【疾走騎士】ゴブリンスレイヤーRTA ドヤ顔W盾チャート 作:もふもふ尻尾
「だっりゃあ!」
正面から振り下ろした刃は頭蓋を割り、
その命ごと断ち斬った。
「ふぅ、これで五匹か……」
「大丈夫? 噛まれてない?」
彼等はギルドで勝ち取った依頼を受領した新米戦士と見習聖女だ。
二人は依頼内容である『
「なんとかな。それより血が口に入っちまった」
「もう……気を付けてよね。
「分かってるよ、兜……欲しいなあ」
「そんなお金ないけどね」
二人は白磁等級の冒険者である。
白磁が受けられる依頼は、それこそ今回受注した『
とはいえ、その簡単な依頼でも命を落とす冒険者は数多く、この下水道ですらたまに冒険者の遺体が転がっている。
依頼を達成させる為には入念な準備が必要だ。
しかしその準備には金が掛かる……装備品にしろ、水薬にしろ。
得られる報酬が少ない白磁の冒険者は、出費がかさんでしまえば依頼を達成したとしても赤字になってしまうのだ。
「金! 金! 金! 冒険者として恥ずかしくないのかよ!?」
「しょうがないでしょ! 実際厳しいんだから! それともあのヤバイ二人みたいに稼げるの!?」
「無茶言うなよ! アイツらは色々とおかしいんだって!」
見習聖女の言うヤバイ二人とは、もちろん疾走騎士と魔術師の事だ。
同時期に冒険者になったあの二人は異常とも言える功績を挙げ続け、遂には
「てっきりヤバイのはあの魔術師だけかと思ってたんだけどなあ……」
ギルドの酒場で、冒険者達があの二人を話題に挙げている事があった。
彼等の話によれば、魔術師の方は都にある賢者の学院を卒業してきた有望な人材なのだとか。
卒業した魔術師は大成間違いなしと言われている学院の卒業生……確かに彼女は他の新米冒険者とは一線を画していた。
今日の依頼争奪戦、張り出された依頼を凄まじい勢いで剥がしていく彼女の姿はどう見ても分裂している様にしか見えなかった。
或いは本当に分身の魔法を使用していたのでは無いかとも言われていたが、実際多くの冒険者が惑わされていたのだ。
ただ者ではないと言わざるを得ない。
お陰でこちらも依頼を確保するのに全力だった。
「あの騎士の人、あんまり良い噂聞かないものね」
それに反し、魔術師と一党を組んでいる騎士、彼の評価は冒険者達の間では正直言ってあまり良くない。
まず盾を両手に持っている事で、守る事しか出来ないのではないかと誤解している者が多かった。
その為、今までの功績も魔術師の活躍による物だと考えられていたのだ。
女に寄生して昇級した臆病者の騎士、それが冒険者達の間で話に出される疾走騎士だった。
「でもこれを見ると……なあ」
辺りを見渡す新米戦士。
周囲には先程倒した巨大鼠の他に、既に絶命している鼠の死体が無数に転がっていた。
頭を叩き潰されていたり、胴体を貫かれていたり……その鼠達は全て討伐の証明となる耳を切り落とされ、自分達と同じ冒険者によって倒された物なのだと分かる。
「確か彼、一人だったわよね?」
「あぁ、ギルドであの魔術師と別れて、この下水道に入ってくの見てただろ?」
「そうだけど……」
そんな中、特に目を引いたのは他の巨大鼠の数倍はあろうかという異常な大きさの鼠だった。
巨大鼠の中には突然変異で更に巨大化する個体が居るという話は受付嬢から聞いていたが、実際目にするとこれはもはや鼠とは言えないのではないか、という感想を抱かずにはいられない。
「頭が真っ二つになってる。ハッキリ分かるよな」
「うえぇ……どうやったのよこれ……」
そんな怪物鼠は、鼻から上の部分が完全にパックリと左右に開かれていた。
恐らく頭に何かを突き刺したまま、引き裂いたのだろう。
普通に剣を振り下ろしたのならこうはならない筈だ。
「ここに来るまで見付けた鼠も、殆ど倒されてたよな。お陰で楽だったけど……」
新米戦士と見習聖女が今まで倒した五匹の巨大鼠は全て、慌てた様子で何かから逃げるように向かってきた一匹一匹を処理したに過ぎない。
そしてその先には必ず無数の巨大鼠の死骸が散乱していたのだ。
これらを全てあの騎士がやったのだとすれば、酒場での評判とは完全に異なっていると言わざるを得ない。
「とりあえず進みましょ? このまま立ち止まってても意味がないわ」
「そうだな……ん?」
「ど、どうしたの?」
「いや、何か向こう……明るくないか?」
新米戦士が指差した通路の奥、左に続く曲がり角の向こう側から、光が差し込んでいるのが見える。
「本当ね。あの騎士じゃない?」
「だと思うけど……どうする?」
「どうするって?」
「いや、何て言うか……ちょっと覗いてみるのも良いんじゃないかって」
「あぁ、確かに。楽な戦い方とかあるかもしれないものね」
そうして彼等は灯りの方へ向かう事で合意した。
一応奇襲を受けないよう、周囲を警戒しながら歩を進める二人。
すると曲がり角に近付いたところで、微かに人の声が聞こえた。
「……す」
「ん? 今何か言ったか?」
「いやなんにも?」
「……ぶす」
「ちょっと! 誰がブスよ!」
「痛っ! お、俺じゃねえよ!!」
「……つぶす」
「あ、本当ね」
「おい……」
声はどうやら自分達が進んでいる道の奥から聞こえて来ているようだ。
徐々に大きくなっていく声と足音、そして灯り。
その主が、二人の居る曲がり角へ近付いてきているのだと分かる。
「ね、ねえ? やっぱり引き返さない?」
「う……確かに」
しかし、その判断は既に手遅れだった。
角の向こうから一人の騎士と、
「潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す」
「「ぎゃああああああ!!」」
両手に盾を携えた騎士は、まるで何かに取り憑かれたようにその言葉を繰り返す。
彼の兜の隙間から覗く眼光には、殺意だけが感じられた。
そしてその後方から彼を追うように迫るのは、黒く光るおぞましい姿をした蟲の群れ。
もはや黒い波と化した巨大蟲達は、飛び出してきた来た勢いのまま、反対にある曲がり角の外側へぶつかる──かと思いきや、壁を這い上がりながら方向転換。尚もこちらへと向かってくる様子だ。
二人は考える間もなく恐怖に駆られ、叫び声を上げながら逃げ出した。
「何あれ何あれ何あれ何なのよアレ!」
「怖っ! どっちも怖っ!」
そんな二人を意に介さず、疾走騎士は足を止め、巨大蟲の群れの方へと振り返る。
自身の盾に通路を塞げる大きさの《
そして遂には全ての巨大蟲を曲がり角に閉じ込める事に成功。
透明な壁に阻まれ、隙間無く詰め込まれた巨大蟲達に対し、疾走騎士は火を灯した松明を挿し入れる。
下水道に巣食う怪物達は総じてよく燃えるのだ。
巨大蟲は瞬く間に炎に包まれ、周囲を赤く照らす。
「やっぱりヤバイ奴じゃん……」
「今後はなるべく近付かないようにしましょ……」
燃え盛る巨大蟲の炎と、それに向かい合う疾走騎士の背中をこっそりと遠くから覗いていた新米戦士と見習聖女。
一連の流れを見ていた二人にとって、疾走騎士への認識は『あのヤバイ一党の本当にヤバイ方』へと改められるのだった。
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冒険者ギルドの酒場、女神官と向かい合って座る私は、表紙に『THE WORLD MONSTER DICTIONARY』と書かれている本を読んでいた。
この本には、怪物達がどのような危険性を持っているかが詳細に書かれている。
私が欲している知識、怪物と実際に遭遇した場合の対処法を学ぶためには丁度良い資料だ。
ページを一つ一つめくりながら、書かれた情報を読み取っていく。
「
今開いているページに記載されているのは『
強靭な顎と分厚い甲殻が特徴で、その巨体による突撃を受ければ、普通の冒険者なら一溜まりも無いらしい。
小細工も何もない戦法……それは、私と一党を組むあの男を彷彿とさせる。
しかし、弱点が無い訳ではないのだ。
「……正面から行くは愚の骨頂ね。
外殻は硬いけど隙間は柔らかいみたいだし、そこを狙うのも悪くない。
とはいえ、私達二人だけでは到底不可能。
あの鋼鉄等級の一党に助力を乞う必要があるかしら。
「弱点は前頭部にある『目』。過去、大規模な討伐隊が結成された際には目を一突きにして退治された……か」
でも正面に立つのが危険なのは最初に書かれていたし、狙うとしてもまず足を止めないといけないでしょうね……。
良し、大体分かったわ。つまり、あの突撃をうまくいなせる人間に囮になってもらっておいて、あとは隙を突いて、暴れたり、逃げられたりしないよう、背後から複数人で羽交い締めにさせてから、私が正面から押し倒す!
多分、これが一番早いわね! …………って、あ、あれ?
「……ねえ、ちょっと休憩にしない?」
「そうですね、もうずっとこうしていますし」
いつの間にか対処法を想定する相手が入れ替わっていた。
きっと疲れているのだ。こういう時は暖かいものを飲んで一息つくに限る。
女給を呼んで注文をすると、少ししてからカップに淹れられたホットミルクが届いた。
カップを手に、暫し香りを堪能した後、口を付ける。
女神官はそんな私を険しい表情で見つめてきている。一体どうしたのだろうか?
「その……本当にミルクがお好きなんですね」
「ええ。それに、ここのは特に美味しいのよ」
やはりあの牧場から毎朝届けられているだけあって、鮮度が違うのだろう。
すると彼女は苦い顔をしながらコーヒーを飲んでいた。さっき砂糖を入れていたと思うのだけれど……甘党なのかしら?
それにしても……うーん、やはり『目』というキーワードでアイツを連想してしまったのが良くなかったわね。
そもそも何で私がアイツを押し倒してるのよ。
取り押さえるのなら同じ前衛で力もある自由騎士の方が良いじゃないの。
それじゃあ私がまるで……その……そういう事を欲してるみたいな……。
「あの、どうかしましたか? 顔、真っ赤ですけど」
「……ホットミルクが思ったより熱かったのよ」
「はあ……」
この話はやめましょう。ハイ! やめやめ。
私は思考をリセットするべくホットミルクを飲み干すと、カップを置いて、再び
手探りで適当にページを開くと、そこに記されていたのは私もよく知っているあの怪物の名前だった。
「……ゴブリン」
「え? ああ、ゴブリンについても載っていましたね」
何故だろうか、他の怪物についての記事とは違い、ゴブリンについてはその生態までも詳細に記されている。
文章の書き方も特徴的で、この数ページを担当した者の学識の高さが伺えた。
「臓器の位置は人とほぼ変わらず、急所も同じ位置……え、この人ゴブリンを解剖したの?」
「あ、確かにそうなるのでしょうか?」
まあ、実際一番手っ取り早いわよね。実行するかは別としてだけど……。
他に記載されているのは、奴等が夜行性であること、簡易的な罠を用いること、村から女を攫ってその数を増やすこと等、私が既に知っている事が殆どのようだ。
終いには見流すようにしてページを捲ろうとしてしまっていたが、それはある一文によって止められた。
「ある冒険者からの情報で、独自の言語を話し、冗談を言う文化を持っている事も分かった。一体どこの冒険者よソレ……」
そこまでゴブリンを注意深く観察するなんて、物好きな冒険者も居たものね。
ふうん、ゴブリンが言葉で意思疏通をしているというのは驚きだわ。
……でも──
──戦いには何の役にも立たない知識。そう思ったのではないかな?
確かに、こんなのは単なる
しかし、書く側も楽しんで読んでもらえるよう色々と試行錯誤しているのさ。
だってそうだろう?
それに、真実は案外、そういった所に隠されているのかも知れないよ。
何も知らず死に行く者に私は同情しないが……ふむ、ここまで読む君は、どうやらそうではないようだからね。
その知識が、『闇を照らす
……ページの末尾に書かれた一文を読んで、本を閉じる。
これを書いた人は、『世界の外側』を見ようとして、自身もそこへ向かおうとしていたのだろうか。
私の知識なんて、世界を照らすにはあまりにもか細い。
しかし、あの男の目に宿る深淵を照らせるくらいにはなりたい……そう思った。
Q.お、こいつ疾走騎士くん攻略チャートとか組みだしましたよ? やっぱ好きなんすね~。
A.そんな事しなくて良いから(憤慨)