ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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気付けば感想1000件超え……!ありがとうございます!
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皆さまからの感想がなかったら確実にここまで続いていないですし、スレ回なんかは感想からアイデアを頂いていたりと、感想の力を日々感じております。

これからも沢山の感想お待ちしていますね!




第92局 理牌のクセ

 

 

 

予選Bグループ最終戦。

その様子を眺めるのは、清澄や風越のメンバーだけではない。

 

個人戦とはいえ、控室は出場校に用意されており、今対局を行っていないメンバーは控室のモニターでBグループの様子を眺めていた。

 

 

「多恵、楽しそうやんけ」

 

「まあ、メンバー見て喜んでたくらいやからな……ホンマに多恵は麻雀バカや……」

 

頭を抱えながらそう話すのは、DグループとGグループで最終戦まで残った洋榎と恭子だ。

2人の出番はまだ少し先で、今は控室で多恵の対局を見守っていた。

 

 

「長野代表の方も、強い人なんですか?」

 

「福路美穂子……去年も個人戦出とったし、なんやったら1年の時から団体戦のメンバー入っとった気がするわ。得意なんは、理牌から相手の手牌構成を読んでの決め打ち……精度が高いから、打ち方的には主将と似てるところあるかもしれんな」

 

モニターを眺めていた漫からの質問に、恭子が手元の資料をぱらぱらとめくりながら答える。

美穂子の読みは、洋榎や多恵が行っているものとは異なる。

 

彼女は人の理牌のクセを瞬時に見抜き、手出しの位置からあらかたの手牌構成を見抜くことができる。

 

洋榎が恭子の解説を聞いてから、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

「へえ……まあ、そんなもんやったら……多恵の敵やあらへんやろ」

 

「油断はできませんが……ウチも主将とあらかた同じ意見です」

 

 

姫松のメンバーは、多恵の勝利を信じて疑わない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東1局 親 塞

 

 

 

「聴牌」

 

「ノーテンです」

 

「聴牌」

 

「ノーテン」

 

親の塞から順に、手牌が開かれる。

早々にリーチへとたどり着いた塞だったが、徹底的にオリに回った2人と、回りながら最終的に聴牌にこぎつけた多恵に聴牌をとられて流局となる。

 

美穂子が多恵によって開かれた手牌を見つめていた。

 

 

多恵 手牌

{②③④888二二四四} {横⑨⑦⑧}

 

 

(相変わらず危ない牌は残して形聴までよくとりますね……けれど、理牌のクセは、変わっていないようです)

 

 

基本的にテレビ放映されている対局では理牌が推奨されている。

プロの中では理牌をせずにぐちゃぐちゃのまま麻雀を行う人間もいるのだが、それでは視聴者に優しくない。

 

多恵は前世からのプロ生活も相まって、基本的に丁寧な理牌をする打ち手だった。

 

そしてその理牌の順番、切り方のクセを、美穂子は何十回と研究してきている。

 

 

(ここからは、全力で行かせてもらおうかしら)

 

美穂子が、閉じていた右目を開く。

その開かれた瞳の色を見て、塞が少しだけ驚いたような表情。

 

 

(風越の人……右目を開いた……なんか不気味……)

 

普段の彼女の薄い金色の瞳の色とは全く違う蒼い瞳。

そこから感じられるプレッシャーを感じつつも、塞は積み棒を置いてサイコロを回すのだった。

 

 

 

 

東1局 1本場 親 塞

 

 

「ポン」

 

多恵の声が響く。

2巡目に出てきた{白}をポンした。

 

下家の和が警戒をあらわにする。

 

 

(先生の1鳴きの基準は高い。……ですが、ここは半荘一回勝負の個人戦。少し速度に比重を置いていると考えるべきかもしれませんね)

 

多恵は面前も鳴きも使用する、いわゆるオーソドックスな打ち手だ。

鳴きに偏ることもないし、極端に鳴きを嫌うわけでもない。

 

状況に合わせて様々なスタイルを選べるのが、多恵の強みといえた。

 

その多恵が、役牌1枚目を鳴いてきた。

 

役牌1枚目を鳴くという行為は、様々な可能性を内包している。

役牌あったら1枚目から鳴くっしょ、という晩成の1年生は別だが、多恵ほどの打ち手になると、手牌の可能性は3つほどに絞られる。

 

 

(安牌用の字牌があるか……ドラがたくさんあるか……速度が相当早いか……かな)

 

親の塞も、モノクルをかけなおしながら多恵の仕掛けを見つめていた。

 

 

 

『おお~っと!ここで西家に座る倉橋選手が白をポン!一気に緊張感が卓を支配している~!!』

 

『あまり1鳴きをしない倉橋選手の1鳴きですから、他選手の警戒度はかなり高いでしょうね。手牌の評価はかなり高くなってそうです』

 

 

解説の健夜も、多恵以外の3人の心情を的確に読み取っていた。

 

とはいえ1鳴きしたから安牌切らなきゃ、などと言っていれば、麻雀にならない。

 

美穂子が牌をツモりに行く。

 

 

6巡目 美穂子 手牌 ドラ{三}

{⑥⑦⑦23367三四赤五六八} ツモ{七}

 

 

絶好のツモ。

これで完全一向聴へととることができる。

打牌候補は{2}か{⑥}。三色の可能性を残すとすれば、ここは一択だろう。

 

美穂子が切り出したのは、{2}だった。

 

 

「チー」

 

その牌を、多恵が鳴く。

 

 

多恵 手牌

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {白横白白}

 

この状態から、多恵から見て右端の牌1枚を残して、その隣にあった2枚を掴むと、{13}の形で右端へと晒す。

そうして1枚だけポツンと残った右端の牌を、河へと切り出す。

 

その牌は{5}だった。

 

多恵 河

{北九①⑨発三}

{七5}

 

 

美穂子が、右目を開けて多恵の手牌をもう一度見つめる。

 

({135}の形から{2}をチー……おそらく聴牌が入りましたね。右端が{135}であったなら手牌構成は……)

 

 

多恵 手牌

{裏裏裏裏裏←筒子 裏裏←萬子}

 

美穂子の目は、相手の手牌の種類を見抜く。

多恵の萬子と筒子の切り出しをしっかりと見ていたからこそ、高い精度で多恵の手牌を読むことができる。

 

塞が、多恵の2鳴きに警戒しつつも、ツモへと手を伸ばした。

 

 

(私が塞ぐことができるのは、なにも能力だけじゃない。おそらく手牌にも影響が行っているはずなのに、鳴きを駆使して和了りを引き寄せようとしてるのか……でも、ツモは別)

 

塞の塞ぐ力は、能力に制限をかける意味合いの他に、相手の手牌進行速度を遅延させる力もある。

おそらく多恵はそれを考慮して役牌を1枚目から仕掛け、更に鳴きを入れているのだろう。

 

しかし、ツモることができなければ、和了るためには「ロン」しかない。

塞ぐ能力がちゃんと働いているこの状況では、よほどの待ちで無い限りツモは難しい。

 

そこまでたどり着いて塞は、一つの仮説にたどりついた。

 

 

(待てよ……なにか、何かある)

 

切り出そうとしていた牌を手牌に収め、少し手狭になるが現物の牌を河へと切り出す。

もし多恵が自力でツモることが難しいと感じているならば、狙いは「ロン」和了。

 

だとすれば、なにか罠を張っている可能性が高い。

 

この塞の判断は、実は正しかった。

 

 

 

美穂子 手牌

{⑥⑦⑦3367三四赤五六七八} ツモ{7}

 

 

両面の比較。

{⑧}が河に2枚見えている分、筒子のフォローは外したくない。

 

 

(倉橋さんに、この牌は通る)

 

美穂子はなんの疑いも無く、この{7}をツモ切りとした。

美穂子の目から、もう多恵の手牌に索子は残っていない。先ほど晒したカンチャンターツが最後だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロン」

 

 

 

 

 

 

 

巧者ほど、巧者の罠に嵌りやすい。

 

美穂子の体が、驚きでビクりと震える。

 

 

 

 

 

多恵 手牌

{5678889} {横213} {白横白白}

 

 

 

 

「3900は4200」

 

 

 

 

 

(全部索子……?!そんな……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『きいまったああ!!Bグループ最初の和了りは姫松高校倉橋多恵!高目満貫の聴牌でしたが、ここは3900の和了りだあ!!』

 

『福路選手、かなり驚いてますね。もし予想しない何かがあったのなら、早めに修正しないと取り返しのつかないことになりそうです』

 

『え、そんな驚いてました?今』

 

 

多恵の和了りに、会場が沸く。

 

そんな中で、頭を抱える少女が一人。

 

 

「うわああキャプテンいきなり放銃だし……!キャプテン放銃率めちゃ低いのに……!」

 

「倉橋多恵……完全に理牌をずらすことで、美穂子の読みを外させた……鳴き方も上手かったわね……」

 

泣きそうな表情で必死に応援する華菜の隣で、冷静に久が今の局を振り返っていた。

 

序盤から全員の安牌を持ちながらの進行、更には筒子や萬子の孤立牌を的確に真ん中付近から切ることで他のターツを予感させ。

鳴き方を、右端からあたかも索子は{135}のターツしか残っていないかのように切り出した。

 

 

「ありゃあちょっと手つけられんバケモンじゃからのう……」

 

「普通に打っても強いのになんていうか……リアル打ちに精通しすぎてるわね……」

 

言うまでもなく美穂子は強い。

ここにいる長野県勢はそんなことは百も承知だ。

 

しかし上手いからこそ、この姫松の少女に翻弄される。

 

 

「鶴賀の妹尾ちゃんでもぶつけてみたら案外勝てるかも?」

 

「……クラリンの動画に『初心者の打ち取り方』って動画があったわい」

 

「万事休すね……」

 

無慈悲なまこからの進言に、久は力なく首を横に振るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中央に牌を流し込みながら、美穂子が一つ息を吐く。

完全に読みを外された。

 

下家の多恵を見やる。

 

 

(自分の理牌のクセを理解しているから、あえてそれを利用して罠を張った……まったく、敵いませんね……)

 

こうなってしまえば、美穂子は多恵に対して安易に手牌読みを行うことができない。

他2人はまだしも、多恵については完全に白紙に戻ったようなものだ。

 

しかし、絶望することはない。

 

 

(理牌の読みができなくてもできる読みはあります。むしろ早い段階で知れてよかった。ここからは……地力勝負です)

 

この読みに頼りきってきた打ち手なら、ここで勝負が決まっていただろう。

しかし美穂子はそうではない。

 

 

(応援してくれる風越の皆のためにも……そう簡単には負けません……!)

 

美穂子が上がってくる手牌を理牌する。

 

その表情は真剣そのもの。

 

 

 

 

(……いい感じに火つけちゃったかな?)

 

また配牌4向聴の手牌を苦笑いで受け取りながら、多恵はそんな美穂子の様子を眺めていた。

 

 

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