうなずいた。ずっとこっちを見てることに気付いたらしい太一が、あ、という顔をした。

 

 

「なんだよぉ、笑うなぁ!」

 

「えっ、笑ってねーよ」

 

 

まさかの反応に思わず否定するが、太一は叫ぶ。

 

 

「うそだ、笑ってた!僕みて笑ってた!」

 

「だから笑ってねえってば」

 

「だったらなんでさっきから僕のことみてたんだよ!」

 

「・・・・・・笑ってないっていってるだろ、気のせいだって」

 

 

まさか見てることを気付かれてるとは思わず、ミコトの反応が遅れる。ほらやっぱりという顔をして太一は言う。

 

 

「嘘つきは泥棒の始まりなんだぞ!」

 

「だーかーらー、笑ってないって言ってるだろ!お前のことなんかしらねーよ」

 

「なんだよ、知らないのは僕だってそうだ!」

 

「お前のことは知らないけど、オレはお前より偉いもんね。だってオレもう自転車乗れるし?」

 

「なんだよ、ボクだってこれくらいぃ!」

 

 

こら、ミコト、とお母さんが叱る声がする。やめないか、とたしなめるお父さんの声がする。だってせっかくの主人公との邂逅だし、印象の残るようなことしとかないと、多少はね。

 

そんな打算じみたことを考えながら、まだボクの太一が面白くてにやけがとまらない。すみません、うちの子が、とお父さんたちが声がして、謝りなさい、とぐぐぐ、と頭を押し付けられる。やーだ、と駄々をこねる子供のような態度をしながら、太一を見れば、お父さんにたしなめられて、だって、と今にも泣きそうな顔をして説明している。

 

あっかんべーと舌を出すと、顔を真っ赤にした太一がこっちに向かってきた。こら、と頭を叩かれるのはほとんど同時だった。本気でぶたれてたんこぶができる。

 

 

「ほらミコト、ごめんなさいは」

 

「ごめんなさい」

 

 

ぐぐぐ、と頭を押し付けられて、ミコトはお辞儀した。

 

 

「すいません、うちの子が」

 

「いえ、こっちもすぐ大げさにとらえてしまって、すいません」

 

 

ほら、太一、と促されて、なっとくいかない、という顔をしたまま太一はむくれている。むすっとした顔の太一に、ミコトはなんだよあやまったのに、と大人げないことを考えながら意地悪な笑みを浮かべた。

 

 

「くやしかったら自転車乗ってみろよ、太一君」

 

「なんだよー、おまえー!」

 

「おまえじゃねーよ、ミコトだ、ミコト。覚えとけ!悔しかったら、オレがいる3日以内に自転車乗ってみろーだ」

 

 

まあ、今日の夜にそれどころじゃなくなるんですが、多少はね。ミコトは両親の叱責を無視してマンションのエレベータに駆け込む。これで謝罪するために八神家を訪問するフラグがたつだろう。

 

光ヶ丘テロ事件になる前に、一度は光に会っておきたいところだ。どうせ今日の出来事ごと、光が丘テロ事件の影響で記憶がすっとぶので、太一が覚えていることは無いだろう。今回の出来事が冒険の時にどう影響するのか楽しみだ。

 

 

 

 

 

ミコトはおばさんの家に駆けこんだ。

 

 

 

 

【エピソード1:じてんしゃとしょうねんをクリアしました】

 

【エピソード2:らいげきのよるにを開始します】

 

【クリア条件:光が丘テロ事件を目撃しよう】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イベントを1つ終えて、早速、ステータスを表示してみる。

 

ミコト

性別:男

所属:小学校1年生

特記事項:落ち着きがないです

 

「……うるせえやい」

 

小学生時代お馴染みだった言葉をここで目にするとは思わなかったミコトである。まさか両親の制止を振り切っておばさんの家に駆けこんだからだろうか。それとも、太一にちゃんと謝らないで、茶化すようなことばっかり言ったせいだろうか、それとも意地悪なことばかり言ったせいだろうか。

 

最初見た時にはなにも表示されていなかったはずの特記事項は、プレイヤーの行動によってころころと内容が変わることに定評がある。なにが条件かは分からないがまとめwikiにこんな言葉は無かったはずだから、結構種類が増えているかもしれない。

 

ちなみにバリエーションとしては、リアル5歳児です、アニキです、地球にやさしいです、もったいないです、なんかがあったはずだ。体験版をプレイした有志達は一体何をしたのか、つっこみどころ満載だったのが記憶に新しい。思ったより普通の特記事項を残念に思いつつ、交友関係のページに飛ぶ。

 

キャラクターのアイコンが表示されている。選択すると、簡単なプロフィールがのっていて、ミコトへの信頼度に応じた言葉が掲載されている。もちろん、ここもプレイヤーの行動や会話でころころ変わることに定評がある。

 

お父さん:優しくて頼れるあなたのお父さん。

     ××から東京まで運転するほど車が好きらしい。

特記事項:あの頃はよかった

 

「何があったし」

 

お母さん:しっかりもので明るいあなたのお母さん。春休みなので

     あなたはお母さんのお姉さんのお家に泊まりにきた。

特記事項:休戦協定の締結

 

「あー、これは謝りに行くフラグだな、間違いない」

 

八神進:冷静沈着でリーダーシップがある太一のお父さん。

    お台場の高級マンション最上階に住める普通のサラリーマン。

特記事項:休戦協定の締結

 

「つっこんじゃだめだろ、そこは」

 

八神太一:お爺ちゃんのゴーグルがトレードマークの男の子。ちょっと泣き虫。

特記事項:誇りをかけた戦い

 

「無駄にVテイマーのネタ仕込んでやがる。っつーか誇り(笑)だろ、あれ」

 

デジモンカードの名前を当てはめる試みは面白いとは思うが、ちょっと無理やり感がにじみ出ているのは気のせいか。こっちの方が突っ込みどころ満載になっているので、こっちを重点的に確認することにしよう、と思いつつセーブを終える。

 

次のミッションは【らいげきのよるに】

クリア条件は【光が丘テロ事件を目撃しよう】

 

だが断る。全力で横道それるよ!暗転していた世界は、再び光を取り戻した。

 

「もしもし、八神さんですか?私です、桐谷です。あら?ちょっと電話が聞き取りづらいわね、ええ、麗子です、こんばんは」

 

おかしいわねえ、とつぶやきながら、おばさんは首をかしげている。隣にはお母さんがいる。

 

「あ、聞こえるわね、よかった。突然お電話してごめんなさいね、裕子さん。うちの甥っ子が太一君にご迷惑おかけしちゃったみたいで、ごめんなさい」

 

おばさんがミコトを見る。いたずらっ子な笑みを浮かべて、おばさんは声を弾ませた。

 

「そうなの、ええ、春休みだから遊びに来てるのよ、そうそう、ええ、そうなの。ふふ、そうなのよ。ちょっと早い反抗期みたいでね、うちの妹も手を焼いてるみたいで、あはは。そう言ってもらえるとうれしいわ」

 

ぎょっとしたミコトが何言ってんだ、この人、といった顔でおばさんを見上げると、おばさんはけらけらと笑っている。太一のお母さんの反応に、はらはらしていたらしいお父さんはほっと胸をなでおろすが、からかい調子のおばさんには苦笑いである。ちょっと、おねえちゃん、とお母さんは小声で抗議するが、おばさんは分かった分かったとうなずいた。

 

「ちょっと、妹が代ってほしいみたいだから、代わるわね」

 

お父さんとお母さんに電話を渡したおばさんは、ソファで聞き耳を立てていたミコトのところにやってきた。

 

「ちょっとー、ミコト君が悪い子になったせいで、うちのテレビこわれちゃったじゃなーい。どうしてくれるのかなあ?」

 

こつんと頭を叩かれる。

 

「オレのせいじゃねーよ、おばさん」

 

「だあれがおばさんだ、だれが。私はまだおばさんって呼ばれる年じゃないわよ、もう。美咲の結婚が早かっただけじゃない。麗子さんってよぼうか」

 

「れーこおばさん」

 

「相変わらず生意気なのはこの口か!」

 

「いひゃいいひゃい」

 

ぐにーと漫画のように良く伸びる頬を勢いよくつねられて、涙目になったミコトは棒読みの謝罪をした。

 

「まだ7つなのに口だけは達者なんだから困ったもんだね、君は」

 

はあ、とためいきをついたおばさんは、治ったかしらって言いながらリモコンを押す。相変わらず砂嵐のテレビである。せっかく東京が誇るチャンネル数を見せつけてやろうと思ったのに、と残念そうに唇をゆがませた。テレビだけではない。

 

ラジオも、冷蔵庫も、お風呂のモニタも、オーディオも、パソコンも、ようするに電気をつかう家電がぜんぶおかしくなっているのだ、おばさんのいえ。これではお泊りというわけにもいかない。さっきから、モールス信号のように一定のリズムで点滅する電子機器を前に、大人たちはちょっと困り切っている。

 

今からホテル取れるかなあ、とぼやきながら、電波の入りが悪いPHS片手におばさんはベランダに出ていった。デジヴァイスは夕方から夜になろうとしている。

 

えーっと、たしか、とミコトは映画を思い出す。昨日の夜、八神進さんの書斎のパソコンから出てきたデジタマ。次の日、八神裕子さんが仕事に行ったあと、時間の経過によってボタモンが誕生したはず。いつだろう?ミコトはベランダに出た。

 

「なーなー、麗子さん」

 

「うん?」

 

「ここにくるとき、シャボン玉―がーって言ってる人がいたんだけど、なんかお祭りやってたの?」

 

「あっはっは、残念でした。お隣の太一君と光ちゃんがしゃぼんだま遊びして遊んでたのよ。子供部屋からたくさん飛んでたからねえ」

 

「光ちゃん?あいつ、妹いるの?」

 

「そーよ、八神光ちゃんっていってねえ、4歳だったかな。太一君はお父さんとお母さんがお仕事いってる間、光ちゃんの面倒みてるのよ、えらんでしょ。ミコトと違ってちゃーんと朝ごはんだって作れるんだから」

 

「そうそう、ミコトの方が偉いことなんか、なんにもないんだぞ?」

 

「えー、それくらいおれだってできるよ!」

 

「まーた始まった、ミコトのできるもん」

 

なにそのひとりでできるもん的なノリは。やたら舞ちゃんが世襲してた懐かしの公共放送を思い出して、ミコトはつっこんだ。ちょっと手のかかる子供の態度をとりすぎたせいかもしれない。ミコトのキャラがどんどん固定化されていく。

 

お父さんとお母さんはお菓子折りは何がいいかおばさんに相談している。だって、大体の1週目プレイは八方美人な優等生キャラになってしまうのが世の常で、2週目になってからはっちゃけるのがパターンと化していたミコトである。

 

ちょっと面白いことがしてみたかったのだ。あんまりやりすぎると良くないとは聞いてたけど、太一のイベントで光と会うにはあの時ケンカ売らないとフラグが立たないってまとめwikiにあったから悪いのだ。お父さんたちのいうことをよく聞く子供でいると、ベランダで光が丘テロ事件を目撃するルートになってしまう。

 

「太一君にごめんなさいしに行くわよ、ミコト」

 

「はーい」

 

待ってました、おつかいイベント!元気よく返事をすると、お菓子を買ってもらえるわけじゃないからね、とおばさんからしっぺを頂戴した。

 

 

1時間後とテロップが出て、シーンが暗転する。気付いたら八神家の前だ。ぴんぽんとお母さんがチャイムを鳴らすと、はあい、という空の声がする。ああそう言えば裕子さんの中の人って空だっけ、とどうでもいいことを思い出しながらミコトはモニタに話しかけるお母さんを見ていた。こんなハイテクな物ミコトのリアル小学校時代には無かった代物である。

 

すげー。おのぼりさんまるだしな男の子にモニタの向こうの裕子さんは笑っている。チェーンロックを外す音がして、ドアが開いた。カレーの匂いがする。すげー、こんなとこまで再現されてんだ、このゲーム。

 

お腹へった。今晩の八神家はカレーのようだ。ケーキを買ってくる裕子さんの仕事はこっちのイベントにスライドされたらしい。地味に調合性をとってるところに、劇場版をリスペクトし過ぎなスタッフの気配を感じながら、ミコトは玄関の靴を数えた。

 

あきらかに男物がない。なんだよ、太一のやつまだ帰ってきてないのか。考えていたからかい調子が無駄に終わり、残念に思いながらお母さんに促されて前に出る。つまらないものですが、と差し出されたケーキ。きっと八神家の食卓に並ぶ。光ヶ丘最後の晩餐になるとはまだ誰も知らない。

 

「ごめんなさいね、ミコト君。せっかく謝りに来てくれたのに。太一、まだ帰ってきてないのよ」

 

裕子さんは笑っている。ホントなら光も太一もファーストキスをコロモンに奪われるという大事件が起こっているころなのだが、どうやらこっちでは光だけになる模様。え、なんで?って返すと、それがねってこれまた嬉しそうに笑う。

 

「あんなに嫌がってた自転車の練習、乗れるまで頑張るんだって張り切っちゃってね。もうご飯なのに、あとでですって。お父さんも付き合うって言ってるし、まだあの公園にいるのよ。ありがとね」

 

「いえいえ、そんなことお構いなく。そんなこと言われると、またうちの子調子にのっちゃうんで困ってるんですよ」

 

「でも助かりました。もうすぐ自転車の授業があるっていうのに、別に乗れなくてもいいって、別に困らないって屁理屈ばっかりいってたので困ってたんですよ。それが3日なんて待ってられない、はやく乗れるようになって、僕も偉くなるんだっていいはって聞かないんですよ。太一がここまで苦手なことに一生懸命になるの初めてじゃないかしら」

 

「あら、そうなんですか」

 

「よかったらまた仲良くしてくれる?」

 

あ、はい、とうなずいたミコトによかったって裕子さんは笑った。やがて原因不明の家電誤作動事件についての世間話が始まる。なんか光が丘を中心に電波障害が起こってるとかいうフラグを夕方のニュース番組が一斉に報道し始めてるらしい。

 

うん、これが違法電波テロ事件とか爆弾テロ事件とか勘違いされるフラグその1なんだ。ちゃくちゃくと進むフラグを背後に感じながら、ミコトはその時を待った。

 

ちりん、と鈴の音がした。にゃーん、という鳴き声と、待ってミーコっていう声がする。ぱたぱたぱたと裸足でかけてくる音がする。

 

「猫飼ってるの?」

 

「ええ、そうよ。ミーコっていうんだけど……?」

 

「ミーコ、そっちだめ。お外。お外だめ。いっちゃだめ!」

 

「光?」

 

リビングの隙間から飛び出してきた三毛猫がミコトたち目掛けて駆けてくる。おおあわてでおいかけてくるのは、まだ4歳の光だ。あまりに髪の毛が短くて、声が高くなかったら男の子と間違われてしまいそうな感じがする。

 

着ている服も赤い服に黄色のズボンというクレヨン五歳児スタイルだし。でも、それどころじゃないのか、光は裸足も構わず外に行こうとして裕子さんに止められる。その隙を狙ってミーコは勢いよく玄関を飛び出した。

 

「あ、こら、ミーコ!」

 

ミコトはドアを閉めようとしたが、ミーコはお母さんとお父さんの足元を潜り抜けて外に出て行ってしまった。

 

「ミーコ!」

 

鈴の音を残して、ミーコは脱走してしまった。うるうるしていた瞳がいっきにぼやけてしまう。ぐずぐず泣きそうになっている光はミーコを追いかけると言ってきかない。ばたばたあばれる4歳の女の子をなだめながら、裕子さんはPHSを探っている。ミコトは即決だった。

 

「おれ、ミーコ捜してくる!」

 

ミコトの言葉に、ううう、と涙をためている光が顔を上げた。

 

「みーこ、おそと……だめなのに」

 

「なあ、ミーコってお外でたことあるのか?」

 

こくん、と光は首を振った。裕子さんがいうには家猫だけど、外に興味津々で何度か脱走経験があるそうだ。そのたびに数日探し回るはめになり、ケガをして帰ってくることもあって光は心配しているという。

 

「どっか行きそうなとこは?」

 

ん、と指差す先は、どこだこれ。空をさしている光にぽかんとしていると、んーっといいながら光はまっすぐ空を指さしている。あっちの方角って言いたいんだろうか、えーっと確かあっちは公園?こくこくと光はうなずいた。

 

お父さんと電話しようとしている裕子さんがなんにもしてくれないと思ったんだろうか、それとも時間が惜しいのか、唯一構ってくれたミコトのところにかけよった光が服の裾を掴む。はだしだからせめて靴を履きなさいと裕子さんがあわててサンダルを履かせようとするが、それもやーっと蹴飛ばしてしまう。

 

ぐいぐい袖をひっぱられ、ミコトは光をおんぶすることにした。ぱっと表情が明るくなった光をおんぶする。

 

「おれ、ここらへんしらねーし。ミーコがいそうなとこ、教えてくれよ。どこだ?」

 

「あっち!」

 

光が指差す方向を頼りに、ミコトは公園に向かうことにした。お父さんたちの制止は丸無視だ。ここでいい子ちゃんしてると好感度あがるイベントのフラグが折れてしまう。身体は小学校1年生だがゲームである。

 

小学生の体力まで再現されているわけもなく、普通に光をおんぶしたまま公園までたどり着いたミコトは、その指示をたよりにミーコを捜す。途中で太一と進さんと合流し、サンダルを持ってきたお父さんとお母さんも加わり、無事にミーコを捜しあてたころには、すっかり夜になっていた。

 

アメリカ兵に連れ去られる宇宙人のごとく捕獲されたミーコはゲージの中に幽閉される。

 

「ごめんなさいね、ミコト君。光を公園までおんぶしてくれたみたいで」

 

途中で疲れてしまった光は進さんの背中でうとうとである。サンダルを履かされてから、自由に走り回ったせいでつかれたのもあるのだろう。今の時間は8時過ぎだ。

 

4歳の子には夜更かしだろう。太一は夕方から始めた自転車の特訓の途中でミーコ捜しに駆り出されたから、光をおんぶする気力はない。13階まで自力で帰るのが精いっぱいだった。

 

ミコトがけろっとしているものだから、ミコトのお父さんやお母さんに運んでもらうのは嫌だったらしい。八神家の玄関を開けた瞬間、座り込んでしまった。

 

うーうん、と首を振るミコトとは雲泥の差である。校舎内に天然のスキー場完備のド田舎小学生の体力を舐めてはいけない。片道10kmの通学路を自転車禁止という過酷な環境下で集団登下校させられる環境なのだ、小学校1年生でも体力だけはつくのである。

 

もちろん、これはゲームだから田舎補正があるのかは不明だが、リアルタイム小学生を満喫中のミコトは、体力がある理由をこう補完した。

 

「美咲さんも明彦さんも、ほんとうにありがとうございました」

 

「いえいえ、気にしないでください。うちのバカ犬にくらべたら、楽でしたから」

 

「うちのバカ犬も首輪引っこ抜いてよく脱走するから慣れてますよ、あはは」

 

「なにからなにまで、本当にありがとうございます。桐谷さんによろしくお伝えください」

 

「はい、それでは失礼しますね」

 

「ミコト、帰るぞ」

 

「麗子さんも待ってるし、帰ろうか」

 

「うん。じゃーな、太一」

 

「………(こくこく)」

 

「どんだけ疲れてんだよ、へろへろじゃん」

 

「ぼくだって、がんばったもん、」

 

「うん、知ってる」

 

「え?」

 

「おにーちゃんなんだろ、太一。光の」

 

「うん」

 

「光のお兄ちゃん、太一だけじゃん。がんばれ」

 

まばたきした太一は、こくりとうなずいた。これから光のことを守ってやれよとフラグを立てようとしたところで、空気を読まない腹減り虫が盛大にラッパを鳴らす。一瞬空気が凍りつく。ミコトはさすがに恥ずかしくなって、一気に顔が真っ赤になった。

 

さすがに12時から夜の9時までご飯ナシは小学校1年生の男の子にはきつかったらしい。あまりに音が大きくて光が目を覚ましてしまう。お母さんもお父さんも裕子さんも進さんも、もちろん太一も。吹き出したのはだれかわからない。

 

笑いの渦がミコトを包んだ。ミコトは涙目である。八神家の玄関先ではカレーの匂いが漂っているのだ。不可抗力である。

 

「母さん、ミコトとカレー食べていい?」

 

「っふふふ、いいわよ、美咲さんがいいっていうならね」

 

「 ミコトのお母さん、いい?」

 

「っあははっ、もちろん、いいわよ、裕子さんのご迷惑じゃなかったら」

 

「ごはん?ミコトにーちゃ、いっしょ?」

 

光の言葉に、太一がそれだと食いついた。

 

「ミコトのお母さん、ミコト、一緒に、そーだ、うちに泊まってもいい!?」

 

お隣さんである。両親のOKが出たら、あとは早かったのだった。よっしゃきた、おとまりイベント発生!とガッツポーズしたミコトである。劇場版のイベントをずっと出待ちさせられているコロモンの信頼度ダウンと引き換えに得たイベントである。

 

これから起こる光が丘イベントとのちのちに響くコロモンとの因縁による冒険の難易度上昇さえ考えなければ、スタートダッシュは良好といえた。

 

 

ミコト

性別:男

所属:小学校1年生

特記事項:アニキです

交友関係:八神太一『昨日のオレだと思うなよ!』

     八神光『なんだかとってもせつないの』

     コロモン『ナミダの協定破棄』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミコトに見せたいやつがいるんだ」

 

「ミコトおにいちゃんも、みる?」

 

ふたりに連れられてやってきた子供部屋。ミコトがみたのは、ようやく帰ってきた太一と光をみるやいなや、おかえりーっと飛びついてきたピンク色の生命体だった。あ、コロモンって結構でかいんだ、と思いながらあわててドアを閉めたミコトを、だーれ?ってコロモンは不思議そうな顔をして見上げている。

 

「太一、こいつなに?」

 

「昨日、父さんのパソコンから出てきたんだ」

 

「えっ、パソコンから?」

 

「そう」

 

こくり、とうなずく光の手の中で、ぐうう、というコロモンのお腹が鳴る。そりゃそうだ、今日の夕方から何も食べてないんだから。

 

「すっげー、こいつ、さわってもいい?」

 

「お腹すいたぁ」

 

ぐだっと伸びているピンク色のスライムが光からミコトに移動する。すんすんと鼻を鳴らしたコロモンは、なんだかおいしそうな匂いがする、と目をキラキラ輝かせた。

 

「なあ、太一。こいつって何くうの?」

 

「なんでもたべるよ、こいつ。ぼくのお菓子も、ミーコのご飯も、ぜーんぶ」

 

「へー、お菓子くうんだ。じゃあ、くうか?いっぱいもってきたんだ、お菓子」

 

ミコトがリュックをおろすと、いよいよコロモンの目がきらきらと輝いた。食べるー、とピンク色の耳で元気に返事をしたコロモンに、いくつかお菓子を渡した。開け方が分からなくて涙目になっていて、光がひとつひとつ教えている。

 

「それにしても、ひっでーな」

 

「あー……そっか、ぼくも光もミーコ捜してたから……」

 

「片づける?」

 

「うん」

 

お世話されていなかったコロモンのせいで、子供部屋はうんちだらけになっている。ゲームなら病気になって死んでいるところだが、現実世界ではそこまでデジモンの生態が反映されるわけじゃないらしい。太一とミコトは30分ほどかかって部屋を片付けた。

 

ばくばくミコトのお菓子を食べ終えたコロモンは、思い出したように光の腕の中で拗ねていた。ミコトが触りたいといってもやーだといって光の腕から出てこない。ミコトがうんちを処分する。

 

ついさっき、ケーキとごはんをたべたから、おいしそうな匂いはミコトたちからする。光は困ったように太一とミコトを見上げる。

 

「コロモンも食べたいって、ケーキ」

 

「コロモン?光、そいつに名前つけたのか?」

 

「コロモンは僕の名前だよ」

 

「ごめんね、ミーコのこと。お兄ちゃんもお外で自転車の練習してたから」

 

「やだ、ぜったいゆるさないんだから。とっても寂しかったし、怖かったんだよ。ひどいや、ふたりとも。僕はふたりしかいないのに」

 

「光、そいつ」

 

「わたしは、光。光。お兄ちゃんは、太一。太一。それと、ミコトお兄ちゃん」

 

「太一と光、ミコトおにいちゃんってだれ?」

 

「ん」

 

「おれ、ミコト。よろしくな」

 

「ミコトおにいちゃんじゃないの?」

 

「ミコトでいいよ」

 

「じゃあ、太一と光とミコト」

 

「そう」

 

「そいつ、言葉が」

 

名前あったんだ、って驚いている太一の隣で、ミコトは餌付けを試みるが、ミーコの大捜索にみんな駆り出されてしまったせいで、ずっと放置されたのは傷心ものだったらしい。ひどいんだひどいんだとコロモンはボールのようにふくらんいる。

 

あーんと口を開けてお菓子は食べるが、ごめんと謝ってもなかなか許してくれない。それとこれとは話がべつらしい。結局ミコトのお菓子はなくなってしまった。大きくげっぷをしたコロモンは、ようやく許してくれた。

 

仲直りの印だよって勢いよく光の腕から飛んで行ったピンクの塊が光の顔面に抱きつく。今度は太一の顔につく。ミコトはお菓子の片づけをしてたからされなかった。がさごそしてたミコトがあったあったとリュックから取り出したものにコロモンが反応する。

 

「それなに?」

 

「これ?カメラ」

 

手元のインスタントカメラ。これ、記念に取ろうと思って。デジモンは電子機器だと壊れるけど、インスタントカメラだと大丈夫だと思うし。ミコトは、笑ってーといいながらカメラをのぞく。コロモンは目をぱちくりしながらにこーっとわらった。ぱしゃっとフラッシュを焚いたら、びっくりしすぎてひっくり返る。

 

なに、なに、いまのなに!?と大パニックになってしまい、二段ベットの下に逃げ込んでしまった。いよいよコロモンが怖がって出てこなくなってしまう。光があわててコロモンにカメラについて説明しに向かう。あとでその写真ほしい、といってきた太一に、ミコトはうなずいた。そしてニヤニヤ笑う。

 

「ファーストキスコロモンだな、太一」

 

「な、ち、ちがうよ!なし、今の無し!」

 

コロモンが光に抱かれて帰ってくる。

 

「ともだちのしるし、なしなの?」

 

「ともだちのしるしなのに、太一、いや?」

 

「あ、いや、そうじゃなくってミコトっ!」

 

けらけら笑うミコトにコロモンはむうっとボールのように膨らんだ。またうんこをした。片づけをしていると、ドアの向こうから裕子さんがそろそろ寝なさいと笑いながら声をかけてくる。はーい、とみんなで返事をして、誰が誰のベッドで寝るかじゃんけんで決めた。

 

じゃあいってくる、という男の人の声がする。あ、今日、お父さん夜から仕事なんだ、と太一は言った。裕子さんも一緒にドアを出ていくみたいで、ミコトの分食材が減ったので買い出しにいってくるわね、と声をかけられた。またはーいと返事をして子供部屋に引っ込む。

 

「じゃあ、何して遊ぶ?」

 

「トランプ!」

 

「えー、光強いから、僕やだ」

 

「とらんぷってなーに?」

 

「トラップっていうのはね」

 

「えーっ、ほんとにトランプやるの?しっかたないなあ、じゃあ、トランプとってくる」

 

太一はリビングに向かった。おもちゃをまとめて放り込んである箱の中にあるそうだ。ミコトは光と一緒にコロモンにトランプ遊びのルールについて教えていた。なんか不思議そうな顔をして太一が帰ってくる。

 

どうした?ときいても何でもないと首を振られ、ミコトは首をかしげた。ババ抜き、七並べ、真剣衰弱、いろんなトランプで遊んでいたら、裕子さんが帰ってきた。あわてて電気を消して、みんなでトランプを片づけて、そのままみんなでベットに眠った。

 

数時間リアルにうとうとしていたミコトは、隣の太一に起こされる。なんだよーと欠伸をすると、太一は必死な様子でミコトを引っ張った。

 

「またへんなのが!?」

 

「へんなの?」

 

あまりに太一の声が大きいから、光が目を覚ます。

 

「へんなのって?」

 

「コロモンみたいなやつが父さんのパソコンの中から出てきた!ちょっと来てくれよ!」

 

太一に引っ張られる形でミコトは隣の書斎に足を踏み入れる。コロモンを抱いたままの光も遅れてやってきた。

 

「へんなのとはなんだ。わたしはむかえだ」

 

声がペンモンで思わず吹くミコト。そこにいたのは、どうみてもかわいいヒヨコのデジモンだ。えっという顔をする太一と光を尻目に、コロモンはミコトがおむかえの友達だと知ってショックな顔をしている。

 

「なんでおまえがいるんだよ」

 

「わたしがおむかえだからだ」

 

「おまえかよ!」

 

「おむかえ?」

 

「おむかえだ。かえるぞ、コロモン。ここはわたしたちのいるべきせかいではない」

 

「やだ!ぼくはここにいる!」

 

「やめておけ。わたしたちがであうのはまだはやい、はやすぎる」

 

「なんで?」

 

「わたしたちはまだであってはいけない」

 

「いやだっ!」

 

コロモンは叫んだ。

 

「わがままをいうな。こればかりはどうにもならん。そもそも、おまえがここにいることじたいがじこじゃないか」

 

「やーだーっ!」

 

コロモンが叫ぶ。泣きわめく。もっと一緒に居るんだ、と叫ぶ。太一も光もさすがにいきなりのお別れはいやだとチッチモンにいうが、堅物はガンと譲らない。さすがにこの展開は予測してなくて、1日くらい待ってもいいだろ、とミコトは提案してみる。

 

チッチモンとミコトが仲いいと知った太一たちは交渉をお願いしてくる。チッチモンはパートナーが自分とは違う意見を尊重することは許されないとなおさらかたくなになる。ああもうなんだ、これ!?ミコトは混乱した。

 

これが好感度をまんべんなく上げた弊害ってやつ!?ミコトはなんとか取り持とうとするが、真っ向から対立するみんなをまとめ切れるほど、まだミコトは力がなかった。先にキレたのはチッチモンだった。はやくかえるぞ、とチッチモンからペンモンに進化して、コロモンを取り上げてしまう。

 

やだーと叫んだコロモンの体が光った。パートナーとなるべき人間との邂逅と突然の離別宣言、デジモンは感情の高ぶりでデジコアが消費され進化がうながされる。どごーんと爆発する書斎。ミコトの目の前で、大きな大きなアグモンは、太一たちを連れて行ってしまった。

 

「あーもー、なんでこうなるんだよ!」

 

うまくいけば光が丘テロ事件そのものが無かったことになり、別のイベントが始まるかもしれない、と期待していただけに、失敗した悔しさはひとしおだった。

 

「っつーかなんでお前なんだよ!パロットモンはどうした!」

 

「なんの話だ。お迎えは私だといっているだろう!いくぞ、ミコト」

 

「いくってどうやって?ここ最上階なんですけど?」

 

「そのデジバイスはなんのためにある。私を進化させるためだろう。いくぞ、乗れ!」

 

デジヴァイスが起動する。ペンモンは鮮やかな光に包まれた。

 

 

ディアトリモン

成熟期

古代鳥型

ワクチン種

強力な脚力を持つ生きた化石と呼ばれる古代鳥型デジモン。翼は飛ぶのに十分な面積を持たないが、そのかわりに強靭な筋力を持った脚を備えており、時速200kmを超える速度で疾走することが可能である。また、非常に凶暴な性格であり、動くものはすべて敵とみなし襲い掛かる習性がある。また、全身を覆う羽毛は金属を含有しており、よほどの攻撃でなければディアトリモンにダメージを与えることは困難であろう。必殺技は怒涛の体当たりメガダッシュインパクト、広範囲にダメージを及ぼす巨大な咆哮デストラクションロアー。

 

「コカトリモンみたいなもんか」

 

「不快だ、訂正させてもらう。私の方が原種だ」

 

「あーそうかい!」

 

ミコトはディアトリモンにのり、八神家のベランダから豪快に飛び降りた。

 

あとをたどるのは簡単だった。大きくえぐられた道路。焼け焦げた自販機。踏みつぶされた公衆電話。大きな足跡が残されている自動車。横転事故で大惨事になっている夜のシャッター街。おそらく太一たちをひきそうになったから、かっとなって攻撃されたトラック。

 

みつけた、とミコトが叫ぶ。おうちにかえろう、と泣く光と、どうしちゃったんだよって困っている太一。おそらく進化したことで成長期まであった自我が塗り潰され、野生のアグモンになってしまったから、会話が不能になったんだろう。

 

「太一、光!」

 

大きな声で呼ぶと、アグモンが攻撃してきた。どうやら二人と引き離されることは本能のどこかで覚えているようだ。だめ!という光の声が響く。思わずミコトは目を閉じた。ディアトリモンは高く跳躍して回避する。

 

そして立体歩道を駆け抜け、上から攻撃を仕掛けた。アグモンの攻撃はディアトリモンの頑丈な羽毛にかき消される。光と太一、ミコトは向かい合う形で最前線で目撃してしまった。なんだこれ、どうすれば。

 

ミコトは頭を抱えた。アグモンは完全にミコトを敵認定している。やめてって光や太一がいうほど、アグモンは混乱する。わるいことしようとしたのはあいつら。なんでかばう?太一たち説明するが、アグモンは知識が足りない、いうことをきかない、ひとりぼっちの時間が長すぎてなにもかもが足りない。

 

疑心暗鬼の赤に瞳が切り替わり、どこかにいこうと二人を乗せたまま、光が丘から出ようと大通りを走り始めた。さすがにこれはまずい。ミコトは叫んだ。

 

「どうにかなんないのかよ、ディアトリモン!」

 

「……っ」

 

「もとはといえばお前が聞く耳持たないから悪いんだろ!?」

 

「なぜ私ではなく太一たちを優先させるのだ、ミコト。私よりあいつらの方が大事ということか!?」

 

「だーかーら、そういう問題じゃないだろっ!お前、ほんとに俺のパートナーかよ!頭硬すぎるっての!大事なのは当たり前だろ。でも、いつだって味方でいるのは違うって!俺が知ってるパートナーは、相方が間違ってたら止めるし、怒るし、説得する!それがパートナーだろ、違うのかよ!」

 

ディアトリモンと間違えて飛行機を攻撃しようとしたアグモンの火炎弾が弧を描く。届かず近くの建物に被弾する光景を目撃したミコトは思わず叫んだ。。ディアトリモンが攻撃する。

 

その衝撃で光が投げ出されてしまい、太一があわてて光をだけ止める。近くの茂みにダイブした太一たちは、アグモンを見上げた。怒りが更なる進化を覚醒させる。アグモンはみるみるうちに姿が変わり進化する。そこにいたのはグレイモン。

 

ただしあらゆる最悪の条件が生んだ作用により、はるかに強い個体である。怒りの進化のため攻撃力特化。先程よりも凄まじい威力の火炎砲弾が飛んでくる。世代的に互角、しかも相手は怒りの感情で攻撃に補正がかかっている。ディアトリモンの翼に焼け焦げたあとが残った。

 

「ディアトリモン!?大丈夫か?」

 

「ぬう不覚を取った。まさかここまで進化するとは」

 

「なにいってんだよ、お前!」

 

「仕方あるまい、ミコト、お前の力をしばし借りるぞ。日の出が近い。それまでに決着を付けなくては!」

 

ディアトリモンの言葉に呼応するように、ディヴァイスが激しくひかりとねつを発し始めた。感情値と友情値が突破するのが見えた。浮かび上がるのは、ミコトの精神をホログラムにかけた時浮かび上がる不思議な文様。

 

やがて紋章と呼ばれることになるそれは、解析されるディアトリモンを通じて実用化される。その解析個体がその紋章の重要性を知っていれば、たとえ不完全でも、運用は可能ということだ。ディアトリモンが光に包まれる。ミコトは、光に塗り潰された。

 

 

 

チィリンモン

完全体

聖獣型

ワクチン種

デジタルワールド創生の頃に誕生したと古代デジモンであると言われており、完全体にして究極体と互角の強さを誇ると伝承されている聖獣型デジモン。強大な力を持つデジモンではあるが、争いを極端に嫌い、殺生は決して行わないと伝えられている。デジタルワールドに生きるすべてのものを慈しむ慈悲深い性格をしているが、それ故に無益な殺生を行なう存在に対しては、手加減なしの制裁を加えることもあるという。必殺技は上空から一気に急降下し、脳天の角で相手を貫く疾風天翔の剣と素早い動きで分身を繰り出し、相手をかく乱する迅速の心得。またチィリンモンがオーラを放ち、ひとたび翼をはばたくとき、敵をも聖なる道に導く改心のはどうが放たれる。

 

すべてが光に満たされた時、すべては終わっていた。

 

 

 

1999年8月1日8:30

ぴんぽんとチャイムが鳴り、太一はリュックを背負って外に出た。

 

「あ」

 

そこには知らない少年がいる。キャンプの参加者だろうけど、知らない奴だ。

 

「え?なんだよ」

 

「えーっと、ひさしぶり?」

 

「え、どこかであったっけ?」

 

「これにうつってるの、おまえだろ?」

 

差し出される幼いころの写真。今、冒険がはじまる。



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