ララのいない卒業式 届け、未来へつながるイマジネーション!   作:うさペン

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ララのいない卒業式 後編です。


ララのいない卒業式 後編

 ぼんやりと眺める空はやけに遠く感じる。小鳥達のさえずりも、やわらかな春の風もなにも教えてはくれない。

 桜並木を歩く景色は夢でみた時とは少し違っていて、まだ桜はつぼみのままだ。

 隣にララはいない。あのやさしい笑顔はそこにはない。

 それが現実で、その今をわたしは歩んでいっている。

 別にララと別れたこと、プリキュアになれなくなったことを後悔しているわけではない。

 あのときはあれが最善だと思っていて、いまもそれは変わらない。

 それでもすべてが理想通りにはいっていない現実がある。

 現実とはつねにその積み重ねだ。理想どおりいかないから理想を追い求めていく。

 でもわたしの理想の追い求め方はどこか他の人と違っている。

 歯がゆい現実に立ち向かっているわけではない、わたしは現実から逃げ出しているだけ。

 やさしい夢の中で生きようとしているだけだ。

「ララ」

 呼びかけても応えはかえってこない。遠い遠い宇宙にいるララにはこの声は届かない、それが現実だ。

 

「みんな~おはよ~!」

 うじうじした気持ちばかりでいるわけにもいかない。教室ではいつもどおりUMAが飛び出てきちゃうくらいな元気な声をだした。

「おはよ~ひかルン」

「みなみ、おはよ~」

「卒業式もひかルン、元気元気ルン」

「うん、元気元気」

 三年で同じクラスになったみなみともお別れか~

 

――三年生、始業式の教室にて

 

「ルンの娘と仲良い娘いたぁ! 同じクラスなの超嬉しいよ! 生徒会長に立候補してから知って、めちゃきになってんだよ。あ! わたしはみなみ、よろしくルン!」

「る、るん!?」

「めちゃかわいいよ~ね、これ。ルルル、ルン♪」

 この子が語尾にルンをつけて教室で話しかけられた時は驚いたなぁ。

 生徒会長の立候補したあたりから、かなりきになってはいたようだ。

 いろいろと目立つとこんなこともあるんだと思えたけど、この出会いはとてもいいものだった。みなみといると落ち込んでいる気分がぱっと明るくなる。前向きになれた。

 

 

「そういえば、ルンちゃんとは連絡とれたとれた」

「とっても忙しいみたいで、ここんとこ全然」

 ぐっと顔をみなみは近づけてきて、その勢いにおされてしまう。

 すごい仲良くなれたけどさすがにララが宇宙人ってことは秘密にしている。二年三組としての秘密であり、そもそもカッパード達と対面していなければとても信じられないことだ。

 なによりもここにララがいない。それなのに勝手に話すなんてことはしたくはなかった。

「そうなんだ。卒業式だからきちゃったルン! みたいな感じになればいいのにね」

「あはははは」

 核心をついてくるというか、感はみなみするどい方。なんだかんだいろいろときずいてそうではあるんだけど。

「あ、来たな金星おばけ」

「誰が金星おばけですか」

 姫ノ城さんが来ると、みなみはファイティングポーズをとった。この光景もずいぶんと見慣れたなぁ。あ、でもこの光景もこれからはみれなくなるのか。

「まったく、みなみさんはあいからわずですわね」

「ええ! そんなことないよ。卒業式バージョンのみなみは超スペシャルルン! このルンルンオーラ、みえる、みえるルンか!」

 両手の人差し指をこめかめにあてて、みなみはルンルンオーラをだしているかのようなポーズをとった。

「おほほほほ、その程度のオーラではこの観星中の金星には敵いませんわよ」

「えええい! だったら観星の銀河のオーラも借りちゃうよ!」

「ええ、わたしも」

 みなみとつきあっていて新しい発見といえば、姫ノ城さんはよく解らないノリにつきあってくることだ。そのおかげでわたしもつきあわされるんだけどね。

 キラキラ星でも降らせるかのように前につきだした両手をふるふるさせる。

「おまえら卒業式にもなってもあいからわづだなぁ」

「だね~」

 そんな様子をクラスの人達はいつもどおり楽しそうにみてくれていた。

 ララがいた二年三組も楽しかったけど、このクラスも楽しい思い出はいっぱいある。

 新しい友達も増えて、楽しくやってこれたのは事実だ。

 

「なにやってるルン」

 それなのにララの声が心の中で響いている。

 もしこの場所にララがいたらって思ってしまっていた。

 

「ど、どうしたひかルン! 真顔になちゃって」

 ああ、またこれだ。そうやって誰かに迷惑をかけそうになる。

「ううん。なんでもないよ。卒業したらこういうこともできなくなるのかなぁって」

 心とは違う言葉をいって、またとりつくろう。

「そんなことないんじゃない。頻繁にはできなくなるかもだけど、お互いそれほど遠い場所にいくわけでもないルン!」

 ぎゅっとみらいは手を握ってくれる。その手は少し震えている。ああ、みなみもさびしいとは思っているんだ。

「うん、そうだよね」

 ぎゅっと手を握りさびしさを和らげてあげる。

 こうやってララともできてたら……ああ、だめだめ、気持ちを切り替えるんだ。

「でもさ金星お化けは号泣してそう。彼氏彼氏って!」

「あなたはおちょくるんじゃありませんわよ」

「るるるルン♪」

 逃げるみなみを姫ノ城さんは追いかけていく。

 楽しい。本当に楽しかったなぁ。

「おまえら席座れよ」

 先生が教室に入ってくると、クラスの中に落ち着きができ段々と卒業式へと意識がきりかわっていく。

 そわそわしている人もいれば、妙に落ち着こうとしている人、いろいろだ。

 体育館で卒業式がとりおこなわれ、校長先生や来賓の方が話をされてから、卒業証書授与式がはじまった。

 一人一人卒業生は名前を呼ばれ、卒業証書を受けとっていく。

 えれな先輩とまどか先輩が卒業証書を受け取っていく姿をみていたときは自分のことのようには思えなかったけど、今こうして自分が卒業証書を受け取る立場になると景色が全然違ってみえる。卒業式は人生で一度きりで、だからこそ特別なものなんだと思える。

 特別な時間、特別な想い。それが緊張、感動、期待、笑顔を生み、たくさんの思い出が走馬灯のように駆け抜けていく。

 入学して一年生の頃は、まだ一人でずっとUMAを探しに自電車に乗ってあちこち周り、オリジナル星座をつくって楽しんでいたっけ。他人と関わることに消極的だったけど、一人だからこそ自分の考えがしっかりもてた。

 ああしたい、こうしたいって、自分から考えることができた。

 二年生になって、ララと出逢ってからはプリキュアと学校生活の両立で本当に目まぐるしく日々だった。

 宇宙にだっていけて、夢見ていたことが全部叶ったきになれた。

 でも宇宙は楽しい場所ってだけじゃない現実を、多種多様な考え方を知った。

 多くのことを知る中で自らが考え、仲間と時には協力することで道を切り開いてきた。

 三年生の頃は……なにかしないとって気持ちでずっとあるままで、自分なりにどうすればいいかずっと考えてきた。

 勉強も運動も上へ上へと目指すようになって褒められもした。

 積極的にいろいろな人と関わっていくことで、新しいことをたくさん知れた。

 したことのない遊びもしてみたりもした。

 時間のやりくりが大変だったけど、宇宙のこともより深く調べるようになった。

 宇宙飛行士のこともたくさんたくさん調べた。

 宇宙人を待つのでなく、宇宙人をみつけるためにどんなことすればいいのかたくさん調べた。

 そのたびにまだまだ知らない宇宙のことを知って、もっともっと知りたいって思えていた。

 ララがいないけど、わくわくは消えていなかった。

 それでも前に進んでいないと思えるのはどうしてだろう。

「星奈ひかる」

 今までのことを振り返っていると、わたしの番になっていた。

「はい!」

 席を立ち登壇していく。

 この一時を、この時間を大切にしたいと思えるからこその緊張。心がきらきらと輝いていくのとは違うな。ここまでこれた充実感、心に満ちたりたものが広がっていく。

「卒業証書、星奈ひかる、あなたが観星中学校の全課程を終了したことを証明する。卒業。おめでとう」

 卒業証書をうけとり、全校生徒達がいる方へと振り向いた。

 泣いている人、少したいくつそうにしている人、まっすぐとみつめている人。

 たくさんの表情がそこにはあり、それぞれにこの先の道を歩んでいくことになる。

 わたしの道もすでに決まっている。姫ノ城さんが言うとおりそれを歩んでいくことになる。

 それはけして嫌なことではない。

 新しいキラやば~☆なことに胸をときめかせていけるだろう。いつだってそうしてきたし、それは変わることはない。

 ふと涙している人が目に入り、そこにいないはずのララがみえた。

 ああ、今解った。わたしは思い出とお別れするのが嫌なんだ。

 ララをここに残していくのが嫌なんだ。

 

 

「うぉおおおおおお、ひかルン! ありがとね!」

 クラスに戻ってから最後のホームルームが終わると、みなみに泣き付かれた。

 卒業してしまうんだっていう実感が再び芽生え、じんわりと目に涙が広がっていく。

 みなみともたくさん思い出がある。プリキュアとしてたくさんのことを経験しあったわけではないけれど、この明るさには救われてばかりだった。

 クラスの雰囲気が良かったのも、あの日、あの時、あの瞬間を笑っていられたのも、みなみがいてくれたから。

「ありがとう、みなみ」

 心からのありがとうを伝えられることが嬉しい。嬉しいよ。

「あなた達は同じ高校ですから、そんなお別れって感じでもないでしょうに」

「そうかもだけさぁ、やっぱ中学としてはこれで終わりだもん。そう思ったらね……うぉおおおお、ひめルン! ありがとう!」

「ああもう、そんな泣くんじゃありません」

「ひめルンだって泣いてるよぉおおお」

 涙している姫ノ城さんも嬉しいって気持ちは同じなのかな。

 支えてきてくれたこと、ともに過ごした時間。たくさんの思い出をわたし達はつくってきた。

「ひかるちゃん元気でね」

「また一緒に遊ぼうな」

「みんな、みんなありがとう」

 三年生のみんなとのお別れはつらいけど、ありがとうを伝えあえるからこそ前と進んでいける。そこにいてくれるから、伝えあうことができるから、未来へ羽ばたいていけた。

 

 みなみとクラスメイト達と別れ、姫ノ城さんと一緒に廊下を歩く。

 まだ在校生が残っている廊下にはざわつきがある。

 たくさんのお別れの言葉、たくさんの笑顔。皆がそれぞれに別れを惜しみ、次の道へと歩んでいく。わたしだってそれはできている。

 みなみと三年生のみんなとそうやって前に進むことができた。

「なんか不思議だよね。卒業式が終わってこんなにも清々しいのに、まだやり残していることがあるなんて」

「そうですわね」

 それでもまだわたし達はここに残り、やるべき事がある。

 一年前に残してきた忘れ物をとりにく。そのお別れは同じようにはできない。

 時は過ぎ去り、思い出しか残っていない。交わすべき言葉も、ありがとうも伝えることはできやしないと解っている。

「みんな来てくれるのかな」

 不安が生まれ、さっきまでキラキラと輝いていた心は暗闇に染まっていく。

 暗い宇宙、どこへいってもなにもみえることがないのは、光すらも吸い込んでしまうブラックホールのようだ。吸い込まれ、引き込まれ、強くて暗い重力に縛られていく。

「だって今のみんなは別の居場所ができて、すでにそこから旅立っていた。わたしだってそうすることができたよ。でも、でもさ、今からしようとしてることは過去へと戻ることだ。前に歩んでいかないといかないのにさ」

 不安が後から後から湧いてでてくる。

 この日、この時しか、卒業式という日は存在しない。

 ララとの卒業式をしたいなんて、わたしだけのわがままだ。

 みんな巻き込まれて迷惑している。いつまでたってもララのことを引きずるわたしになにがあるっていうの。どうしてわたしはいつまでもこのままなの。

「わたしのわがままなんだ、ララとお別れしたいっていうのは。いないのに、なにがお別れなの? なんでわたしは、なんで……知りたい、知りたいよ、教えてよ」

 答えを知りたいのに知ることができない。いつまでも、どこまでも、見えなくて届かない星を追いかけているわたしは愚か者だ。

「あなたはララさんが来たあの頃から、ずっとララさんのことを気にかけていましたね。それこそキラキラと輝く大好きな星をずっと眺めているかのように」

 目を閉じて姫ノ城さんはあの頃のわたし達を思い出し、

「そんなあなたがわがままを言うのは当然ではなくて。そしてそれはわたくし達も同じです。なにが自分だけのわがままですか。わたくしはララさんとのお別れをしたくて望んでそれをしようとしています。だからあなたが不安になる必要なんてないんですよ」

 強く光る金星の光はわたしの中に広がるブラックホールすらも光で照らしはじめる。

 見えなくてもそこにある系外惑星のように、ララは見えない場所にいる。

 そんなララを感じていたい。ぬくもりを全部全部感じていたい。ララのことずっとずっとみていたい。消したくないんだ。だから不安ななんだ。

 そしてそれはララとか関わってきた人達の中にもある想いなんだ。

「わたし全然みえてないな。他の人達のことが全然。そっか、みんな同じなんだ。わたしだけじゃないんだ」

 自分だけじゃないと思えることでたった一つの小さな星は、巨大な星座へと変わっていく。

 星はつながり、そして想像することで、より大きな輝きとなる。

 ひとりじゃない、わたしは歩んでいこう、みんなといっしょに。

「おーし、元気だそぉ! お昼食べようよ。おにぎり作ってきたんだ」

「ええ、一緒に食べましょうか」

 まだ不安がすべて消えたわけじゃない。不安はずっと残り続けている。

 けれど不安ばかりが残っているわけじゃない。大きな光。星のように、星座のように、大きな光があるから前へ前と歩むことができた。

 

         *         *         *

 

 お昼を食べ、集合場所である二年三組の教室へと続く廊下を歩いていく。ここにも思い出がたくさん詰まっている。

 何度も何度も往復して、何度も何度もここを通ってきたっけ。

 ララとはじめて通った時はみんなに紹介できるのが楽しみでしょうがなかった。

 地球の学校に慣れずにAIに頼ってしまうララと休みの日に学校にいったりもしたな。

 それから段々とララも学校に慣れてきて、クラスメイト達とも交流が増えていった。

 地球人と同じようにあたり前に話し、当たり前に勉強し、当たり前に笑い合う。

 月日が進むにつれて、その当たり前は地層のように積み重なっていく。

 宇宙人で、常識や価値観は違うけど、みんなともつながり会えるってことに喜びを感じるようにもなった。

 日々の授業だけではない。

 中間テスト、体育祭、合唱コンクール、生徒会の選挙、たくさんのことをララと一緒にしてきた。その度に解らないことを知ろうとしたり、ときにはわたしのためにクラスのために頑張ろうとしている姿に、わたしも一緒になって頑張ろうと思えた。

 たくさんのララがみえる。ララといるわたしの姿も。

 きがつけば、教室の扉は目の前だった。

 扉に手をかけ、あの頃と同じように扉を開けた。

「おす、星奈。ま、当然星奈は来るに決まってるよな」

「ルンちゃんと一番仲良かったもんね」

 集合時間からまだ時間はかなり空いていたけど、クラスメイトの人が10人くらいはすでにいた。

 ララの卒業式、みんなララのために集まってくれたんだ。

「ちょ、まだ泣くの早いって」

「え!?」

 きがつけば涙を流している。ああ、わたしすごい安心してたんだ。みんながあの頃と同じようにいることに安心してたんだ。

「あの、すごい安心しちゃって」

「まさか、俺らが来ないとでも」

「えとね……もし一人だったらって考えたりもして」

「そんなことにならないよ。そんな心配するやつだっけ」

「ルンちゃんのことなるとすごい心配するよ、ひかるは」

「あ、そうだったそうだった」

「わたしってそんなに心配してたかな」

「してたしてた。言葉にはあんまださないけど、ずっと羽衣のこと見てたのバレバレだったぜ」

 そんなにわたしララのこと心配しているように見えてたんだ。

 自分では全然きずかなかったな。ララをみていることなんて当たり前すぎて、全然きずいてなかった。

「心配なさる必要なかったでしょ」

「うん、そうだね」

 そうか、わたしってララのことになると周りもみえなくなるし、心配しすぎちゃってたんだ。

 卒業式のなってようやくきずくことがあるなんて、思いもしてなかった。

「よぉ星奈、ひさしぶり。つうか結構みかけたら話しかけてるし、ひさしぶりってほどでもねぇか」

 背中を叩いてきたのはカルノリ。ひさしぶりって感じは確かにあまりしない。

 三年の廊下でよく会うし、その度にいろいろとそれぞれのクラスの話をしていたくらいだ。

「このクラスで会うのはひさしぶりだよ」

「ああ、そっかそっか。ララルンもいてくれたら良かったよなぁ」

「あなた、またそんな軽口きいて」

「え、俺なんかまずいこといったか」

 ああ、このノリ。カルノリだなぁ。軽率だけど芯をついてくる。思ったことがそれほど間違った方向に飛び火してはいないんだよね。

「言ってないよ。ララもいてくれたらって、わたしも思ってるから」

 後悔はしていない。だけどララと卒業したかった、ララと三年生も過ごせていたらっていうのもまた本心だ。

 いつもなら心の中のブラックホールが光すらも奪いにくるけど、今はなぜだか安心ができる。

 二年三組のみんながいて、ララのことを考えていてくれる。

 一人じゃない、星座のようなつながりがきっとわたしを輝かせてくれているんだ。

「ここがララの卒業式の会場でよろしいのでしょうか」

「え! まどかさん!」

 カルノリと話していたらまどかさんと

「ちゃお!」

「ぇえええええええ、えれなさん! 留学してたんじゃ」

 えれなさんが教室に入ってきた。いったいどうなってるの!

「一時的なサプライズ帰国ってやつだよ。ひかるとララ卒業式だからね、お祝いしたかったんだ。卒業おめでとう、ひかる」

「卒業おめでとうございます、ひかる」

 えれなさんとまどかさんのお祝いの言葉をもらい、去年二人をお祝いした時のことを思い出す。卒業していってしまうのは寂しかったけど、ララとユニがいないからってその分はりきって二人の新しい道と夢をただひたすらに応援していたな。

「去年かぁ~わたし達が卒業したの」

「もう懐かしく感じます。ひかるは今はどんな気持ちでいますか」

「どんなか……卒業して、三年生でいたクラスの娘達と別れて、さびしい気持ちはあったけど、みんなそれぞれに新しい道へ進んでいくとが嬉しいし、清々しい気持ちで一杯です」

「解ります。わたしも同じような想いでいました」

「わたしは少し違うかな。みんなと離れるのやっぱりさびしいなって、この笑顔とお別れするのが嫌だなぁて気持ちのほうが勝ってたようなきがするよ」

「そうだったのですか」

「表にこそださなかったけどね。やっぱりみんなの近くにいれないことって、わたしって苦手なんだって思う。今でもそれに慣れきったわけでもないし。けどさ、新しい場所にも笑顔があって、その日々も大事だから前に進めている。わたしはすべての笑顔大事にしたい、みんなの笑顔をみていたんだよ」

 えれなさんがこんな風に考えていたなんて思ってもいなかった。

 いの一番に留学を決めて、自分の夢に進んで、もっと気持ちに折り合いをつけているものかと思っていた。

 だけど心の中で自分の中で大事にしたいものと戦ってたんだ。

 笑顔の中に隠れているもの、それは誰にでもあるものなのかもしれない。もちろんわたしにだって。

「観星中の太陽でもそう思うものなんですね」

「あれ~わたしのことをなんだと思ってるの」

「明るくて、いつも元気で、観星中の太陽で」

「そうだけど、そうじゃない部分もあるんだぁ。もちろんみんなの前では笑顔でいたいんだけどね」

 笑顔で話すえれなさんは今でも観星中の太陽のままだ。

「キャー素敵」

「太陽だぁああああ」

 キャーキャーと後ろで女子達と男子達がわめている。これも変わらないな。

「姫ノ城さん、卒業おめでとうございます。生徒会長おつとめご苦労さまでした」

「ありがとう……ございます」

 まどかさんのお祝いの言葉を聞いて、姫ノ城さんは流れ出る涙を必死に抑えていた。

 姫ノ城さんにとってまどか先輩に祝われるってことは特別なことだ。

 生徒会長としてライバル心と憧れをいだき、まどかさんに負けないように自分を貫きこの学校をよくしようと努力してきた。

 三年生になってその努力をより近くでみるようになってきたから解る。

 まどか先輩の後を継ぐというプレッシャーにも負けず、姫ノ城桜子として誰からもしたわれるようになった。

「嬉しい、嬉しいよね姫ノ城さん」

「あなたがどうして泣いて」

「だって、近くでみてきたもん。まどか先輩に負けないくらいしたわれるようになるって。だから、だから」

 今まで支えてきてくれた姫ノ城さんの涙をハンカチで拭いて、生徒会長らしく凛々しい姿にしてあげる。姫ノ城さんはいつだってそうでなくちゃ。

「三年生、たくさんの思い出がつくれたのですね」

「「はい」」

 姫ノ城さんと共にうなずき、教室をみわたす。

 きがつけば、すでに教室にはたくさんの生徒が入ってきていた。

「あれ、もう全員いる?」

「みたいだよな」

「お~二年三組全員集合か!」

「みんなララと卒業したいもんね!」

 二年三組のみんなが全員来てくれている。

「みんな、みんな来てくれる。来てくれたんだ」

 嬉しくて、安心できて、一筋の涙が流星のように流れる。嬉しい、本当に嬉しいよ。

「不思議だよね、こうやってみんながこの場所に集まってるなんて」

「わたくし達部外者まで含めると、このようなことをしておられる卒業生はいないでしょうね」

「卒業式も、すでに終えていますものね」

「でもさ、こうなるのが不思議って感じばかりでもないって思うんだ。ひかるとララのつながりが生んだ必然、みたいなようにも感じるよ」

 えれなさんが言うように、これは必然なことのようにも感じる。

 こうあることがわたし達らしい、だからこうしている。そうありたいから、そう願うからここにいるんだ。

「へ~そんな風に感じてたりするもんだな。でさ、ララの卒業式って、結局なにやるんだっけ」

「あなた、それを知らないとは言わせませんわよ。みんなでララに送る卒業アルバムをつくると言っておいたではありませんか」

「あ~そうだったそうだった」

 まどかさん、姫ノ城さん、えれなさんの言葉に皆がうなずく中、カルノリだけはいつもどおりといった感じだ。こうしているのがカルノリらしいちゃ、カルノリらしいけど。

「まずはこの星型の髪にララに贈りたい言葉を書いてくださいな。書き終わった者から写真と星をこの台紙に貼りつけていってください」

 姫ノ城さんの指示のもと、アルバムづくりがはじまった。

「もうなに書くか決めてきた」

「決めてきたんだけど、卒業した後だからまたなんか変えたくなちゃって」

 すでに書くことを決めている人もいれば、それを変えようとしている人もいる。

 わたしもたくさんの事を考えてきたけど、伝えるべき言葉はあの時と変わらない。

 自分の力でララと会うって気持ちはなにも変わってはいなかった。

 続々とクラスメイトは星型の紙に伝えたいメッセージを書いていくと、それを台紙に貼り付け、自分で持ち寄った写真を貼っていく。

「星奈さんは最後にお願いしますわ」

 わたしも台紙に紙を貼ろうとしたら姫ノ城さんに釘をさされた。

「別にそんなきをつかわなくても」

「あなたあってこそこの卒業アルバムは完成する。そうするのが当然でなくて」

 姫ノ城さんは頑固だから、こうなると簡単には考えを曲げない。せっかくだしその気持ちは汲み取ってあげるべきかな。

 時間が空いてしまったの、他の人がどんな写真を貼っていくのか調査することにした。

「カルノリ、これは?」

「え、おれの新らしい宇宙ギャグだよ。解るか、星奈」

 ララの触覚を連想させたいのか、人差し指をピンと伸ばした両手を頭の上にのせていた。

「伝わらないと思うよ」

「嘘だろ、ビビット光線でてると思うんだけどな」

 カルノリから特別なことをなにかしようって感じはしない。自然体なのがカルノリらしいな

「姫ノ城さんはどの写真を選んだの」

「これですわ」

 姫ノ城さんの写真にはわたしとみなみが写っている。

「今までの友達も、新しい友だちも大切にしている姿をララさんには伝えたいと思いましたので」

 姫ノ城さんはわたしのことも考えてくれているんだ。自己主張が激しいときは多いけど、誰よりも他人のことを考えている姫ノ城さんらしいなぁ。

「へ~でもさ、姫ノ城といったらあれじゃね」

「あれだよな」

「なんですの、あれって」

「彼氏に決まってんじゃん」

「あ、それそれ。ルンちゃんにも伝えないとだよ」

「え、まじ! 姫ノ城、彼氏いんのかよ」

「カルノリ、おめぇ知らねぇのかよ。一年生のやつで頭もいいぜ。めちゃ熱苦しいってきくけど」

「あなた達、うるさい、うるさいですわよ!」

 あははっは、彼氏の話になるとやっぱにぎやかになるなぁ。やっぱり離れたっていっても前のクラスメイトのことは気にしているもんなんだ。

「えれなさんはどんな写真を選んだんですか」

「わたしは今のホームスティ先の家族と一緒に写っている写真かな。新しい家族、新しい場所、それがすごい新鮮で笑顔になれてるから」

「笑顔がたくさん、えれなさんらしいチョイスだと思います」

 たくさんの笑顔の中で太陽にように輝くえれなさん。環境は変わっても楽しく笑顔で頑張っている姿に自然とほころんでしまう。これを見るララもきっとそうなるんだろうな。

「まどかさんは? あれ、ロケット」

「今、宇宙工学の方に興味を持っておりますので、そのことを伝えてくて」

「そうだったんですか! キラやば~☆」

「へぇ、まどかが」

「わたしもララと会いたいですから」

「そっかぁ」

 まどかさんもあの頃から自分の進みたい道をはっきりと決まってきている。それがわたしと交わるような道になりそうなのはすごい嬉しいなぁ。

「ひかるはどんな写真にされましたか」

「勉強している姿を選びました。自分の力で会いに行くよってこと伝えたくて」

「気持ちは同じですね」

「はい」

 みんなの写真をみていくだけで、各々に伝えたい想いが伝わってくる。

 台紙にはられた星をみていくと、さらにそれを感じることができる。

『突然いなくなったのさびしいけど、ずっと友達だよ』

『いつでも戻ってこいよ、待ってるからな』

『全国大会優勝した、すげぇだろ』

 みんなへのララへの想いは星のようにキラキラと輝いている。

 このアルバムはそんな星を星座のようにつなげてくれる。みんなのトウィンクルイマジネーションをつないでくれいてた。

「トウィンクルブックって、みんなで作れるものだったんだ」

「わたし達の想いの重なり、想いがあればこそです」

「これをみてるララの笑顔、みてみたいなぁ」

「ええ、絶対にみてみたいです」

「うん」

 たくさんの想いの重なりがこころの中の宇宙を輝かせる。

 不安に思っていた気持ちはきえ、未来へと前を向けている。今ならララと向き合える。向き合いたい。

「アルバムも残すは星奈さんの星を貼るだけ。そろそろララさんの卒業授与式をはじめましょうか」

「つうてもどうやるの」

「星奈さんがそれを考えてくれています。できますわよね」

 姫ノ城さんから卒業証書をうけとり、うなずいてみせる。

 ララに卒業証書をとどける。そこにみえなくても、そこにいなくても、想いは届くと信じて。

「卒業証書授与」

 姫ノ城さんの声をきいて、皆がしずまりかえる。

 厳かな雰囲気は卒業式の時と変わらない。みんなが見守ってくれているのも。

 ララの名前が書かれた卒業証書を手に、ララの机の前と立った。

 そこにはララはいないけど、みんなのイマジネーションがララをそこにいさせてくれる。

 ララ、みえる。ララが。

「卒業証書、羽衣ララ。ララは宇宙人としてはじめてこの学校に通い、たくさんの経験をしてきたよね。そのどれもがはじめてで大変だったよね」

 「これはどんな意味ルン」「なんでこんなことをするルン」「これ、すごく楽しいルン」

 不思議そうな顔をしているララ。はじめてのことを楽しそうにするララ。それがララだった。

「それでもララはその経験の中でたくさんのものを得て、みんなにたくさんの笑顔を与えてくれたよ。支えるわたし達もララといられることが楽しくてしかたがなかったんだぁ」

 楽しくない日なんてなかった。ララと一緒にいられること、それはわたし達にとっての宝物だ。

「ララと過ごした時間は全部全部かけがえのないものだった。ララ、この学校に、この地球に来てくれてありがとう」

 ララと別れてからララのことを思わない日はなかった。ララといたいてずっと思ってた。

 だから言うよ。わたしはわたしだ。イマジネーションを輝かせ、ララに伝えるんだ、この言葉を、この想いを。

「ララ、卒業おめでとう」

 そこにはいない、心の中で輝くララのために卒業証書を机の上に置いた。

 涙が溢れ出てきて止まらない、涙で顔がぐしゃぐしゃだ。

 ああ、言えた。わたしようやくララと向き合えた。ちゃんと向き合えたんだ。

 すすり泣く声が聞こえる中で、涙をぬぐい深呼吸をする。

 まだ終わってない。まだ終わらせない。

「みんな、聞いて欲しいことがあるんだ。ララと別れた時のこと、プリキュアとして戦ったときのことをみんなに話したい。それがわたしのけじめ、みんなに対するわたしのけじめだから」

 ずっとずっと話せていなかった、ララと別れた日のことを話す。

 信じられないようなことを話す中で、誰一人わたしの話を疑う人はいない。誰もがその話を真実として受け止めてくれている。

「そっかぁ、大変だったんだね。今まで」

「ルンちゃん、ルンちゃん」

 真相を聞いて涙する人も多くいるけど、それは悲しいからじゃない。

 知れたから、なにがあって、どんな気持ちでいるのかを知れてからだ。

「わたしこそ、今まで話してこなくてごめんね。みんなもララのこと心配してくれてたのに」

「いいよ、星奈がつらいの解ってたし」

「つらいのに、それを聞き出そうなんてことできなかったよ。友達だもん」

 ずっとみんなにはもやもやとした気持ちのままでいさせてしまったけど、話せてよかった。

 暗闇の中に埋もれてしまった忘れ物を届けることで、清々しい気持ちになっていく。

 迷って、落ち込んで、泣いてばかりだったけど、わたしはその迷いや涙も意味があるものだったと今なら思える。そうか、わたし成長できたんだ。成長できてるんだ。

 ララに送る卒業アルバムに星を貼りつけて、ララに送る卒業アルバムを完成させていく。

『ララに会いたいって気持ちはあの頃から変わってないよ。

             ララに会う、会いに行くから』

 

 そう、あの頃と気持ちは変わっていない。変わっていなけどわたしは成長している。今はそう自信をもっていいきれる。たくさんの仲間達がいて、新しい可能性を発見できたから。

「わたしさ、宇宙人飛行士になってララに会いに行くよ。ララと約束したんだ」

 胸をはり、みんなにも宇宙飛行士になることを伝えた。

「星奈が宇宙飛行士。まじか~」

「わたし達応援するよ」

「絶対やれるって」

 ララと約束したからだけじゃない。みんなも応援してくれている。

 わたしはこの夢を夢で終わらせない。つなげるんだ、わたし自身の力でこの夢を。

 

「みんな今日はあつまってくれてありがとうございました」

 ララの卒業式が終わると、

「それじゃあな、星奈」

「ひかるちゃん、元気でね」

 手をふり、また一人また一人と、二年三組のみんなはそれぞれの道へと進んでいく。

 さびしい気持ちはあるけれど、清々しくその後ろ姿をみてられる。三年生と別れた時と同じ、みんなと別れることを祝えているからだ。

「二年三組、すごい素敵なクラスだったんだね」

「ええ、みなさんがララのことを思ってくださって嬉しかったです」

 きずけばもう夕暮れどき。茜色の木漏れ日が教室を包んでいた。

「えれなさん、まどかさん、今日は来てくださってありがとうございました」

「ありがとうを言うのはわたし達だよ」

「ええ、本当に素敵な卒業式でした」

 えれなさんとまどかさんはプリキュアとして戦い、今でも交流がある。

 時折話すことも多くてさびしさを感じないけど、この場所に来てくれたことには意味がある。

 わたし自身のけじめをみせれた。ララに言葉を送れたのだから。

「それじゃあ、まどかわたし達もいこうか」

「ええ」

 えれなさんとまどかさんもまたそれぞれの道へと進んでいく。

「姫ノ城さん、ありがとう。わたしのために色々準備とかしてくれて」

「わたくしは元生徒会長。生徒達望みを叶えるのが仕事。それにわたしがしたくてやったことです。あなたは堂々としていればよいのです。観星中の銀河なのですから」

 姫ノ城さんには感謝してもしきれないな。

 ずっと心配をかけて、悩みをたくさんぶつけてきた。

 もし姫ノ城さんがいなかったら、わたしはララと向き合えきれていなかったかもしれない。

「姫ノ城さん、これ」

「これは?」

「金星だよ。姫ノ城さんのために作ったんだ」

 手渡したのは「ありがとう」と書いた金星の缶バッチ。今までのわたしなりのお礼。わたしなりの感謝の気持ちを込めてつくった。

 遼じいにも手伝ってもらって、上手くできたと思う。

「大事にさせていただきます」

「うん」

 姫ノ城さんとは違う高校だ。それぞれの道を進んでいいくことになる。

 それでいい。それがいい。わたし達は道が違っているからお互いに輝けるんだ。

「三年のお別れ会に行く前に寄っていきたいとこあるから、少し校門の前で待ってて欲しい」

「わかりましたわ」

 理由は特に姫ノ城さんは聞いてこない。

 わたしがそうしたいのなら、そうさせてくれる。それは変わることはない。

 

 教室には一人きり。ララの机を見つめてからわたしも教室を出た。

 茜色に染まる廊下は、ララが宇宙人だと疑われた日のことを思い出す。

 辛くて、苦しくて、ずっといっしょにいたい、みんなにも解ってもらいたいって思ったあの日。それは辛い日でもあったけど、みんなにはじめてララが宇宙人だと話せた嬉しい日でもある。見方が変われば世界はどんなに風にも変わっていく、それがわたし達だった。

「懐かしいなぁ」

 図書館に入ると、あの日のわたし達がみえる。

 ぎゅっとララを抱きしめて、もう絶対に離したくないって思った。

 あの時はきずかなかったけど、あの時なんだ、わたしがララに友達以上の感情を抱いたのは。

 苦しくて、悲しくて、それでも大切にしたい想い。それはわたしの中で大きくなっている。

「ララもこうして窓の外をみつめてたなぁ」

 強く強く抱きしめた後、わたしはずっとララをみていた。

 ララだけをみたいって思っていたから。

 けれどあの時のララは、わたしではなく広がる夕空をみていた。

 あの頃はまだその理由が解らなかったけど、今のわたしなら解る。

 ララはあの頃から、もう考えていたんだ。この先もわたし達が側にいるためには、多くの人に理解してもらわないといけないということを。

 側にいる誰かではなく、その先の未来を切り開くことでしか得られないものがあるというのならわたしも誓おう。あの宇宙に、見えない星空達に。

「待っててね、また会いに行くから」

 夕空に言い放つ言葉は空に溶けて、星空へとまざっていく。

 系外惑星のように今はまだ見ることのできない、ララに届け、届け、届け。

 わたしの中で想いは膨らんでいき、会いたいという想いが膨らむたびにキラキラと心は輝いていく。わたしの中で生まれたそれは、もう誰にも止めることはできない。

 甘くて、切なくて、ララを想うたびに生まれでた感情をわたしはララに届ける。

「大好きだよ、ララ」

 




ここまで読んでいただきありがとうございました。

姫ノ城さんいてくれなきゃ詰んでいる部分が多すぎて、めちゃくちゃ助かった。
今回本編になかったものを描いてみたことで。新しい発見がたくさんあって書いてて楽しかったです。

今後もまだまだスタプリのネタは尽きてないので書いていく予定。
告知はツイッターの方でもしてます。
https://twitter.com/usapen3

同人誌で出す機会あったらいいなぁとかもちらりとは考えているので、そうなったときも告知もツイッターのほうでしていきます。(こっちは確定ではないけど)

またお読みいただける機会がありましたら、そのときはよろしくお願いします。
ではでは。

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