朝の5時半。普通だったらこの時間から起きている人は少ないだろう。だが、俺はその時間に起き、身支度を整え地下室へ向かう。この家は地下1階、地上2階で構成されている。·····地下1階と言っても一部屋しか無ェが。
何故俺が地下室へ行くのか·····。それは、仕事に関係したものを地下に置いてあるからだ。
「ふあああ、眠ィ·····」
眠い目を擦りながら、俺は地下室に置いてある物資を手に持つ。それは、俺の仕事道具であり、命を預ける相棒だ。しっかり整備しねェと、いざって時に俺は死ぬことになるからだ。
AR-15を手に持ち、マガジンキャッチを押し弾倉を抜く。この時、忘れずに薬室内にある1発の弾丸をチャージングハンドルを引き、取り出しておく。銃を使う奴からしたら当たり前だが、整備中の事故防止の為だ。
そうしたら、安全装置レバーの右隣に付いているテイクダウンピンを抜き取り、引鉄部分から機関部を取り外す。銃の機関部は、銃の心臓部と言っても過言でも無ェ。ここの整備を怠れば、弾詰まりや給弾不良を引き起こす可能性がある。そうなっちまうと、銃は役立たずの鈍器に成り下がる。それは即ち、感染者達の餌になるのも同義だ。
だからこそ、機関部はより丁寧に整備しなけりゃあならねェ。俺だって、整備不良で死ぬなんざ死んでも死にきれねェ。その後は機関部を分解する。
チャージングハンドルを引き、機関部からボルトキャリアーを抜く。チャージングハンドルもその時点で取り外しておく。その後に、ボルトキャリアーから撃針を取り外し、磨耗具合を確認する。こいつが摩耗しすぎた状態で放置すると、引鉄を引いても、雷管が叩かれなくなる。つまり、銃弾が撃てなくなるってことだ。それを防ぐ為に、定期的に使用した後は磨耗を確認し、かなり摩耗していたら新品の撃針と交換する。今回はついこの間に交換したばかりだし、あまり撃ってねェから交換の必要はいらない。
次は、引鉄の動作確認とマガジンキャッチの確認をする。その次は清掃に入る。機関部部分や銃身に付いている燃焼ガスの汚れを取る。銃身は当然指が入らねェから、ここはクリーニングロッドを使用した清掃をする。その後は潤滑剤を柔らかくなった筆や布に付け、機関部等動作する部分に薄く塗り込んでいく。これを行う事で、銃の動作自体がよりスムーズになり、排莢等がしやすくなるからだ。
それらの作業を終えれば、後は組み立てるだけで終わりだ。ここまでの作業時間は凡そ30分程。·····義父にさんざん仕込まれたお陰で、これくらい楽勝になったが、あれはきつかったぜ·····。何せ、少しミスするだけでまた1からやり直しで、終わるまでメシすら食えなかったもんだぜ。
まあ、これで相棒の具合は抜群だ。感染者を撃ち殺すのに問題は無くなった。後は·····こいつだな。俺は空の弾倉を取り出し、1発ずつ装填していく。これが終われば俺の作業は一応終わりになる。
この後は、あいつらが起きてきた時用に簡単な朝食を作っておく。何故かと言われると、これから回収者の仕事へ行くからだ。昨日はあまり多く回収出来なかった分を取りに行くからだ。
「んじゃあ、行って来るわ」
そう言い、俺は装備を整えてHMMWVに乗りこみ、目的地への移動を開始した。·····行ってきますなんざ、何年振りに言ったっけか。まァ、こういうのも悪かァねェもんだな。
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「行ってらっしゃいです。アキトさん·····お気を付けて」
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HMMWVを走らせ始めてから凡そ1時間程、俺はシアトル郊外にある全滅した街に到着した。ここは昨日フェリエラ達を拾った街でもある。·····いきなりの事だったから、全部は回収できていねェ。今回はそれを回収した後に、別の街へと向かう。そうすれば 、あいつら暫く食ってけるくらいのメシは手に入るだろ。·····食費が嵩むってのは、案外面倒だなこれ。
「よし、行くとすっか」
そう言い、俺は相棒を構えながら、街の奥へと入っていった。
·····回収を始めてから凡そ2時間程だろうか、ふいに近くに気配を感じた。間違いねェ、·····奴らだ。数はおそらく15といったとこだろう。丁度、俺の進路上に固まって動いている。
「なんで迂回路が無ェ場所にたむろしてやがるんだクソッタレが。·····仕方ねェが、殺るしかねェな。固まって動いてるってんなら、こいつで一気にミンチだな」
そう言い、俺は弾帯からある物を取り出す。それは直径15cm位の球で、上端部にはレバーとピンが取り付けられている物だ。そう、取り出したのは手榴弾だ。こいつの分類は破片手榴弾というやつで、火薬の爆発だけじゃなく、細かい金属片を勢い良く飛ばし、目標をズタズタに引き裂く効果がある。
俺は取り出した破片手榴弾のピンを抜き、レバーごと破片手榴弾を握る。これでレバーから手を離せば、時間差で起爆する状態になった。
「これでも喰らえ、クソッタレ共が」
俺はそう吐き捨てながら、レバーから手を離し、2秒ほど待ってから破片手榴弾を投擲した。こうすることで、起爆のタイミングがずれ、奴らのど真ん中で爆発する
次の瞬間、パガンッ! と火薬が破裂する音が聞こえ、奴らのど真ん中で破片手榴弾が炸裂した。飛び散った金属片は、爆発によって生じたエネルギーにより拡散。奴らの顔や身体などをズタズタに引き裂いた 。少ししたら爆煙が晴れ、爆心地が見えてくる。そこには、頭や胴体がズタボロになった死体達が転がっていた。·····良し、狙い通り全滅したな。
その光景を見届け、俺は周囲の警戒に入った。迂回路が無かった為仕方なく手榴弾を使用したが、奴らは音に引き寄せられる。つまり、いつ奴らが襲ってきてもおかしくなくなったのだ。
「はァ····仕方なく奴らを爆殺したけれどよ。本当に、面倒事しか持ってねェな感染者ってのは」
そう愚痴りながらも警戒を続ける。すると後方から気配を感じた。·····クソッタレが、もうお出ましってか? 本当に来んじゃねェよクソ共が。
「まァ、来るってんだったら仕方ねェ。全員ぶっ殺すまでだ」
そう毒づき、俺は相棒を構え、奴らのドたまをぶち抜く為に、引鉄を落とした·····。
━━━━━5時間後 シアトル検問所にて·····
「ありゃまぁ、こりゃ又派手に殺ってきた感じかアキト?」
「あァ·····マジで最近ついてねェよ畜生が。昨日交換した弾薬迄消費させられちまったよ」
「そりゃあツいてなかったな兄弟?」
全くだ·····と、俺はウェンバースに愚痴を言った。結局後は、更に奴らのおかわりがやってきやがった。もしかしたらあの街の感染者、全員ぶっ殺したかもしれんぐらいの相手をする羽目になった。·····今思い返すと、普通にAR-15には消音器付いてたのに何故手榴弾を選択したんだよ俺は。お陰で馬鹿みたいに弾薬消費しちまったじゃねェかよ·····。
「はァ·····本当にツいてねェな、俺」
そう言いながら、俺はあの時の選択ミスを後悔していた·····。