「さあ、準備は整ったわ」
紅い洋館の主人はそう呟く。
「あの子を連れてきなさい。あの子によって運命は動き出すわ」
背後に立たずむ従者にそう告げる。
「かしこまりました。お嬢様」
そう返事した従者は主人の背後から姿を消していた。
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「全く、やれやれですわ」
そう言いたくもなる。まさか人の子を拐ってこいと言われるなんて思ってもいなかったから。ともあれお嬢様の命令である。完全で瀟洒なパーフェクトメイドの私がやるしかあるまい。
お嬢様の言われた通りに霧の湖へやってきた。連れてくるように言われた子供はブロンドの可愛い男の子らしく、今日この場所に訪れるという。
少し湖の辺りを歩いていると笑い声が聴こえてきた。恐らく件の少年がいるのだろう。
作戦はパチェリー様が魔法で夕立を降らせ、そこに私が雨宿りさせるために紅魔館へ誘い込むというものだ。
とりあえず遠目からターゲットを確認することにしよう。妖精が2人に1人は妖怪ね。もう1人は…
…おかしいわね、男の子を攫ってくるように言われたけれど、あの子はどこからどう見ても女の子よね?
聞き間違いかしら?いいえ、ありえない。この完全で瀟洒な私が聞き間違えるなんてありえないわ。きっとお嬢様が言い間違えたのよ。そうに違いない。
「僕、もう帰らなきゃ」
「じゃあね、雅貴!」
「うん、みんなバイバーイ!」
ターゲットが1人になる…これは好都合ですわ。
さてと、あとは雨が…降ってきたわね。流石パチェリー様、さすパチェですわ。
あの子は…木の下で雨宿りしてるわね。三角座りで蹲っちゃって…見てられないわ。
「こんにちは」
声をかけてみるとその子はこちらを向いた。警戒されて無いかしら?
「こんにちは、お姉さん」
おぉ、なんだか新鮮な感じだわ、お姉さんだなんて。
「こんなところでどうしたの?お名前は?」
どうしたもなにもその原因を知っているのにこんな質問をしなくては行けないなんて、なんだか物凄く罪悪感を感じるわ。
「僕は雅貴、雨が止むの待ってるの。お姉さんは?」
僕?ああ、そういえば前に小悪魔が持ってた本にあったわね、女の子なのに一人称が僕って言う娘。
「私は十六夜咲夜、この先の館でメイドをしているわ。今はその館に帰る途中なの」
さて、ここからよ。上手く紅魔館へお連れしなければ
「此処じゃ雨に濡れるわ。良ければ館に来ない?」
「でも…」クシュン
「ほら、このままだと風邪ひいちゃうわ」
そう言って傘の中に入るように誘導する。
「うん、ありがとう咲夜お姉さん」
よし、いい感じだわ。
「それじゃ行きましょうか」
「ちょっと待って」
「…どうしたの?」
まさか勘付かれたか!?焦ってはダメよ私、ここは平常心。クールに、
「手…繋いでもいい?」
「………」
「お姉さん?」
「え、ええ、良いわよもちろん」
なに今の、可愛すぎるんですけど。上目遣いからのそんなお願いされたら断れるわけないじゃない!
それにしても見れば見るほど可愛いわ。将来が楽しみね。
下手をすればお嬢様よりもずっと魅力的…あぁ、ダメよ私、私はお嬢様一筋なの…
そんな私の手を小さな手が包み込む。そして私を見て微笑みながら言う。
「じゃあ行こ?」
お嬢様、薄情な私をどうかお許しください…悪魔の従者として使えてきましたが、天使には勝てませんでした。
この子の手、とても柔らかい。そして、なんだか温かいわ。
「では、こちらです。雅貴ちゃん」
人肌の暖かさを感じられるのはとても懐かしい気がするけれど、今はエスコートに集中しよう。