【疾走騎士】ゴブリンスレイヤーRTA ドヤ顔W盾チャート   作:もふもふ尻尾

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パート11 裏 前編 『ホァイ!』

 依頼人の痕跡を辿り、広野の遺跡へと到達した疾走騎士と魔術師。

 遺跡の入り口である大扉が元々開いていた事から、二人は依頼人はこの遺跡の中に居ると判断。足を踏み入れる事にした。

 

「うわ、屋根が崩れてるじゃない」

 

 大扉を潜ると、内部は広場になっているようだ。

 魔術師が辺りを見回すと、天井の屋根が崩れ、太陽の光が差し込んでいる事に気付く。

 その崩れた痕跡なのか、石畳で作られた足元には、瓦礫が散乱していた。

 

「……ねぇ、何してるのよ?」

 

 一体どうしたのだろうか、何やら疾走騎士が、広場の中央辺りをうろうろと歩き回っている。

 疾走騎士が地面を蹴る……が、しかし、なにもおこらなかった。

 少し歩いてまた地面を蹴る……しかし、なにもおこらなかった。

 彼がそれを繰り返していると、返事が無いことにムッとした魔術師が、疾走騎士へと詰め寄ろうとする。

 

「ちょっと聞いて──きゃっ!?」

「……!?」

 

 そこで魔術師が散乱した瓦礫の一つにつまづき、疾走騎士に向かって勢いよく転んでしまう。

 それを咄嗟に受け止めた疾走騎士は魔術師の全体重を支えきれず、バランスを崩し後ろへ倒れる。すると……。

 

「あ……」

「え……いやーっ!!」

 

 突然床が崩落を起こし、二人は暗闇の底へと落ちていった──。

 

───────────────

 

「もう、一体何が起きたのよ……」

 

 私達が落ちた先は薄暗く、上の広場と同じくらいの広さがある空間だった。

 それなりの高さを落下した筈なのにどこも痛くない事を不思議に思い、うつ伏せの状態から頭を振って起き上がりつつ、自分が落ちた地面を確認する。

 

「…………ふぁっ!?」

 

 すると目の前には大の字になっている疾走騎士が居た。

 彼の両肩に手を着いて起き上がろうとしていた為、まるで襲っているような体勢になってしまっている。

 

 ……あれ? この状態からコイツを見下ろすの、何だかゾクゾクする……?

 

「あの、退いて頂けますか?」

「え……あっ! ご、ごめん!」

 

 私は慌てて立ち上がり、その場から退く。

 いけないいけない、何を考えてるのよ私は! 疾走騎士に背を向けて、自分の頬をぺしぺしと叩いた。

 

「……下敷きにしちゃったけど大丈夫?」

 

「えぇ、まあ。何とか……」

 

 彼は答えを濁しながら一本の治癒の水薬(ヒールポーション)を取り出すと、それを一気に飲み干した。うぅ……やっぱり重かったのかしら。

 

「……結構な高さを落ちましたね」

 

 疾走騎士が立ち上がり、上を見上げると、天井に開いた穴から光が差し込んできていた。

 

「見て! 誰か倒れてる!」

 

 その光のお陰で私は近くに人が倒れている事に気付く。

 駆け寄って状態を確認してみると、意識は無いものの、どうやら息はある様子だった。負傷しているみたいだけど、すぐに手当てをすれば問題は無さそうね。

 黒いコートを身に纏っているが、鳥のマスクを被っている事から医師である事が伺える。

 

「もしかして、この人が依頼人? でも何でこんなボロボロに? この人も落ちてきたのかしら? ……あ、そうだ疾走騎士! この人に治癒の水薬(ヒールポーション)……を…………」

 

 疾走騎士に手当てを頼もうと振り返った瞬間、背筋が凍り付いた。

 彼の後ろ姿の向こうには、まるで巨人の如く巨大な悪魔(デーモン)が、手に持った斧を振り上げた状態でこちらを見下ろしていたのだ。

 その醜悪な形相を見ただけで死を連想してしまった私は恐怖で震えてしまい、体が動かなくなる。

 

遭遇(エンカウント)。彼女を連れて隅に隠れていて下さい」

 

 しかし、疾走騎士はいつもと何ら変わらない調子で私に指示を出すと、悪魔(デーモン)に向かって走り出した。 

 

「待って!! ダメぇ!!」

 

 そして悪魔(デーモン)が巨大な斧を疾走騎士目掛け振り下ろす。

 まともにくらえば床ごとその身を砕かれ、間違いなく死ぬであろう痛恨の一撃。

 疾走騎士にそんな結末を迎えて欲しくなくて、私は思わず叫んでいた。

 

「……ふっ!」

 

 しかし、疾走騎士は斧が眼前まで迫ってきたタイミング、まさに攻撃を受ける直前で右方向へ飛ぶように転がり回避した。轟音と共に敷き詰められた石畳が砕け散る。

 だがそれも束の間、悪魔(デーモン)が横凪ぎのスイングで疾走騎士を追撃。すると今度は盾を添えるようにして攻撃を流しつつ、体を反らし潜り抜けた。

 

「す、凄い……」

 

 私はそれを呆然と眺めていたが、そこでようやく疾走騎士が前に出た理由に気付く。

 もし先程の一撃が、恐怖で身が竦んでいた私に向けられていればどうなっていた? 間違いなく避ける事も防ぐ事も出来ずに呆気なくやられていただろう。

 だから疾走騎士は自分に目を向けさせるため、咄嗟に前へ出た。

 あんな恐ろしい相手に対しても、アイツはいつも通り自分が出来ることを為し続けているのだ。

 

「……っ! 何を立ち止まってるのよ私は!」

 

 怖くて震えてる場合じゃない。

 私は私にしか出来ないことをやらなきゃいけない。

 疾走騎士の指示通り、倒れている依頼人を戦いに巻き込まれない場所まで運ばなきゃいけない。

 ……しかし、そこで更に想定外の事態が発生する。

 突然悪魔(デーモン)が持っている斧を地面に突き立てると、斧の先端から爆発が発生したのだ。

 私は爆風によって膝をついてしまうがすぐに立ち上がった。

 

「な、何よ今のは……魔法? そうだ、疾走騎士は!?」

 

 離れていた私でも体勢を崩す程の衝撃を、接近していた疾走騎士は間近で受けたはず……彼は無事だろうか?

 巻き上げられた砂埃が晴れると、そこには盾を地に突き刺した状態で構える疾走騎士が居た。

 どうやら盾を杭にする事で、なんとか持ちこたえたようだ。

 

 彼は盾を引き抜くと即座に悪魔(デーモン)へ接近。腹部を盾の刃で斬りつけた。

 鮮血が散るも、悪魔(デーモン)は怯む様子すらなく疾走騎士に対し斧を突き立て、またもや爆発が起きる。

 それに対し疾走騎士は盾を構えながらバックステップで距離を取り、ダメージを最小限に抑え、再び接近し攻撃を仕掛けた。

 

「……全然大丈夫そうじゃないの」

 

 私は依頼人を一番離れた隅に寝かせ、戦いの様子を伺っていた。

 巨大な悪魔(デーモン)の攻撃を一つ一つ丁寧に捌き続ける疾走騎士の戦いぶりを見て、既に私の恐怖は完全に消えている。

 理想の立ち回りを演じて見せる事が仲間の精神的支柱にもなる、後衛を守るだけが盾役の仕事ではない、そういうことなのだろう。

 彼の優秀さが垣間見える。

 

 倒せるかもしれない。そう感じさせる程にあの巨大な悪魔(デーモン)相手に善戦している。

 とはいえ、もし一撃でもまともに受けてしまえば終わりなのだ。

 決して油断は出来ない状況である事に変わりはなかった。

 

 それに、疾走騎士の攻撃だけではあの巨体に対して致命の一撃を決めるのは難しいだろう。

 私の魔法を決められるタイミングを、アイツは見極めようとしているはずだ。

 

「きっとアイツから指示があるはず……ね」

 

 私は杖を握りしめ、いつでも魔法が撃てるよう神経を研ぎ澄ます。

 

 その後も悪魔(デーモン)は何度も爆発を繰り出し続けた。どうやら疾走騎士が近すぎる位置に居るせいらしい。

 手にしている武器が斧である以上、振り回しても刃の部分に当てにくいという欠点がある。あの巨体なら尚更だ。

 かといって、手や足で攻撃するにも悪魔(デーモン)自身の動きが鈍重過ぎる。

 結局は全方位を攻撃できる爆発で追い返すのが最善なのだろう。

 

 しかしその爆発が疾走騎士にとってはもはや驚異にはなっていない。

 悪魔(デーモン)の動作に合わせヒットアンドウェイを行い、爆発が発生する際にのみ距離を取り、ダメージをほぼゼロにしてやりすごした上で接近し攻撃を加える。

 それを繰り返し続けるだけの戦いになっていた。

 

「ほ、本当に指示があるのかしら?」

 

 既に多くの傷が刻まれた悪魔(デーモン)の足元には血溜まりが出来ている。

 もしかしてあのまま倒してしまうんじゃ? そんな事を考えていた時だった。

 

「と、飛んだ!?」

 

 悪魔(デーモン)はその巨体に対し、あまりにも不釣り合いな小さな翼を持っていた。

 もちろん普通に考えれば空を飛ぶ事など不可能であるように思える。

 しかしどういう訳か、目の前の悪魔(デーモン)は浮いているのだ。

 その小さな翼をパタパタと羽ばたかせて…………ちょっとかわいいとか思っちゃったじゃない。

 

「このままだと逃げられてしまいますね」

 

 あっ! 本当だ! 私達が落ちてきた穴から出ようとしてるじゃないの! こうしちゃいられないわ!

 

「《火矢(ファイアボルト)》で撃ち落とすのね!」

 

 私は意気揚々と立ち上がり、杖を構える。

 しかし呪文を唱えようとしたところで、疾走騎士が首を横に振った。

 

「いえ、自分に《突風(ブラストウィンド)》を使ってください」

「……へっ?」

「《突風(ブラストウィンド)》で、自分をあの悪魔(デーモン)まで吹き飛ばしてください」

「ええっ!? そんな無茶よ!」

「無茶じゃありません。これで二回目ですし、大丈夫ですよ。ヘーキヘーキ、ヘーキですから」

 

 うぐ……痛い所を突いてくるわね。確かに既に一回やらかしてるけども。

 でも確かに、あの図体に対して《火矢(ファイアボルト)》を当てても大したダメージにはならなさそうね。

 

「ほ、ホントにやって良いのね!?」

「はい、多分これが一番早いと思います」

 

 そんなやりとりをしている間にも、悪魔(デーモン)は地上へと向かっていく。あぁもう分かったわよ! やってやるわよ!

 

「《ウェントス()》……《クレスクント(成長)》……《オリエンス(発生)》!!」

 

 そして発動した《突風(ブラストウィンド)》により吹き飛ばされた疾走騎士は、ミサイルの如く悪魔(デーモン)へと一直線。そう、一直線に──。

 

「……あっ」

 

 盾を突き出した状態で真下から突っ込んだ結果、丁度悪魔(デーモン)のお尻に突き刺さる形になってしまった……。

 悪魔(デーモン)は大きな悲鳴を上げ、大きくバランスを崩すとそのまま下へと落ち始める。

 危うく下敷きにされそうだった疾走騎士は盾を手放して脱出したようだ。そして悪魔(デーモン)が地面に落下すると──。

 

「うわ……」

 

 お尻から地面に落ちたせいで、そこへ刺さった盾が更に深く突き刺さってしまったようだ。悪魔(デーモン)は苦悶に顔を歪め、前のめりに倒れると動かなくなった。

 

「し、死んだ?」

 

「いえ、まだです」

 

 落ちてきた疾走騎士は転がって受け身を取り、すぐに立ち上がると突き刺さった盾を回収しようと手を伸ばす。

 

 ……その光景はあまりにもひどいものだった。

 何がひどいかと言えば悪魔(デーモン)に刺さった盾を抜こうと疾走騎士は必死に引っ張っているのだが、その刺さった場所が問題だった。どうみても尻に手を突っ込んでいるようにしか見えない。

 いや実際そうなんだけれど……私は申し訳なくなって思わず謝罪の言葉を口にした。

 

「その、ごめんなさい。翼を狙えば良かったわね」

 

 さっき危うく疾走騎士が下敷きになりかけてたし、やっぱり咄嗟の判断力が私はまだまだだわ……。

 

「いえ、結果的に致命の一撃を与えられた訳ですから、お陰で助かりましたよ」

 

 その言葉は嬉しいのだけれども、悪魔(デーモン)のお尻に手を突っ込んだまま言われてもちょっと……ね。

 

「……ヌッ!」

 

 あ、やっと抜けたみたいね。

 疾走騎士が足早に逆側へ回り込むと、悪魔(デーモン)は口から泡を吹き気を失っていたが、頭を盾で一突きにされ、それがトドメとなった。

 

「終わりましたね」

「はぁ……今回ばっかりは本当に死ぬかと思ったわよ」

 

 体から力が抜けていき、私はその場にへたり込んでしまう。

 悪魔(デーモン)、しかもこんなでかい奴を倒せるなんて自分でもちょっと信じられないわ。

 

「それじゃあ依頼人も見付けた事ですし、パパパっと脱出しましょう。先程の《突風(ブラストウィンド)》の勢いなら、ここから上まで届きそうです」

「マトモな使い方しないわね……」

 

 どうやら彼にとって《突風(ブラストウィンド)》という魔法は、主に人を飛ばすために使う物らしい。違う、そうじゃないのよ。

 とはいえ今から他のルートを探索するのも危険だ。

 万が一コレと同じのがまだ居たりするかもしれない。

 彼の言う通り、これが一番早いのだろう。

 

「もし高度が足りない場合は飛んでから《聖壁(プロテクション)》で足場を作るので、そこからもう一度《突風(ブラストウィンド)》を使いましょう」

「何ソレ……ふざけてるの……?」

 

 彼は一体どこまで飛ぶつもりなのだろうか。

 その変態的な発想に今回ばかりはドン引きだった。

 




Q.《聖壁(プロテクション)》って敵対者の移動や攻撃を防ぐ奇跡なんですがあの……。

A.疾走騎士くん半ば混沌化してるしイケるイケる! 誰も彼も、自分自身すらも敵だと思い込ませましょう!(お目々ぐるぐる自己暗示)

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