「なあ、霊夢。本当に動かないのか?」
博麗神社の縁側で、霧雨魔理沙は親友に尋ねていた。訪ねる理由は他でもない。数日前からこの幻想郷に漂っている赤い霧のことだ。
「まだ何も被害が出てないから大丈夫よ」
「大丈夫って…これはどう見たって異変だろ!?異変解決が博麗の巫女の勤めじゃないのか?」
「だからまだ異変って決まったわけじゃないでしょ?まだ動くときじゃないわ」
そう言って煎餅をかじりながらお茶を啜る霊夢。
「それよりまー君が来ないことが異変よ」
「…そりゃこんな赤い霧が立ち込めてたら外に出してもらえるはずもないだろ」
「「はぁ…まー君(まぁぼぉ)に会いたい」ぜ」
2人してため息を吐く。その時、目の前に銀髪の女性が現れた。なんの前触れもなく。
「だっ、誰だお前!?どうやって来た!?」
突然現れた女性に声をかける魔理沙。霊夢も驚いたように目を丸くしていた。
「お初にお目にかかります。私、紅魔館でメイド長を務めさせて頂いている十六夜咲夜と申しますわ。博麗霊夢様と霧雨魔理沙様ですね?」
「あ、ああ、そうだぜ」
恭しく一礼し、咲夜は話を続ける。
「今日ここへ来たのは他でもありません。我が主人、レミリアスカーレットを退治して欲しいのです」
「嫌よ、めんどくさいし」
バッサリと断る。
「…この赤い霧を出している張本人なのですが」
「そう、なら貴女が説得してよ。そっちの方が楽でいいわ」
異変の元凶がわかったというのに全く動こうとしない霊夢。しかし、咲夜は不敵に笑うと一言。
「雅貴という男の子が囚われている。と言っても動いてくれない「案内しなさい今すぐに!」…」
すごい食い付きだった。さっきまでお茶を飲み、だらけていたというのにこの変わりようである。
「ど、どうしてまぁぼぉがそこにいるんだ?」
「実は…
咲夜は雅貴が紅魔館にいる理由を事細かに説明した。所々嘘も交えて。やれ主人が雅貴を玩んでいるやら、酷いことしているやら、途中から嘘の方が多かったかもしれない。
ーということでございます」
「話は分かったわ、今すぐ出発するわよ!」
「おう!絶対助けてやるからなまぁぼぉ!」
「では、私についてきてください」
(ふふっすべて計画通り…あとはこの2人がお嬢様を倒すのみ)
黒い笑みを浮かべつつ、咲夜は2人を紅魔館へと誘うのであった。
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一方紅魔館では…
「雅貴そのポーズ!それで『うー★』っていうんだよ!」
「う、うー?」
「きゃー可愛い!これぞカリスマですよね!」
「ええ、最高に可愛いわ…私より可愛いのがなっとくいかないけど」
レミリアの格好した雅貴がカリスマブレイクしていた。
「それにしても、よく似合ってるわよね」
フランと紅茶を嗜みながら、私はメイド服を着た雅貴を見つめていた。メイド服が黒いせいなのか白い肌がより際立って見える。
「えへへ、よくお姉ちゃんとお揃いの服を着てたせいかな?」
ふむ、どうやら雅貴の姉は弟に女装をさせる変態ということか。もしくは男の子として扱っていなかったのか。
どちらにせよ、雅貴の姉には感謝しなければならない。こうしてなんの抵抗もなくメイド服を着ている雅貴を見ることができるのだから。
「そうだ!雅貴ちょっと来て!」
突然席を立ち、雅貴を連れて行くフラン。
「ちょっと、どこ行くのよ?」
「すぐ戻るから!行こ雅貴!」
「うん」
そう言って1人取り残されてしまった…まあ、1人でゆっくりしていようかしら。
「咲夜、お茶」
空のティーカップをソーサーに置く。しかしいつまで経っても新しいお茶入れられない。
「…?咲夜?」
さっきまでいたはずだったのだが、そこに従者の姿はない。それどころか名前を呼んでも出てきもしない。
「お姉様!」
咲夜の不在を不審に思ったがフランたちが戻ってきたようだ。
「どうしたのフラ…」
そこにはフラン?がいた。しかし違う。何かがおかしい…確かに見た目はフランだ。金髪のサイドテールにおなじみの服装。でも、それ以外がおかしい。翼がない。目の色も違う…
「あなた…雅貴なの?」
「あはは、すぐ分かっちゃうよね」
そう言って微笑を浮かべる雅貴。しかし目の色と翼を除けば瓜二つなのではないだろうか。
「どう?お姉様、ビックリした?」
そう言って本物のフランが顔を出す。
「ええ、ビックリしたわ。妹が2人できたみたいね」
「じゃあ私が次女で雅貴が三女ね」
「そうなの?じゃあ、えっと…フランお姉様?」
「ぐはっ!?」
瞬間的にフランが撃沈した。
「だっ大丈夫!?フランお姉様!?」
「お姉様…私が…雅貴のお姉様…えへへ」
フランは妹だから「お姉様」と呼ばれるのに慣れていない。だが私には通用しないわ。
「ふん、お姉様と呼ばれたぐらいで悶絶とは、まだまだねフラン、さぁ雅貴、次は私よ」
「うん、えっと…レミリアお姉様?」
「………」(ガバッ)
少し照れ臭そうに私をお姉様呼びする雅貴。そんな彼女(彼)を無意識に抱きしめていた。あっ、すごくいい匂い。
「……ナニシテルノカナ、オネエサマ?」
「…っ!?なんでもないわよ、ええ」
背中から刺されるような視線を感じたためすぐさま雅貴から離れる。くっ、あの視線さえなければもう少し堪能できたのに…
「あらあら随分お楽しみのようね?レミィ」
いつもは図書館に引きこもってるはずのパチェが珍しくバルコニーまで顔を出しに来た。
「珍しいわね、パチェがここまでやってくるなんて」
「図書館に来ていた妖精メイドから聞いたのよ、雅貴が面白い格好をしているって」
そのためにわざわざ図書館から出てきたことに驚いた。いつもならどんな面白い話をしても「ふーんそうなの」とかつれない反応ばかりなのに。
「…もっと面白いものを見たくないかしら?」
「見てみたい見てみたい!」
間髪を入れずにフランが反応する。もっと面白いもの…私も気になる。
「じゃあ場所を図書館へ変えましょうか、もちろん雅貴も来てくれるわよね?」
「うん、いいよ」
屈託のない笑顔でそう返す雅貴を見ているととても心が穏やかになる。だが、それと同時に黒い感情も芽生えてしまうのはなぜだろう。その笑顔を自分だけに見せてほしいと思ってしまう。
「…レミリアちゃん、行かないの?」
「え?ええ、行くわ」
雅貴に呼ばれて気がつくとみんな図書館へ移動を始めていた。私はさっき芽生えかけた感情を仕舞い込み、雅貴と図書館に向かうのだった。
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そうして図書館まできたのだが、今私は雅貴と同じポーズをとっている。私と同じ服を着た雅貴と。
「ほらほら、お姉様も全力で『うー』してよ」
「なんで私がしなくちゃいけないのよ!?」
「いいじゃないのレミィ、別に減るもんでもないでしょ?」
「私の威厳が減るわ!」
ここにはフランとパチェの他にも小悪魔や美鈴だっている。仕事をするフリをしながらチラチラこちらを見てくる妖精メイドだっているのだ。そんななか全力でこんなポーズを取るなんて恥ずかしすぎる。
ふと手に暖かい感触がした。手を見ると雅貴が手を握っていた。
「レミリア…お姉様は僕と一緒なのは、いや?」
「そう言うわけじゃないのよ…えっと、だからね?これは…うー…」
上目遣いでそう聞いてくる雅貴に、私は耐えきれずとうとうカリスマブレイクしてしまった。
「あらあら可愛らしいことよ、レミィ?」
ニヤニヤと陰湿な魔法使いがこちらを見てくる。いつもは気怠げにしてる癖に、こんな時だけは元気なんだから。
そんな時、図書館の扉が物凄い勢いで開かれた。そこには、鬼の形相をした紅白の巫女と白黒の魔女。そして、私の従者である者がニヒルな笑みを浮かべてこちらを見ていた。
お待たせしました。
次回で異変解決したい(願望)