【疾走騎士】ゴブリンスレイヤーRTA ドヤ顔W盾チャート   作:もふもふ尻尾

9 / 55
パート4 裏 後編 『この辺にぃ、安い宿屋、あるらしいっすよ?』

「首尾はどうですか?」

「ひゃっ!? びっくりした……驚かせないでよ!」

 

 銀等級である魔女の指導を受けながら、ギルドの近くにある広場で呪文の練習をしていると、突然後ろから疾走騎士に声を掛けられた。

 何よこいつ、全く気配がしなかったんだけど……本当は忍者なんじゃないの?

 

「ふふ 上々 よ? 彼女 とっても 優秀 だから」

「し、師匠! そんな事はないですよ……私なんかまだまだです」

 

 あれから私は、魔女である彼女を師匠と呼ぶことにした。

 こうして呪文を教えてもらっているのだから当然である。

 

「扱える呪文は増えましたか?」

「えぇ とっても 凄いのを ね?」

 

 そう言って師匠は私を見る。

 ここで使えという事なのだろう。確かに今日はもう冒険に出ることはないし問題はない。

 

「……仕方ないわね。それじゃあ見てなさい!」

 

「《ファルサ(偽り) ウンブラ() ユビキタス(偏在)》 《分影(セルフビジョン)》……!」

「! ……これは、確かに凄い」

 

 《分影(セルフビジョン)》により五つの分身を生み出した私を見て、驚き隠せない様子の疾走騎士。

 ──ふふふ、必死になった甲斐があったわ!

 

「私も ね? 初日で これ を 覚える のは 無理だと 思ってた のよ? ……でも ね? 彼女 とっても 頑張り屋さん だから」

「し、師匠の教え方が上手いんですよ!」

 

 師匠は呪文について、とても分かりやすく教えてくれた。

 私以外にも呪文を教えている相手が居るらしい。きっとその経験  があるからだろう。

 賢者の学院でもこれ程教えるのが上手い教師は居なかった。

 

「だから ね? 彼女 一緒に 連れていって あげて?」

「……分かりました」

「え? ホントに付いて行って……良いの?」

「今日はもう遅いので明日からまた依頼を受けます。それからで良ければ」

 

 や、やった! これも師匠のお陰だわ! つい喜びを隠しきれずガッツポーズをしてしまった私は、あることに気付いてハッとする。

 

「成る程、本物は見付かったみたいですね」

「ふふ まだまだ みたい ね?」

「うぅ……精進します」

 

 そう、ガッツポーズをしたのは本体である私だけ。

 下手な動きをすれば本物を見破られてしまうのがこの魔法の欠点だ。

 今後は気を付けなければ……。

 私はガックリと肩を落としながら《分影(セルフビジョン)》を解除した。

 

「それで、報酬はお幾らです?」

「そう ね…… 今 手持ち は どれくら い?」

 

 師匠の問いに対し、疾走騎士は持っていた袋を開け、差し出した。

 

「今日稼いだ銀貨210枚、これが今の全財産です」

「い、一日でそんなに!? 何をやってたの!?」

 

 同じ白磁等級とは思えない稼ぎっぷりだ。

 一体何をどうすればそこまでの収入を得られるのだろうか。

 

「下水道でひたすら鼠と蟲の討伐です。特に大きかったのが暴食鼠(グラトニーラット)二匹ですね」

「えぇ……」

 

 下水道。臭い、キツい、汚いが揃う3Kクエストの代表格として挙げられるそれは、白磁にとっては貴重な資金稼ぎクエストである。

 ……進んで行こうとは思わないが。

 

「それ なら これだけ 頂く わ ね?」

 

 そう言って師匠は疾走騎士が持つ銀貨から10枚摘まんで胸の谷間にしまい込んだ。

 さ、流石師匠、一体どうやったらそんな場所に収納出来るのかさっぱりだわ……というかそんな価格でいいの?

 

「……流石に安すぎるのでは?」

「水薬並みの価格じゃないですか師匠……」

「いい の よ 私も 楽しめた から」

 

 良いのだろうか? ……いや、本人が言うのだから良いのだろう。

 どうやら疾走騎士も同じ結論に至ったようだ。

 

「……そうですか。ありがとうございます」

「また いつでも 言って ね?」

「あ、ありがとうございました! 師匠!」

 

 そうして師匠と別れ、私はこれからについてコイツに聞いてみることにした。

 

「で、次は? これから何をするの?」

「もう今日は……休みましょう。流石に限界です」

 

 ……あ! こいつフラフラじゃないの! なんでこんなになるまで……って、主に私が原因よね。

 本当に迷惑掛けてばっかり、なんとか挽回しないと……。

 

「宿は取ってあるの?」

「いえ、なので今から宿を探しに」

「そ、それなら! この辺にぃ……良い宿があるんだけれど。……どう?」

 

 私の提案に、彼は頷いて答えた。

 

「ああ、良いですね。じゃあ今から行きましょう」

「そ、それじゃ付いてきて! 案内するわ!」

 

 よし! 今度は心のなかでガッツポーズをした私は、疾走騎士と共に既に暗くなった道を歩く。

 そして路地裏に少し入ったところにある目立たない建物の扉を開け、中へと入った。

 

「あ、お帰りなさい! 今日は遅かったですね! ……あれ? そちらの方は?」

 

 扉につけられた鐘がカランカランと音をたて、奥から圃人の少女がパタパタと走って来た。

 彼女がこの宿の女主人である。

 本来は彼女の祖母の物らしいのだが、どうやら今は体調を崩しているらしく、代わりに彼女が切り盛りしているらしい。

 

「ちょっと色々とね。悪いのだけど二人部屋って空いてる? ツインで」

「勿論ですよ。寧ろ、空き部屋ばかりでどうしようか、いつも悩んでますからね。はぁ……」

 

 彼女はしょんぼりとした様子でため息をついた。無理もない、この宿には殆どお客が来ないのだ。

 何せこんな目立たない路地裏にあるものだから誰も気付かない。

 

「……あっ! す、すみません! そんな事をお客様に言うべきじゃなかったですね! 今お部屋の鍵をお渡ししますね」

「ううん、ありがと。荷物の移し変えもこっちでやるから、前の部屋の鍵は後で渡すわね」

「良いんですか? すみません助かります! はい! こちらがお部屋の鍵です!」

 

 部屋の鍵を受け取……ろうとして手を差し出したが、彼女は鍵をぶら下げたまま渡そうとしない。はて、何のつもりかしら?

 

「……ダブルじゃなくて良いんですか?」

「んなっ! い、良いのよっ!」

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべながら要らぬ世話を焼こうとする彼女から鍵をぶんどる。

 べ、べつにコイツとはそういう関係じゃないし! 二人部屋にしたのも宿賃を少しでも浮かす為でそんなつもりも一切ないし!

 

「ほら! 行くわよ!」

「ごゆっくりー♪」

 

 疾走騎士の手を引いて部屋へ向かおうとする私達を、女主人は満面の笑みで見送る。

 うぐぐ、絶対分かって言ってるわねアレ……ええい無視よ無視無視!

 

 そして部屋へと入る。室内は簡素ではあるもののそこそこ広く、置かれた二つのベッドは羽毛による特別な物。

 私は昨日も泊まったが、本当にぐっすりと眠る事が出来た。

 

「良い宿でしょ? 結構な穴場だと思うのよ。宿賃も安いし、ベッドも柔らかくて……まあ、あの圃人の女主人が玉に瑕よね」

 

 本当に要らぬ世話を焼こうとする彼女にはうんざり……ん? 疾走騎士からの反応が無いわね。どうしたのかしら?

 

「ちょっと、聞いてる?」

「えっ? ……あぁ、すみません、少しボーッとしてました」

「もう、大丈夫なの? 明日も依頼受けるんでしょ? もう寝たら?」

「そう……ですね、そうしましょうか」

 

 んん?? なんか様子がおかしいわね、相当疲れてるのかしら?

 

「それなら、ほら! 鎧脱いで! 寝るなら邪魔でしょ!?」

 

 疾走騎士の皮鎧を強引にひっぺがす。

 鎧を着たままベッドで寝る奴は居ないだろう。

 これは私なりの気遣いだ。

 しかしここで思わぬハプニングが発生してしまう。

 

「ほら兜も──」

 

 つい勢いのままスポッと疾走騎士の兜を引き抜いてしまった私は、その中身を見てしまい。

 

「あっ……ご、ごめん今の無しっ!」

 

 慌てて再び兜を彼に被せた。

 

「じゃあおやすみなさいっ!!」

 

 肌着に兜というあまりにもシュールな状態になった疾走騎士を強引にベッドに押し込むと、即座に寝息が聞こえてきた。

 どうやらこの一瞬で眠ってしまったらしい。

 

「えぇ……寝付くの早すぎない? ベッドに入れば自動的に眠るようにでもなっているのかしら?」

 

 なんだか、私の方がどっと疲れた気がした。

 はぁ、とため息をつき、眠る疾走騎士を見る。

 

 

 

「ちょっと……かわいい顔してたわね……」

 

 

 

 私が見たのは、まだ少し幼さの感じる顔付き。

 

 

 

 

「だけど……」

 

 

 

 しかし、何より印象に残った彼の目は──。

 

 

 

 まるで光の灯っていない……濁りきった混沌が、深淵で渦を巻いているかのような目だった。

 

 

 

 

 

 

【現状のステータス】

 

疾走騎士

 

職業

 騎士 Lv3

 斥候 Lv1

 

技能

 技能

 装備:盾 (習熟)

 強打攻撃・殴 (習熟)

 護衛 (初歩)

 忍耐 (初歩)

 礼儀作法 (初歩)

 長距離移動 (初歩)

 隠密 (初歩)

 

装備

 右手  ヒーターシールド

 左手  ヒーターシールド

 頭   古いサレット

 体   レザーアーマー

 腕   レザーグローブ

 足   レザーレギンス

 装飾品 なし

 

 とある出来事により、騎士としての地位を失った一つの駒。そこを走者として選ばれる。

 普段からサレットを被っているせいで見えない素顔は神の一柱をして『若干暗~い雰囲気』と言わしめる程。

 騎士故に精神力はかなりのものであり、過去の経験から体力が高く、気配を断つ事も得意。

 

 

 

 

魔術師

 

職業

 呪文使い(スペルキャスター) Lv3

 

技能

 装備:杖 (習熟)

 詠唱保持 (習熟)

 秀才 (初歩)

 努力家 (初歩)

 《火矢(ファイアボルト)》 (習熟)

 《分影(セルフビジョン)》 (初歩)

 

装備

 右手  学院の杖

 左手  なし

 頭   魔術師の帽子

 体   厚手のローブ

 腕   魔術師の手袋

 足   魔術師のブーツ

 装飾品 魔術師のマント

 

 今回疾走騎士の介入により生き残った、命を落とす筈だった一つの駒。彼と共に走者としての道を選ぶ。

 魔術師として優秀な才を持ち、更に努力家でもある可能性の塊。バストも可能性の塊。伊達に原作で一番最初に『豊かな胸』と明記された訳ではない。




Q.なんで疾走騎士くんは宿屋に来てからボーッとしてたの?

A.走者がトイレ行ってたからです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。