どれくらいの時間が経っただろう。私と雅貴はひたすらにチェスに打ち込んだ。最初は簡単に勝てていたのだが、彼の飲み込みの良さからか途中から買ったり負けたりを繰り返している。
チェスを打ちながらいろんな話もした。彼が男の子だと知ったときは勢いよく席を立ったせいで盤面をぐちゃぐちゃにしてしまった。それくらい衝撃的だった。
楽しい。誰かとこうして遊ぶのがこんなに楽しいものなんて知らなかった。その楽しさに夢中になっていたから、扉の方からの足音に気付けなかった。
数回のノックのうちに扉が開かれる。そこには
「あら、ずいぶんとお楽しみのようね」
「…お姉様」
最愛の姉の姿があった。
「レミリアちゃん!」
姉の方にトテトテと寄っていく彼。その姿さえも愛らしい。むぅ、なんだかお姉様に雅貴をとられた気分。なんだろう、心がムカムカする。物を壊したい時とは別の感情だ。
それになぜお姉様がわざわざここまできたんだろう?その意図がわからない。
「もう外は暗いから、今日は泊まって行きなさい。食事の用意もできているわ」
「いいの?ありがとう!」
あ、抱き付かれてる。羨ましい。というかお姉様ちょっと照れてる?顔が赤いような気もする。
「それじゃ、上に上がりましょうか」
「うん!あ、ちょっと待って」
そう言ってお姉様から私の方へ近づいてくる雅貴。そして急に手をとってきた。
「フランちゃんも行こ?」
「えっと、私は…」
私も一緒に連れて行ってくれようとしてくれるのはすごく嬉しい。だけど私はここから出られない。出ては行けないのだ。お姉様の方を見る。きっとこう言われるのだ。『貴女はここにいなさい』と。そしてまた1人で過ごすのだ。
「フランも一緒にいらっしゃい」
……?えっ?出ていいの?
「なにぼーっとしてるのよ。行くわよ」
そういうとお姉様も私の手をとる。右がお姉様で左が雅貴だ。お姉様の顔が赤い。まださっきの雅貴に抱きつかれたのを気にしているのだろうか?
ゆっくりと部屋の入り口まで来た。ドアは既に開いている。あと一歩で部屋の外だ。でも何故か足が出ない。
するとお姉様と雅貴は扉の外へ出てしまった。手は繋いだまま此方を見ている。
「行くわよフラン」
「行こうよフランちゃん」
手を引っ張ることもせず待ってくれている。私が自分で踏み出すことを。でも怖い。ずっと1人で過ごしてきた。1人でも平気な世界しか知らない。ここから先は知らないことしか知らない。
この一歩を踏み出せば、きっと二度とこの部屋に戻ることはできないだろう。根拠はないがそう思えた。
「フランちゃん」
すると雅貴が両手で左手を包み込んでくれた。暖かい。その温もりが恐怖心を拭い去っていく。
右手からも別の温もりを感じた。お姉様も同じように両手で手を握ってくれている。
ここまでしてくれているんだ。もう迷ってはいられない。私は目をギュッと瞑り飛び出した。
暗い深い地下から眩しい外の世界へと。
「えい!」
「うわ!?」「ちょっと!?」
余りにも勢いをつけて飛び出したからか、目を開けたら3人で床に転げていた。お互いの顔を見回していたら自然と笑いが溢れた。
「なにしてるのよフランったら」
「びっくりしちゃった」
「ごめんなさい、勢いつけすぎちゃって」
流石に気合入れすぎちゃったなと思いながら、飛び出した部屋の方を見る。
そこに部屋はなく、ただ壁があるだけだった。