乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に妹が転生してしまっていた…… 作:リベンジ
前世という者を、信じる人と信じない人がいるだろう。
俺は前者である。理由はあの名作「火〇鳥」を読んでいるからだ。
そしてもう一つ。
俺には、前世の記憶がつい数ヶ月前に戻ったからである。
むかーしむかしに数作しか読んだ事ないが吐いて腐るほどあるなろう系小説のアレ、異世界転生とやらだ。
色々あって51歳享年となった俺は、めでたく異世界転生デビューを果たしていたのである。
今世の俺はそこそこの街の花火職人の家に生まれた。
なんで中世ヨーロッパ?的なこの世界に花火があるかなんぞ知らん。作り方も魔法とかを使うわけでもない日本式の作り方なのでおそらく他の転生者が伝えたのだろうか。
両親は街のムードメーカー兼変わり者で有名で一人っ子の俺もその影響を受けてテンションが高い子供として育った。
で、10歳の誕生日の翌日に自分で花火玉を作ってみようとして事故が発生し……爆発のショックで前世51年分の記憶が蘇った。
そのまま一日寝込んで、奇跡的に大きな怪我はなく俺は暫く火薬庫に入るのを禁じられただけですんだのだが…
(思い出さなくてもよかった、かな)
別に世界は危機に陥ってないしチート?能力もなく可愛い女の子との恋愛もない。
ただただ、平凡な毎日が過ぎていくだけ。
なまじ精神が若干とは言えおっさん臭くなったので同年代の子もまるで昔の息子を見てる気分になってしまう事がたまにある。
そうして暫くボケーっと生きてたある日。
俺は運命に導かれたのかもしれない。
その日は友達との約束も学校もなく暇なので街をぶらぶらしてたのだが…。
「あのー、すいませーん!この辺に何かお店とかありますかー!」
アホそうな声が路地に響いた。
「ちょっと姉さん!目立たないようにって言われたのに!」
「聞くぐらい大丈夫よ、そこの子ー!」
…周りには俺しかいない。うん、俺だな。
女の子の方はスカートなのも気にせずにぴょんぴょん飛び跳ねて手を俺に振ってるし弟くんはそんな姉のスカートをチラ見しながら顔色を赤と青に点滅させている。
…なんだあいつら、面白いな。
「よ、お嬢さんと弟さん。観光かい?」
「そうです!貴方はこの町の人ですか?」
「ああ、俺はカール・フェボアウストリア、君達は?」
「私はカタリナ・クラエス!よろしくね!」
「ちょ、姉さん!?」
「ほら、キースも」
「ああもう…キース・クラエスです…」
「よろしくな、カタリナと…キー坊。カールでいいぜ」
「キー坊!?」
「キースお坊ちゃんの略だよ、嫌ならおねーちゃんの背に隠れてないで前に出てこい、スカートなんか覗くなよ」
「なぁ~~~~!?」
俺は久々に少し笑った。
と言う訳で入り組んだ路地にある店を紹介した。
「ここのお魔きは美味いんだ、おまけに安い、しかも…二層構造で味もカスタムできる」
「それはすごいわ…!」
「かす、たむ?あ、味を組み合わせ出来るって事ですね」
「ほれ、お待ち!」
駄弁っていると店長が熱々のお魔きを3つ出してきた。
「わ~おやきみたい!この世界にもこんなお菓子があったのね!」
「‥‥‥ん?」
「あ、ああすいません、うちの姉は時々訳の分からない事を言うんです」
「そ、そう」
なんか引っかかるような物言いだったが…まあ考えてもメンドクサイや。
「んじゃ、次はとっておきのスポット教えてやんよ」
「わ~~~~!!!何この場所!遊園地みたい!」
「もう使われてないボロ屋敷でさ。ここの家主の趣味か知らんが家全体がいい具合にボロボロになったのもあってアトラクションにみたいになってんだよ」
ここは人の余り住んでいない森の区域。そこにポツンと立っているのがこのボロ屋敷だ。
カタリナ・クラエスは目をキラキラと輝かせ屋敷の奥へと走っていく、どうやらチョイスは正しかったようだ。
キー坊が慌てて後を追う所を見届けて俺はボロ柱に体を預けて空を見上げる。
『兄ちゃん、早くおいでよ!』
「…懐かしいなぁ」
本当に、久々に思い出した。
しばらく思い出に浸っていると、駆けてくる足音が床から響いた。
「カール!貴方は遊ばないの?」
「なーに、客が遊んでるのを見るだけでも楽しいもんだぜ、キー坊は?」
「あ、そういえば見失っちゃった!探しに行かないと!」
「おいおい、あいつも男だ。ほっといても大丈夫だろ」
「駄目よ!キースがこのままなら不良になっちゃう!」
「いやその理屈はどういう訳!?」
何を突飛な事を言い出すんだこいつ!?
「とにかく!私のかわいい弟を女の子に手あたり次第に手を出す不良にする訳にはいかないのよ!」
「はぁ…。…こんな言葉を知ってるか?」
「ん?」
「『かわいい子には旅をさせよ』。つまり、本当に愛してるんなら偶には放っておくのも成長には必要さ、いい男になるぜ?」
「!な、なるほど…それは一理あるわ!」
カタリナは心から改心したのかポケットからメモを取り出し書き出した。素直だな――…‥…。
気付けば笑いをこらえるのに必死だった。この感覚、何年ぶりだ?
「む、何笑ってるんですか?」
「いやごめんごめん。なんかお前見てると、思い出しちゃったんだ」
「誰を?」
「…ガキの頃、亡くなった妹をさ。お前みたいに美人じゃなかったが能天気なツラして食いしん坊で行動力だけは無駄にあったのはそっくりだ」
「あ、ご、ごめんなさい……」
「謝んなよ、お前は関係ないさ」
そ、もう40年近くも前の話。誰も、何も気にする必要はない。
もう少しフォローする言葉をかけようと横目でカタリナを見ると、カタリナも何か考える表情をしていた。
「…私も」
「ん?」
「私もカールを見て少し思い出したの、兄がいた事を…」
「…亡くなったのか?」
「いやいや、事情があってもう私には何をしてるか、どこにいるかも分かんないの。お別れも、言えなかったから……」
「…そういうこともあるよなあ、人って突然死ぬからな」
「ほんと、ビックリするぐらいあっさり死んじゃうわよね。だから、今度こそ私は死なないように頑張ってるの!」
「ふーん、具体的には?」
「えー、畑を耕したり、婚約者の苦手な蛇の模型を作ったり、剣技を磨いたり…みたいな?」
「最後以外何にも関係なくないか?」
「そんなことないわ!国外追放されても農業技術さえあればなんとか生きていけるもの!」
「死ぬって話じゃなかったか?」
「そうよ、スイカやキャベツは勿論最終的にはどうにか小麦の種を入手して…」
「お、おい…聞いてねえ」
ブツブツと言いながらカタリナは考え事を始めてしまった。
なんだこの人の話を全然聞かない感じ…マジでアイツと似てんな…‥生まれ変わりか?
いや…多分こいつは婚約者とか言ってたし多分身分の高いお嬢様。
「野猿と比べるとか失礼だろ…」
「野猿!?」
カタリナがその単語に高速で反応した。え?
「…どした」
「あ、いやいやなんでもない!」
………ん~~~?………カマかけてみるか?
「……お前さあ、日本って国聞いたことある?」
「!?!?!?」
カタリナがひっくり返った。物理的に。
え、おいおい、マジかよ……こんな身近に転生者仲間がいたってのか?しかも、そんな、俺の――――。
「おい、お前、まさか……」
「は、はい?」
ひっくり返っていたカタリナは状況を理解できないアホそうな顔で返事をする。
み、見覚えがあり過ぎる……!
「………間違ってたらすまん」
「え、やっ」
俺はカタリナ・クラエス嬢に対して。
思いっきり得意のプロレス技をかけた。
「ほあああああああああ!!!」
関節がきしむ音が聞こえる。
半端虐待かもだが許せ!
「はっ、こ、この技….…!」
「ばあちゃん家のキュウリをおやつ感覚で食べまくってた!」
「!」
「新作乙女ゲームを買うお金が足りず母親、兄、祖父母全員に泣きついて根負けさせて買わせた!」
「あ、あの時は大変だったなあ…ハッ!」
ビンゴ。
俺はカタリナを解放し、息が落ち着いたところで質問をした。
「おい、お前!前世の死因は!」
「!?!?え、えっと…坂道を自転車で駆け下りたら止まれずガードレールに激突して頭打って即死!だと思います!」
「そう!おかげで俺は試験も部活もすっぽかして病院に駆けつけたら、お前はもうとっくに冷たくなってたんだよ!馬鹿野郎がああああああ!!!」
「あ゛あ゛あ゛いだいいだいいだい!ごめんなさい!ごめんなさい…!」
「謝れ!お前のせいで!何人泣いたと思ってる!」
またひとしりきプロレス技を決めて、カタリナの顔色が変わってきたので解放してやった。
「…これで、はっきりしたな…」
「や、やっぱり…」
カタリナの顔が何もしてないのにまた変わってきた。
「久しぶりだな…○○」
「●●兄ちゃん!?」
32年前別れた妹と、遙か異世界で再会した。
その日の夜。
俺は貴族の家に忍び込む事になった。
ドロボーとかでは断じてない。
カタリナと約束したのだ。庭でこれからの話をすると。
深夜に閉まってる門をなんとか飛び越えて、コソコソと暗い道を歩く。
魔法で少し道を照らしながら歩いても暗すぎる。
こんな広い家とか聞いてねえよ…。
そう考えて歩いていると、ふと物音がした。
(まずっ、人か!)
すぐに光を消し、茂みに身を隠す。
そして、音の方を少し見ると。
「ギャーッ!?」
「何してんだ己は―――!」
カタリナの元に俺は走っていった。
「あ、ありがとう……暗いから畑の土の緩いところに足がはまって…」
「この前雨だったもんな……というか畑マジか…マジか……」
光で畑を照らしながらため息をつく。家庭菜園というには畑過ぎるし……。
「なあ、弟君は居ないだろうな?」
「うん、寝てるはずよ」
「……ほんとか?というかお前本物?」
「何よその言い草」
「お前が隠し事出来た事があったか。おまけにこんな夜迄起きてた事も起きれた事も兄としての記憶にはない」
「失礼ね!人は変わるわよ!」
「‥‥お互い外見も声も変わったから説得力あるなあ」
言い負かされてしまった。…歳は取るもんじゃない。
「ここが…乙女ゲームの世界!?んでお前が破滅するバカの悪役令嬢!?」
「しーっしー!声が大きいわよ!」
場所を月明かりが眩しく、本邸から離れた場所に移動し俺はこれまでのいきさつを聞いた。
記憶が戻り、攻略対象2人とライバルキャラその2と接触して今のところは仲良くやっていると……。
「しかし悪役令嬢…‥ぷっ…くっ、くっく……」
「あーっ、また笑った!?兄ちゃん!」
「だってお前が悪役とか死んでも無理だって。野猿が妖狸に化けろって言うぐらいの無茶だぜ、そんなの気にせず生きてればなんとかなるだろ〜〜〜?」
「そ、そうかもだけど……人生何が起こるか分かんないんだから!既にゲームとは微妙に変わってるせいで未来なんかぜーんぜんわかんないし!」
「そんなの皆そうだよ。未来は誰にもわかんないからいいんだろ。それにさ」
そう、俺は何をつまんなそうにしてたんだ。
若返って違う世界に来た、こんなの何だって出来るチャンスと考えるべきじゃないか。
こいつが運命を変えるってんなら、兄貴の俺はもっとデカい事をやる気概じゃないと!!
「本当に国外追放されたら、俺もついて行ってやるよ。兄貴だからな」
「……兄ちゃん」
「死んだお前とまた会えた。こんな奇跡は2度とない。だから、今後こそ老後まで一緒に生きるぞ」
このバカを、二度も死なせてたまるかよ!
「……うん!」
俺とカタリナは、硬い握手を交わした。
こうして、俺は破滅フラグに立ち向かう妹の唯一の協力者になった。
カール・フェボアウストリア(cv. 内田雄馬《幼少期cv・諸星すみれ》)
・前世では野猿の社会人の方の兄。妹の死後、平穏に生きていたが息子の結婚挨拶の焼肉パーティー帰りに息子の恋人を庇って亡くなってしまった。享年51歳。だが肉体が若いので精神年齢も下がってる。
カタリナと同じく相当な脳天気で(本人は常に冷静だと思っているがたまにしか冷静ではない)恋関係には鈍いが、知恵は回るタイプでカタリナの破滅を阻止すべく唯一の協力者として行動している。
前世では普通の仲良し兄妹だったが、一度死に別れたせいでカタリナに対して若干、いやかなりシスコン(自覚無し)。
野猿の死後、遺品(漫画等)をきっかけにオタク化していたのでオタク知識はそれなりにあるがFortune loverは畑違いのジャンルなので未プレイ。なので漫画がない今世はかなり億劫している。
まだ妻を愛してるので今世は恋愛はしないつもり。顔は悪くないがどうあがいても主要キャラには勝てないレベル(中の上)。
プロレス大好きマン。神は信じないが筋肉信仰家。成人したら親とは別の商売を始めようと思っている。