【疾走騎士】ゴブリンスレイヤーRTA ドヤ顔W盾チャート   作:もふもふ尻尾

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遂に50話目となりました!
正直自分でもここまで続くとは思いませんでしたが……応援してくださっている読者様方の応援のお陰ですね。
今後とも、よろしくお願い致します!


パート16 裏 後編 『ほのぼの夜営』

 道中の広野で夜営の準備を始める一党。

 彼らが焚き火をする為の薪を集め終える頃には、二つの月が辺りを照らし始めていた。

 

「《インフラマラエ(点火)》」

 

 石で作られた囲いの内に組まれた木の枝から、ぼう──と火が上がる。

 本来であれば彼女の師である魔女が得意とする、単独での真言による魔術の行使。それを銀等級の三人が興味深そうに観察していた。

 

「へぇ! なかなか便利じゃない!」

「師匠曰く、『呪文の無駄遣い』らしいけど……」

「いやいや、冒険には重要な事柄でありましょうや」

「火打石はちと骨じゃからのう。手間が省けて助かるわい」

 

 ようやくといった面持ちで、一党が焚き火を囲み座り込んだ。

 狼との遭遇を除いて戦闘は無かったものの、ほぼ半日を歩き続けたのだ。疲労は確実に溜まっているだろう。

 

「でも、本当はもっと怪物との戦闘で活かしたいのよね」

 

 自身の魔術について称賛を受けた魔術師が、悩ましげに腕を組ながら頭を傾ける。

 その原因は妖精弓手達ではなく、いつも行動を共にしている疾走騎士にあった。

 呪文遣い(スペルキャスター)の扱う呪文は軒並み強力であり、冒険者達にとって起死回生の一手となりうる。

 だが並の怪物と遭遇した時には大抵、疾走騎士が正面から倒してしまうのだ。

 つまり、もっと出番が欲しい。彼女が疾走騎士に対して言いたい事はその一点であった。

 

「切り札は最後まで取っておく物ですよ。それにこういった『無駄遣い』も、貴女の呪文の用途が多岐に渡る以上、活用しない手はありません」

「そりゃあまあ、そうなんだろうけど……」

 

 魔術や奇跡は温存するのが定石。それは勿論魔術師自身も理解していた。

 ──肝心の切り札が《突風(ブラストウィンド)》で疾走騎士を空に飛ばすという、文字通りブッ飛んだ手段である事に関してはどうかと思うが……。

 未だ自らが力不足である事は分かっている。しかし、いざという場面だけではなく、常に彼の戦闘をサポート出来る手段が欲しい。そんな悩みを魔術師が吐露すると──。

 

「貴女が呪文以外で戦える手段も考えてありますよ」

「えっ、ホントに!?」

 

 あっさりと答える疾走騎士に魔術師が目を剥いた。

 

「クロスボウを御存知ですか?」

 

 クロスボウとは、引き金を引くだけで矢を射つ事が出来る機構を備えた弓だ。ボウガンと呼ばれる事もある。

 

「あんなの邪道ね邪道。自分の技量で敵を射ち貫いてこその森人よ!」

「お主はちと黙っとれんのか……」

 

 弓のように熟達した技量を求められる事もない為、最低限の力さえあれば誰でも扱え、また呪文とは違い、矢が尽きるまで撃ち続ける事が出来るという利点がある。

 

「クロスボウには軽量な物もありますし、弦を引く力もさほど必要ありません」

「確かに、それなら私にも扱える……かも?」

 

 今の魔術師にうってつけの武器と言えるだろう。

 だが、利点があれば逆に欠点もあるのが世の常だ。

 

「でもお高いんでしょ?」

「そうですね、威力が高い物であれば相応に。矢も消耗品で、弓で扱う物より高価です」

 

 疾走騎士が頷く。つまり欠点はコストだ。

 出費を抑えたい冒険者としてはなかなか痛い欠点である。

 

「もし扱えなかったら?」

 

 当てられなければ矢を無駄にするだけ。宝の持ち腐れだ。

 扱った事の無い武器を手にする不安を、魔術師が口にする。

 

「扱えますよ。貴女は《火矢(ファイアボルト)》を外した事がありませんからね」

 

 道理だと言わんばかりの態度を示す疾走騎士に、魔術師はハッとした。

 確かに呪文と同じ要領で撃てるのであれば、出来る気がする。相手に向けるのが杖から矢に変わるだけなのだから。

 もちろん初めは勝手の違いから上手く行かないかも知れないが、それで諦めるなど以っての他だ。

 

「寧ろ、上手くハマるのではないかと考えていますが?」

「……その言い方はずるくない?」

 

 そこまで言われてやらない人間は居ないだろう。

 ──全くもって、ずるいわよ。言葉に出さず、代わりに小さく息を吐いた。

 迷いを見せず突き進む彼に、私は何度も救われている。

 命を救われ、そしてこの心もまた、救われているのだ。

 そんな彼に対し、私は全ての恩を返す事が出来るのだろうか?

 難題を抱え、魔術師が俯く。すると不意に、自身が持つ二つの大きな膨らみが目に入った。

 こんな重りが無ければ、もう少し身軽に動く事も出来ただろう。疾走騎士の負担も、多少は減らせた筈だ。

 おまけに他の冒険者達。特に男性からは不快な視線を向けられてしまう時がある。

 幸いにも、身近に居る男性冒険者は例外だが、それでも百害あって一利無しである事には違いない。

 育ち盛り故に、仕方がないと理解はしている。とはいえ、流石にこれ以上は勘弁して欲しい所だ。

 このままの勢いで成長を続ければ、近いうちに師である魔女をも上回る大きさになってしまうだろう。

 こればかりは疾走騎士に相談する訳にもいかない。相談してどうこう出来る物でもないのだが……。

 

 

 

 その時、ふと閃いた! このメガトン級の重りは疾走騎士への恩返しに活かせるかもしれない!

 

 

 

(いや活かせるわけないでしょ! 彼にはきちんと冒険者として恩返しをするべきであって! わ、私の……じ、女性の部分を使うのは、それこそズル! ダメ!! ナシ!!!)

 

 誠実な疾走騎士に対し、あまりにも不埒な考えだと大きな罪悪感を感じながら、ぶんぶんと首を横に振って脳裏によぎったアイデアを霧散させる。

 チラリと彼の方に視線を向けると、他の面々と共に荷物の中から食料を取り出し、食事の準備を始めていた。

 その表情は兜によって見えない。ただ、彼はいつだって今後の事について考えている。

 恐らく先程のクロスボウの件も、その内の一つだったのだろう。

 ただ分かっているのは『彼が為すべき事』に、私自身もちゃーんと含まれているという事だけ。

 ──取り敢えず、それさえ分かれば、今の所は十分だ。

 

(まあ、もっと色々と話して欲しい事には違いないのだけれど……)

 

 全くもう……と、呆れながらも、私はどういう訳かついつい笑ってしまう。

 

(貴方の思い描く先で、一体私はどうなってるのかしらね?)

 

 先の見えない夜闇から、そよ風がどこからともなく吹いてくる。

 それはまるで……彼の優しさのような、暖かい心地よさを感じさせた。

 

───────────────

 

「スープを作りましたので、良かったら皆さんもどうぞ」

「それはありがたいけど……いいの? あなた自身も食べないと持たないわよ?」

「沢山あるので大丈夫です。皆で食べた方がおいしいですから」

 

 魔術師が心配して声を掛けるが、女神官は笑顔で答える。

 そんな女神官の気遣いに、それならばと一党は、それぞれが持ち込んだ食材をお互いに振る舞い合う事にした。

 蜥蜴僧侶は肉。妖精弓手は保存食。鉱人道士は酒。そしてゴブリンスレイヤーはチーズと、各々が差し出した物を皆が口に運んでいく。

 例の如く、疾走騎士の受け取った食材が次々と消滅し、妖精弓手達を大いに困惑させたりもしたが……。

 

「甘露!」

 

 火で炙ったチーズを口に入れた蜥蜴僧侶が、尾で地を叩き、跳び跳ねる。

 余程気に入ったのだろうか、チーズの塊をあっという間に完食してしまった。

 

「おう、お主らは飲まんのか?」

 

 鉱人道士が、隣同士並んで座る疾走騎士と魔術師の二人に酒を差し出す。

 しかし疾走騎士は首を横に振った。

 

「すみませんが、お酒は遠慮させて頂きます」

 

 返事を聞いて、鉱人道士は愉快そうに口角を上げた。

 この男、やはり見応えがある……と。

 冒険に発つ際、疾走騎士は隊列の後方へと付いたが、それは一党全ての術士に精神的余裕を作らせる為の配慮だと鉱人道士は見ていた。

 騎士ではあるが、味方に与える影響としてはもはや君主(ロード)に近い。

 未だ彼が戦う姿は見ていないものの、現状までの立ち回りは見事に洗練されている。 

 事実として、冒険者となって八日しか経っていないにも関わらず、鋼鉄等級となる事をギルドは認めているのだ。

 ──信用に値する力量は持ち合わせている。

 それが彼ら銀等級の冒険者達が下した、疾走騎士への評価であった。

 そしてもう一人、彼と組んでいる魔術師に関しては──。

 

「ごめんなさい、私も止めておくわ。明日に響きそうだし」

 

 勢いが弱くなって来た焚き火に、魔術師が木の枝を何本か放り込む。

 あまり人との関わりを好まないのだろうか、或いは元々の性格が人見知りなのか、その視線は火に向けられたままだ。

 だが相棒である疾走騎士に対しては、全面的な信頼を寄せているらしい。

 本人が気付いているかは分からないが、彼女は冒険が始まって此の方、疾走騎士の手の届く範囲から一切離れていない。

 もし今、怪物達の群れが奇襲を仕掛けて来たとしても、この二人は即座に隊列を整え、対処する事が出来るだろう。

 新人としては上出来だ。先程彼女が駆使した曲芸紛いの魔術も、たゆまぬ努力の賜物なのだろう。

 今後の成長に期待が出来る、見ていて飽きる事のない、死なせるには惜しい若者達である。

 

「はっはっは。気にせずともええわい」

 

 だがやはり酒が飲めないのは残念だ。

 とはいえこればかりは仕方がないと、鉱人道士は酒を引っ込める。

 無理に飲ませるつもりは元より無い。寧ろ言いたい事は言うべきなのだから。

 

「よかったらこれ、どうですか」

 

 すると疾走騎士がイカスミ焼きを取り出し、鉱人道士に手渡した。

 

「こいつぁ……イカスミ焼きか?」

 

 酒は勿論、その肴となる物ならば何でも好むのが鉱人という種族である。無論イカスミ焼きも例外ではない。

 

「たまたま売っていたので。御近づきの印というやつです」

「ほ! 殊勝な心掛けじゃの。耳長のも見習ったらどうじゃい」

「大きなお世話よこの酒飲みが! ちょっとシエルドルタ! 私にも何か無いわけ!? というかアンタ達まだ何も出してないじゃない! ホラホラホラホラ早く出しなさい!!」

 

 親に物を強請る子供のように、疾走騎士の肩を掴んで揺する妖精弓手。

 つい先程、鉱人道士の酒を飲んだせいだろうか、酔いが回った彼女の顔は真っ赤に染まっている。

 すると疾走騎士は荷物袋の中から缶箱を取り出した。

 

「はい、どうぞ」

「なんだちゃんとあるんじゃない!」

 

 手渡された缶箱を、妖精弓手が御機嫌な様子で受け取る。

 蓋を開けると中にはクッキーが詰められていた。

 

「何よこれ」

「クッキーです」

「それは分かってるわよ! 私が言いたいのはなんであの酒飲みにはつまみで、私にはお菓子なのかって事よ! 子供扱いしてるんじゃないでしょうね!」

「ふむ、クッキーは嫌いでしたか?」

「別に嫌いじゃあないけど……まあ良いわ。せっかく貰ったわけだし」

 

 妖精弓手はクッキーを一枚手に取ると、口の中に放り込んだ。

 

 

 

 

 

 

「あっ……まい!」

 

【挿絵表示】

 

「お菓子ですからね」

 

 

「これメチャクチャおいしいわよ! ほら、オルクボルグも食べなさい!」

 

 疾走騎士のクッキーは、どうやら彼女を満足させるに至る代物だったようだ。

 妖精弓手は覚束無い足取りのまま、ゴブリンスレイヤーの下へと向かう。

 

「今は手が放せん」

「じゃあ食べさせたげる! はい、あーん」

「いらん。お前が全て食べろ」

 

 ゴブリンスレイヤーは武具の手入れを邪魔され、かなり鬱陶しそうだ。

 

「とっとこ丸、お主耳長のあしらい方が上手いのう」

「そうでしょうか?」

「それはそれとして、鱗のが待っとるぞ。まあ、さっきみたいな甘いもんならなんでもええと思うが……」

 

 親指で隣を指差す鉱人道士。その先では蜥蜴僧侶が期待に目を輝かせていた。

 

「ああ、勿論用意してありますよ。先程ゴブリンスレイヤーさんが出したチーズと同じ物がこちらに」

「おお! ありがたい!」

 

 え、それあげちゃうの? と言いたそうな魔術師の視線を余所に、渡されたチーズを蜥蜴僧侶が受け取る。

 早速と言わんばかりにその大顎を開けて齧りつこうとするが、そこで疾走騎士から待ったがかかった。

 

「これを更に美味しく食べる方法がありますよ」

「ほほう?」

「先程貴方がくださったこの沼地の獣の肉を、チーズと一緒に焼きます」

 

 疾走騎士は串に刺した肉を火で炙りつつ、その上に薄く切り取ったチーズを乗せた。

 

「チーズは本来、別の食材と共に調理される物です」

「おお、これはこれは……」

 

 チーズが肉を覆うように溶けていく様を見て、蜥蜴僧侶は涎を垂らす。

 

「どうぞ」

「おお、かたじけない!」

 

 疾走騎士が手渡した肉とチーズの直火焼きを、待ってましたと言わんばかりに受け取って、ぱくりと一口。

 蜥蜴僧侶は「甘露!」と、目を見開き快哉を叫んだ。

 

「矢と弓。肉とチーズ。冒険者一党。どれも同じという訳ですなあ」

 

 合わさる事で真価を発揮するという意味では全て同じだと、蜥蜴僧侶が言う。

 すると疾走騎士は悩ましげに唸った。

 

「それだと挑んだ竜に食されてしまっていますが……」

 

 肉とチーズを冒険者の一党に例えた場合、それは既に蜥蜴僧侶の腹に収まってしまっている。

 意味を理解した蜥蜴僧侶は一瞬目を丸くした後、大きく笑った。

 

「はっはっは! なんともはや、これは一本取られましたな!」

 

 元は軍属の騎士だったという疾走騎士。蜥蜴僧侶からすれば短い付き合いではあるものの、冗句など口にする印象は無かった。

 自身を竜に例えた疾走騎士のユーモアに、蜥蜴僧侶は彼が思ったよりも気さくな性格をしている事を理解する。

 そうして、疾走騎士は銀等級の彼等と打ち解けていくのだった。

 

 

(矢と弓。肉とチーズ。冒険者一党……ね。そうなると、矢、或いは肉が疾走騎士で、弓またはチーズが私……になるのかしら?)

 

 魔術師は蜥蜴僧侶の例え話を聞いて、何か今後の役に立つアイデアはないかと頭を悩ませていた。

 これもまた、疾走騎士から学んだ事。

 迷えば敗れる。為すべき事を予めちゃーんと決めておけば、あらゆる事象に対処が出来る、という訳だ。

 そして彼女は、肉に覆い被さるようにチーズが溶けていく様を見て、一つの解答へと至る。

 

(それってつまり、私が疾走騎士に覆い被さるみたいに絡み付いてる……ってコト!?)

 

 やはり彼女の想像力は、とても豊かなのであった。

 

───────────────

 

「……巻物(スクロール)?」

 

 一本の巻物が、ゴブリンスレイヤーの雑嚢に紛れていたのをたまたま発見した妖精弓手。

 彼女は今まで目にした事が無かった魔法のアイテムに興味を抱き、手を伸ばそうとする。

 

「触るな」

「な、何よ。ちょっと見ようとしただけじゃない」

 

 ゴブリンスレイヤーが一声。妖精弓手はまるでイタズラを注意された子供のように、慌てて手を引っ込めた。

 

「見るな。危険だ」

「むぅ……じゃあせめて何の呪文が込められているかくらいは教えなさいよ」

「駄目だ」

「ぐぬぬ……!」

 

 何を言われようともゴブリンスレイヤーは断固として譲らない。

 すると二人の争いを遠巻きに見ていた魔術師が、何かに気付いた様子で声を掛ける。

 

「もしかしてソレ《転移(ゲート)》の巻物(スクロール)じゃない?」

「…………」

「黙ってるって事は正解で良いのね?」

「あの、どうして分かったんですか?」

 

 見事に正解を言い当てた魔術師。

 しかし、一見してその巻物には判別出来るような特徴は見当たらない。

 不思議に思った女神官が問い掛けた。

 

「師匠が前に変な依頼を請けたって言ってたの」

「え……」

 

 変な依頼という言葉を聞いて、慌ててゴブリンスレイヤーの方を振り返る女神官。

 魔術師の師匠である魔女は、言い表すなら男性を魅了する外見をした、妖艶で扇情的な女性だ。

 そんな人に対する変な依頼とは一体……?

 明らかに間違った解釈をした女神官は、思わずごくりと息を呑んだ。

 

巻物(スクロール)にちょっと手伝いをしたって言ってたわね。でも巻物なんてのは大体、そのまま開いて発動するだけの物でしょ? 魔法使いが後から手を加える必要がある巻物って考えれば……まあ《転移(ゲート)》くらいよね。あれは行き先を書き込まないといけないもの」

「あ……な、なるほどッ!」

 

 魔術師が指を適当に振り、何かを書くような仕草をしながら解説をして、ようやく女神官が理解をした。

 すると疾走騎士が突然、……ヌッ! っと身を乗りだし、魔術師の眼前に現れる。

 

「つまりあの巻物(スクロール)には、既に転移先が書き込まれているという事ですね?」

 

 疾走騎士の急接近に、魔術師は顔を赤くしながらも頷く。

 

「そ、そうなるかしら。……びっくりした

「ではゴブリンスレイヤーさん。その巻物(スクロール)は一体どちらへ繋がっているのでしょうか? 貴方が危険と言う以上、取り扱いには注意を払う必要があるのだと思われます。出来れば一党の我々にも共有して頂きたいのですが……」

 

 疾走騎士が巻物を指差して説得をすると、妖精弓手の時とはうって代わり、ゴブリンスレイヤーは素直に答えた。

 

「海の底だ。それ一つでゴブリンの巣を潰す事が出来る」

「んなっ!? 間違えて使っちゃったらどうするつもりよ!?」

「だから触るなと言っただろう」

「普通そんな危険物だと思わないでしょ!?」

 

 妖精弓手の抗議を聞き流すゴブリンスレイヤー。

 彼の答えに疾走騎士は満足し、そして納得した様子で頷いた。

 

「成る程。確かに海水なら周囲への被害も最小限で済みますね。てっきり火山に繋がっていて、溶岩でも吹き出してくるのかと思いました」

 

 疾走騎士の言葉に、ゴブリンスレイヤーは暫しの沈黙の後、そして頷く。

 

「……使えるな」

「使えないわよ!! 周りは疎か、私達まで黒こげになっちゃうでしょ!?」

 

 この二人は危険だ。肉とチーズどころか、もはや火に油である。妖精弓手は改めてそう思ったのだった。

 

───────────────

 

 出発から二日を掛けた冒険だったが、ようやく一党は目的地であるゴブリンの巣となった遺跡へと辿り着く。

 入り口には見張りのゴブリンが二匹と狼が一匹。

 妖精弓手はその様子を遠くから伺いながら、背負っていた弓を手にする。

 

「今度は見逃すなんて言わないわよね」

「勿論。ここから先に立ち塞がる駒の指手は、皆が例外無く彼方側。干渉できる余地はありませんので」

「……言ってる意味がよく分からないけれど、止めないのならいいわ」

 

 弓を構え、矢を番え、引き絞り、そして……放つ。

 矢は右へと大きく逸れるも、弧を描くように軌道を変え、真横から二匹のゴブリンの頭を貫いた。

 そして残った狼は突然の出来事に飛び起き、咆哮を上げ仲間に知らせようとしたものの、妖精弓手が二射目の矢を放ち、開いた口の喉奥を射抜いて吹き飛ばされた。

 

「ふん。やっぱりあのでかい狼が特別だったのね」

 

 妖精弓手が鼻を鳴らす。

 道中で遭遇した大狼は、彼女が放った矢を己の牙を用いて受け止めた。

 正面から放ったものではあったが、彼女自身、必殺を狙ったつもりだった。

 一流の腕を持つ森人としては、少々プライドに傷が付く出来事だったのだろう。

 だが、彼女自身がミスをした訳ではない。

 狼の全てがあの反応を出来る訳でもない。

 ならば、何も問題は無い。

 後はいつも通り、自分の仕事をこなすだけだ。

 

「すごいです!」

「見事だが、何ですかな今のは。魔法の類かね?」

「充分に熟達した技術は魔法と見分けがつかないもの──って、待ちなさいよあんた達!!」

 

 妖精弓手が得意気に答えようとした所だったが、ゴブリンスレイヤー、疾走騎士、魔術師の三人がずかずかと先に進んで行こうとしている事に気付き、慌てて後を追う。

 

「二。妙だな。この時間まで真面目に見張りをするゴブリンなど有り得ん」

「しかし装備は槍のみ。最低限ですね」

「うーん、流石にクロスボウじゃあここまで出来ないわよねぇ……」

 

 三者三様に、倒したゴブリンを観察していると、おもむろにゴブリンスレイヤーがナイフを手にし、ゴブリンの腹を引き裂いた。

 

「オルクボルグ!? な、何してるのよ……」 

「奴等は臭いに敏感だ。特に女子供森人の臭いには」

 

 ゴブリンスレイヤーはゴブリンの肝を引きずり出しながら振り返り、追い付いてきた妖精弓手を睨んだ。

 

「嘘でしょちょっと! 嫌よ! ライダー助けて!」

 

 彼が何をしようとしているか理解してしまった妖精弓手は、蜥蜴僧侶と鉱人道士の後ろに隠れてしまう。

 ゴブリンスレイヤーが面倒そうに舌打ちをした所で、疾走騎士が荷物の中から小さな袋を取り出し、妖精弓手に差し出した。

 

「匂い消しの香袋です。一つ余っているので良ければ」

 

 薬草を詰めた小さな袋に、紐を通しただけの簡素な作り。だが、持ち主の匂いを消すその効果は確かである。

 金属製の装備が多い疾走騎士と、女性である魔術師もまた、今回この香袋を身に付けて来ていた。

 

「これでどうでしょう?」

「まあ、いいだろう」

 

 ゴブリンの肝をその場に放り、ゴブリンスレイヤーは頷いて立ち上がる。

 

「シ、シエルドルタ有り難う! 私、あなたの事を誤解してたわ!」

「多分これが一番早いと思います。それでは進みますよ」

 

 匂い消しの香袋を受け取った妖精弓手は、疾走騎士に感謝を述べながら、紐を首に通してぶら下げた。

 無事、難を逃れた彼女を先頭に、一党は遺跡へと足を踏み入れる。

 

「どうかしたの?」

「……何故だろう。自分でもよく分からないのですけれど……納得がいかなくて……いや、やっぱり何でもありません」

 

 ただ一人、ゴブリンの内臓を浴びる事など日常茶飯事である女神官だけは、釈然としない表情を浮かべるのだった。

 




 
Q.クッキーを食べた妖精弓手の様子がおかしくなっていませんか?

A.店売りのクッキーに特級呪物が混ざってたみたいですね(憤怒)

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