ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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第96局 1年間

 

 

 

『個人戦準々決勝、決着です!!やはりトップ通過は倉橋多恵!強さを見せました!今年はなんとしてもチャンピオンを倒すという意気込みが伝わってきます!』

 

 

この時のアナウンサーは、今年はいないのだろうか。

 

去年、自分が個人戦敗退となった日。

 

何度この映像を見ただろうか。

美穂子が初めて対局したときは、本当にこれが同級生なのかと疑ってしまうほどに倉橋多恵という少女は強かった。

 

ひたむきに論理を組み立て、それを実践できる頭を持ち、強者と相対しても引けを取らない強い精神と意志。

 

 

自然と、この少女に負けてしまうのは仕方がない、と思ってしまった。

なんとなく、今年はこの少女が全国制覇を成し遂げるのだろうと思った。

 

 

しかし、現実は違った。

 

インターハイ個人決勝。

異例となる全員が2年生という個人決勝卓で、荒れ狂う打点の荒波にもまれ、倉橋多恵は3位で個人戦を終えていた。

 

 

何を信じていいのか、わからなくなった。

 

こういった経験が初めてだったわけではない。

 

プロの対局を見れば偶然とは思えない和了りが連発し、理論を突き詰めたはずの人間が次々と麻雀をやめていく。

風越女子を卒業した強い先輩たちも、麻雀は高校まで、と言って大学からは牌に触れていない人も多い。

 

 

わかっていたはずだった。

これが現実であるということは。

 

しかしなぜか、美穂子の選択肢に、「麻雀をやめる」という選択肢だけはなかった。

 

 

いつからなのだろう。

 

自分の可能性を信じてみたくなったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さあ!Bグループ決勝も佳境!残すところ最短で2局というところですが、ここで倉橋多恵選手の親番!!』

 

『ある程度の点差がつきましたから……稼ぎにくるかもしれませんね』

 

『ひええ~!怖い怖い親番!この親番をしのいで決勝トーナメント進出を勝ち取るのは一体誰になるのかあ~!?』

 

 

 

美穂子は少し、去年のことを思い出していた。

 

多恵に敗れ、個人ベスト16で敗れた去年。

今年のグループ予選の組み合わせを見て、多恵がいることに喜んでいる自分がいた。

 

 

(私の1年間……無駄であったはずはありません)

 

両目を閉じれば浮かんでくる。

声が聞こえてくる。

 

自分を慕って、ついてきてくれた後輩たちの声が。

 

あの子たちが来年からに希望を持つためにも、自分がここで負けるわけにはいかない。

 

 

美穂子の両手に、力が入る。

 

 

 

 

南3局 親 多恵

 

9巡目 多恵 手牌 ドラ{9}

{④⑤⑥⑦⑧2224赤567一} ツモ{7}

 

 

盤石の一向聴から、聴牌へと手が進む。

平和になれば一番ベストであったのだが、この聴牌も悪くない。

 

余剰牌は、残しておいた全員に通る安全牌。

 

一通り全員の河を見渡した多恵が、無慈悲に千点棒を場へと投げた。

 

 

「リーチ」

 

 

『キタキタキタ~~!!!倉橋多恵選手先制リーチ!!誰もこの勢いを止められないのかあ~!?』

 

『……実力者揃いの彼女たちならわかるはずです。この状況で倉橋選手がリーチを打ってくる、ということの意味が』

 

 

苦い顔を隠そうともせず、塞がツモ山へと手を伸ばす。

解説の健夜が言うように、このリーチの意図がくみ取れない塞ではない。

 

 

(点差が離れたとはいえ……倉橋さんが無意味なリーチなんか打ってくるわけがない。待ちと、打点。それなりにあるはず……!)

 

トップ目の親からのリーチ。

リーチが入った瞬間、塞は多恵を必死に塞いだ。

もし多面待ちのリーチであった場合、もう塞ぐ力が甘くなっている今の状態では簡単に一発ツモされてもおかしくはない。

太ももをつねって気合を入れなおし、塞はまず多恵にツモられることを止めに行った。

 

ここで親の満貫以上をツモられたら、チェックメイトだ。決勝トーナメント進出1枠は完全に諦めなければいけなくなる。

それがわからない塞ではない。

 

 

 

11巡目 美穂子 手牌

{①③赤⑤7899一二三五五六} ツモ{七}

 

 

一向聴。

美穂子がゆっくりと右目を開く。

 

 

(全員のブロック……原村さんは先ほどの打牌で形を崩しましたね……臼沢さんは、粘りながら回ってる。……そして倉橋さん。私の読みが正しいとするなら……)

 

と、そこまで考えて、美穂子にとって嫌な記憶が蘇る。

東場で、美穂子は多恵に理牌読みを逆手にとられた。

 

美穂子の強みは、並外れた観察眼による相手のブロック読み。

 

相手がどこのブロックを使っているのかを的確に把握し、放銃を軽やかに避けていく。

時に他者の道を開き、時に自身の和了りへと結びつける。

この力を、1年間磨き続けてきたのだ。

 

目の前にいるはずなのに、背中がとても遠くに感じた去年とは違うはず。

 

美穂子の1年間の努力が、一つの答えへとたどり着く。

 

 

(読みが正しければ……待ちは筒子です)

 

誰だって、断定するのは怖い。

また先ほどのように狂わされていたら、と考えてしまう。

 

しかし美穂子は、迷わなかった。

 

 

持ってきた{七}を手中に収めると、{五}をリリース。

 

 

(倉橋さんの手牌に萬子はない……そうですよね)

 

(来るんだ……変わったね、福路さん)

 

 

開かれた蒼の瞳が、多恵を射抜く。

 

 

 

 

 

13巡目 美穂子 手牌

{①③赤⑤7899一二三五六七} ツモ{9}

 

 

(……!)

 

 

聴牌だ。ドラを重ねての聴牌という僥倖。

しかし、聴牌を取るために切らなければいけないのは。

 

 

(筒子……)

 

美穂子が得意とするのは、ブロック読み。

洋榎の読みと少し異なるのは、洋榎がピンポイントで当たり牌を読みに行くのに対し、美穂子の読みは危険なエリアを的確に把握する読み。

 

そしてその読みと照らし合わせた結果、この筒子のスジは非常に怖い。

 

ここで放銃に回れば、敗退は免れないだろう。

そう思ってしまうから、右手の震えが収まらない。

 

 

美穂子が深く、息を吐いた。

 

酷使しすぎた目を1度閉じる。

 

引くか、攻めるか。

美穂子の1年間が試される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『キャプテン!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リーチです!」

 

 

 

 

 

 

強く放たれた牌。

その牌は、赤かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『福路美穂子選手!!リーチに踏み切ったああああ!!!赤を切ってのリーチ判断となりましたが?!』

 

『これは……とても怖いところですが、{②}になら和了りがあると思ったのかもしれません。それに、出和了りなら既にドラ3なので打点が変わらないですからね』

 

美穂子の読みは、相手手牌のブロックを読む。

 

となれば、当然山に残っている牌を読む「山読み」も必然的にできるわけで。

 

 

 

 

筒子の下の方が山に残っていることを、美穂子は読み切った。

 

 

 

決着はすぐに訪れる。

 

 

 

 

 

「ツモ」

 

 

静かに、美穂子が手牌を開く。

洗練された動作だけに、淀みがなく、美しい。

 

 

 

 

 

美穂子 手牌

{①③78999一二三五六七} ツモ{②}

 

 

 

 

「2000、4000です」

 

 

 

 

『きいまったああああああ!!!!大きすぎる満貫ツモ!!だいっちゅうもくのBグループ決勝はオーラスへ突入だああああ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

点数状況

 

 

東家 臼沢塞   13700

南家 福路美穂子 25000

西家 倉橋多恵  38600

北家 原村和   22700

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後がないオーラス親番。

 

先ほどのツモ和了りで美穂子に上をいかれてしまったのは痛いが、和は何かしらを和了れれば美穂子をかわして多恵と共に決勝トーナメントへと行ける状況だ。 

 

やることは変わらない。

いつも通り、最善を尽くすのみ。

 

そう言い聞かせて、和がエトペンを左手に抱えながら、右手で配牌を器用に開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

南4局 親 和

和 配牌

{334566677899⑤} ツモ{六}

 

 

 

 

 

 

 

 

心臓が、跳ねた。

 

 

 

 

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