この素晴らしい世界で茶屋ルートを!   作:空を泳いで仙郷に到り竜の涙を強奪する変態

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このすばのギャグむずかしい。


この可憐な娘に救済を!

「こんにちは、狼のおじさま! 今日もいい天気ね!」

「……」

 

 狼が日本茶屋「葦名」の客引きをしていたある日のこと。狼は常連の家族連れの娘から可愛らしい笑顔をもらった。

 時は昼も過ぎ、客足がまばらになった頃。齢十に届かぬほどの娘は一人で「葦名」にやってきた。狙いはもちろん狼――ではなく、その懐にしまってある物である。

 

「……じゅるり」

 

 狼が無言で相対していると、娘は「くぅ」とお腹を鳴らしてよだれを飲み込んだ。この時間に狼が何を食べるのか分かっている顔だ。

 厳つい無表情の狼はしばらく無言でいたが、やがて根負けして懐から竹皮の包みを取り出す。そして二つある黒い菓子のひとつを娘に差し出した。

 

「おはぎだ」

「わぁ……!」

「食え」

「ありがとう、狼のおじさま! いただきまーす!」

 

 おはぎを両手で受け取った娘はそれはもう美味しそうに食べる。それを狼は無表情で、けれど眉間のしわが少なくなった顔で眺めていた。

 

 ――それが、三日前のこと。

 

「お願いします、狼様! どうか娘を探してください!」

 

 冒険者ギルドで依頼を物色していた狼は、娘の両親にそう頼み込まれたのだった。

 

 

 

 

 『奴隷猿』。そんな風に呼ばれるモンスターがいる。

 見た目はちょっとした家ほどもある大きな野猿。大の大人を片手で掴めるくらい大きな猿は、その名にちなんだ習性がある。

 すなわち、他の生物を攫い、奴隷にすること。知性の有無に関わらず、自分に有用だと思えばそこから攫い、死ぬまで働かせる猿であるらしい。

 アクセルでは無名のモンスターだ。なにせ生息域が違う。よしんば流れてきたとしても、人間を奴隷にすることは滅多にない。

 その滅多にないことが、起こってしまった。

 

「最後の目撃情報はアクセル近郊の森。猟友会の会員が何かを抱えて奥に入っていく奴隷猿を見たそうです。それが二日前のこと……娘さんが消えた場所、日時、全てが合致しています。

 狼さん。どうか、娘さんを助けてあげてください」

 

 たまたま居たダストから奴隷猿の説明を聞き、両親の懇願を手早くクエスト形式に仕立て上げたルナに見送られ、狼は走った。その速さは忍びらしく、狼の如し。半刻もかからぬうちに森へ到着する。

 鬱蒼と茂るアクセル近郊の森。ろくに手入れもされぬ森を歩けば時間がかかるだろう。

 

「――」

 

 ゆえに狼は左手の義手、「忍義手」から鉤縄を射出する。枝に絡ませ、宙を飛び、それを何度も繰り返す。行くべき先は分かっている。忍びは鷹の目、僅かな痕跡も狼には見えている。追うは大猿の足跡。鉤縄を駆使し森を()()()狼は、やがて辿り着いた。

 ひときわ大きな大木の上に作られた粗末な小屋。事前に聞いた奴隷猿の特徴と一致する。ならばここが、目的の猿の根城だろう。

 地に飛び降りた狼は、少しひらけた場所へ進む。すると大木の上から巨大な影が飛び降りた。

 

『キキーッ!』

 

 どすん、と落ちたのは家ほどもある野猿。敵意を隠さない獣に、狼は楔丸を抜刀する。

 対峙する野猿と忍び。奴隷猿は叫び、狼に襲いかかった!

 

「――」

『キキーッ!』

 

 両腕を振り回す野猿の攻撃を狼は楔丸で弾く。

 忍びの戦いは侍に(あら)ず。一対一の死闘を尽くすのではなく、敵の攻撃を弾き、体幹を崩し、一刀による生命の奪掠(だつりゃく)――忍殺を狙う。

 狼は熟達の忍びである。いくら体躯に優れるとはいえ奴隷猿は所詮は猿。雪深き葦名の地に鍛えられた野猿どもとは比べものにならぬ。

 

『キキッ!?』

 

 奴隷猿の連続攻撃を弾き切った狼は返す刀で体幹を崩す。大きくよろめく『奴隷猿』。土に落ちた野猿の顔を掴み、狼は渾身で楔丸を突き刺した。

 

『キイイイイイイイイイッ!?』

 

 目を突き潰された痛みで絶叫し、仰け反る野猿。その肩に飛び乗り、首に刺突。そのまま柄を梃子の要領で回し、奴隷猿の首を切断した。

 

SHINOBI EXECUTION

 

 着地し、血振りする忍び。倒れた奴隷猿の死体を前に、狼は残心する。

 

「……」

 

 狼は上を見上げる。大木に作られた小屋の中に、おそらく娘がいるはずだ。鉤縄を使い、狼は大木を登る。

 ふと、ダストに聞いた奴隷猿の生態について思い出す。奴らは特に人間を捕まえた時、憎むように虐げ、酷使するという。

 

「……」

 

 小屋の前に立った狼は扉に手をかけ、一瞬手を止めたあと、勢いよく扉を開けた。

 そこには。

 

「オラァ! もっと良い物もってこんかい! その辺の狼だってテメェらより役に立つぞすっとこどっこいども! もっと俺に良い思いさせろや!」

『『『キ、キキーッ!』』』

 

 ジュース片手にソファにふんぞりかえる娘と、奴隷のように敬礼する三匹の小猿たちがいた。

 

「……」

「たくっ、使えねえ。奴隷猿が出たっていうから俺の下僕にしてみようと来てみりゃ、とんだカカシどもだ。命令一つ満足にこなせやしねえ」

「……」

「しょうがねえ。良い子ちゃん演じるのも面倒だが、これじゃ親のスネかじってた方がマシだな。ここじゃ「葦名」よりうめー飯も食えねえし、ちょっと良い顔すりゃコロッとおはぎをくれるオッサンもいねーし」

「……」

「あーあ。都合よく誰か迎えに来てくんねーかな。自分から捕まったけどそんな事言わなきゃ分かんねえだろ。いっそあの門番させてるでけえ猿暴れさせてアクセルから冒険者でもおびきよせるか――」

 

 ジュースを一気飲みしてぷはーっとする娘と、狼の目が合う。小屋にただようなんともいえぬ空気。ぱちくりと目をまたたかせる娘は、ひくりと顔を引きつらせた。

 

「あ、あれ!?」

「……」

 

 無言の狼に娘はだらだらと汗を流す。自分の右手のコップ、並べられた料理、ぶるぶると震える三匹の子猿を見て、娘は慌ててコップを投げてくしくしと髪を整えた。

 そして口を固く結ぶ狼に、にこりと可憐な笑顔を向ける。

 

「お、狼のおじさま! 助けに来てくれたんですね!」

「……」

「……」

「……」

「…………み、見ました?」

「……………………見て、おらぬ」

 

 徐々に笑顔をひきつらせる娘に、狼はそれしか言うことができなかった。

 

 

 

 

 あとで聞いた話だが、あの家族はアクシズ教徒であったらしい。

 娘が産まれた時の第一声が「俺はぜってーメス落ちなんかしねー!」だったらしく、混乱した両親は色んな教会に駆け込んだ挙句、「それはアクア様の祝福に違いありません!」と断言したアクシズ教のプリーストに感銘をうけてそのまま入信したそうだ。

 普段はそんな素振り毛ほども見せなかったし、ご近所さんも知らなかったそうだ。そりゃあ両親はまともな人で、娘は猫を被っていたのなら当然である。

 すべてを内に秘めることにした狼は、小猿を追い払い娘を両親の下へ届けた。泣いて頭を下げる両親に「いや……」といつも以上に寡黙な顔をせざるを得なかったのは狼のみぞ知る。

 西に沈む夕陽を背に、とぼとぼと帰路につく狼。クエスト達成の処理をしたルナが仕事をしながらこぼしていたが、『奴隷猿』は元々「けもなー」なる人物の作った人工生物であるという。人に似た猿など奴隷で十分と名付けられ、その人物がいなくなった後も奴隷として使役されたそうだ。

 それを哀れに思った「ツナキチ」なる権力者の手によって指定保護動物となり、表向きは恐ろしいモンスターとして人が近寄らぬよう、遠い森でひっそりと保護されたらしい。今では有名な昔話だそうだ。

 ちなみにダストは知っていて狼に表向きの話をしていた。娘にその話をしたのもダストであった。狼が『葦名流 無手返し』をダストに放ったのも致し方ない話であるだろう。

 

「……」

「――おお! 戻ったか、狼!」

「……九郎様」

 

 狼がまとまらぬ考えをしながら歩いていると、どうやら「葦名」に着いたようだ。店先で待っていた九郎が、顔を明るくして狼を出迎える。

 

「狼よ、話は聞いておる。娘御を無事保護したそうだな!」

「……はい」

「うむ、よくぞやり遂げた! 褒めてつかわすぞ!」

「……」

「ん? どうした、狼よ」

「……いえ。何でもありませぬ」

 

 首をかしげる九郎に、なんともいえぬ顔をする狼は小さく首を振った。そして九郎と共に「葦名」の暖簾をくぐる。

 狼が思うことはただ一つ。

 

(――まだ、オッサンではない……)

 

 壮年の忍びは、存外に娘の放った言葉に傷ついていた。

 




この作品は儂の手に負えぬかもしれぬ……
……おお! そこの読者よ、続きを書いてくれるとな! 
ありがたい、頼んだぞ! 儂は逃げるでな!
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