とても嬉しいです。拙い文ではございますが、
これからもよろしくお願いいたします。
つまらない。もう1人遊びには飽きてしまった。もう随分と長くこの部屋に居る。部屋の中には壊れてしまった物ばかり。
人形、クッション、グラスにお皿。全て壊した。壊せば壊すほど楽しいのに胸が痛かった。心とかじゃなく右側が。
壊し続けていたら治っていた。痛かったことも忘れていた。全てを壊し尽くして、疲れて眠ると何故か元に戻っていた。人形は補修され、砕け散ったグラスや皿の破片は綺麗に掃除され、まるでなにもなかったかのように食事が並んでる。
『壊さなきゃ』
まただ、また壊さなきゃ。これを全部壊しきらなきゃ。そうすればもうー
もう壊すことはないから。
そう思いながらいつものように掌に眼を集めようとした。すると階段の方から足音が聞こえてきた。
いつも料理を運んできてくれる足音ではない。その足音は扉の前で止まり、数回のノックの後、扉は開かれた。
人間かな?本で見たことがある。多分女の子だろう。
「貴女はだぁれ?」
「僕は雅貴。君は?」
「私はフラン。フランドール・スカーレット」
「フランちゃんだね、よろしくね!」
そう言うと彼女は右手を差し出してきた。しかし右手を差し出されても私はどう返したらいいかわからない。すると彼女は私の右手を握って笑った。
初めて自分ではない体温を感じた。それはとても暖かくて、言葉には言い表せない物だった。
「貴女は人間?」
「そうだよ。フランちゃんは吸血鬼なの?」
「そうだけど、なんで?」
「とっても綺麗な羽が生えてるから」
そういいながら私の後ろに回り、羽を見始めた。今まで人と話したことがなかったから、どういう風に接すればいいか分からない。
「綺麗な羽に真っ白な肌。お人形さんみたい」
「そう…かな?」
そんなに見られると恥ずかしいが、嫌な気分にはならなかった。なんだろう、ただ一言二言会話しただけなのに、心が温かくなる。
『壊さないの?』
頭の中にいつもの声が聞こえてきた。だけどいつものような感じではない。
初めて壊したくないと思えた。これは、この子は、壊したくない!
『じゃあ、もう壊さなくていいね?』
うん、私はもう、壊さなくても…いい。
『じゃあ、バイバイ』
スーッと頭の中に聴こえてた声が消えていった。
「どうしたの?」
彼女が驚いたようにこちらを見ている。
「なんで泣いてるの?」
「え?」
足下を濡らして行く滴。その出所は私の眼だった。
「どこかいたいの?つらいの?」
心配そうに私の顔を覗き込んでくる。
「違うの、でも、分からないの。痛いのか辛いのか、わからないの」
わからない、頬を伝って落ちた滴がどこからきたものなのか。痛くもない。辛くもない。なのに涙は止まらない。
不意に彼女に身体を抱きしめられた。
「もう大丈夫。きっと大丈夫だよ」
そう耳元でささやいてくれる。その言葉だけで救われた気がした。さっき初めて会った彼女の胸の中で泣きじゃくった。
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「…もう大丈夫、ありがと」
泣いている間も彼女、雅貴はずっと抱きしめてくれていた。
「えへへ、元気出た?」
そう笑顔で聞いてくる彼女に頷いて見せる。そうすると彼女も嬉しそうな顔をする。可愛い。こんなにも可愛い生物がこの世にいたのかと、私は思った。
「ねえ、どうしてこんなところに居るの?」
「それは…」
言葉に詰まる。狂ってるから閉じ込められてるなんて言えないし、狂ってるなんて知られたくない。
「ここが私の部屋だから」
間違いではないはず。一応私の部屋だ。部屋というより牢獄だが。扉には術式が込められており、触れることはできず、眼を集めることもできない。壁や床や天井も同じよう術式がこめられており、破壊できないから出ていけない。
食事は毎回決まった時間に運ばれてくる。とても美味しい。特にデザートのプリンは絶品だ。前にプリンだけ食べて他の料理を残したらプリン抜きになってしまったのは苦い思い出だ。
「ねぇフランちゃん、遊ぼうよ」
「え?」
思わず聞き返してしまった。遊ぶ?私と?今まで1人でしか遊んだことがないからなにをして遊べばいいんだろう?
「ねぇ、これやってみたい!」
彼女が目をつけたものは机の上に置いてあったチェスだった。いつも一人で指していたがまぁ勝ち負けなどつくはずもなく飽きてそのままだった。
とりあえず席について駒を並べていく。
「やり方わかる?」
「わかんない。だから教えて!」
一瞬申し訳なさそうな顔をするが、すぐに笑顔でやり方を聞いてくる。可愛いなぁ。妹ができたみたい。
「じゃあ駒の動き方からね」
初めて1人以外で遊ぶ楽しさを、私は精一杯噛みしめながら遊んだ。タイムリミットなど来るはずがないと思いながら。