「しおちゃ~ん、起きてー。朝ですよー」
こんもりとした布団、ゆさゆさとする。
「んぅんん、眠いよ~」と布団がしゃべる。
「もう朝ごはん出来るよー。今日は目玉焼きさんだよー。美味しんだよ~」
「んぅんん~」
お布団もとい私のシュガーエンジェルことしおちゃんはお眠なようだ。
昨日夜起こしちゃったからかな。
ふっふふ、ワガママを言うしおちゃんも可愛い。
さて、どう起こそうかな。
私は、しおちゃんにいたずらしたい衝動に駆られてウズウズしてしまう。
自分でも口元が緩んでしまっているのが分かる。
「しおちゃん~起きて~」
布団ごとしおちゃんを抱きしめるように体で包む。
そして囁く、じゃないと、
「食べちゃうぞぉ~」
私は手をワキワキとさせながら、布団に手を入れようとしたとき、
「いいよ」
布団から天使が答える。
完全な不意打ちに、ワキワキとさせた手が止まる。
しおちゃんがひょこぉっと、おふとんから半分だけ顔を出す。
しおちゃんの目と目が会う。
上目遣いで、まだ眠いのか涙目で、トロンしていて、
「さとちゃんになら、食べられてもいいよ。わたし」
そんなことを言ってしまう。
そして、そんなことを言われてしまった私は、
ふにゃふにゃと力が抜けて尻餅をついてしまった。
【幸せ】というこの世のどんなお菓子よりも甘いお菓子がまさに滝のようにしおちゃんから降り注でくる。
胸が一杯。いや、そんなどころじゃない胸が張り裂けそうで。
幸せのお菓子に圧死させられそうになる。
「・・・・・・さとちゃん?」
しおちゃんが、瞼をこすりながら起き上がり、キョトンと首をかしげる。
その仕草がいちいち可愛くて。愛おしくて。
「しおちゃん!!」
衝動のままに、ぎゅぅぅっとシュガーエンジェルを抱きしめる。
触れているだけで、甘い甘い甘い幸せで満たしてくれる天使。
「さとちゃん、苦しい。・・・・・・もう起きたよ」
「本当かな、まだ寝ぼけてるのかも」
もっとしおちゃんに触れていたくて、そんなおとぼけをしてしまう。
ぎゅぅぅっとしてしまう。私の心がいつまでもこうしていたいと言っている。
「むぅ~、もう起きているのに、それなら」
さとちゃん!しおちゃんがそう元気よく私の名前を呼ぶ。
抱きしめるしおちゃんを見下ろすと、
「おはようのチュー」
えいっと、しおちゃんが唇を重ねてきた。
触れ合う唇と唇。
感触を味わう暇もないような一瞬の出来事。
小鳥が愛を囀るようなフレンチキッス。
「えっへへ、おはようさとちゃん」
キッスされちゃった・・・・・・と事実を脳が認識するまでだいぶかかった。
触れた唇に指で触る。
熱い。
そこから伝染するように顔が、胸が、熱くなっていく。
もうこのまま、溶けていってしまうんじゃないかというほどに。
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「今日も、いい天気だね!」
「うん、そうだね」
そう言いつつ、私は気が気じゃなかった。
洗濯物の入った重いカゴをよちよちと危なかしく運ぶしおちゃん。
転ぶんじゃないか、しおちゃんがけがをするんじゃないか、
ソワソワしながら、見つめる。
「おっお、おおお」
しおちゃんの上体が傾く、「しおちゃん!」私は手に持っていた洗濯物を投げ捨てて駆け寄る。
「よっと!」
傾きかけたしおちゃんはなんとか態勢を持ち直し、カゴを地面に置く。
「へっへへ、転びそうになっちゃった」
そういって笑うしおちゃんにほっと胸をなでおろした。
「足元を気をつけなきゃだめだよ?」
「うん!分かったよ、さとちゃん。さぁ太陽さんが眩しい時間に、洗濯物を片付けちゃおう!」
しおちゃんが言うように、今日は快晴。
ザァーザァーと音を立てる海も、穏やかで優しい音色を奏でている。
洗濯物を干す。
といってもしおちゃんとわたしの二人分だ。
しおちゃんが私に手渡して、私が枝と枝の間につるしたロープに引っ掛けて洗濯バサミで止める。
私としおちゃんの共同作業。
手と手が触れるたびに、幸せな気分になる。
「さとちゃん、私役に立ってる?!」
洗濯物を手渡しながら、私の天使はそんなことを言ってくる。
「もちろんだよ!しおちゃん、すっごく助かってる!!」
しおちゃんのふさふさの頭に手を乗せてナデナデしてあげると、くすぐったそうにごろつく。
ああっ~、なんて尊い。
助かってるなんてもんじゃない。
しおちゃんは、私のすべて。
私のシュガーエンジェル、しおちゃんは存在しているだけで価値があるのだから。
それを伝えたい。
でもそれを表現するだけの言葉がこの世にはない。
せめて、思いが伝わりますようにとしおちゃんの頭を撫でる。
朝のたった洗濯物を干すというだけの普段なら日常に埋没してしまうような些細なことでさえ、しおちゃんとなら至福の時間になってしまう。
なんて幸せなんだろうか。
私は、ちらりと寝泊りしている小屋を見る。
木のお家。もちろんログハウスなんて立派なもんじゃない。
ところどころ穴が開いていて、そこに乱雑に板が打ち付けられているような、
お城というにはあまりにもみすぼらしい掘っ立て小屋。
本来なら、こんな朽ち果てるすんでの山小屋のようなところになんかいたせたくなかったが、
「わぁー、見てみて、さとちゃん!今日も海がお星様みたいにキラキラしているよ!」
春の陽気にさらされて、キラキラと輝く海を背景にしおちゃんがはしゃぐ。
潮風が吹き、しおちゃんのツインテールをたなびかせ、私の鼻腔をくすぐる。
すると不思議と肺にしおちゃんが充満して、息をするたびに、不味いものが吐き出されていく感覚がする。
「そうだね、しおちゃん」
なんだかそれが嬉しくて、しおちゃんに後ろから抱き着く。
春の陽気のようにポカポカと温かいしおちゃん。
たっぷりとしおちゃんの甘い成分を吸収しないと、
なぜならこれから、
「じゃあおばあちゃんに会いに行ってあげようか」
しおちゃんが無邪気にそう言う。
私はそれに、ぎゅぅぅっとしおちゃんを抱きしめて答える。
嫌だな。またアレを食べさせれるのは。
「ほらっ、さとちゃん行こう!」
ぐずる私を、しおちゃんが手を引いてくれる。
導かれるように、麓へと降りる道を歩く。
かつては石階段があったのだろう、ところどころにその名残があるが、ほとんど木の根やら苔に覆われている山道のようなそれを降りる。
急勾配で、不安定で、危なかしい。
「
「うん、分かってるよ。さとちゃん」
よちよちと懸命に降りるしおちゃんを見ながら、私は思った。
そう、足元には気をつけないといけないと。
足元には私たちのお城を脅かすとんでもない爆弾が眠っているのだから。
10分近くかけて慎重に降りた先、海へと向かう道をひたすらに歩いていると、
古ぼけた民家が目に入ると同時に、「ああっ、今日も来てくれたんだね」と一人の老婆が出てきた。
「あっ、おばあちゃんだ」としおちゃんがいって、手を振る。
重い。
足に重しがかけられているように重い。
その重さはその家に、その老婆に近付くたびに増していく気がした。
「おばあちゃん、おはよう!」
しおちゃん、私のシュガーエンジェル。
その純真無垢な存在はすべてを浄化していく天使。
だというのにこの老婆はそれを無視する。
まるで存在にすら気づかないというように素通りしていく。
老婆が両手を広げ、私を抱きしめてきた。
ガリガリで、カサカサで、ゴワゴワで、しおちゃんとは比べるべくもない。
そんな老婆が耳元でささやく。
老婆越しに見える古ぼけた家、潮風に長年にさらされて消えかけている表札には【松坂】と辛うじて、でも私にははっきりと見えた。
「お帰り、私の
甘くも、苦くもない。
無味乾燥な愛。
味のなくなったガムのような味が私の口に広がった。
あれ、海外に逃亡したんじゃないの?って思われたかと思います。
それについては、次話で語りたいと思います。