【疾走騎士】ゴブリンスレイヤーRTA ドヤ顔W盾チャート   作:もふもふ尻尾

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パート3 裏 『ニア次の依頼へ』

「悪いけどギルドへは後で向かうわね。流石にこのままっていうのはアレだし……」

 

 そう言って魔術師は女神官に付き添われ、一度宿へと戻って行った。

 確かに、あの姿のままでは女性として辛いものがあるだろう。

 余談だが彼女は疾走騎士のべちゃべちゃになった背中を見て真っ赤になり、それ以降は彼から目を逸らし続けていた。

 そうして、疾走騎士はゴブリンスレイヤーと共に、ギルドへと報告に向かうこととなった。

 

「その盾は……なんだ」

「はい?」

「ホブの首を撥ね飛ばしていた。研いだのか?」

 

 ゴブリンスレイヤーからの唐突な問いに、疾走騎士は頷いて答える。

 

「……そうですね。盾は敵の攻撃を受け止める事を想定しているが故に頑丈、武器としても運用が出来ます。それならいっその事盾の縁を研いで刃にしようかと」

「そうか。斧のような物か?」

「どうでしょうね? 重量に任せて振り下ろすという点では近いかも知れませんが……」

「ふむ……」

 

 ゴブリンスレイヤーも盾の扱いに関しては慣れており、攻撃に利用する場面も多くあり、縁を研ぐ工夫もする事があった。

 しかし疾走騎士のように両手で持ち、最大限武器として活用する発想は無かった様で、ゴブリン退治で利用できるかもしれないと考えたようだ。

 

「さて、着きましたね。とにもかくにも、先に報告を済ませましょう。救出した彼女達への対応も、お願いしなければなりませんし」

「……そうだな」

 

 思案するゴブリンスレイヤーを急かすように疾走騎士はギルドへと足を踏み入れ、ゴブリンスレイヤーも後に続く。するとどうだろう、他の冒険者がそそくさと離れていくではないか。

 

「あれ?」

「どうした」

「……いえ、問題は無いですね」

 

 兜で顔が見えない不気味な冒険者が二人、そうなるのもやむ無しである。

 しかし疾走騎士はむしろ都合が良いと言わんばかりに真っ直ぐ受付へと向かった。

 

───────────────

 

「そうですか、五人のうち二人が……」

 

 ゴブリンスレイヤーさんと共に戻ってきた新人の冒険者、盾を二つ背負った彼からの報告はなんとも痛ましいものでした。

 

「ゴブリンスレイヤーさんが助けに来てくれなければ全滅もあり得たでしょう」

「……いや、お前の戦い方ならば、あの場に残っていた者達だけでも撤退はさせられていた筈だ」

「そうなんですか?」

 

 途中、報告を訂正するゴブリンスレイヤーさん。彼は決して嘘をつかない人である。

 正確な冒険結果を聞くのが私の務めだ。

 念の為にも確認を行おうと、疾走騎士の方を向いて問い掛ける。

 

「正面から捌き続けるだけなら何とかなっていたとは思いますが、実際はどうなるか分かりません。自分達はただ『運が良かった』に過ぎませんから」

「……そうか」

 

 無事帰還できた三人、その中で唯一の前衛職。

 彼の言うことには謙遜が含まれているのであろう。

 実際冒険に出発する際、唯一彼だけが私に助言を求めてきていましたし、私個人としても応援したくなるタイプの冒険者ですね。

 

「えっと、すみません報告の続きですね。その後我々は───」

 

 だがそれは、その二つの盾にこびりついたゴブリン達の血と、それによる生臭さを除けば……の話だ。

 

───────────────

 

「──以上です。後二人も、すぐにこちらへ戻るかと思います」

「分かりました。助け出した人達に関しましてはこちらが対応致しますので、今回の依頼については以上となります。お疲れ様でした」

 

 受付嬢の言葉に、疾走騎士も礼を述べて頭を下げる。

 そこで二人の冒険者がギルドへと入ってきた。

 

「あ! ゴブリンスレイヤーさん! 疾走騎士さん!」

「もう報告は終わったの?」

「えぇ、お二人とも報酬を受け取れますよ」

 

 先ほど宿へ向かって行った魔術師と女神官の二人が合流する。

 因みに魔術師が着てきたのは厚手の布で作られた予備のローブであった。学生時代に身に付けていた物だろう。

 

「そう。それで……アンタはこれからどうするのよ?」

「そう言えばゴブリンスレイヤーさんはこれからどうするんですか?」

 

 軽く会話を交わしたあと、魔術師は疾走騎士に、女神官はゴブリンスレイヤーへ今後の予定を聞いた。

 その返答を聞いて二人は耳を疑う事となる。

 

「次の依頼へ」

「ゴブリン退治だ」

「「……え?」」

 

 二人には信じられなかった。

 あれだけの事があったにも関わらず、彼らはこれから直ぐに次の依頼を探すというのだ。

 

「あ、あの……」

 

 そこへ受付嬢が会話に割り込んで来る。

 

「ゴブリンスレイヤーさんは銀等級ですが、疾走騎士さん、貴方はまだ白磁ですよね? クエストを終えたばかりですし休んだ方が……」

 

 尤もな意見だと、女神官と魔術師はそう思った。

 しかし疾走騎士はすぐさま、思いもよらない答えを返す。

 

「ゴブリンスレイヤーさんに付いていかせてもらおうかと思うのですが、それでも難しいですか?」

「……はい?」

 

 先程まで真面目で素直な冒険者だと思っていた彼が言い出した突拍子もない提案に、受付嬢はただただ困惑する。

 

「俺は構わん」

「えっ!? ちょっと! ゴブリンスレイヤーさん!?」

「実は盾に関して色々と意見を交わしていた途中でして、こちらとしてもベテランの手腕を見る絶好のチャンスなんです。今回の所は見逃して頂けませんでしょうか? お願いします! 何でもしますから!」

「……そうなんですか? ゴブリンスレイヤーさん」

「そうだ」

 

 どうやら疾走騎士は底抜けに向上心が強いだけのようだ。受付嬢は溜め息をつき、人差し指を立てて忠言する。

 

「無理はしないでください。あと、必ず帰ってくること。守れますね?」

「勿論です」

「……分かりました。ではお願いします」

「ああ」

 

 そうしてゴブリンスレイヤーと疾走騎士の二人はその場を後にした。

 残された女神官と魔術師は、何とも言えない表情でお互いを見合っていたが……──。

 

「あの……」

 

 やれやれと肩を落とす受付嬢に、女神官が声を掛ける。

 

「あ、あぁ! すみません報酬の受け取りですね!」

「は、はい。それもあるんですけど……」

「?」

「ゴブリンスレイヤーさんってどんな方なんですか? その……」

「銀等級らしくない?」

「えっと……その……はい」

 

 ばつが悪そうに答える女神官。

 どうやら彼に興味があるようだ。

 冒険者としてのゴブリンスレイヤーと最も付き合いが長く、誰よりも知っている受付嬢は、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに彼の説明を始める。

 

「ゴブリンスレイヤーさんはゴブリン専門に依頼を請け負う銀等級の冒険者です。数年前からこのギルドへ所属していて、ゴブリン退治であれば報酬の大きさに関わらず依頼を受けては、その殆んどを遂行する、一流の冒険者なんですよ!」

 

 エッヘン! と言わんばかりに胸を張る受付嬢。

 隣に座る同僚が、また始まったよと言わんばかりにジト目を向けている事に、彼女は一切気付いていない。

 

「そう……ですか。ありがとうございます……」

 

 何やら考え込んでいる様子の女神官に対し、入れ替わるように今度は魔術師が質問を投げ掛けた。

 

「……じゃあ疾走騎士は?」

「えっと……疾走騎士さん、ですか?」

「そう。アイツについて聞きたいの」

 

 はて、ゴブリンスレイヤーに関してはよく知っているが疾走騎士は今日冒険者登録をしたばかり。あまりプライベートな内容も話すわけにもいかず悩んでいると。

 

「……私、これでも賢者の学院では優秀だったの」

「賢者、それって都の……?」

 

 ギルドの職員としての研修を都で受けた受付嬢は、魔術師の登竜門として名高い学院の名を聞いた事があった。

 賢者の学院を卒業した者は大成間違いなしと言われ、引く手あまたなのだとか。

 つまり彼女もまた、そんな優秀な魔術師であるという事に他ならない。

 

「でも今回、私は何も出来なかった。ゴブリンに不意をうたれて無様にやられただけ。今まで学んだことなんて何の役にも立たなかったのよ……っ!」

 

 拳を握り締め言い放つ魔術師。今回は『運良く』生き残った。

 しかし次はどうだろう?

 これまで築いてきた物が全て崩れ去ってしまった彼女は、冒険というものがどうしようもなく、恐ろしく感じるようになってしまっていた……。

 

「これからどうするべきかが私には分からない。でも……アイツにはそれが分かってる気がする。だから知りたいの……」

 

 俯いたまま話す魔術師に対し、受付嬢は『よくある事だ』と思った。

 挫折した冒険者が故郷に帰る。それはこの世界ではありふれた些細な日常。

 

 

 ……でも、もしかしたら今回は違うかも知れない。

 

 

「分かりました、それでしたら──」

 

 そして何かを決意した受付嬢は、一つの賭けに出ることにした。

 

───────────────

 

 ゴブリンスレイヤーと疾走騎士がギルドを出てから暫く経った頃、彼らは既にゴブリンの巣穴を一つ潰すことに成功していた。

 

「本当に一切の無駄がない。付いていくので精一杯ですね」

「……とてもそうは見えん」

 

 移動中疾走騎士が呟いた謙虚な物言いに、ゴブリンスレイヤーが反論するが、それももっともである。

 ゴブリンの巣に足を踏み入れた疾走騎士は、両手に盾を構えたまま前進。

 正面から来たゴブリンの群れを苦も無く潰していったのだ。

 ゴブリン側から見れば入り口から堅牢な壁が迫ってきて潰されるようなものである。たまったものではないだろう。

 

「で、どうですかね? 貴方から見て、自分の盾は?」

「……ふむ」

 

 疾走騎士の問いに対し、ゴブリンスレイヤーは少し考え、答えを出した。

 

「使える……が、俺には扱えんな」

「……そうですか」

 

 大きく肩を落とし残念そうにする疾走騎士。

 しかしゴブリンスレイヤーから見た評価に誤りは無い。

 

 戦力としては『使える』。実際に守りは堅い上に武器としても頑丈。

 何よりゴブリン達は盾の使い方を理解していない。

 かなり有効な戦い方だと言えるだろう。

 

 しかしゴブリンスレイヤーは様々な武器を扱うオールラウンダーであり、今から盾のみを扱う戦い方に切り替えるのは難しいと考えていた。

 更に言えば、咄嗟に道具を取り出したり出来ないのも難点だ。

 あらゆる物を利用する戦い方を、今さら捨てる事はできない。

 

 故の『使えるが、俺には扱えない』である。

 言葉が足らない彼らしい、簡潔な答えだった。

 

「まあ、こればかりは仕方ないですね。向き不向きもありますし、『使える』という評価を貰えただけでも、良しとしましょう」

「……そうか」

 

 ゴブリンスレイヤーとしても今回のゴブリン退治には思うところが多くあった。

 何より背中を任せることが出来る仲間が居るという感覚は、ソロ専門だった彼にとって、今までに無いものだったのだ。

 

「仲間……か」

 

 一人ではカバーできる範囲に限りがある。

 ゴブリンスレイヤーは今までの経験で、それを大いに感じていた。

 

「そう言えばゴブリンスレイヤーさん、一つ伺いたいんですが……」

「なんだ」

 

 突然の疾走騎士の問い、それは何とも奇妙なもの。

 

 

 

 

 

 

「RTAってご存知ですか?」

 

 

 

 

 

「……いや」

「そうですか。残念です」

 

 RTA? 何かの名称だろうか? それを耳にしたことはないゴブリンスレイヤーは、それについて聞いてみる事にした。

 

「その……RTAとは、何だ」

「……自分は《宣託(ハンドアウト)》を受け、それにより行動しています」

 

 《宣託(ハンドアウト)》……神からの指示だ。

 疾走騎士は某らの神の信徒と言うことだろうか。

 

「その宣託はかなり頻繁に発生し、事細かに自分の行動を指定するんですが……指示を送られてくる際に、神は必ず冒頭にこう言うんです──」

 

 

 

 

 

「RTA、始まるよ──と」

 

 

 

 

 

「このRTAとやらが何なのかは分かりません。まあ、そこまで知る必要も無いでしょうし」

「ふむ……」

「特に効率良く動くのが好きな神みたいなので、貴方ももしかしたらそうなのかなと思ったんですが、違うみたいですね」

 

 俯いて腕を組み悩む仕草を見せる疾走騎士に対し、ゴブリンスレイヤーが一つ提案する。

 

「神からの啓示……よくは知らん……が、一つ心当たりがある。こちらでも少し調べてみよう……」

「いいんですか?」

「あぁ……」

 

 『効率良く動く』。ゴブリンスレイヤーがゴブリン退治に於いて常に心掛けている事だ。

 それを実践している神が居る。

 ゴブリン退治に役立つ知識があるかも知れないと、ゴブリンスレイヤーは考えたのだ。

 

「ありがとうございます」

 

 虚空へと姿を消した孤電の術士、理の外について調べていたあの女が残した資料に、何か手がかりがあるだろうか?

 

(確かめてみる価値はある、か……)

「さて、そろそろ着きますね。では、次の依頼へ」

「ああ、ゴブリン退治だ」

 

 そして二人は次のゴブリンの巣穴に足を踏み入れるのだった。




Q.ダブル盾は布教出来ましたか……?

A.ダメみたいですね(諦観)

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