ついに神社までたどり着いた。さっきのワンコたちは石段の下でお別れした。まぁぼぉは連れて行こうとしていたがワンコたちが頑なに拒んだ為、1匹1匹丁寧にモフって森へ返してやった。
そして長〜い石段を登りきった時、言葉を失った。
「うわぁ、綺麗だねー」
「……」
「お姉ちゃん?」
「あ、ああ、そうだな」
目に映るのは星、それも夜空いっぱい広がっている。大きい星も小さい星もそれぞれが精一杯輝いている。そして、その中に浮かぶ大きな満月。
いつもより一際大きく見えるのは、見ている場所がいつもより高いからだろうか。
隣にいるまぁぼぉは私以上に目を輝かせ、夜空を見入っている。
「早速、これでみてみようぜ」
「うん!」
こーりんから借りたこの…天体望遠鏡だったか?コイツを使って早速…あれ?
「…真っ黒で何も見えないぞ」
「お姉ちゃん、先のカバーってやつ外してないよ」
いけね、そういえばそんなものが付いてたな。これを外せば
「わぁすごーい!お星様が近くに見えるよ!」
私がカバー外してる隙にまぁぼぉが先に望遠鏡を覗き込んでいた。姉より先に見るなんてけしからん!
「なーに私より先に見てるんだ!そんな奴にはお仕置きだ!」
望遠鏡を覗くのに夢中になっているまぁぼぉの後ろから脇腹に手をいれ、くすぐる。
「あははは、お、お姉ちゃん、たんま!たんま!
あははは」
「うーん?なんだって?よく聞こえないなぁ?」
抵抗してもお構いなしにくすぐり続ける。
「ご、ごめんなあははは、さいいい」
姉より先に覗くからだ。くすぐり倒したまぁぼぉをどけ、望遠鏡を覗き込んだ。
「す、すげぇ…」
暗闇を照らすような微かな光しか出してない星々たちが、レンズを通して見るとその1つ1つが輝いていた。
「んー!お姉ちゃん早く替わってよ!」
「まぁ待てって、今いいとこなんだから」
まぁぼぉが待ちきれないようで急かしてくるが、この光景はまだ見ていたい。今まで頭上で弱々しく光っていた星々が、こんなにも力強く輝いていたなんて知らなかった。
そうやって星々を観ることに夢中になっていた私は、背後で悪戯しようとするまぁぼぉに気付けなかった。
ふぅ〜っ…
「ひゃん!?」
急に耳元に吹かれた生暖かい吐息は、私を辱めるには十分だった
「お姉ちゃんってやっぱりここ弱いよねー」
そう耳元で囁きながら依然私の耳に吐息を吹きかけてくる。
「や、やめろってまぁぼぉ、うぅ〜」
自分の顔が真っ赤になっていくのがわかる。それと同時に体の力が抜け、吐息が耳にかかるたびに体がビクビクと反応してしまう。
抵抗できないから後ろから抱きついているまぁぼぉを振り解くこともできない。
「ふふっ、さっきのお返しだよ?」
しばらく、私はまぁぼぉにひたすら辱められるだけだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「お姉ちゃん、お月さん見てみようよ」
「お、そうだな」
なんでも月には兎が住んでいるとかいないとか。コイツで兎が見えたら、大発見だぞ。
早速、月に望遠鏡を合わせて覗き込んでみる。…なんだ?兎なんてどこにもないし、灰色でなんか寂しい感じがするな。小さな丸い模様が見える。
「お姉ちゃん、どう?ウサギさんいる?」
まぁぼぉが目を輝かせて聞いてくるが、その目を曇らせるのも忍びない。
「んー、お姉ちゃんには見つけられないけど、まぁぼぉなら見つけられるかもな」
そうはぐらかしながらまぁぼぉに望遠鏡を覗かせる。
また悪戯してやろうかと思ったけれど、仕返しが恐ろしいからやめておいた。
いや、別にまぁぼぉにやられるのは嫌じゃないけど、寧ろ…って何考えてんだ私は!
顔が熱くなるのを治めつつ、まぁぼぉが望遠鏡を覗いてる間、ぼんやりと月を眺める。
静かだ。2人の間に沈黙が流れる。いつもは2人で(私がまぁぼぉを連れ回しているだけ)わいわい騒いでいて、こんなに静かなのは珍しいが、自然と心地よかった。
それにしても熱心に月を見ているな。星と比べてそんなに夢中になれるような光景ではなかったけどな。
「どうだ、兎さん見えたか?」
「ウサギさんは見えなかったけど、天使さんが見えたよ!」
天使?月に?天使って月に住んでるのか…いや、なんかと見間違えたんだろう。
「そっかそっか、お姉ちゃんも見たかったな」
そう返しつつ空を見上げていた。すると
「まぁぼぉ、空見てみろよ!」
流れ星だ、それもひとつではない。幾つもの流れ星が現れては消えていく。
「わぁ!すごいねお姉ちゃん!」
「ああ、こんなの見たことない」
「りゅーせーぐん、っていうんだって」
まぁぼぉが持ってきていた本見ながら教えてくれた。
「あと、流れ星が消える前に願い事を3回繰り返せたら、その願いが叶うんだって!」
それはかなり魅力的な話だな。これだけ大量に流れ星があるなら絶対叶うだろ。
「まぁぼぉ、一緒にお願いしようぜ!」
「うん!」
まぁぼぉと一緒に願いを口にしようとした時だった。
「お姉ちゃん、あれ見て!」
「なんだありゃ!?」
無数の流れ星の中に1つ、かなり大きな流れ星が飛んでいた。望遠鏡を使わなくてもかなりはっきりと見える。
「あれは…彗星だって!かっこいい名前だな〜。あ、もうひとつ名前があるんだって、箒星」
「箒星?」
「見た目がそう見えるからだって」
確かにそう見えないこともないな。先端から尾にかけて薄く広くなってるところから名前を考えたんだろう。
「ねぇねぇ、お姉ちゃん!」
「どうした?」
「なんでも彗星は何十年に一度しか見られないんだって!そして彗星に願い事をしてもう一度見られた時、その願い事が叶うんだって!」
そんなもの、願わないはずもない。私の願いは、ただひとつだ。
ーまぁぼぉと結婚できますようにー
「消えちゃったね」
「だな」
あれだけ無数にあった流れ星と巨大な彗星は姿を消していた。東の空は薄らと明るい。
「ねぇ、お姉ちゃん」
「ん?どうかしたか?」
「いつかまた、一緒にあの彗星を見ようね」
「ああ、約束だ」
そうして私はまぁぼぉと小指を結ぶ。
「そういえばお姉ちゃんは、なんでお願いしたの?」
まぁぼぉと結婚すること、なんて言えるはずもない。
「えーっとあれだ、魔法使いになれますようにってな。まぁぼぉはなんてお願いしたんだ?」
「僕?僕はね…」
少し照れながらまぁぼぉは言う
ーお姉ちゃんの願いが叶いますように、だよー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「…んっ、いけね〜寝ちまってたか」
星を見て幼き日の頃を思い出していたら、そのままその夢を見るなんてな。
あの日から、いやあの日よりずっと前から私はまぁぼぉを弟じゃなく、1人の男として見てたんだなぁ…
感慨に浸りながらも、異変に気づく。
「なんか薄暗いな…なんだこりゃ!?」
そこには見慣れた景色の上を塗り潰すかのように紅い霧が立ち込めていた。
「こうしちゃいられねぇ!」
私は直ぐに箒に飛び乗った。あの彗星を見つけるための研究は途中だが仕方ない。
あの日のことをまぁぼぉは憶えていないかも知れない。それでも私は箒星を今も1人追いかけている。
魔理沙と雅貴の絡みがないことに気付き、前回より二話構成で魔理沙と雅貴の過去を描いてみました。
BUMP OF CHICKENの天体観測をモチーフにして見ましたが如何だったでしょうか?
次回からは本編に戻ります。戻りたいな…