霧雨の弟   作:ぐろさん

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第13話

周りが赤い霧に囲まれても自分の仕事は変わらない。あいも変わらず門番として立ち続けるだけだ。

 

しかし、やっぱりなにもせず立ってるだけなんて退屈で、その退屈を紛らわせる術など持ち合わせているはずもない。

 

だから私は目を閉じるのだ。決して寝てはいない。私の能力ならたとえ寝ていたとしても、侵入者に気付かないはずもない。

 

だから…目を…瞑って…zzz

 

「…りん…。めー…さん」

 

誰かが身体を揺すってくる。誰だろう?私を起こす人なんて…咲夜さん!?

 

「お、起きてます!起きてますよ咲夜さん!」

 

すぐさま意識を覚醒して、気配のする方に頭を下げる。しかし、いつものような衝撃はいつまで経っても訪れない。

 

恐る恐る目を開けてみる。そこには銀髪の冷徹な女性ではなく、金髪の天使のような笑みを浮かべる少女…じゃなくて少年がいた。

 

「めーりんさん、おはよ!」

 

「ええ、おはようございます。雅貴くん」

 

「めーりんさん何してたの?」

 

「お仕事ですよ。こうして門の前で怪しい人が来ないか見張っているんです」

 

そう言うと彼は小首を捻りながら不思議そうな顔をした。うん、かわいいなあ。

 

「寝てたのにできるの?」

 

「寝てないですよ。目を瞑っていただけです」

 

「そうなの?」

 

「そうですとも」

 

これが咲夜さんなら問答無用でお仕置きされるが、彼ならそんなことにはならない。

 

「そういえば、めーりんさんはお庭の手入れをしてるんだよね」

 

そう言って彼は私が手入れしてる花壇を見つめる。

 

「そうですよ。こっちは仕事というより趣味ですけどね」

 

「すごく綺麗だね」

 

「あ、ありがとうございます」

 

本当は門番の仕事中に、暇つぶしがてらに育てて来た花だったが、今では綺麗に咲いている。たまに妖精メイドの悪戯で荒らされることもあった。あれは辛かったな…

 

それに、綺麗に咲いていても誰にも褒められることもなかった。だから彼の言葉がとても嬉しく思えた。

 

「めーりんさんはお花の匂いがするから、僕は好きだよ」

 

そう言うと彼は私に抱きついて来た。全く、なんて可愛い生き物なのだろう。抱きつきながらこちらを見上げてニコニコしている。

 

「嬉しいこと言ってくれますね。そんな雅貴くんにはこれをあげましょう」

 

私はポケットに入れておいた花の種を彼に渡す。今日植えようと思っていたものだ。

 

「これは?」

 

「向日葵の種です。夏になると綺麗な花を咲かせます。雅貴くんならきっと綺麗な花を咲かせることができます」

 

「ありがとう、めーりんさん」

 

「こちらこそ。さあ、中に戻って下さい」

 

彼は素直に頷いて館の中へ戻っていく。途中、こちらを振り向いて手を振ってくれた。髪色は違うが、小さい頃の咲夜さんのことを思い出す。あの頃は私の後ろをずっとひっついて来たものだ。

 

「…咲夜さんも小さい頃はあんなに素直で可愛かったのに」

 

「悪かったわね、今は素直じゃなくて可愛げがなくて」

 

声のする方を向く。背中に大量の冷や汗をかきながら。

 

「…いつからそこに?」

 

「貴女が雅貴くんに抱きつかれてニヤニヤと気持ち悪い顔をしていたときよ」

 

なかなか辛辣ですね。もしかして…

 

「…嫉妬してます?」

 

咲夜さんの肩がビクッと跳ねた。わかりやすいなぁ。

 

「そ、そんなわけないでしょ。私は昨日から雅貴くんのお世話で一緒にいるのよ?手を繋いだり、一緒にお風呂には入ったり」

 

「でも抱きつかれてはいない?」

 

「…そうよ、羨ましいのよ!ただでさえ仕事せず居眠りしてるくせにズルいじゃない!」

 

そうやって子供っぽく文句を言ってくるあたり、相当羨ましかったらしい。仕方ないなと思いながら、私は咲夜さんを抱きしめてあげる。

 

「…なによ、別に美鈴に抱きしめてほしくなんかないのだけれど?」

 

「まぁまぁ、いいじゃないですか。お裾分けですよ」

 

すっかり大きくなった銀髪を撫でる。

 

「咲夜さんは…いえ、咲夜ちゃんはよく頑張っています」

 

「…バカ」

 

文句を言われながらも、無抵抗なメイド長を久々に甘やかすのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

私は図書館で机の上に突っ伏していた。昨晩から組んでいた術式の疲れのせいだろう。

 

そんななか、図書館の扉を開き、こちらにトコトコと歩いてくる音が聞こえてきた。

 

「パチュリーさん、おはよ」

 

「あら雅貴、おはよう。元気ね」

 

昨晩、吸血鬼姉妹にこってり搾られたはずの雅貴だが意外にも元気そうだ。幼さゆえに元気が有り余っているのだろう。

 

「何かようかしら?」

 

「絵本読んで!」

 

そう言って彼は古ぼけた絵本を私に差し出す。あら?これは…

 

「…これを何処で見つけたの?」

 

「向こうの本棚の隅っこにあったよ」

 

なんとも懐かしい本を引っ張ってきたものだ。これは私がまだ小さい頃に親に読んでもらった本だ。今でも内容はよく覚えている。

 

シンデレラのお話にアレンジが加えられたようなものだ。主人公に魔法をかけたお婆さんは主人公の実の祖母で、それにより主人公が魔女狩りの対象になってしまう。そんな中、王子が国を捨て、身分も捨て、主人公と辺境の地で幸せに暮らす。と言ったものだ。

 

王子の愛の深さに感動した話だ。自分にもそんな相手が居たら…と想っていた時もあったな。

 

「読んでくれる?」

 

本の内容を思い出していると彼が…すごい破壊力ね、彼の上目遣い。椅子に座っていても彼の身長では自然とそうなってしまうのだが、そんな風に見られて断れる人なんていないだろう。

 

「ええ、いいわよ」

 

「やった!じゃあ…失礼しまーす」

 

すると彼は私の膝の上に座った。子供特有の少し高めの体温が膝から伝わり、彼のサラサラの髪が鼻孔をくすぐる。いやちょっと待って欲しい。ドウシテコウナッタ?

 

「雅貴?な、何をしてるの?」

 

「え?こうしないと僕、絵が見えないよ」

 

確かにそうかもしれないが、他にも方法はあるだろう。

 

「…ダメ?」

 

彼は振り向きながら聞いてくる。だがそれが不味かった。

 

よく考えて欲しい。彼は私の膝に乗っている。その状態で私の方を振り向けばどうなるか。超至近距離であの破壊力バツグンの上目遣いになるわけで。

 

「昔むかし、あるところに…」

 

気がつくと私は絵本を読んでいたのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「そうして幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし…あら?」

 

本を無心で読み終えた私は膝の上の少年に意識を向けた。そこには、すやすやと眠っている天使がいた。

 

「本を読むように頼んでおいて寝るなんて、全く可愛いものね」

 

少し、悪戯心に駆られた私は彼のほっぺたを突っついてみる。その肌はぷにぷにと心地よい弾力が返ってきた。その感触を楽しんでいると、彼は私の膝の上で身動いだ。可愛すぎる。

 

本当に不思議な少年だ。一緒にいるだけでとても穏やかな気持ちになれる。彼のこの不思議な力が、妹様を救ったのだろう。

 

「ふぁ…私もちょっと寝ようかしら」

 

本来なら睡眠など必要ないが、今日はもう疲れたし、目の前の天使が本当によく眠っていて、私を眠りに誘ってくるのだ。その誘いに乗ってもバチは当たらないだろう。

 

そうして私は、彼を膝の上に乗せたまま、意識を手放すのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「パチュリー様〜、この本は何処に…って、あらあら、お邪魔でしたか〜♪」

 

そこには珍しく目を閉じて眠っている知識と日陰の少女と彼女にあすなろ抱きをされて眠る天使の姿があった。

 

後にその姿を親友に見られた彼女が、散々弄られたのは言うまでもないだろう。

 

 

 




話のストックが完全に切れてしまったことと、仕事の忙しくなってしまったので、これからの更新がかなり不定期となってしまいます。ご覧になられてる皆様には申し訳ないですが、気長に待って下さいますと幸いです。
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