乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に妹が転生してしまっていた…… 作:リベンジ
俺の魔法学園2年目の一学期は、それはもう光の速さで過ぎ去っていった。
畑耕したり、
後輩を仲直りさせたり、
畑耕したり。
プロレスを一人寂しく脳内シュミレーションしたり、
畑耕したり。
休みの日は実家に戻って火薬製造でダイナマイトもどきを作ってみたり、
畑耕したり。
カボチャンとじゃれたり、
畑耕したり。
畑耕したり………。
畑、耕したりぃ……………。
「畑耕すしかしてねえ!!!!!」
夏休み初日の朝、俺は学園の畑に鍬を土に突き立て絶叫した。
「ど、どうしたの」
「どうもこうもねえよ!俺は農業は好きだが農民になる気はないの!来年はもう就職なんだから今年の夏は遊ぶんだよ―――――――ッ!!!!!」
「あんた去年も同じ事言ってなかった?」
「大事なことは何度も口に出すもんさ」
実家にいても暇だから、と学園の寮にまだいるデジデリアが呆れてそう言う。
ちなみに学園の畑の整備は夏休みは農協倶楽部の当番制になった。俺から順番の。
の、筈だが。
「それは一理ありますね、大事だと思ったなら何度でも行動をすべきだと私も思います」
何故かシエナもいる。いや何故。君の当番は明後日の筈。
「ところで2人はめちゃくちゃのんびりしてますが、手伝う、とかそういうのはないわけ?」
「私はさっきまで倉庫の方の掃除してましたよ、今は休憩です、ジュースはデジデリアさんから貰いました」
「あっそうなの、ごめんね。じゃあデジなんとかさんはマジでただの冷やかし?目の前でジュース飲むとかそういういじめ?」
「別にあんたの分もあるわよ、ほら」
そう言ってジュースを渡してきたので黙って受け取る。
「ん、ども。………お酒じゃないよね」
「当たり前でしょ」
いやね、畑なんか耕してるとね、やっぱ米のこと思い出すしお米のお水のことも思いだすんですよ。この国、というかこの世界に米なんかあるかわからんし。ああ~また飲んでみたい、だが品種改良とかでお米を生み出す学力は自慢じゃないが全くない。切ない。初めての居酒屋で飲んだ味が今でも思い出せる………。
「あの、カール様」
酒に思いをはせていると、シエナが話しかけてきた。
「畑作業が終わったら、私と付き合ってもらえませんか?」
「いいよー」
「!?!?!?!?」
デジタリアが口に入れたジュースを俺の作業服にぶちまけた。
その後、着替えて俺たちは街に繰り出した。
なんでもすっかり仲良くなったカタリナに何かプレゼントを挙げたいらしい。記念日でもなんでもない日にあげるからこそ印象に残るんです、という事だ。
あー分かる。俺もなんでもない日に疲れて帰ってきたときの子供の愛情の言葉が下手な誕生日より印象深い………。
という事で、露店を見ながら俺は横の浸りに話しかける。
「そういやこの3人で出かけるのは初めてだね」
「そ、そうね。というか、あんたと休日出かけるのも初めてかも………」
「えーほんと?」
「私はありますけどね」
「……倶楽部の話でしょう」
デジタリアもついてきたがカタリナの奴、こいつとも仲良かったんだな。流石というか。
でも、あいつが喜ぶものって食い物、農作業道具、小説の3択しかないよなあ。宝石とかアクセはよく分からないし。
そうして歩いていると、視線の先に見慣れたシルエット二つを見つけた。
…あれは。
「ちょっと見てくる」
「「え」」
俺はシルエットに向かって一目散に走りだした。
「おーい、ニコル、ソフィアちゃん。何してるん?」
巨大な馬車から荷物にチェックを付けている、シルエットの正体のニコルの肩を叩きながら俺は話しかけた。
「おはようカール。実はこれから魔法省と合同で行う美術館の海外展覧会での、今後の展示予定の作品を本館に運ぶと同時に点検を行うんだ」
「へー、宰相ってそんなこともやるのか?」
「魔法省は国と密接に繋がる機関だ。国の催事事と公共機関のイベントが被らないようにしないといけないからな、それに展示物には他国からの借り物もある。万が一傷がついたら洒落にならない」
「私もそれを聞いてお手伝いする事にしたのです、もう16歳ですし引きこもってばかりではいけませんから」
腕まくりしたソフィアが力こぶを見せるポーズをして誇らしげな表情を浮かべた。かわいい。
この二人は本当に美術館の一番の展示品が、命を持ってもっと輝きだしたみたいだ………あ、声に出てた」
俺が思わず感想を口に出すと、二人は急に下を向いていた。
「え、どした」
「………待ってくれ。ちょっと、不意打ちはいけない。いけないことだ」
「…………落ち着くのです、落ち着くのです。ニコカタ、ニコカー、エロ王子…………」
二人がブツブツ打つめいていると、後ろから二人が追い付いてきた。
「わっ、ニコル様!」
「ソフィアさんも。どうかしたのですの?」
驚く二人に、俺は二人が立ち直るまでに事の顛末を説明した。
「カタリナといい、俺の友はどうしてこんなにも………」
「お兄様。そこでガッといく強さを見せるんです。大丈夫、両手に花、いいと思います。たまに私と変わってくだされば」
「…………お前の言う事はたまによくわからない。でも、いいのか」
「?なんですか?」
「カールは、女生徒二人と歩いていた。俺は、お前を任せられる相手はカールしかいないと思っているんだが」
「……………私は、そんな贅沢は言いませんよ。それにカール様にもかなり大きな規模のファンクラブが有る事、お兄様だってご存知でしょう?本人は存じ上げないようですが」
「ああ。なんだか…………言いたくないんだ。隠している」
「…………私もです」
なんだか二人がこそこそ話し始めたので、俺はもう大丈夫かなと話しかけた。
「手伝うぜ、荷物運びくらいなら俺でも出来るでしょ?」
「あ、ああ。ありがとう……」
よし、許可はもらった……あ。
「ごめん、すぐ終わらせるから2人は買い物に行っていいよ「「手伝いますが?」」
即答した。
確かにそうだ、ここでニコル達をほおっておく二人じゃないよな。
「「………………」」
「え、ニコルもソフィアちゃんも何?」
「いや、野暮だ」
「……はぁ」
いや、だから何さ。
「もー、野暮って……」
俺が愚痴りながら石造を持ち上げたその時。
鼻の下についてた土が、鼻の穴に入った。
「ぶえっくしょい!!!!!」
その瞬間、崩れる音が周囲に響いた。
「あ」
地面に転がった石造の腕を見て、その場の全員が乾いた笑みを浮かべた。
俺の顔は多分それに加えて真っ青だったが。
後日。
俺はめったに着ず寮部屋の奥にしまいこんであった礼服を着て、とある場所を訪れていた。
魔法省。
魔法学園の隣地に存在する、この国の巨大な研究機関かつ国家公務員のようなモノだ。
柄にもなくビビる俺の手を、隣でニコルが握りしめながら相手を待つ。
やがて、ガチャリとドアが開く音がして、入ってきた。
………前髪を片側だけ伸ばしてむちむちの胸板を見せびらかす顔の良い変態が。
いや待て!!!変態呼ばわりは謝罪相手に対して失礼でしょうが!!!!人には事情があんだよ!!!!!!!
「やあ、私は魔法省職員ニックス・コーニッシュだ。ニコルの友達で美術品をうっかり壊した男というのは君かな?」
「はい、この度は誠に申し訳ございませんでした……………」
素早く頭を下げる。これが会社員時代に培った俺の現代知識(チート)の一つだ!
「はは、綺麗なお辞儀だね。まあかっこいい私に畏怖してしまうのは当然だが」
「いえそれは全然」
あ。ばっばっ馬鹿!本音が!
「ははは、君はまだ青臭いな。そのうち私のセンスが分かるようになる」
前世と合わせて60数年生きたが顔以外のセンスはなさそうに見える。
どう反応していいか分からない俺を見て、ニコルはすかさず話すのが苦手なのに口を開いてくれた。
「あの、彼は俺にとって必要で大切な人なんです。だから……」
「わかってるわかってる。次期宰相様の親友を無下に扱いなどしないよ。聞けば、君は第三、第四王子やその婚約者の令嬢達とも身分さを抜きにした友情を築き上げてるそうじゃないか。そんな君を断罪したら彼らに殺されてしまうよ」
ニコニコ笑いながらそんな事をコーニッシュさんは言う。よ、良かった。何かこのまま許されそうな気が…。
「ま、あの像約50億はするんだけどね」
「ア゛ッ゛!」
俺は魂の悲鳴を上げた。臓器、臓器を売られてしまう………。
「そこで、だ。借金を背負った君にリーズナブルに罪を償わせるいい方法があるんだけど」
指を立てながら、楽しそうにコーニッシュさんは一つ提案をした。
「魔法省で俺がバイト!?」
「ああ、夏休みから1週間事務や雑用等をな。光の魔力保持者かつ、うちに借りを作った君が引き受けない道理はないだろう?研究対象のサンプルとして協力してくれるなら許してくれるよう他国の担当に掛け合っておくさ」
「うっ………」
「それにだ。君のことを昨日調べたんだが実家に帰ってみるといい。早急にうちで働くべきだと思わされるからな」
「……はい?確かに2年生になってから忙しくて帰ってないですが………」
「いいから、ほら。その実家に行くよ」
「えっ、ついてくるんすか」
俺の疑問は無視され、外の馬車に向かってコーニッシュさんは歩き出していた。
数時間かけて到着したその時。
実家がもぬけの殻になっていた。
家具も人の痕跡もまるでない。
「なんじゃこりゃぁ!」
「まるっきり夜逃げ当然だね、これ置き手紙」
が差し出してきた手紙を俺は無言で受け取り開いた。
『やっほー。突然で申し訳ないんだけど私たち二人で異国で花火鍋屋開店することにしました!開店費用のために実家はあんたの部屋がある離れ以外売ったからよろしく!あと銀行から借金したけどそのうち返すから名義借りた!ついたら学園あてにまた手紙出すわね!』
「ギャオゥス!!!!!!!!!!!!!!」
俺は手紙を床に叩きつけた。
貴族と友達付き合いしても突然魔法学園に入っても一切何も言わないスチャラカな両親だとは思っていたが……!!!
「と言う訳で、夏休み中の生活費も稼がないといけなくなったね?」
「………ハイ」
こうして、俺は前世より社会的地位が上の国家公務員のような場所でバイトすることになった。
【ニコルSaid】
「ニコル君。君にだけ言うとあの像はレプリカだから魔法省の一週間分の給料ぐらいで割と簡単に作り直せるんだよね。他国も本物を持ち出すのは許可が下りなかったみたいでさ」
「え」
俺は、しおしおの顔したカールと別れた直後にそんなことを聞かされた。
「では、何故………」
「うちの上司がね、彼のこと面白がったから、かな?」
あの、サボってたんじゃないんです。リアルが忙しかったり原作小説を全巻購入してプロット調整したりしてたんです。
では夏休み、原作より1年半も早くあの場所もあのキャラも登場です。
(2023/1/24)一部追記。