乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に妹が転生してしまっていた…… 作:リベンジ
どうして、だれもわかってくれないんだ。
「お兄様、ごめんなさい。わたし……」
「いいんだ。外に慣れるのはもう少し先にしよう。使用人も勿論一緒だから危険はない」
「……はい。いってらっしゃいませ、お兄様」
ソフィアに見送られ、馬車を街に出す。
今日は妹、ソフィアの好きな本の発売日なのだ。
いつもならお得意の配達屋に本を届けてもらうのだが体調を崩してしまったらしい。
なので今日は休日で予定もなかった俺が町の本屋まで買いに行くことにしたのだ。
小さい頃に一度来ただけの城下町はすっかり記憶とは見違えていた。
何もかも見覚えがない景色ばかりで、地図と現実の風景が重ならない。
お付きの執事2人も思った以上の人の多さに困惑してるようだ。
「いらんかねー、火薬の種はいらんかねー」
「ここまで人が多いとは……本屋は確か南だったはずだが…」
「ああ、いこ…」
「そこのお金持ってそうなお三方さん!火薬種はいらんかね!」
いきなり火薬売りの少年が話しかけて来て驚いた。
背格好からして、俺と同い年ぐらいの子供だろう。この年で働いているのか……。凄いな。
「何だ小蔵。私達は用が……」
「用があるにしては数分ぐらいずっとここでウロチョロしてましたけど。道にでも迷いました?ここ人多いですもんね、ね?そこの少年」
「無礼者!この方を…」
「いや、構わない。……実はそうなんだ」
「……ガイド雇います?お代は火薬一個で」
少年は指でわっかを作った。
「はい、ここが本屋。この町始めて?」
「……ああ。ここまで一人で来たのは初めてだ」
彼の道案内は非常にスムーズですぐに本屋に到着した。
抜け道を手を取って案内してくれ、その朗らかな笑顔の前に緊張がどんどんほぐれていった。
「で、どんなタイトル?ここの本屋大きいから探すの面倒だよ?」
「確か「プリンス・プリンシパル」という…」
「お、じゃあコレだな!俺も買おうと思ってたんだ!」
彼は店の棚にそっと置いてあった「プリンス・プリンシパル」5巻を2冊取った。速い。手慣れている。
「ロマンス小説、君も読むのか?」
「ん?まあ小説なら雑食だから大体読むぜ、このシリーズいいよな!」
「いや、読むのは俺ではなく妹なんだ」
「へー、いいお兄ちゃんじゃない、俺みたいで。なんてね」
「君も妹が?」
「厳密には今は違うけどね、ま、馬鹿だけど慣れれば可愛いもんだよ、そっちは」
「‥‥…妹は」
「ニコル様、そろそろ屋敷に戻りますよ!」
執事が俺を呼んでいる。そうだ、そろそろ戻らなくては。
だが、何故だろう。同世代の人に会うのは久しぶりだからか。
俺はなんとなく、この少年ともっと話したいと思った。
「……あーこほん、のど湧いてないか」
「いや、別に「渇いてるよな、買ってくるから噴水の広場で待っててくれ」」
そう言って彼は飲み物の屋台へ行ってしまった。
………。
「すまない、もう少し彼と話がしたいんだ」
俺は噴水広場に向かって歩き出した。道は本屋の時にしっかり覚えこんだから大丈夫だ。
噴水広場で、俺たち2人は会話することになった。
「そう言えば、名前聞いてもいいか?」
「ニコル・アスカルト」
「俺はカール・フェボアウストリア。苗字は長いからカールでお願い」
「なら、俺もニコルでいい」
その会話を終えると、しばし静寂が訪れる。
冷たい飲み物のコップを持つ手が静かに震える。
何を話したらいいだろう。
パーティ会場などで幾度となく行った貴族同士の会話の切り出し方が全く役に立たない。
昔は何気ない事でも喋れていたのに、必要以上に話すのをやめてからすっかり日常会話のやり方を忘れてしまった。
せっかく誘われたのに、俺はなんてつまらない人間なんだ。
唇をかみしめ、自分を責めるような気分になっていると、彼、カール・フェボアウストリアが何気なしに話しかけて来た。
「しかし暗い顔してるなあ、俺と話すのそんなに嫌?」
「いや、俺は昔から表情が変わらないと……」
「は?そりゃちょっとわかりずらいけど本屋の時は少し嬉しそうだったじゃん、なのに今は急に暗い顔になった」
……わかるのか!
俺の表情の変化は、妹や両親ですらわかりづらいと評判なのに……。
「‥‥悩み事があるんだ、妹のことで」
「ん、話してみ」
肩に手を置かれ微笑まれた。
それから、俺はぽつりぽつりと話し出す。
可愛い妹の髪や瞳の色からの迫害、俺の感情の決めつけ。誰も分かってくれず、両親にも相談できない、と。
「……俺は、幸せだ。幸せなはずなのに」
「うそこけ」
「!?」
や、やはり、彼も、わかって‥‥…。
「だってお前全然笑ってないじゃん。だから幸せ~って言われてもほんとにそう~?ってなるんだよ」
真理を突かれたような音が俺の中で鳴った。
そうか、俺は……気持ちを顔に出さなかったから。いや…俺も、この状況を本当に幸せだと思っていたのか?
「大体さ、妹が辛い目にあってる、自分の言い分を信じてくれなくて凹んでるってのに何が幸せだよ、嘘つくんじゃありません」
淡々とそう続けられる。
「それは……」
「言う事信じてくれない奴らなんか気にしない方が良いぞ。お前がお前のことを自分でちゃんと幸せって思ってれば周りからも幸せに見えてくるからよ」
それだけ言うと、彼は立ち上がって火薬が入った箱を掴む。仕事に戻る、という事はこれで話も終わりだ。
「ま、お前は今日から幸せになるから大丈夫だよ」
「…え?」
「お前の辛い事情を理解した俺という友達がいる、不幸なんて言わせないよ?」
そう言って、彼は今日一番の笑顔で俺に笑いかけた。
「で、お前の家の場所ってどの辺?」
「…え、あ、ここから北に1,2キロだが……」
「なるほど、じゃあ3日後遊びに行くね、予定明けといて」
「…へ?」
俺がとぼけた声を出していると、彼は走ってここから去ってしまった。
3日後。
「よ」
彼は本当に来た。
一階の窓から話しかけて来た彼に、俺は窓を開けて家の中に招き入れる。
「……良く、うちの場所が」
「大体の場所さえ聞けば辺りはつくしね、後で知ったけど宰相の家系ならそりゃ聞けば分かるし」
「…門は、開けてないが」
「柵って子供でも登れるんだぜ、あ、両親とかいる?いるならお土産があるんだけど」
「今日は不在だ」
ソファーに座り、身分の差など気にせず普通に話しかけてきてくれる存在。
それが、なんだか無性にうれしかった。
「で、妹さんは?」
「ああ、ソフィアなら……」
書斎にいるはずだ、と答えようとすると。
「あ、あの……その、方は‥‥……」
ソファアが俺のそばまで来ていた。
話声を聴いて怖がりながらも挨拶をしないと、と近寄って来たらしい。
「ああ、彼は」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥は?」
「どうした?」
急に様子が変わったカールを心配し、手を伸ばそうとしたら胸ぐらを掴まれた。
「おま、おまーっ!めちゃくちゃ可愛いじゃねえか!!!ふざけんな、こんな可愛い妹に慕われてお前も顔が良くておまけに貴族、許されるのかよこんなことーッ!!!」
「な、何故怒る‥‥‥‥?」
俺は何か粗相を…?
「…ばー、っ分からないならいい、いずれ誰かが言うだろうしな」
そう言ってカールは怯えるソフィアに「初めましてソフィアちゃん。俺はニコルお兄様の友達、カールだよ」とソフィアに挨拶を始めた。
「いやいや、お兄ちゃんの事いじめたわけじゃないよ!怖がらないで!!!」
距離を取り続けるソフィアにカールはどうしていいかわからないと言う感じでオロオロしていた。
…女の子の扱いは苦手なんだな、君は。
「なあ、怖がられちゃったみたいなんだけどどうしよニコ…」
「…カール」
「俺は、嘘はついていなかった」
「……かもな、今いい笑顔だし」
ああ、俺は今笑っているのか。
「なあ、ところでお前も普通の冒険小説は読んでるんだろ?窓から見た書庫にあったし。『修羅戦記』の5巻は買ったか?」
「ああ、読んでるさ。まさかヴァンガがギンを――――」
「わあああネタバレやめろ!」
俺たち二人はそれから日が暮れるまで、ずーっと、ずっーと本の話をした。
[カールside]
本が好きで、可愛い妹がいる友達が増えてからから1、2か月後。
「なんでお前がいるの!?怖いわ!!」
「それはこっちのセリフなんだけど!?」
何故かカタリナがアスカルト家に遊びに来やがった。
こ、こいつ……人のプライベート空間にも来やがって!破滅フラグとかから解放されたい時だってあるのに!
「カタリナ様、カール様とお知り合いでしたの!?こんな素敵な偶然、あるんですね!」
ソフィアちゃんがカタリナに楽しそうに笑いかける。
こ、この…まだ俺は少し距離を取って話されるのにカタリナとはめちゃくちゃ楽しそうに……!おのれ妹よ!!
俺がカタリナを睨みつけていると、横からニコルがカタリナに挨拶をしていた。はー照れちゃってまあ!
と俺が拗ねていると、カタリナが俺とニコルを交互に見ながら似合わない考え事をして冷や汗をかいてるようだった。
そして、ちょいちょいと俺に来いと言うジェスチャーをする。
‥‥……うわー、聞きたくな~い。
「何だよ……え?アスカルト兄妹もメインキャラでニコルは攻略対象‥‥‥‥?そういうのは最初に言えよ!!!俺ジオジオとキー坊とメアちゃんの事しか聞かされてないんだが!!??!?アラ助も事後報告だったし!」
「いや~~~、その、うっかりというか、忙しかったというか、……この前初めてニコル様に会うまで忘れてた、(∀`*ゞ)テヘッ」
「キャラメルクラッチ―――――――!」
「あががががががががががががががががががががが!!!」
「姉さーん!」
2,3分キャラメルクラッチをかけ、カタリナを解放した。
え、大丈夫だよね?なんか破滅フラグうっかり踏んでねえよな???
困ってる少年を導いてあげようと言うオジサン心と本語りが出来る友達が欲しかっただけなのに!
や、やはり未成年に急に声かけるのは事案だったか………。
で、俺はカタリナから「ニコルルートにはカタリナは影も形もないから大丈夫よ!」と聞きひとまず胸をなでおろした。
カタリナとソフィアちゃんがお付きの人と一緒に書斎に入った後、俺は「事情は知らないが女性に手を挙げてはいけない」「そうそうニコル様もっと言ってやってください、まあ姉さんが8割悪いんですが」と紳士二人にくどくどと45分ほどはお説教をくらい足をしびれさせていた。
「うう、私は今日ほどうれしいことはないよ、ニコルもソフィアも沢山のお友達に囲まれて楽しそうにしてるなんて……」
「本当にそうですわね貴方…」
ニコルの両親が泣いて喜んでいるが、息子さんを止めてくれませんかね?
で、説教もさすがに終わって3人で語るタイムになる。が…。
「それでまた畑を拡張して……」
「蛇の贈り物のクオリティは素晴らしいものだな……」
…なんで
いや、ニコルが「カタリナ・クラエス嬢の事はいつもカールから聞いている」なんて言ったからだが……。
「それで姉さんがあーでこーで…」
しかしキー坊、お前の口から聞く言葉は8割方カタリナの事なんだが。お姉ちゃん以外興味ないのか?本読め本。
ニコルもニコルだ。お前の恋愛相手は主人公なんだぞ……。
そんな俺の内心虚しく、カタリナ語りは止まらない。
‥‥書斎行こ。
俺は席をそっと立ち、書斎の方へ向かう。
もし本トークをしているなら混ぜてもらおうと、到着してすぐドアを開けたら……。
そこには、前世でも見覚えがある光景が映っていた。
妹が、心から楽しそうに本のことで語り合う姿が……。
俺は誰にも気付かれないように、そっとドアを閉じた。
「…ま、オタク仲間が増えてよかったな」
その後、そろそろ日が落ちてきて帰る時間が近づき皆がリビングに集まっていた。
談笑が行われ、平和なひと時が流れている。
ああ、今日が終わらなければいいのに‥‥……。
「しかし綺麗な髪ですよね、触ってみてもいいですか?」
カタリナのこの一言で、一気に空気がお通夜みたいになった。
「カタリナァァァ!お前という奴はああああああああ!!」
「痛い痛い痛いコブラツイストいやああああああああ!!」
「大丈夫です!大丈夫ですからやめてあげてください!」
ソフィアちゃんに止められ、仕方なく技から解放すると俺は手短にソフィアちゃんの現状を説明した。
「なるほど、私の家も「あそこの子供は変わっている」なんて根も葉もない噂を耳にしたことがあるもの、貴族への妬みって怖いわね」
「鏡見れよ、根も葉もばっちしくっきりしてるわ」
怒ったカタリナと取っ組み合っていると、ソフィアちゃんがおずおずと聞いてくる。
「……カタリナ様は、私のこの見た目が怖く、気味が悪くないのですか?」
「「はい??」」
2人揃って変な声を出してしまった。
そ、そんなに思い詰めてたのか…‥‥シスコンのニコルの気にしすぎかと。
ちゃんと話したこと、あんまりなかったからな……俺も未熟だな。
「え、カール様も、気味悪いとは思ってないのですか……?」
「当たり前だよ!」
思わず叫んでしまう。そればかりは絶対に訂正しなくてはならない!
「な!カタリナ!」
「ええ!もちろんよ!」
俺たちは示し合わせて、ソフィアちゃんに言葉を投げかける。
「私はソフィア様の絹のような白い髪も、ルビーみたいなキラキラした赤い瞳もとても綺麗だと思いますよ」
「まったくそんな事気にしてたの?だったら俺も綺麗だって褒めてあげれば良かったよ」
「……ほんとう、ですか?」
「どうしてソフィアちゃんを傷つける嘘を俺がつくの、カタリナの言う通り俺が見た髪の中で一番綺麗だよ。瞳だって言葉に表せないぐらいだ。初めて見た時からずっとそう思ってた」
「そうよ、だから…‥よければでいいのですけど…」
俺とカタリナは顔を見合わせ、同時にこう言った。
「「お友達になってくれませんか?」」
ソフィアちゃんは、涙を眼頭に溜めながら頷いてくれた。
いやー、よかった。ソフィアちゃんときちんと仲良くなるきっかけを作ったカタリナに今回は感謝せねば。
恋愛する気はないとはいえ、ソフィアちゃんに嫌われると異常に胸が痛むんだよな……。かわいいもんな、うん。
そうやって一人で納得しているとカタリナとニコルが話してるのを見かけた。
「ご両親はあんなに素敵で、妹さんはあんなに可愛くてニコル様は本当に幸せ者ですわね!」
………マジか。
緑の手の時は本人の口から聞いてたけど、こいつほんとに何も考えてなくてもこういう事するのか……。
「ああ。俺は素晴らしい両親に恵まれ、優しく可愛い妹がいて、頼れる素敵な友がいて――――――とても、幸せなんです」
それを聞いたニコルは、俺も見たことないぐらい満面の笑顔でそう答えた。
‥‥…美!!!!!
やべ…そっちのケか女だったらハートを泥棒されそうな笑顔だった……。
あの野猿ですら、顔を赤くしている。おいおい攻略対象だぞ……。
カタリナがキースに呼ばれ馬車の方を駆けていくと、俺はニコルの隣に立ち、肩に手を置いた。
「ほら、いたろ?何も言わなくてもちゃんとわかってくれる奴。笑顔の成果だ」
「………ああ」
「あいつ、実はけっこう凄いんだ。……じゃあな」
俺はニコルに手を振って、カタリナとキースの元へ駆けていく。
「おーい、せっかくだし俺も近くまで乗っけてくれ~~」
「あわわ、キースまでニコル様の魔性に……えー、まったくしょうがないわね~」
「姉さん!カールさんを甘やかさない方がいいよ!」
「はいはい甘えんぼのキースちゃん」
「こんな時だけキースって呼ぶのやめてください!」
そんなこんなで、俺とカタリナの周りにまたゲームキャラが増えた。
その後、馬車の中で俺は寝てしまったらしい。
(カー兄とニコルが何故か仲良しになってるし、キースはニコルに魅了されちゃうしどうなっちゃうのよこれから……)
(またたぶらかしてるよ姉さん………ライバルが無限に増えていく……)
「かー………ぐー…………」
ニコルが訪れた町はクラエス家管轄の城下町ではなく大都です。(カールは販売でわざわざ歩いてきた)