ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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番外編5 クラリンと記者会見 (挿絵アリ)

 

 

――――インターハイ団体戦決勝前夜。

 

 

 

 

 

 

『これから、優勝候補と名高い姫松高校の記者会見が始まります!あっ!今選手たちが入ってきました!!』

 

 

カメラのシャッター音が鳴り響く。

正面の白い長椅子の前に歩いて入ってきたのは、今年のインターハイを大いに沸かせている姫松高校のメンバーたち。

 

先頭に赤阪監督代行が歩き、その後ろに多恵、漫、洋榎、由子、恭子と先鋒から順に並んだような配置だ。

 

今日はいよいよ明日に控えた団体戦決勝を前に、各校行われる伝統の記者会見。

選手の意気込みであったり、他校への対策であったり、内容は様々。

それらが今日の夜に放送される特集番組や明日の新聞の朝刊に載るわけである。

 

全員が席についたことで、司会役の女性がマイクを持つ。

 

 

『それでは準備が整いましたので、これから姫松高校の決勝前夜記者会見を始めたいと思います』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会見開始から15分程度。

ある程度の質問を終え、比較的和やかな空気で会見は進んでいた。

 

 

『それでは、今から記者の方々からの質問を受け付けます。質問のある方は手を挙げてください』

 

そう司会が声をかけると、次々に記者から手が挙がる。

司会役の女性が少し迷った後、一番前に座っていた女性にマイクが手渡され、最初の質問者となった。

 

 

『次鋒を務める上重選手に質問です』

 

「うえ、わ、私ですか……?」

 

漫は終始緊張していた。

初の記者会見、それもこんなに多くの人間の前で話すことも今まで無かった漫からすれば当たり前の話ではあるのだが。

 

怯えながら隣を視れば、多恵がにこりとこちらに笑ってくれる。

それだけが漫の救いだった。

 

 

『上重選手はこのメンバーの中で唯一の1年生ということですが……決勝戦という大舞台に対して不安や心配はありますか?』

 

「あ、え~っと……はい、それは、あります」

 

何と答えるべきか迷った漫だったが、事前に恭子からも「基本的には素直な気持ちを話してええよ」と言われたのを思い出し、自分の素直な気持ちを答えることに。

 

 

「でも、なんていうんですかね……安心感がすごいです。ここにいる先輩たちは皆ホンマに強くて、頼りになって、いつも支えてもらってるんです。せやから……不安はありますけど、それ以上に安心が勝ってる……って感じです」

 

『なるほど……先輩たちを信頼しているんですね』

 

「もちろんです!……でもだからこそ、力になりたいです。こんなウチを育ててくれた先輩達のためというのもありますが、ウチ……私自身が、全力で優勝したいと思ってます!」

 

 

漫のその答えに満足したのか、その記者が笑顔でぺこりと頭を下げて司会役にマイクを返した。

 

 

『次に質問ある方はいらっしゃいますか』

 

 

次に質問の権利を得たのは奥の方に座る男性記者。

その記者の視線は、真っすぐに多恵を捉えている。

 

 

 

 

『先鋒の倉橋多恵さんに質問があります』

 

「はい」

 

 

指名されたことで、多恵が目の前のマイクを取る。

 

しかし次にその記者から出てきた質問は、多恵の想像を遥かに超えるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『インターネット上で、麻雀Youtuberの「クラリン」の正体が倉橋選手ではないかという声が上がっていますが、倉橋選手はクラリンと関係性はあるのでしょうか』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一気にざわつく会場内。

 

多恵がどう答えるべきか一瞬判断が遅れたこともあって、会場内は多恵が言葉を発せないようなざわめきに支配される。

 

 

 

「いやいや……流石にここで聞くことじゃないだろ……」

 

「おいあれどこの記者だよ、つまみ出せ」

 

「いやでも本当は気になるでしょ」

 

 

 

止む気配のない雰囲気を感じ取り、流石に見かねた監督である郁乃がマイクを取る。

 

 

 

「ん~、流石にその質問はナンセンスやねえ~。どっちにしたって、高校生に聞く質問やないんやないかなあ~?」

 

 

 

質問者よりも、司会者に視線を向けた郁乃の意図を、わからないほど司会も愚鈍ではない。

司会者が質問を取り下げようとしたその時。

 

 

 

 

「大丈夫ですよ。お答えします」

 

 

 

 

多恵のその言葉によって、一気に会場は緊張感に満ちる。

 

 

一番奥の席から、身を軽く乗り出して恭子がジト目で多恵を睨みつけていて。

 

洋榎も「知らん知らんで~」と足を組んで両手を頭の上に乗っけた。

 

由子と漫は、心配そうに多恵の方を見つめている。

 

 

その全員の反応を小さな笑みで受け止めて、多恵はもう一度正面を向いた。

 

 

大きく息を吸い込んで、深呼吸。

 

マイクを握り直す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はい、どうもみなさんこんばんは、1日1回、ドラ確認し忘れて初打にドラ切る、クラリンです。……明日はインターハイ団体戦決勝に姫松高校の先鋒として出場します。頑張るので応援してくださいね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬の静寂。

 

しかしその静寂は、本当に一瞬で破られることになった。

 

 

 

 

 

「うおあああああああ?!?!?!マジか!!マジなのか!!」

 

「おい!!早く会社に連絡しろ!ウチが一番早くトップニュース上げるぞ!!」

 

「もしもし?!はい、今姫松高校の記者会見中だったのですが……!」

 

「やっぱり……やはり俺の目に狂いは無かった……!あのおててはクラリンしかあり得ん……!」

 

 

 

 

 

 

大混乱。

 

まさに混沌と化した記者会見会場。

ある者は大歓喜し、ある者は携帯電話を取り出し、ある者は必至にボイスレコーダーの録音を確認している。

 

大混乱となった会場で、元凶である多恵は苦笑いしかできないでいた。

 

 

「……多恵、ホンマによかったんか?」

 

 

気付けば近くまで来ていた恭子が多恵の後ろから耳打ちする。

 

 

「まあ……別に何としても隠したかったわけじゃないしね……これで姫松応援してくれる人が増えるなら、それはそれで良いかなあ~って」

 

「良いかなってな……多恵はどんなに自分が影響力の大きい人間かわかっとらんわ……とんだお人好しやでまったく……」

 

思わずおでこに手を当てる恭子。

 

これで間違いなく、今日から明日にかけて麻雀界は多恵とクラリンの話題で持ち切りだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『静粛に、静粛に願います』

 

 

しばらくして、ようやく会場が落ち着きを取り戻したことで、司会の女性が場をおさめる。

 

 

 

思わぬところで時間を食ってしまったこともあって、記者会見の時間はもう佳境だ。

 

 

 

 

『さ、最後に、主将から今年のチームの強さをまとめてもらって、終わりにしたいと思います』

 

 

主将のまとめ。

これはこの記者会見で毎年行われる恒例のようなものだ。

 

必ずこれで最後を締める。

 

その場にいる全員の視線が、洋榎に集まった。

 

 

 

「……」

 

しかし当の洋榎が、恭子の方を向いている。

 

何故洋榎がこっちを見ているのかわからない恭子。

記者の方にバレないように、慌てて小声で洋榎を急かす。

 

 

「しゅ、主将!なんでこっち見とるんですか!主将はあんたでしょうが!」

 

「お、おお。せやったわ。素で恭子やと思ってたわ」

 

「勘弁してくださいよ……」

 

 

ようやく胸をなでおろす恭子と、あっけらかんとしている洋榎。

 

記者の方もその関係性を理解している者が多いからか、微笑ましい光景として受け取っている。

 

 

「え~っと、なんやったっけな……たしか恭子からもらったカンペがこのへんに……」

 

「それマイクつけて言わんでいいですから!!」

 

 

会場に笑いが起こる。恭子以外の3人も苦笑いだ。

 

どんな舞台でもブレない洋榎のキャラクターは、ここ東京でもウケたよう。

 

 

「あ~え~っと私達姫松高校は~……」

 

ようやく話し出したと思えば、今度は雑な棒読み。

いかにもカンペ読んでますといった風だ。

 

 

 

「……やめややめ。こんなん無くてもできるわ」

 

しかし洋榎はすぐにそのカンペを後ろにポイしてしまう。

 

 

「昨日洋榎が作れって言ったんだろおおおおおお……!」

 

一番奥で恭子が素でキレていた。

 

 

 

 

「あんま長ったらしく話すの苦手なんやけどな……。せっかくやし一人ずつ強いとこ教えるわ。先鋒から行くで。……さっき話題かっさらっていったウチらの先鋒。多恵改めクラリンやな。……まあこいつとは腐れ縁で、ガキの頃からのダチやな。それでもって……」

 

悠長に耳をほじっていた洋榎の視線が、多恵へと動く。

 

 

 

 

「ウチの永遠のライバルや」

 

 

 

 

 

洋榎から寄越された視線に、多恵も真面目な表情で頷き返す。

 

 

(うん。私も、そう思ってる)

 

 

すぐに洋榎は前を向くと説明を続けた。

 

 

「まあ説明はほぼいらんやろ。麻雀IQの高さ。状況に応じた打ち方や押し引き。そのどれをとっても一級品や。こいつを実力で倒せるものなら倒してみい」

 

洋榎の雑ながらも信頼を感じさせる話し方に、記者も必死に耳を傾けていた。

 

 

 

「次鋒。漫ちゃんやな。今年から入った新戦力。その爆発力は準決勝見てくれたならわかったやろ……まあ不発な時もあるんやけどな」

 

「そ、それは言わんといてくださいよ~!」

 

「HAHAHA。……冗談は置いといて、これからの姫松を背負って立つことになる逸材や。決勝でも、その力見せてくれるんちゃうか」

 

洋榎も漫には期待している。

どんどんと先輩の知識を吸収していく漫の姿は、洋榎だって見てきた。

最初は心配だった後ろ姿も、今は頼もしく映っている。

 

 

「副将、ゆっこやな。これ以上ないくらい安定感のある打ち回しをしてくれる頼れる副将や。……何より、ゆっこが一番麻雀を愛してる。ゆっこ以上に道具を大切に扱う打ち手をウチは知らん。そういうところは後輩達もそうやしウチらも見習わなくちゃアカンな」

 

「お、大げさなのよ~」

 

隣にいる由子は笑顔を崩さずにこそいるが、少し恥ずかしそうだ。

 

 

「道具を大切にすることが強さに関係ない……なんて言う奴は流石にこの場にはいいひんやろうけどな。由子は人事を尽くしとるっちゅうことや。そういう打ち手は……こういう大舞台に強いで」

 

由子が遅くまで道具の手入れをする姿を、洋榎もよく見てきた。

自分もかなり洗牌をする方だと思っていたが、由子を知ってからは、より一層こだわるようになった。

 

 

「最後に大将。恭子や。自分では凡人凡人言うとるけど……ウチからしたらどこが凡人やねんって感じやな」

 

「いや……凡人ですよ……」

 

洋榎の言葉に恭子は不満げだったが、洋榎はどこ吹く風。

 

 

「一番努力しとる。どうしたら勝てるのかを常に考えとる。それは立派な才能で、力や。今年も大将はバケモンみたいなのが多いみたいやけど、恭子なら絶対に負けん。そう自信を持って送り出しとる」

 

洋榎の言葉は記者たちに重く響く。

洋榎がメンバー全員を信頼しているのがよくわかる数分間だった。

 

最後に「あ。中堅、ウチ。さいきょー。以上や」と言っていたあたりで全員がズッコケていたが。

 

そこで1つ、洋榎が呼吸を置く。

 

 

 

 

「さて……まあそういうわけで、今年の姫松は強い。……先に言わせてもらうわ」

 

 

洋榎の目が、真剣なものに変わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今年の優勝は絶対にウチら姫松がもらう。相手がどこだろうが……それだけは譲らん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“無冠の常勝軍団”と呼ばれるのはもう終わり。

 

舞台は整った。

 

 

 

 

 

 

―――あの日の誓った悲願を達成するため。

 

―――明日を笑って終えるため。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――努力の3年間の軌跡を歴史に刻もう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ついに始まるのだ。

 

インターハイの長い歴史の中でも、魔物の世代(モンジェネ)と呼ばれることになる今年の団体決勝戦。

 

 

 

 

 

 

決戦の朝が来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




神挿絵来ました!!!!


【挿絵表示】



もう作者は大歓喜です。
恭子の表情とか、由子の笑顔とかたまらない……本当にたまらない……。

漫ちゃんはきっと記者会見の帰りにコケて放送事故起こしかけたんですねわかります。


さて、テンションも上がったところで次回から団体決勝です。
アンケートは締め切らさせて頂きます。
ご協力いただきありがとうございました。

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