乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に妹が転生してしまっていた……   作:リベンジ

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尊敬しています。

ズガァァァァァァァァァァァァン!!!!!

オーブンが弾ける音が聞こえた。

おそるおそるオーブンの蓋を開けると、そこにあったのは……。かつてチョコレートケーキを目指していたナニかだった。ぐちゃぐちゃに型崩れし、焦げた匂いは食欲をそぐ。

とても食いたくない。本当に食いたくない。

「ごめんなさい……キャンベルさん…」

「そ、そんなかしこまらなくてもいいですよ。それにマリアでいいです」

「はい……マリア様……」

「様はいりませんよ!?」

 

「うう…不味い、まずいよお……」

エプロンを酷く汚し失敗作を泣きながら頬張るカタリナを見て、俺も泣きたくなった。

 

キャンベルさん、じゃない。マリアちゃんが気にしてないのに今度こそお菓子を作って食べさせます!と言ってきたのでだったら俺たちも作るのを手伝うよ!と言ったのだが……。

結果は食堂のキッチンスペースを半分近くとんでもない惨状に染め上げてしまった。

炭を錬成、オーブンの爆発&火柱、砂糖と塩の間違い、その他料理のカテゴリでのありとあらゆる失敗を重ねて俺とカタリナの心は俺折れかかっていた。まあ、失敗の8割は俺なんですけど……。

前世の記憶の片隅で母さんが倒れた時、旦那である俺が会社を早退して家事をやった時の記憶が蘇ってくる。

ああ、そうだ…あの日うちは……。

俺が儚き黒歴史を思い出して暗く肩を落としていると、マリアちゃんが声をかけて来た。

「あ、あのもうすぐ一限目ですし片付けして行きましょう!」

「そ、そうね!」

「………うん」

 

3人で廊下を歩いて教室に向かうも、俺の気分は晴れないままだ。それはカタリナも同じなようだ。

「うう……やっぱり家で料理の練習もしておくべきだったかしら………」

「俺もなんでも食えたことが仇となるなんて………」

「だからそんなに落ち込むことないですよ。私も最初は下手で練習してやっとここまで上手くなったんです。二人ならすぐ上手くなりますよ!」

「「マリアちゃん……」」

凄い優しい。名前の通り聖母かよ、ほんとありがとう。俺こんなに優しい女の子前世でも今世でも初めて会ったかもしれない。連れは厳しいときは厳しかった。

 

授業についても、俺は今日全く聞いていなかった。

図書室で借りて来たお菓子作りの本とにらめっこ

改めて実感したが、俺は手先が不器用なのである。

前世から折り紙の鶴なんて折れた事なかったしあやとりは手がグルグル巻きになる上チューインガムも膨らませられない、図工の成績は目も当てられなかった。

「ねえ、ちょっと」

カタリナが作っている蛇のおもちゃも作れなかったし、今作ってるジャイアント〇場カカシも全然似てない。魔力がしょぼいのもこういう不器用さが関係してるのだろうか。

「先生が来るからその本閉まって」

畑や財政管理は得意なのに、なんでこうなるんだろ………。

「なんでこうなるんだろ……」

「フェボストリア、先生もお前がなんで授業を聞かないのか知りたいな」

「あ」

もう遅かった。

 

「ちゃんと授業は聞かないとダメですよ?」

「…ソダネ」

クラスメイトで隣の席のデジデリア・トランプにたしらめられながら2階の廊下を歩く。

よく授業中にノートとか見せてくれるありがたい友達なのだが怒られた今日は言えないな………。

叱られるのが気まずくて二階から見える下の中庭を見ながら歩く。

するとそこには。

「あ」

マリアちゃんが居た。

一人で昼でも食べているのだろうか。朝お菓子作りと一緒に作っていたお弁当を。

 

と思ったら囲まれていた。

おお、意外と人気者なのかな。いい子だもんな。

「貴方、調子に乗ってるんじゃないわよ!」

「光の魔力を持っているからって特別扱いされて、それで仕方なく相手をさせられている生徒会の方々も本当にお気の毒だわ!」

あっ違う。これマズい奴。

「ここからじゃ見にくいな…あっ」

丁度横に木があるじゃん。

俺は2階の廊下から身を乗り出す。

「えっ何する気「しっ!」」

俺はデリアの口を人差し指で塞いだ。気づかれたらダメなの!

「ふ、ふぁい」

「よっ」

そして俺は手すりから木に飛び移った。

そして葉の影に隠れてマリアちゃんの姿が見えるように潜む。

「そうよ!どうせ、学力のテストだって魔力が特別だから贔屓されたに決まっているわ!」

むっ、そんな事はないぞ!それが通るなら俺だって!

 

そういう罵倒を聞いていたら、一人の令嬢が手を掲げた。すると掌から火の魔法が発動してマリアちゃんに近づいていく。

…え!?そんなエゲつない虐めある!?

止めないと!

「ちょっと、それはやり過ぎ……」

「いでよ、土ボコ!」

!?カタリナの声!?

その時、カタリナの土ボコによって火を出した令嬢さんのバランスが崩れ、木の方、こっちに倒れてきた!

瞬間、ドスンという音と共に俺は木の枝から足を踏み外した。

あ、やべ。落ち。

 

ボッ。

 

え。

 

「貴方達いったい何をして「あっ、熱あっつア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛――――――――!?ヴェ———!!」

髪があああああああああああああ!?火柱ァァァァァァァァァ!?!?

「きゃああああああ!?」

「カール様!?」

「カー兄!?」

「何故木から落ちて来たの!?」

「ワーッ木に火が燃え移ってる!」

木はいいよ俺の髪――――――――――ッ!

俺は中庭に通した畑に繋がる水路の川に一目散に飛び込んだ!

顔全体を水の中に沈め、ブンブンと首を振る。

「カール様!」

「カー兄!」

2人が来る、ああああああああ!!!

「ね、ねえ大丈夫!?禿げてない!?おれはげてない!?もう嫌だ禿げるのはいやだあああああああああああ!!!」

「お、落ち着いてくださいカール様!」

4、40代後半からの忍び寄る毛根老化の波が帰ってくる……!息子に笑われるのはもうやだ………。

「し、深呼吸よ深呼吸!すーはーすーはー」

「………お前がやってどうする」

………落ち着いたわ。

ど、どうやらさっきの魔法の火が俺と木に燃え移ったらしいな。髪燃えるの本当に怖い………。

俺が落ち着いたのを見ると、カタリナはゆっくりとその場でへたり込んでいた令嬢たちの方を見つめる。

「貴方達」

「ひっ、ひ……」

「………マリアちゃんだけでなくてカー兄にも、私の大切な人に何をしてるのよ!!!!!こんな事してたら……破滅するわよ!!!!!」

カタリナが、今までにないぐらい鋭い眼光で令嬢たちを睨みつけていた。

………前世から考えても、こいつがこんなに怒った所を見るのは初めてかもしれない。

令嬢さんたちはその恐怖にバタバタとバラけて逃げ出した。

……あっ。

その中にはシエナ・ネルソンさんもいた。

行かないと。会って、話をしないと!

そう思って立ち上がったら。

隣でマリアちゃんの頬から涙が流れてきた。

「お、おい!マリアちゃんまで泣かせてどーする!」

「え!?あ、あああごめんなさい!!!」

「い、いえ違うんです……この涙は……」

え、えっと女の子が泣いた時はどうすれば…ってあああ行っちゃう!

 

「カタリナ、マリアちゃんの事任せた!」

「ええ!?」

俺は急いでネルソンさんの後を追いかけた!

 

廊下は走るなと言われているが、女の子の為だ許してください!

俺はネルソンさんの後を追いかけ、徐々に距離を縮め。

「待った!」

追いついた俺はとっさにネルソンさんの右手首を掴んでいた。

 

「…………」

ネルソンさんは振り向いたものの、複雑な表情で固まっている。

「…………………あー、そのー」

言うべき言葉を必死に脳内でまとめ上げる。いけ、これを逃したらもうチャンスはないぞ!

「あの、この前のマフィンも…君だよね」

「…だったら何だって言うんですか」

「………話がしたいんだ」

俺は、ネルソンさんの瞳を見てはっきりとそう答えた。

軽く息を吸い、言葉を紡ぎ出す。

「さっき言ってたことについて。マリア・キャンベルさんは偶然光の魔力を持って生まれただけの平民で生徒会まで入るのはおかしい、テストもズルしたんだろ、みたいな事言ってたよね」

「ええ、そうですよ。なんですか?同じ平民、光の魔力同士で馴れ合い庇い合いですか?」

うーんキツい。若い女の子ほんっとわからない。おじさんだもの。

でも、これだけは分かる。

「ほんと?」

「…え」

「ほんとにそう思ってる?そうは見えないよ」

 

「ネルソンさんがイラついてるのは、マリアちゃんじゃなくて自分自身に見えたから」

 

俺がそう言うとネルソンさんは、顔をゆがめて下に俯く。

「………何、分かった気になってるんですか」

「………………………」

「貴方だって平民の癖に光の魔力で学園に入れて、生徒会でもないのに出入りして、贔屓の塊みたいな人に私の気持ちなんて分かるはずがないでしょう!!!努力しても、努力しても何にも実らない私の気持ちなんて!」

ネルソンさんは、いつしか目に涙をためながら叫んでいた。

 

「…そうかもね。マリアちゃんはともかく、俺は贔屓あるかも。でもさ、分からなくてもずっと見てたら分かる事もあるんだよ」

俺は確信に近い推測を告げた。

「魔力を高める勉強、ずっとしてるんでしょ?」

「!」

ネルソンさんが目を見開いて思わず手元の本を握りしめた。

その本の題名は【魔力濁流術】。

「ずっと見てたから。廊下で見た時も、図書館で勉強してた時もずっとそういう感じの魔力関係の本持ってたよね」

「……見て、たんですか……」

「ストーカーとかじゃないからね!見かけた時だけね!」

俺は言い訳をしながら、右手を見つめる。

そして、その手をネルソンさんの前にかざした。

「ハッ!」

俺は、光の魔力を発動させた。

 

‥‥特に何も起こらない。ただ手が蛍の光みたいにぼんやり光るだけ!

光魔法は本来もっとさまざなな応用ができるらしいのだが、俺はこれしか出来ない。

手を引っ込めながら、俺は噛み締めるように言葉を紡いだ。

「俺はほら、ね?こんなショボい事しか出来ないのに魔法学園に入っちゃったからさ、毎日勉強はつらいしついていけないし………でもさ、ネルソンさんは一人で努力してるのを見て凄いと思った」

これは本当だ。最初はスカウトの為に気にし始めたが、彼女の努力は数回見ただけでも分かった。

手にはペンだこやインクの後がわずかに残っているし、目の下にはメイクでも隠し切れないクマがある。多分、睡眠時間を削って勉強しているのだろう。

「それと同時に、同じように生徒会の仕事もしながら毎日勉強を欠かさなかったマリアちゃんの事も同じくらいすごいと思った」

マリアちゃんはカタリナに勉強を教えてる時もものすごい量のノートを使っていたし、生徒会の仕事もミスがないか何度も確認しているし何よりこんなに忙しいのに俺たちにお礼したいと言ってくれたその心が眩しかった。

俺みたいに、毎回毎回勉強にヒーヒー苦労してる奴とは違う。継続は力になるのだ。

「俺は俺が好きな人がね、俺のことを助けてくれたからここまでやってこれた。そんな奴でもなんとかやってこれてるんだからさ。ネルソンさんならもっとやれると思うんだよ!」

「……やれるって何、ですか………」

「何でもだよ!君の努力は報われるよ。じゃないとおかしいもん。それでも駄目なら俺がいる!」

「カール……様が?」

「だってこんなどーしようもない先輩だってこの学園で生きているんだからもっと胸張って生きようよ!上を見るのに疲れたら偶には下もいいもんさ!俺を見て自分は全然いけるって思うのさ!ね?」

「………私………」

「えっとね、とにかく」

 

「俺、ネルソンさんの事好きだから、元気出してほしい。後……マリアちゃんに、ちゃんと謝ってほしい」

「!」

ネルソンさんが顔を上げた。

その顔には、涙があった。

えっ、あれ、泣かせちゃった!?どうしよう!

「あの……」

「ん?」

「……手……」

「!ああごめ」

「いえ」

 

「もう少しだけ……握らせてください」

ネルソンさんは、そっと俺の掌を両手で握りしめていた。

……わかんない、この後どーすればいいの………。

 

「…また口説いてるよー、もー。もー。やっぱ告らないとわっかんないかなあ…」

 

翌日。

「キースごめんね~」とか言っているアホを連れて図書館に俺たちは赴いた。

「「「「ごめんなさい」」」」

「……いいですよ、もうこういう事をしないでいただければ」

令嬢さんたちがマリアちゃんに謝罪するためだ。

なんで図書館かと言うとここならそれほど目立たないというマリアちゃんの配慮と、図書館はマリアちゃんにとってもネルソンさんにとっても毎日通っていた重要な場所だからだ。

「キャンベルさん。私、貴方に嫉妬してたの」

他の令嬢がそそくさと出ていく中、最後にネルソンさんが前に出てぽつり、ぽつりと話す。

「この学校は実力主義なのにね。別に生徒会に入りたかったわけでもないのに。私、そんな事分かっているのに貴方を恨みかけてた自分に一番腹が立ってたの」

そうして、後ろ手に隠していた物をマリアちゃんの前に出した。

「これで、あの時の事も許してくれませんか?」

それは、マフィンだった。

勿論市販品だったけれど、マリアちゃんにならきっとそんな事は関係ない。

「………はいっ、ありがたく頂戴します、ネルソン様!」

マリアちゃんはにっこり笑ってそのマフィンを受け取った。

「私も、図書館でネルソン様が勉強しているの知ってました。凄いな、見習わないとなあって」

「……それは私のセリフよ、貴方って人は」

ネルソンさんの声色は、前と違ってとっても優しい音だった。

「クラエス様にも、その……」

「いいわよいいわよ反省してくれたなら。ね、私の事はカタリナでいいからシエナって呼んでいいかしら?」

いや距離感。

「よかった。まあカタリナは馬鹿だけど仲良くしてくれたらありがたいな」

「は、はい……」

ネルソンさんはしぼんだ声でそう返事してくれた。

 

「なんだかわかりませんが、皆さんが仲良くなったようで何よりです」

「おっシリウス。図書館に用か?」

そこに生徒会長、シリウスが通りがかる。

「ええ、少し図書係の人と一緒に点検を」

「よーし、全部片付いたことだし俺も手伝うよ」

そう言って俺が席を立とうとしたら、デリアが腕をつかんできた。

「何全部終わったみたいな感じ出してるんです?カール君は先週の定期筆記試験追試じゃないですか。2年生160名中155位。うち五人は欠席。文学以外全部赤点」

「…えへ」

「えへじゃないです」

 

そう、倶楽部の事、ネルソンさんやマリアちゃんの事にやっきになり過ぎていた俺は酷い成績を収めてしまったのだ。こんなことになるなんて…。

そして図書館で皆による指導の一週間の地獄を過ごしギリギリ夏休みの補習は免れたのだった。

 




アニメ、思ってた以上にアニオリが多くてプロットを練り直しています。

シエナ・ネルソンさんが活躍するスピンオフ作品【乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…破滅寸前編】は1巻が好評発売中!

デジデリア・トランプさん?こんな女の子原作に居ないよ!オリキャラだよ!
カール君が変な事を2年生内でやるとストッパーが居ないから生えてきたんだ……。
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