ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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第91局 望んだ展開

 

 

いつからだろう。

麻雀の動画を……クラリンの動画を見るようになったのは。

 

 

「あ……そろそろクラリン先生動画の配信の時間ですね」

 

慣れた手つきで、今まさに行っていたネット麻雀のウィンドウを閉じる。

それとほぼ同時に開いたのは、大手動画配信サイト。

 

和の瞳が、暗いパソコンのディスプレイに映っている。

 

 

「今日の動画は初心者編ですか……ふむ。初心に返って勉強することにしましょうか」

 

今日アップされたクラリン動画のサムネイルには、可愛らしいフォントで「初心者編」の文字。

前までは見る気すら起きなかったにも関わらず、今では過去の動画まで含めて全て視聴済みだ。

 

再生ボタンを押す。

 

 

 

『はい、どうも皆さんこんにちは。先日ドラ3配牌で勢いよく東をポンしたら南場だった、クラリンです。今日はですね……』

 

 

「いつもいつも面白いですね……」

 

 

口元を抑えて、小さく笑う。

 

今まではひたすらにネット麻雀にふける毎日だったのが、確実に変化している。

ネット麻雀では鍛えられない部分があることを知った。

 

クラリンが教えてくれたものは、麻雀の可能性。

確率を飛び越えた和了りが頻発するプロ麻雀界に嫌気がさしていた和が見出した希望の光。

 

 

クラリンのおかげで、和は麻雀という競技を、また好きになれたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、迎えたインターハイ。

 

 

そのクラリンが2つ上の先輩であることを知った。

 

 

 

信じられないと思った。

 

すごいと思った。

 

憧れた。

 

 

 

それと同時に。

 

 

 

 

 

()()()()()()と思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和が、多恵の下家に座る。

 

上気した息を整えるように、一つ息を吐いた。

 

夢にまで見た多恵との、クラリンとの対局。

自分の腕がどこまで通用するのか、早く対局してみたい。

 

 

和が自分の手を握りしめたそのタイミング。

 

3人目の対局者が対局室に現れた。

 

 

「私もついてないなあ……なんで姫松の倉橋さんとインターミドルチャンピオン様と同じ卓なのかねえ……」

 

「……よろしくね?臼沢さん」

 

「ありゃ、名前覚えてくれてるのか~」

 

臼沢塞。

宮守女子の3年生。岩手の県予選を突破した彼女は、この予選Bグループを4位で最終戦にすべりこんだ。

 

 

「メンバー見た時からこりゃダメだって思ってたんだけど……やるからには全力でやらせてもらうよ~?」

 

「臼沢さん上手いから。そんなダメなんてことないでしょ」

 

「倉橋さんから褒められた?!ヤバイ、嬉しい。シロに自慢しよっと」

 

あくまで平静を装いながら、塞が多恵の対面に座る。

塞は口ではこう言ってはいるが、内心は緊張しっぱなしであった。

 

初めての個人戦。

存外の幸運もあって、グループ最終戦に残ることができた。

相手は強者揃いだが、それでも勝ちたいという想いはもちろんある。

 

震える手を無理やりポケットに突っ込んだ。

ポケットから、モノクルを取り出す。

 

 

(さあ……最強の騎士討伐といこうじゃないの……)

 

最初から負ける気なんてつまらない。

 

塞は勝つ気だ。

 

 

これで、あと一人。

 

 

 

 

 

 

 

「あら、最後でしたか……よろしくお願いしますね」

 

 

亜麻色の髪が、わずかに揺れるほどのセミロング。

 

 

右目を閉じた大人びた少女が、そこに立っていた。

 

 

「福路さん……1年ぶりかな?……今日はよろしくね」

 

「ええ。倉橋さん、お手柔らかにおねがいしますね」

 

福路美穂子。

彼女は長野の名門校、風越女子の部長を務める3年生だ。

多恵とは去年の個人戦で対戦経験もあり、多恵もその実力を認めている。

 

多恵が椅子に腰を下ろした美穂子へと声をかけた。

 

 

「来年は団体戦で会いましょう……って言ってたけど、相手が強かったね」

 

「ええ……ここにいる原村さんも含め……とても強いチームでした」

 

「そんな……ありがとうございます」

 

そんなことはない……と言いかけて、自分の仲間が弱いと言うのも変だと思い、素直な感謝を口にする和。

和は長野勢の合宿等で美穂子の打ち方を知っているが、やはり和も美穂子を一目置いている。

そもそも長野県個人予選でのトップ通過は美穂子なのだ。

 

到底油断できるような相手ではない。

 

 

(先生との対局を楽しみたいところですが……他2人も全くあなどれませんね……)

 

全員が卓に着く。

 

対局室に大きめなブザーが鳴り響き、Bグループ最終戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さあ!いよいよ大注目のBグループの対局です!!やっぱり注目は、姫松高校の倉橋選手と、インターミドルチャンピオンの原村和選手ですかね?!』

 

『確かにその2人が有名かもしれませんが、その原村選手を抑えて長野予選トップで勝ち上がっている福路選手は長野の名門校の主将ですし、臼沢選手は団体戦でもとても良い立ち回りをしていました。……誰が勝ち上がっても、おかしくないと思いますよ』

 

『さっすが!!高校から麻雀をはじめてインターハイを制した人は言うことが違いますね?!』

 

『それめちゃくちゃ印象悪いからやめて?!』

 

 

 

 

 

 

 

 

東1局の配牌が配られている。

 

席順は、塞、美穂子、多恵、和の順番だ。

 

 

個人戦のルールは団体戦と違い、半荘1回勝負。

より短い期間で結果を出すことを求められる。

 

 

インターハイ会場で、そんなBグループの対局を見つめる1つの集団があった。

 

 

「キャプテン……めちゃくちゃ相手強いけど大丈夫かなあ……」

 

「のどちゃん頑張れえ~!!タコスの仇~~~!」

 

心配そうに美穂子の表情を伺うのは、風越女子2年の池田華菜。

美穂子を慕う彼女は、個人戦が始まってから美穂子につきっきりだった。

 

そして言わずもがな、その隣で和を応援するのは、清澄高校1年、片岡優希。

清澄の面々も、和の応援に来ていた。

 

対局前に、「優希の仇、とってきますね」と和が言ったこともあり、特に優希は応援に熱が入っている。

 

 

「それにしても不憫ねえ……まさか同じグループに長野県勢が2人も入っちゃうなんて……」

 

「去年のベスト4以外は完全にランダムじゃからのう……仕方ないわ」

 

美穂子と和は同じ長野県代表。

しかし同じ県の代表は同じグループにならないというきまりはなく、今回のように同じグループになってしまうこともしばしばあった。

 

 

「しかも相手はあのクラリンこと倉橋多恵……さて。どうなるかしらね」

 

「え、え?!姫松の倉橋ってあのクラリンなんだし?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東1局 親 塞

 

 

塞が配牌を受け取って、1打目を切り出す。

 

塞の得意とする戦法は相手の手を、力を塞ぐこと。

対象は1人にしか指定できないので、誰をマークするかを考える必要があるのだが。

 

塞の視線が、対局者3人の表情を捉える。

 

中でも存在感を放つのは、やはり対面に座る多恵。

 

 

 

(まあ……倉橋さん……になるよねえ……)

 

団体戦で対局した白望から、多少の情報はもらっている。

そして塞自身も白望との対局を見て重々承知していた。

 

間違いなく。必ずマークしなければいけない相手。

 

しかし、塞ぐにあたって一つの不安が塞にはあった。

 

 

(さて……こんなめちゃくちゃ強い人を塞いで、私の体力はどこまで持つのかな……?)

 

塞ぐ代償。

 

団体2回戦でも、塞は新道寺女子のエース、白水哩を塞ぎにいって、とてつもない体力を持っていかれた経験がある。

哩の場合は姫子との絆の力というのもあるが、おそらく目の前の少女は、単体でその力を凌ぐ可能性すらある。

 

安易に何回も塞ぎにいって、途中でガス欠では話にならない。

 

ひとまず塞が、手牌を見やった。

 

 

 

塞 配牌 ドラ {7}

{③④赤⑤⑧⑧⑨2467三五九}

 

 

 

自然とタンピン系の手が見え、そして赤とドラが1枚ずつ。

決して悪くない。

むしろ親でこの配牌は上出来といったところだろう。

 

そしてこれは個人戦。半荘1回勝負なのだ。親は、2回しか巡ってこない。

 

 

(大事な親番……塞ぐタイミングは考えようと思ってたけど、むしろここしかない。よし……!1番危険な倉橋さんを塞ぐ……!)

 

決断は早かった。

こういった誰かが必ず和了るとわかっているようなケースで無い以上、現状1番警戒しなければいけない相手を塞ぐのは道理。

白望の対局を見ていることもあって、塞の多恵に対する警戒心は最高レベルにまで引き上げられていた。

 

塞のモノクルが光る。

 

今まさに山へとツモりにいっていた多恵の手が、ピクリと止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(え……?)

 

 

何かがおかしい。

 

確かに今、塞は多恵の力を塞いだ。

塞ぐという行為が成功した確信はある。

何度も使ってきた能力なだけに、手ごたえに間違いはない。

 

しかし、いつも誰かの力を封じる時に感じるような()()を全く感じなかった。

相手が強ければ強いほど、体力を削られるはずの能力なのに、全く体力を削られることなく、簡単に多恵の力を封じることができた。

 

まるで最初から塞がれるのを望んでいたのかのように。

 

 

 

塞の頭が、一つの仮説に辿り着いた。

 

 

(まさか……?!)

 

 

 

塞の全身を、一瞬で悪寒が駆け巡る。

 

それも無理はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

対面に座る少女はにこやかに()()()いたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

塞が、美穂子が、和が、驚いたように多恵を見つめた。

 

中でも塞が一番、背中に冷たい汗が流れるのを感じている。

 

 

 

まさか、この少女は。

 

 

 

 

 

「このメンバーとやるなら……()()が良いなって思ってた」

 

 

 

 

 

自ら()()()にいったというのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーし……じゃあ……麻雀、やろっか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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