いつもより長文ですが、お付き合いいただけますと幸いです。
「美園、お前さえいてくれればいいんだよ」
老婆がそう言うたびに、口に苦味が広がっていく。
その苦みは全身に広がり、いまだに抜けないトゲのように残る言葉を呼び起こす。
さとうちゃん、これが愛よ
違う。
こんなの愛はじゃない、こんな不味いものは愛とは呼べない。
否定する。頭を振る。
まだ、浄化しきれてなかったんだ。
消えない苦みとリフレインする言霊。
だが、そんなちんけな
「ちかいのことば」
しおちゃんが私にヴェーゼの代わりにブランケットを被せてくれる。
すると溢れ程不協和音のように脳内でリフレインしていた言霊が消える。
「やめるときも、すこやかなるときも」
天使が捧げてくれる祝詞、その一言一言が紡がれていくたびに、私の心は温かくなってくる。
「よろこびのときも、かなしみのときも」
心が震える。
「とめるときも、まずしきときも」
愛が溢れる。
「しがふたりをわかつまで、私はさとちゃんが大好きなことを誓います」
祝福の祝詞をしおちゃんは歌い上げる。
神聖な儀式が終わる。
でも、それが終わりじゃないと私は知っている。
終わりという名の始まり、曇りのない純真な瞳。キラキラの笑顔でしおちゃんは私にこう言ってくれるのだ。
「さとちゃんも、わたしが大好きなことを誓ってくれますか?」
心がポカポカする。
口元が緩む、甘い甘すぎて溶けてしまいそうなほどに。
「もちろんだよ、しおちゃん!」
ぎゅっっとしおちゃんを抱きしめる。
「私はしおちゃんが大好きなことを誓います」
しおちゃんも「さとちゃん、大好き」と抱きしめ返してくれる。
甘い、温かい、つまりは幸せを感じる。
包まれる、これこそが愛なんだと教えてくれている。
抱きしめられた体が熱い。熱を帯びていくのを感じる。
味わったことのない感覚。
でも怖くはない。
だって、しおちゃんが教えてくれる愛は変化するから。
純愛、嫉妬、失う怖さ、
ああっ、しおちゃんは次は何を教えてくれるの。
しおちゃんだって変化する。変化している。
今まで私の言うことを聞くだけだったしおちゃん。
それがここに来る事を相談した。
二人で考えようと責任は、二人のものだと主張した。
それが何をもたらすのか。
私は、更なる愛の進化の予感に、期待と希望、歓喜に体が打ち震える。
「しおちゃん・・・・・・」と私はさらに強く抱きしめてしまう。
だが、しおちゃんの腕の力が抜けてきた。
ふぁ~と耳元に可愛らしい欠伸が聞こえてきた。
「・・・・・・ふっふふ、しおちゃん。そろそろ寝よーか」
「ふぁ~い、さとちゃん」と目が半分閉じかけた表情で体を預けてくる。
私はしおちゃんをゆっくりとお布団に寝かせ、毛布をかけてあげる。
さて私もと思うと、パシリと手首を捕まれる。
「さとちゃん・・・・・・ふたっり、ずっと、いっしょ、だよ?」と片言で、途切れ途切れで、そんな寝言を言ってくれる。
月明かりが照らすしおちゃんの寝顔。
しおちゃんは、いつだって私のシュガーエンジェルだけど、寝顔はとびっきり天使だ。
口元から幸せがふっふふと溢れる。
「どこにも行かないよ、しおちゃん」と声をかけてあげる。
それでも手を離さないしおちゃんを愛おしく思いながら私は毛布をかぶった。
ザァーザァーと波の音が定期的に聞こえる。
いわゆるヒーリング音楽。
仮初、でも砂糖のように甘いお城に漂う少し辛い磯のにおいが鼻腔をくすぐる。
隣には寝息を立てるしおちゃんがいる。
ぷにぷにの手を握ってくれている。
幸せの絆で結ばれているから、もう悪夢は見ないはずだ。
それだというのに、今夜はなぜか寝付けない。
不安、というわけではない。
体が熱い。
風邪・・・・・・とは違うかな。
頭が痛くもなければ、だるさもない。
空いた手でオデコを触るも、熱さはない。
そうもっと別のところ、体の芯?
私は自分の体を弄るように触る。
胸に手を置く心臓が一定の鼓動を奏でている。
それならと、手を伸ばす。
心臓からおへそ、パジャマの中、ショーツへと指を這わせると、
・・・・・・・・・・・・・・・・・・くちゅっと指先に湿り気を感じる。
私は不思議に思い指を出して見てみると、二本の指の間、月明かりに照らされたそこには透明な糸が反射していた。
その意味を考える。
・・・・・・興奮している?
でも、なんで???
何か変なもの食べた?
いやそれならしおちゃんにも症状が出ているはずだ。
しおちゃんを見る、月明かりが私の天使を照らすがおかしなところは何処もない。
ふさふさの髪、ぷにぷにのほっぺ、寝顔は天使。
パジャマのボタンをかけ間違えて一個ずつずれている。
寝がえりに着崩れた胸元から覗く流線型の体に白磁のように白い肌。
スポンジケーキにホイップクリームとくればそこにのるのは、もちろん可愛らしい真っ赤なイチゴ。
美味しそう、食べてしまいたくらいに。
――――ドクンっと心臓が跳ねる。
先ほどまで大人しかった心臓が急激に高鳴りだした。
ザァーザァーザァーザァーザァーザァー
ドクンドクンドクンドクンドクンドクン
その音は、いつの間にか波の音にも負けないくらいに大きくなってきた。
怖いくらいに大きくなってきて、思わずしおちゃんを抱き寄せてしまう。
それでも心臓の音が鳴り止まない。むしろ大きく成った気さえする。
どうして。
早く収まって、しおちゃんが起きちゃう。
ぎゅっと目を瞑って縮こまる。
心音に、しおちゃんの吐息、体感、感触を感じる。
しおちゃん・・・・・・?
それに私はハッとする。
まさか、しおちゃんなの???
そう意識すると、触れ合う肌が熱い。
ああっ、しおちゃん。
私のシュガーエンジェル。
そうなの。そうなのかな。
また愛が変化したみたい。
ただの直感、私がそう感じただけ。
でもそれは確かなものだと思えた。
でも、いいのかな。そんなことして。
この愛は、甘い。
いままでの甘さがキャンディーのそれなら、今度のは蜂蜜。
ドロドロして、溶けていってしまう蜜の甘さ。
それを味わおうと手を伸ばして、
虚空で止まった。
本当にいいの。
そう思ってしまって。
これはしおちゃんが教えてくれた愛の形のはずなのに、戸惑ってしまっている。
これは、冒涜?それとも裏切り?
教えて、しおちゃん!と心で呼ぶ。
答えてくれるはずないのに。
だってしおちゃんは寝ているはずだから。
「・・・・・・さとちゃん」
「―――――っ?!」
声にならない声。
瞬間、電流が体を走りぬけた。
見ればしおちゃんが、私の胸を甘噛みしている。
「だ、だめっ、しおちゃん、刺激がはぅ!」
胸もとを弄るようにしおちゃんの頭が揺れる。
髪の毛がチクチクと肌を指す。
変に敏感になった肌がピリピリとする。
「んぅーん、甘い甘い」としおちゃんは呟いている。
これは、寝ている・・・・・・?
何かを食べている夢でも見ているのだろうか、しおちゃんはおいしそうに私の胸をはむはむしている。
はむはむされるたびに、くちゅっと私から蜜が漏れる。
しおちゃんを引きはがそうとするが力が入らない。
それに、
・・・・・・勃ってる。
体全体が敏感になっているのを感じる。
胸の先端が固くなっているパジャマの布地に触れただけで、「あっ」と息が零れる。
ドキドキ、これしおちゃんにはむはむされたらどうなっちゃうんだろう。
今まで吸われたり、つねられたり、したことはあるが、何も感じなかった。
生理現象のそれで反応することはあっても、熱さはない。
何処か冷めていた。
でも、今は違う。
明確な興奮という熱を帯びている。
はむはむしているしおちゃんの後頭部のつむじを見ながら、私はそっとパジャマのボタンを一つ一つ丁寧に外していく。
肌が露出する、温かくなってきたとはいえ、春先の風はまだまだ冷たい。
でも潮風が体を撫でると熱を帯びた体には心地よかった。
パジャマをはだけさせて、胸を露出する。
「しおちゃん、ここだよ・・・・・・」と胸を寄せて先端をしおちゃんの口元へと誘う。
ぷにぷにのほっぺにこすれるだけで電気が流れる。
あと少し・・・・・・!
胸からしおちゃんが離れる。
半開きの口に、私はえいっ!と胸を突き出すと。
「むみゃ~、もう食べらないよ~」としおちゃんは寝がえりを打った。
「えっ」と虚空を切る。
向けられた背中、寒いのかもぞもぞとして、毛布を弄って。
・・・・・・そのまま、静かな寝息を立て始めた。
えっあっ、噓。そんなしおちゃん、そんなの・・・・・・
「ズルいよ!」と思わず叫んでしまった。
「自分だけ愛を味わっておいて。お願いしおちゃん、ちょっとでいいの、ほんの先っぽだけ、お願い、私にも甘いのをちょうだい」
ねだってみても、プンスカしてみても、しおちゃんはいじわるにも背中を向いたままだ。
「はぁはぁはぁ」
荒い息、火照った体、太ももにつぅーと伝わる蜜の感触。
「どうしたらいいの?」
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「おはよう、さとちゃん。今日もいい天気だね」
翌朝、しおちゃんは変わりはない様子だった。
昨晩のことを聞こうか・・・・・・と思ったが、しおちゃんは覚えていないだろうと思って辞めた。
「おはよう、しおちゃん」と返す。
あの後は、なかなか寝付けなくて大変だった。
外の出てしばらく潮風に当たってなんとか熱を冷まして、それでも寝つけたのは朝方だけど、だから今はちょっと眠い。
でもしおちゃんを心配させまいと私はいつも以上ににこやかに笑う。
元気に見せる。
朝食の準備に、片付け、天気がいいから洗濯物もしよう・・・・・・なにせシーツを汚してしまったから。
私は慣れた手つきで布団をたたみ、洗濯物をまとめて外に出る。
日差しが熱い。
これなら今日中に渇くだろう。
「さとちゃん、洗濯物手伝うよ」
としおちゃんは、トコトコと近づいてくる。
うん、お願いねと言おうとして、私はシーツのことを思い出す。
「しおちゃん、これは私がやっておくから家で休んでて」
「ええっー、大丈夫だよ。さとちゃん、私も手伝う。二人でやったほうが早いもん」
としおちゃんが無邪気に言う。
「本当に私一人出来るから」
「もうさとちゃんばかり、わたしだって出来るもん!」
「そういうことじゃないんだけどな」
「ほらっ、貸してさとちゃん」としおちゃんが私の抱えている洗濯籠に手を伸ばすのを、
「いいから!!」と叫んでしまい、ハッとする。
「・・・・・・さとちゃん?」
「えっあっ、・・・・・・そのしおちゃん違うの」
しおちゃんの大きなお目目が驚きに見開かれている。
まずい、なんであんな拒絶するようなことを言ってしまったんだろう。
ここで何か言わないと、と思うが、
口がパクパクとして言葉が出ない。
「えっーと、家の掃除でもしててくれないかな。二人で手分けしたほうが早いと思うし」
私の言い訳を聞いているのか聞いていないのか、しおちゃんの目が洗濯籠に行く。
びくりと私はそれを隠すように背中に回した。
そして、しおちゃんはそれを見て、なぜかニッコリとして笑った。
「分かった。さとちゃんが言うように家の掃除しておくね!」と言って、トコトコと家に向かっていった。
ごめんね。しおちゃん、しおちゃんに見られるわけにはいかなかったから。
ほっとしながらも私は洗濯籠を持ち直して洗濯機が置かれた小屋へと向かう。
そうえいば何を見たんだろう、洗濯籠を覗くと上にのったシーツそして、
「あっ、」
慌てて詰め込んだからか、シーツのそれも水たまりの後が残る部分が表に出ていた。
おねしょ、だとでも思っているのかな。
クスッとしてしまう、それならとても好都合だと。
洗濯機に洗濯物を入れる。
とても古く二層式と呼ばれるタイプで、最初は戸惑った。
蓋が二個ついていて両方使えるのかと思ったら、なんと洗うのと脱水するのとで層が違うのだ。
とっ、そんな思い出話はどうでもいい。
私は自分の洗濯物を乱雑に入れ、しおちゃんの洗濯物を手に取る。
後ろを見る、誰もいない。
それを確認して、私は思いきり嗅いだ。
昨日のなんだったのかを確かめるために、そうこれは必要な行為。
しおちゃんの匂いが鼻を抜け、肺に、脳に、充満する。
くらり、っと足元がぐらつく。
「はぁはぁはぁ」
これはやっぱりそういうことなんだろう。
動悸が早まる。昨日冷ましたはずの体の芯の熱がボッと読み上げる。
また蜜が溢れ出そうとしているのを感じる。
やっぱりしおちゃんの愛はまた違う形へと進化したんだと思った。
私はもう一度嗅ぐ。
みるくの匂いを感じた。
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洗濯物を干し、朝食を終える。
「だめだよ、さとちゃん」としおちゃんが約束は守らないとという。
だが、思わずため息が出てしまう。
日課である門番の様子をうかがいに老婆の家へと行かなければならない。
憂鬱だが、致しかないこの不安定な仮初のお城が壊れることを防ぐ必要があるから。
「今日もおばあちゃん元気かなー」としおちゃんが手を引っ張ってくれる。
それでなんとか行くことが出来る。
苦みを最小限に収めることが出来る。
今日も今日とて、ちかいのことばとは逆の呪詛の言葉を吐かれる。
「美園、今日も来てくれたんだね。わたしの美園」
それが愛だとばかりに老婆は言う。その声を、聴くたびに無性に思い出してます。
「さとうちゃん、これが愛のなのよ」っていう言葉を。
それをなんとか今日も乗り越える。
老婆の家を出て、
老婆が「もう行っちゃうのかい」というのを振り向きもせず、無視する。
しおちゃんが「またね、おばあちゃん」と返事をするのが聞こえる。
ああっ、早く。帰ろう砂糖で出来たお城に。
この口元に広がる苦みを消すために。
いや、それどころか。
新しい愛について、しおちゃんと意見を聞くというのもいいかもしれない。
トロットロッな甘い蜜の愛を。
そう思うと、自然と足早になる。
だからだろう、私は油断してしまった。
その可能性に気づかなかった。
もっと考慮して、安全に、慎重に、ことを進めるべきだった。
だが、いまさら後悔しても遅いその時は訪れてしまったのだから。
カシャッ!と、シャッター音が聞こえる。
それに私は反射的に振り返る。
老婆が?
いやそんなことしないだろう、じゃあ誰が?
その答えを脳が導きだす前にシャッターを押した人物が視界に飛び込んでくる。
「なんで」
自然と目が見開かれる。その光景が信じられなかったから。
そして、そのなんでには二つの意味があったから。
なんで写真を取っているの?というものと。
あと一つそれが、私の思考を真っ黒に染める。
「なんで」
――――生きてるの?
「さとう・・・・・・やっと見つけた」
「しょーこちゃん」
スマホを片手に佇むのは紛れもない私の友達だった少女。
飛騨 しょうこが立っていた。
本日5/4はしょうこの誕生日ですね!
しょうこちゃん、誕生日おめでとう!!
自分のSSでは生きてますのでしっかりお祝いできますね!
次からは、さと×しょー予定です。
第一部はプロローグ的な意味合いがありました。
第二部から、本編なイメージです。
章タイトル
「小鳥はヘタクソな愛を歌う」も宜しくお願い致します。