IS(インフィニット・ストラトス)
それは篠ノ之束博士が開発した宇宙空間での活動を目的としたマルチフォームスーツ。
しかし、このスーツは現在、宇宙開発ではなく軍事用の兵器として研究・開発が進み、さらに既存の兵器と一線を画す能力の為、名目上はスポーツ競技に使用するという複雑な立場に置かれている。
その原因となったのが「白騎士事件」である。
ISが世間に発表されてから1ヶ月後、日本周辺の軍事施設のコンピュータがハッキングされ2000発以上の弾道ミサイルが日本に向けて発射される事件が発生した。
その際搭乗者不明のIS「白騎士」の活躍によって日本に弾道ミサイルが着弾することはなかったが、その後「白騎士」の捕獲を試みた各国の戦闘機や軍艦を無力化したことも相まって、ISは本来の目的とは違う使われ方がされるようになってしまった。
因みに2000発以上の弾道ミサイルが日本に発射された際、真っ先に事態を把握した自衛隊は日本の滅亡を覚悟した。迎撃ミサイルが全て命中しても全く足りない。中には戦闘機をわざとミサイルにぶつけるという仮に実行しても成功しそうもない案まで出るほど混乱していた。
その為、自衛隊としては日本の危機を救った「白騎士」に感謝していた。ただ、「白騎士」が無力化した戦闘機から脱出したパイロットの救出、航行不能に陥った軍艦の曳航等面倒事を押し付けられたことには若干の不満が残った。
「日本の領空・領海で好き勝手してんじゃねーよ!!」
対応に追われた自衛官の叫びは誰に向けられたものだったのだろうか。
ー10年後ー
ISが登場してから10年、世界は大きく変わった。
世間では女尊男婢が進み、男性が肩身の狭い思いをするようになっていた。
なぜなら、ISさえあれば既存の兵器は全く歯が立たず、しかもISは女性しか搭乗できないのだ。
ISが女性にしか扱えないのは開発した篠ノ之博士の意思なのか、それとも原因不明の欠陥なのか。何れにしても、これによって女性が力で男性を上回るようになったのだ。
そんな世界で女尊男婢にあまり染まっていない組織が存在する。
それは軍隊である。
元々、軍は男性の比率が高く、またISさえあれば既存の軍隊はいらないという風潮に強く反発していた。
もちろん、各国の軍隊はIS部隊を創設し、民間のIS操縦者に予備役として籍を置くように義務付けている国もあった。
しかし、ISには女性しか搭乗できない以外に2つ問題があった。
1つはISのコアである。ISを動かすには専用のコアが必要なのだが、篠ノ之博士は途中でコアの生産を打ち切ってしまい、かつコアの中身はブラックボックスになっている為ISの量産ができない。
もう1つはISが兵器として強力すぎることだった。一人の兵士が軍事基地や都市を一瞬で焼け野原にしてしまうような戦略兵器は核兵器同様扱いづらいものと判断された。
これらの理由で各国の軍隊はISの開発に予算を取られつつも、かろうじて現状を維持していた。
その中にはもちろん自衛隊も含まれている。
ただ、自衛隊は他国の軍隊にはない任務が求められた。それはIS学園の防衛である。
IS学園とは各国のIS操縦者を集めて養成する教育機関なのだが、学園は各国(日本を含む)に対して中立地帯の扱いを受けながら、運営費は日本政府が負担するという面倒な場所になっていた。
さらに、その面倒な場所はIS操縦の教育の為、数十機のISが配備されていることから安全保障上のリスクを抱えていた。
何も対策を取らず軍やテロリストの攻撃で生徒に死者が出れば、日本政府は何もできない無能と国内外から非難を浴び、国際的地位が失墜する。
それを恐れた日本政府は各国政府(特にアメリカ)及び学園関係者と協議し、学園の設置された人工島の外周とその周辺に陸海空自衛隊の統合任務部隊を常設することになった。
それが自衛隊IS学園防衛統合任務部隊である。
「でもな~、ここを守るなら空自のIS部隊を置かないと意味ないんじゃないかな?」
と1人の自衛官がぼやいていた。
「まぁ、空自のは首都防衛の任務が有るし、他の国が文句言うだろ、どうせ」
隣にいた同期がそのぼやきに答えた。
「そうなんだけどな~、じゃあどうやってここ守れっていうんだか」
実は統合任務部隊に航空自衛隊のISは含まれていない。なぜなら各国政府と学園の関係者は空自IS部隊の配備を断固拒否したからだ。理由はもし自衛隊がISを学園の敷地内に配備すれば、学園を簡単に制圧できてしまうからというものだった。
「まっ、何も起きないことを祈るしかないな」
こういう問題は一自衛官にはどうしようもない。
何も起きないよう祈るか、諦めるしかないのだ。
「なんだかな~」
残念ながら彼らの平穏は世界初の男性IS操縦者、織村一夏がIS学園に入学したことで木っ端微塵に砕け散ることになった。
ー20XX年5月ー
この日、IS学園では世界初の男性IS操縦者である織村一夏と中国IS代表候補生の試合が行われる予定になっており、試合の行われる専用アリーナには学園の生徒がつめかけ、各国の政府要人も観戦に訪れていた。
自衛隊は万が一に備えて警戒体制をとっていた。
「ん?…レーダーに反応あり!学園上空から飛翔体接近!真っ直ぐ突っ込んできます!」
「馬鹿な!?迎撃用意!学園に連絡を入れろ!」
「駄目です!間に合いません!」
ズドオォォォン!!
試合の行われているアリーナから衝撃音が響いた。
「何があった!確認急げ!」
暫くしてアリーナから連絡があった。
「ISです!国籍不明のISがアリーナ内部で暴走!現在試合中だった生徒2名がこれと交戦中!IS部隊の救援を求めています!」
「了!IS学園緊急事態条項に基づきIS部隊に出動要請!」
結局、国籍不明のISは試合を行っていた生徒と専用機持ちの生徒の協力によって撃破された為、自衛隊に出番はなかった。それ自体は構わないのだが……
「我々に調査させないとはどういうことだ!!」
統合任務部隊の司令官を務める陸将の怒号が司令部に響き渡った。
自衛隊としては国籍不明のISを調査したかったのだが、学園に拒否されてしまったのだ。
「しかも、我々を無視して政府に話をつけやがって!ふざけるな!!」
司令官の怒りは収まらない。
「ISなんて大嫌いだ!!チクショウメ―!!」
周りにいた自衛官達は耳を塞ぎ、この問題発言を聞かなかったことにした。
そして、彼らの受難は続く。
ー同年6月ー
この日、IS学園では学年別タッグトーナメントが行われるアリーナでは周囲を自衛隊の部隊が囲んで警備し、装甲車が何台も用意されていることに観戦に訪れた生徒達は驚いていた。
前回の襲撃時、アリーナの管理システムがハッキングを受け観戦していた生徒の大半が脱出できないというトラブルが発生していた。その為、万が一の事態が発生した場合、生徒の脱出を支援、ケガや体調不良で動けなくなった生徒は装甲車に乗せて避難させる計画を統合任務部隊が立案した。
学園はこれを嫌がったが、防衛省が生徒の安全確保と前回自衛隊を蚊帳の外に置いたことを盾にしてごり押ししたこと、そして部隊はあくまでも非武装であることから諸外国(特にアメリカ)から積極的な反対が出なかったことでこの計画を実行できた。
「司令、今大会ですが1回戦第1試合で織村一夏君とドイツのラウラ・ボーデヴィッヒ少佐が対戦するようです」
「あの2人か…」
統合任務部隊はこの2人の間でトラブルが起きているという情報を把握していた。
ただのケンカなら介入しないが問題なのは二人がISの専用機持ちで、しかも一方は現役の軍人であること。その軍人は2週間前に他国の代表候補生を1対2の状況で相手を圧倒。さらに必要以上に痛めつけるという事件を起こしていた。
「軍人としてどうかと思うが」
「ただのケンカが戦争に成りかねません」
そうなれば自衛隊が盾になって被害の軽減に務めなければならない。しかも、不安要素はもう1つ存在した。
「司令、調査対象のシャルル・デュノアですが、やはり怪しいです」
2人目の男性IS操縦者として編入した生徒なのだが、当初から本当に男性なのか?と疑いがあった。
「学園は何を考えているんだ?彼らも把握しているだろう?」
「どうでしょう、何れにしてもこれ以上は調べようがありません」
IS学園には生徒を外部から守る為の規則がいくつも存在し、警察を含めた捜査・情報機関が手を出せない状態だった。
「はぁ、こういうことが重なると何れ重大な事態を……」
司令が愚痴をこぼした瞬間、司令部に緊急連絡が入った。
「司令!現場から緊急!生徒の搭乗したISが暴走!その他詳細不明!」
第一報に騒然となった。
「非常事態宣言!アリーナと連絡を繋げ!現場は生徒の脱出を最優先!」
「了解!」
「IS部隊にスクランブルをかけろ!急げ!」
「アリーナから連絡!暴走しているのはドイツのISです!VT…システム?を搭載していたのが原因だと言っています!」
(VTシステム?確か禁止された技術の筈…)
「分かった。IS部隊にその情報を通達!おい!生徒の避難はどうなっている!」
結局、IS部隊が到着した頃には事態は解決。織村一夏が見事にボーデヴィッヒ少佐を救出したことで自衛隊に大きな出番はなかった。それ自体は構わないのだが……
「どういうつもりだ!あのジャガイモ共は!!」
統合任務部隊の司令官を務める陸将の怒号が再び司令部に響き渡った。
「日本にあんなもの持ち込みやがって!!何が知りませんだ!ビールの飲み過ぎか!?」
ドイツ政府はVTシステムの関与を否定。調べようにも、肝心の研究施設は何者かに跡形もなく破壊されていた。
「B級映画に出てくるナチスか!!チクショウメ―!!」
周りにいた自衛官達は耳を塞ぎ、この国際問題を引き起こしかねない発言を聞かなかったことにした。
そして、彼らの受難はまだまだ続く。
尚、この時の司令官の叫びが日本政府に届いたのか、政府はドイツ政府とついでにフランス政府に厳重な抗議を行った。
ー同年7月ー
この日、IS学園の1年生は修学旅行で海沿いの旅館に宿泊する。その為、道中の移動は自衛隊と警察が共同でそうとは分からないように警護していた。
さらに、自衛隊は生徒達の宿泊する旅館の周囲に自走高射機関砲・地対空ミサイルを隠蔽した状態で配備。海上には海岸からはギリギリ見えない距離に護衛艦まで用意していた。
学園関係者は難色を示したが、統合任務部隊の司令官がごり押しして実現した。
「二度あることは三度ある。何としても子供達を守らねばならない。それが自衛隊だ」
二度に渡って何もできなかったことで統合任務部隊では苛立ちが募っていたのだ。しかし、この修学旅行でその苛立ちはピークを迎えることになる。
1日目は問題がなかった。ところが、2日目に篠ノ之博士が現れて、妹の篠ノ之箒に第4世代のISを譲渡したという情報が舞い込んだ。
(各国がようやく第3世代をテストしているのにか!?)
慌てて事実確認を行おうとした時に最悪の一報が届いた。
ハワイ沖で実験中のISが突如暴走し、こちらに向かっている。
司令官は何者かの作為を感じながら、迎撃の準備を命じた。しかし……
「手を出すな?どういうことですか!?」
暴走したISの接近という非常事態にもかかわらず上から何もするなという命令が下った。統合任務部隊のみならず、自衛隊の全部隊がである。
「では米軍が対処するということですか?」
ISはアメリカとイスラエルの共同開発されたものだ。それならと思ったが……
「米軍も動かない!?在日米軍もですか!?」
じゃあ誰が暴走したISを止めるというのか。
「IS学園の生徒?本気で言ってるんですか!?まだ子供なんですよ!!いくら専用機持ちだからといって!!……もしもし!!……クソ、切りやがった!」
たった6人の子供でこの最悪の事態を解決しろなどと正気の沙汰ではない。
(この不自然なタイミングの悪さと待機命令……あの兎の仕業か?)
まるで第4世代IS、そして篠ノ之箒のデビューを飾るような状況。もし、そうだとしても自衛隊には何もできない。
「あの兎がぁぁぁあ!!チクショウメ―!!」
司令官の怒号が響く中、その場にいた誰もが悔しさを滲ませた。
結局、暴走したISの無力化には成功した。1度目は織村一夏と篠ノ之箒の2名でトライするも失敗し、織村一夏が重症。2度目で重症を負った筈の織村一夏を含む全専用機持ちで対応にあたり、暴走したISの操縦者を含めた全員が帰還。関係者は胸を撫で下ろした。
IS学園教諭織村千冬は腐れ縁の幼馴染との会話を終え踵を返した。すると目の前に迷彩服を着た男が立っていた。
「おや、織村先生こんなところでどうしました?」
「涼みに来ただけです。そちらこそどうしたんですか?司令官殿」
織村千冬は怯ますに質問を返す。
「兎狩りの下見に来ました」
「兎狩り…ですか?フフ…その兎はかなり素早いですよ?」
「分かっています。ですが、やってみせますよ。それが日本の為になるなら」
(そして、子供達の未来の為に)
「そうですか。…では私はこれで」
「えぇ、お気をつけて」
この時千冬は思った。
(束、人というものを嘗めていると痛い目にあうぞ)
終