乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に妹が転生してしまっていた……   作:リベンジ

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昔の物を発見しました。

しんしんと、街中に雪が降り積っていく。

この世界にも、冬はあるようだ。しかも結構つもるタイプの。

 

自分の狭っ苦しい離れの部屋で高そうな紙にインクを走らせながら俺は今年一年、いや、死んだ妹との再会、王子をはじめとする貴族階級の新しい友達、後商売計画などを思い返していた。

一応しがない平民の俺が貴族社会に止むを得ず片足突っ込む事になったり、あまつさえ財政管理とか手伝ってみたり、国外に初めて出てみたりなんて前世や記憶を取り戻す前の自分では到底想定していなかっただろう。

ん、国の外の話って何か?それはまあ後でいいでしょ。

 

「……手紙なんて何十年ぶりだろ」

うちの実家が冬季はストーブの火薬販売で忙しいのと、貴族達も年末決済だの春に備えての住民管理だのと忙しいらしく毎年冬頃は会う回数を減らす事にした。なのでカタリナとの定期報告は手紙でする事になったのだ。

しかし、手紙の書き方というのはどうも分からない。メールとかLI○E世代なので数えるほどしか書いた事がないのだ。

とは言え、書くしかないので書く。それしかないなら何がなんでもやるのだ。

…他の皆の分も書くか。せっかくだし。

えーと、キー坊とジオジオ、アラ助…メアちゃんはどうしようか、でも弟子だし……。まあ書こう。

ニコルとソフィアちゃんは…昨日も遊びに行ったばかりだしいいか…。

俺はペンを走らせた。

カタリナ宛の手紙だけは日本語だ。結局体に染み付いているのか、まだ日本語の方が書きやすいんだよな…。

 

[カタリナ。冬だからってあったかい部屋にダラダラ篭ってないで畑の冬期管理も忘れるなよ。後ピアノは悪くないがバイオリンはアレは何だ。弦楽器はお前に向いてないから今後触れない事を勧める。それとさんにうちの火薬を大量に買い取ってくれた事をお礼しておいてくれ。後今度隣国に行く事になったら土産は食べ物で良いな?後まだ植えてない作物の苗が種があったらチェックしておく。それと本もチェックするし、最近のオススメは「花園のオラリオ」だ。主人公は馬鹿なんだが、その正直さで凝り固まった奴らを続々味方につけていく話でな…おっと続きは読んで確かめろ。

最後に。

 

死ぬんじゃねえぞ。絶対許さないから。カールより]

 

俺はその手紙を、そっと郵便社のポストに入れた。

 

その後も、俺は手紙を何通も書いた。

[カタリナへ。お前何俺に話通さずうちに高級鍋送りつけてるんだよ!!!うちの花火馬鹿の親父が食卓テーブルで食べるの面倒くさがって竈で煮て溶かしちまったじゃねえか!!!…誕生日のサプライズはありがたいけどほんと、これっきりにしてくれ…。

後お前前お菓子食べてる時ほっぺたちょっと気にしてたけどまさか虫歯じゃねーだろうな、歯医者さんこの世界にないんだぞ、歯磨け!]

 

他の皆にも。

[ジオジオ。お前の所の馬、乗ろうとしたら蹴り飛ばされそうになったんだけど今度乗れるようにしつけてくれない?]

[アラ助。今度顔隠して謎のさすらいの音楽家ごっこやらない?(〜〜以下略)]

[メアちゃんへ。まあ特に言う事ないけど毎日の筋トレは欠かさない方が良いよ。腕の二等筋のキレがね(〜〜〜以下略)]

とまあ、とりとめのない内容を書いた。

ちなみにニコルとソフィアちゃんにはあんまり書いてない。何故ならこの2人とは冬の間も大して変わらないペースで会っているから。

 

そしてある日の手紙のやり取りの事。

[カタリナへ、ソフィアちゃんから聞いたんだけどお前まだ『プリンセスアウェイクニング!』6巻返してないんだって?(〜〜以下略)]

[カー兄へ。ど、どうしよう………読みながら寝落ちしたら涎でページがベトベトになって拭こうとしたら破けちゃった…]

 

「いや新しいの買って返しなよ。俺にこんな手紙出す前にさあ」

「なんで来たの!?」

「こんな事伝えるだけに紙がもったいない。俺も一緒に謝りに行ってやるから」

俺は門の前で白い息を吐きながら、冬の割にガウンも羽織っていないカタリナにそう伝えた。

「そ、そうね…キースには内緒ね?またお母様に寝ながら本を読むなんて!って怒られちゃう…」

「後ろにいるけど」

「…全く姉さんは。ほら、風邪引くよ?」

「ヒィーッキース!お母様にチクるのだけはやめてええ!」

「しないから!」

 

という訳で早速馬車を出してもらって、雪道の中本屋で新品の本を買ってからアスカルト家に謝罪に向かった。本代はお小遣いから、お詫びの菓子折は今日のおやつでカタリナは目頭に涙を浮かべ悔しそうにそれを包装していた。あんまりにも哀れに見えたので硬貨を一枚だけ上げた。

ドラをノックするとモコモコの部屋着ドレスに身を包んだソフィアちゃんが出迎えてくれた。

「皆さん!遊びに来てくれたんですね!どうぞこちらへ!」

「い、いや違うの、その…本、ごめんなさい汚しちゃいました!!!」

カタリナは雪の地面に土下座を敢行した。

「わあああ馬鹿!新品が濡れるだろ!」

俺はカタリナの手から慌てて新品の本と菓子折を取り上げて、ソフィアちゃんに手渡した。

「カタリナ様!」

そしてソフィアちゃんは片手に本と菓子折を抱えてカタリナを無理矢理立たせた。たくましくなったなあ。

「ごめんねごめんね!借りてた本、涎でベトベトにしてしかもちょっと破けちゃって…」

「……いいえ」

なおも謝り続けるカタリナから、ソフィアちゃんはまだカタリナが抱えていた汚れた方の本を取って笑いかけた。

「いいんです、それならむしろ捗るというかラッキーというか永久保存になったと言うか!寧ろ新しい本も手に入ってハッピーです!」

「そ、そう?ならよかったわ。ソフィアは本当に優しいわね!」

「本当だよ」

「姉さんはもう少し頭使って生きようよ」

「2人揃って酷い!」

 

「…〜〜〜あったな〜、そんな事」

俺は古ぼけた箱の前に座り込んで1人で思い出し笑いしている。

久々に部屋の掃除をしていたら手紙を見つけ、なんとなく感情に浸っていたのだ。

「…っといけね、掃除続き続き」

俺は立ち上がって床の物を拾い始めた。

ある程度拾った所で、床にある物が落ちているのを見つけた。

箱からこぼれ落ちたのだろうか?

「………これ」

俺はそれを拾い上げて、また懐かしい記憶が蘇ってきた。

まあ、それはまたのちに語るとして。

「…行くか?」

 

[ソフィアside]

私は休日、カタリナ様と一緒かお兄様といつも一緒だ。

けれどお兄様は家の仕事、カタリナ様はメアリ様、ジオルド様達と一緒にパーティーに行ってしまったので今日は1人だ。

魅力的なカタリナ様と違って私には他の友達がさっぱりいない。やはりこの髪と瞳の色のせいだろうか、いや、それを言い訳にして踏み込む付き合いをしてこなかった自分自身の責任なんだろう。農業倶楽部に入らなかったのも勇気がなかったからだ。

今日も、カタリナ様の他の友達のパーティーだったから、私は何を話していいのか分からなくて結局欠席を選んだのだ。

寮に居ても退屈で、私は一人で外に出た。外と言っても学園の敷地内だけれど。

生茂る木々からも私は一人で歩く。

気がつけば自然と視線は下を向いていた。

 

本がないと不安で、誰かがいないと怯えて。

ずっと、ずっと昔から私は、一人だとこうなんだ。

 

ーーーそう言えば、うすぼんやりとした記憶だけど。

こんな時、とても嬉しい事があったような…。

 

気が付けば私は森の奥の、東塔の図書室まで無意識に足が向いていた。

普段は本校舎の図書館を皆使うのでこっちに来る事はあまりない。貸し出しもこちらはしてないので基本無人だ。

私はふらりと入って、本棚を見つめる。

ああ、この紙とインク、そして少しのホコリ臭さ。少しだけ気分が落ち着いた。

本を数冊選び、席について本を開く。

静寂だけが、私を取り巻いていた。

 

ある本を終盤まで読み進めたところで、ふと手が止まる。

主人公たちのカップルがようやく結ばれた横で、その二人の兄弟と友人である二人も良い仲になっているシーンだった。

……こうなったなら、みんな幸せなのに。

カタリナ様はお兄様と。メアリ様はアラン様と、そして私は―――――――――。

 

「ソフィアちゃん!」

私を、呼ぶ声が聞こえた。

この、声。

「いやー、寮に居ないからやっぱり図書室だと思った。こっちとは最初思わなくてあっちの図書館も行っちゃったけど」

「…カール様!今日は学園にいたのですか」

「いや、家に帰ってた。パーティーは猫被らないといけないしね…」

カール様は困ったように笑った。

カール様は平民階級の方なので、滅多にパーティーには出ないし出たとしても執事を装ったり常に敬語で話すので私は少々困惑するのだ。

カール様やカタリナ様には、壁なんて無しで話しかけて貰いたい。

「家から来たと言うことは…私に何か用なのですか?」

「ああ、これ」

カール様はポケットからある物を取り出した。

「!」

それは、指輪だった。

勿論高級品ではなく街のアクセサリーショップで売ってるような物だ。

紅い宝石が中心に刻まれており、リングの色も真っ白だった。

「昔あげようと思って買ったんだよね。それが渡し忘れててさ…今更だけど、貰ってくれない?」

カール様はそう言って、私にこの指輪を指し出してきた。

 

【………ありがとう。喜んで!】

 

「………ありがとうございます!喜んでお受け取りいたします」

私は、そっとその指輪を受け取った。

「いや、そんな真剣に受け取るもんじゃないよ?子供向けだし安物だし古いし」

「いいんです、気持ちが一番嬉しいんですから」

「そっか、あ、俺も本読もーっと」

そう言ってカール様は私の隣に座り、机の上においてあった本をとってニコニコ顔で読み始めた。

私も、そっと指輪をはめて隣で本の続きを読み始めた。

 

そして私。

あの時、一体誰を考えたのだろうか。

 




言う必要はないかもしれませんが新しい本買った時にアクセサリーショップでこっそり買ったのが指輪です。カール君は「いつも暇な時本読ませてもらってるしな」以外の意図は特にありませんでした。親戚のオジサンが可愛い幼児にプレゼント買ってあげるのは当然だよなぁ!?
まあ何年も忘れてて16歳の女の子に同じムーブするのは最悪おじさん仕草ですが……。

後オッさんってやたら多趣味な人多いイメージあるからカール君は本読むのも外で騒ぐのも祭りごとも好きです。

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