亡くなった少女が生まれ変わったら美女に、そのせいで国は。

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国を滅ぼしたのは

 貴族の令嬢、フランシーヌが亡くなった、事故でも病気でもない、家族や両親が嘆き悲しんだのも無理はない、まだ十六歳という若さだったからだ、それだけではない、彼女は王族に嫁ぐことに決まっていた。

 無理強いするつもりはなかったと彼女の家族が悲嘆にくれたのは無理もない、娘は両親から二人の兄からも愛されていたのだ、貴族の娘は容姿などが重要視されるが、フランシーヌは他の貴族の娘に比べて決して器量が良いとはいえなかった。

 ふっくらとした体型で、本人もそれを気にしていたのか食べるものを節制し、暇があれば庭や街を歩き回って体を動かしていた、だが、そのせいで空腹を感じて、食べてはいけないというジレンマに陥っていた。

 そんな彼女に婚約者のカーライルは厳しかった。

 兄たちの周りには綺麗な女性が大勢いてはなかったが、自分は三男ということもあり、彼女と婚約が決まったとき、初めて、その姿を見たときは内心、ひどく落胆したのだ、何故、こんな娘と悩んだが、自分から断る事などできなかった、というのも彼女の家は諸外国との繋がり、貿易や手腕を買われていたからだ、父である国王から命令は絶対だからだ。

 

 フランシーヌは自分が死んだと知って驚いた、泳げないわけではない、ただ、ドレス、ウエストの締め付けがきつすぎて、泥に足を取られてしまったのだ、でも、よかった、溺れかけていたゴブリンを助けることができたのだ。

 朝早く森の近くを散歩する、普段なら軽装なのだが、この時は特別だった、薬草の採取をするつもりだったのだ、母親の風邪が長引いていて天津葛という草を煎じて飲むといいのだが、店で売っているのは乾燥したものが殆どだ、生の草を煎じて飲むと効果は抜群だと聞いて森へ出かけたのだ。

 ところが、その朝、奇妙な婦負や悲鳴を聞いた。

 湖で溺れかけている者を見つけたのだ、最初は子供かと思ったが、人間ではない、ゴブリンだった、普通の人間なら助けようなどと思わないだろう。

 だが、彼女は普通の貴族の娘とは違って、いや、変わっていた。

 魔物、悪魔が全て人間に対して悪い事をする訳ではありませんという事を知ったのは家庭教師の教育があったからだ、色々な国を旅してまわる放浪者が家庭教師になるというのは珍しいことだ。

 

 自分が死んだことで落胆する両親と兄の姿を見ながら、フランシーヌは何もできない自分が情けなく思ったが、だが死んだ今となっては何もできない、いや、泣く事さえできなかった、だが。

 

 シュヴァンステン侯爵家の一人娘が蘇ったという噂を聞いたとき、誰もが驚いた、蘇り、生まれ代わりがないわけではない、だが、もう随分と、そんな話を聞いた事はなかったし、この国では皆無だったからだ。

 ところが、そんな噂が流れる中、二人の息子のうちの一人が他国へ婿入りすることになったと聞いて国内では人々が驚いたのも無理はない。

 式は知人と身内だけで屋敷内で慎ましやかに行うらしく、国内の貴族は数える程しか招待されていない、これを知った国王が興味を抱き自分を招待する様にと申し出たのだ。

 「陛下、実は招待客の中には陛下の事を昔から知っている御仁もいらっしゃいます」

 心苦しいという返事に、自分の事を知っている人間がいても構わないではないかと思ったが、反対したのは宰相だった。

 「実はシュヴァウステン一家の事ですが、国を離れるのではという噂が流れております」

 「なんだと、どういうことだ」

 当主である二人は健康の事もあり、南国の暖かい場所で暮らしたいと希望しているらしいと。

 「二人ともまだ、五十代、年寄りというわけではないが、しかも、国を出るとは屋敷はどうするつもりだ」

 「詳しい事は、まだわかりませんが」

 調べますかという宰相の言葉に国王は困惑の表情を浮かべた、面白くないといいたげに、そんな自分に声をかけたのは三男のカーライルだ。

 「父上、自分が行くのはどうでしょう、王子という立場ではなく」

 「おまえがか、そうか、気になるのか、あの噂が」

 侯爵家の令嬢、フランシーナ、彼女は屋敷内で過ごしているという噂だけが一人歩きしていて誰も姿を見た者はいないのだ。

 「おまえは、もうすぐ結婚する、軽率な行動は控えるようにしろ」

 「わかっています」

 「だが、一人では不安だな、エヴァンと一緒に行け」

 「兄上と、ですか」

 内心、どうしてと思わずにはいられなかった、つい先日、兄は結婚に失敗した、妻が浮気をしていたことが発覚したのだ、自分の子供ではないと知った兄は激怒した、いずれ、国王になるなら国を継ぐなら、それくらいのことでと思うが、生まれた子供の体、腕がなかったのだ。

 もし、自分の子種なら、生まれてきた子供はと、兄が絶叫した様子を思い出し、カーライルは頷いた。

 花婿は四十になる、妻である女性も同じくらいの年齢だろう、二人ともにこやかな笑みを浮かべている、嬉しさを隠しきれない表情だ、あと二ヶ月ほどで自分も、あの立場になるが、あんな笑顔を浮かべることができるだろうかと思った。

 招待された貴族に頼み、同行させて貰ったまではよかったのだ。

 庭で行われた式、料理は屋敷の中に用意されているからと中に入ると、底には館の当主である夫妻と客達が和気藹々と会話をしている姿が目に入った、自分の姿を見た侯爵は少し驚いた顔をした。

 声をかけて挨拶だけでもしておいた、いや、自分は身分を隠しているのだと思ったとき、声をかけられた。

 振り返ったカーライルは驚いた、浅黒い肌の青年だ、着ているものや、雰囲気から上流階級の人間だということ一目でわかる。

 おまえ、見ない顔だなと言われてカーライルは返事をしようとした、男の視線が何か言いたげで、周りも感じたのだろう、注目を集めた。

 「どうしました、殿下」

 近づいて来た侯爵に笑いながら鼠ですよと答えた男にカーライルはまずいと思ったのだろう。

 「お断りしたのですが、陛下にも困ったものだ、殿下、お気にせず」

 侯爵の言葉に青年は、そうかと頷きカーライルを見るとにやりと笑った、その笑顔に内心、むっとしながら、このまま帰ろうかと思ったときだ、兄のエヴァンが近づいて来た、だが、その顔は。

 「どうしたんです、兄さん」

 「今、そこでな」

 兄の様子にカーライルは不思議に思ったのも無理はない、そのとき、部屋の中が騒がしくなった、フラン、フランだ、名前を呼ぶ歓喜の声にカーライルは、思わずそちらを見た、本当にフランシーナが蘇ったのか、確かめなければと数歩、踏み出した。

 

 「皆さん、フランシーナを紹介させて下さい」

 侯爵の声は嬉しそうだ。

 「私たち夫婦は、この国を離れますが、娘は、しばらくの間、この館での色々と」

 侯爵の言葉が、何を言っているのか、ただ、カーライルは自分の目が釘付けになっていることにく気づいた、だが、それだけではない、すぐ隣にいる兄の呆けた声と表情に驚いた。

 

 「美しい」

 

 別人だ、カーライルは女の姿を思い出した、自分と婚約したとき、彼女も自分もお互いに子供だった、だが、自分に比べて彼女は太った少女で、その子が嫌だった、少しは自分の容姿を気にしてほしい、醜い女だ、自分の言葉に彼女は頷くだけだった。

 鏡に映った自分の顔をカーライルは見た、三十路になったばかりの男の顔、今の彼女に釣り合うだろうか、そんな事を思った自分に驚いた、婚約が決まっているのだ、何を考えているんだと。

 

 城に戻ってから数日、カーライルは驚いた、彼女と結婚したいという兄の言葉にだ、本気なのだろうかと、だが、返事は。

 他国の方々からも結婚を申し込まれているという断りの返事だった。

 「彼女は、この国の貴族だ、何故、自分との婚姻を」

 宰相は手紙を見ながら顔を曇らせた、書かれている名前は貴族だけではない、シュヴァンステン侯爵家の令嬢について、送られてきた書状は。

 シュヴァンステン侯爵家の令嬢について、ある国から送られてきた書状を読んで宰相は頭が痛くなった、これは脅し、いや、脅迫だ、殿下はわかっていない、女の為に国が滅ぶような事になったら、それこそ我が国は笑いものだ。

 「陛下、正直、困っております」

 宰相の言葉、心痛な表情に国王は無言になった、自分が築き上げた国が他国から注目されている、たった一人の女のせいで、そして息子の。

 足元が揺らぐような、否、気のせいだと思いながら王座の男は結論を出そうとした、息子の処遇を。 

 

 

 



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