ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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第112局 開戦

初めて会った時、その少女は本を読んでいた。

 

 

ただただ広いその部屋はとても暗く、スポットライトだけが中央に鎮座する自動卓を強く照らしていて。

 

そこで、純白の制服に赤い髪を伸ばした少女が、はらりとページをめくる音だけが静かに響く。

その様子はどこか幻想的ですらあった。

 

 

 

 

「……宮永……照さん」

 

多恵が出した声に、その少女がはた、と動きを止める。

 

照は読んでいた本を閉じて、ゆっくりと多恵に目を合わせた。

 

 

「倉橋多恵さん……よろしくね」

 

 

お互い1年生にして先鋒のエース区間を任された同士、名前はもちろん知っていた。

 

そしてこの出会いは、多恵にとって大きな意味をもたらすことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

強めに叩きつけられた牌が、とてつもない勢いで回転する。

 

 

 

 

 

「ツモ。12000は12900オール」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ななななんてことだああ!!!重ねに重ねた9本場!!!三倍満の和了で他校の希望を打ち砕いたあ!!!圧倒的!!圧倒的すぎるぞ宮永照!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

想像を遥かに凌駕していた。

 

容赦なく宣言されるツモ。

積み重ねられる点棒。

終わることのない親番。

 

 

 

 

ぐるぐると回る視界の中で……多恵は人生で初めて、麻雀で絶望を感じた。

 

 

 

この日先鋒戦で大量の点数を失った姫松高校は……インターハイを準優勝という形で終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気落ちするな倉橋。お前が悪いわけじゃない。お前のおかげで、私達は準優勝することができたんだから」

 

「相手が悪かっただけだよ……!……来年からもあれを相手にしなきゃいけないってのは、少し酷だけど……」

 

「だから多恵ちゃん、そんな顔をしないで。来年からも、絶対試合見るからね!」

 

 

 

3年生からの励ましの言葉が、更に多恵の心を締め付けた。

 

自分はいい。

しかしこの3年生たちは、今年が最後だったのだ。

それを自分の大量失点のせいで全国制覇が果たせなかったのだと思うと、多恵は自分を責めずにはいられなかった。

 

控室のソファで両手で顔を覆いながら、ただただ何が悪かったのかを自問自答する。

どうすればよかったのか。

本当にあの打牌が最善だったのか。

 

2回の人生を通しても初めてだった。

 

考えても考えても『勝てるビジョンが視えない』というのは。

 

 

 

 

 

 

「間違いなく、バケモンやな。あれは」

 

 

隣に腰掛けた洋榎が、静かにそう呟く。

今年多恵と共に1年生として姫松のレギュラーで戦った洋榎も、同じ意見だった。

 

 

「……気にするな……とは言わんけどな。来年。必ずリベンジや」

 

何かを睨みつけるような洋榎の視線。

 

言葉を発することはできなかったが、洋榎のその言葉に多恵は小さく頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの時戦った場所と同じ場所で、また彼女と相対している。

 

1度目のリベンジも圧倒的な強さで押し返された。

個人戦でやってきた2度目のリベンジで……初めて可能性を感じた。

 

そうしてやってきたきた3度目の勝負。

 

しかしこの団体戦に、『次』はない。

ここで勝たなければ、多恵の3年間に意味は無い。

 

 

 

「さあ~って……今日こそほえ面かかせてやるわよチャンピオンさん」

 

「……」

 

やえの好戦的な発言にも、照は表情を崩さない。

照もこの場にいる全員を侮っているわけではない。むしろ脅威に感じていた。

 

 

(……倉橋さんに小走さん……園城寺さんも準決勝の時から何かを掴んでる様子だった……安心できる要素は一つもない)

 

 

静かに目を閉じて、上がってきた山を見つめる。

 

どうやら今日は、長い2半荘になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東家 白糸台高校 宮永照

南家 晩成高校  小走やえ

西家 姫松高校  倉橋多恵

北家 千里山女子 園城寺怜

 

 

 

 

 

 

インターハイ団体戦決勝 先鋒戦 対局開始

 

 

 

 

 

東一局 親 照 7巡目 

 

 

怜は持ってきた牌を自身の手牌の上に乗せると、小さく息を吐いた。

いよいよ決勝戦。

1年生の頃はこんな場所で自分が打つなんて思いもよらなかったし、自身のために尽くしてくれたチームメイトのためにも、トップでバトンを渡したい。

その想いは確かに今もここにある。

 

 

(とはいえ……ここは魔境すぎやわ……)

 

ぐるりと周囲を見渡す怜。

自分以外はもれなく去年の個人戦決勝卓経験者。

つまりは去年高校生の中で1番頂点に近かった3人なのだ。

 

ネットの前評判でも自分が一段劣ると言われていることは重々承知の上。

 

しかしそれは、諦める理由にはならない。

 

 

(もともとこんなとこおるような人間ちゃうかったんやから……竜華に、セーラに、後輩たちに……報いなあかんな)

 

病弱で戦力にもならなかった自分と、いつまでも仲良くしてくれた人たち。

その支えがあったからこそ、今怜はここにいる。

 

その想いに、応えたい。

 

怜の右目が、光を帯びる。

 

 

 

 

 

 

「リーチ」

 

 

 

 

 

怜の千点棒が、強い想いを乗せて真っすぐに直立した。

 

 

 

 

『先制リーチは千里山女子高校園城寺怜!彼女からリーチがかかったということはすなわち!』

 

『一発でツモる……まあ、今回はチャンピオンが起家で助かったねい』

 

『チャンピオンは公式記録でも東1局に和了したケースが少ないですからね。これは相手の実力を伺っているとのうわさもありますが……』

 

『……過去に対戦した相手であっても、その日の一発目は様子を見る……1年間その打ち手がどう努力し、何を得たのか……視てるのかもしれないねえ?知らんけど!』

 

 

怜の先制リーチに会場からも歓声が上がる。

 

 

しかしその先制リーチを受けても、他3人は全く動揺しない。

 

チャンピオンが一つの牌を切り終えると、静かに目を閉じた。

 

やえがツモ山に手を伸ばし、牌を切る。

 

同じように多恵がツモり、そして切る。

 

何事もなく、怜のツモ番が回ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ツモ」

 

 

怜 手牌 ドラ{⑦} 裏ドラ{北}

{②②②⑧⑧789二三四北北} ツモ{北}

 

 

 

 

「ッ……!3000、6000……!」

 

 

 

 

『きまりました!!!まずは開幕和了りを手にしたのは園城寺怜!挨拶代わりの裏3で跳満の和了です!!』

 

『ひゅ~う。やるねい。……しかし不気味だねえ……誰も何もしかけないとは……』

 

 

怜の開幕跳満の和了だというのに、他3人は何のリアクションも無く点棒を怜へと渡す。

 

その何でもない動作が、怜にプレッシャーを与えていた。

 

 

(……跳満くらいなんでもないってか……舐められたもんやな……)

 

額に浮かぶ汗をぬぐいながら、怜が静かに点棒をしまう。

 

その最中、多恵とやえは怜の捨て牌と手牌をじっくりと眺めていた。

 

 

(……宣言牌は{⑥}。ドラ待ちよりもシャボを選択……一発ツモか)

 

(別に甘く見てるわけじゃないわ。それよりも先に、情報が欲しい。ただそれだけ。そしておそらく一番情報を欲しているのは……)

 

やえの視線が、チャンピオンの方に流れる。

 

 

 

 

その瞬間だった。

 

 

 

 

 

照の体から、黒いオーラのようなものが溢れ、照を除く3人の後ろに、大きな()が現れた。

 

 

 

(……!この感じ……一昨日もやられたヤツやな……自分を見透かされるような、嫌な感じや)

 

(相っ変わらずイイ趣味してるわね)

 

 

照魔鏡。

打ち手の本質を見抜く、照の特殊能力。

 

照は東一局が終わると必ずこの能力を発揮する。

 

 

少しして鏡は消失。

3人を襲っていた嫌な感覚は霧散した。

 

そしてその力の発生源である照の視線は、正面に座る多恵へと向けられる。

 

 

(やっぱり……倉橋さんだけは、底が見えない。こんなこと一度も無かった……)

 

怜もやえも、その本質は見抜くことができた。

 

しかし目の前に座るこの少女だけは、どうしてもどこか大切な部分が見えない。

 

 

(なにか……倉橋さんの奥のほう……一つの()()()が、その先を見せてくれない……)

 

照が諦めたように目を閉じた。

多恵に照魔鏡があまり通じないのは計算の内。去年も一昨年も、それでも勝ってきた。

問題ない。

 

 

 

東2局 親 やえ

 

 

6巡目 怜 手牌 ドラ{⑥}

{①②③赤⑤⑥8889三四五六} ツモ{9}

 

 

(聴牌……やけど役の無い方や……)

 

怜の視線が、静かに他家の捨て牌へと移る。

その目が、緑色に輝いた。

 

 

(晩成の王者はんは、まだ速度が間に合ってへん。せやけど、リーチは打たれへんな……)

 

怜の視た未来。

やえからこの宣言牌でロンと言われることは無く、しかし一発ツモでもない。

 

怜はゆっくりと{三}を河へと放った。

 

 

しかしその巡目での多恵の捨て牌で、怜は戦慄することとなる。

 

 

 

 

 

「リーチ」

 

 

 

宣言と同時、多恵が手牌の1枚を手前に倒し、流れるような動作で牌を横に向ける。

 

その牌は、{④}だった。

 

 

 

(そんな……!さっき視た時はそんなことせえへんかった……!)

 

怜が視た未来では、多恵が現在の怜の当たり牌である{④}を切ることもなかったし、ましてやリーチをかけてくる未来など無かった。

 

驚きながらも牌をツモり、怜がもう一度未来を視る。

 

 

(くっ……!)

 

怜が歯噛みする。

 

既に多恵の後ろには、光り輝くいくつもの()がこちらを向いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いなセーラ。一発ツモはそっちのエースだけのお株やないで」

 

洋榎が人の悪い笑みで、今同じく対局を見ているであろう旧友に笑いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ツモ」

 

 

光り輝く長剣が、()本地面に突き刺さった。

 

 

 

 

多恵 手牌 裏ドラ{西}

{④⑤⑥⑦⑧⑧⑧345三三三} ツモ{⑥}

 

 

 

 

 

「3000、6000」

 

 

 

 

『跳満返し!!!姫松高校倉橋多恵!!!強烈な5面張一発ツモで跳満です!!』

 

『クラリンやるねい!……ドラドラの手牌をリーチかけられなかった園城寺と、その隙にすかさず最大枚数の聴牌を取ったクラリン……園城寺としちゃー嫌な感じだろうねい』

 

『……発表があったとはいえ、解説でクラリンと呼ぶのはやめましょうよ三尋木プロ……』

 

『ええ~なんで?いいじゃん親しみやすくて』

 

 

 

 

 

怜が自分の手牌を見つめ、そして多恵の和了形を見つめる。

 

 

(リーチせえへんかったら和了れないことを、見透かされたんか……)

 

怜はその自身の能力の性質上、一発ツモでなければリーチをかけない。

だからこそ、リーチしたら必ず一発でツモるという強力な能力に周りからは見えているのだが、多恵は気付いていた。

その弱点に。

 

 

(リーチしなくちゃ和了れない手の時も、やっぱりリーチしないんだね、園城寺さん)

 

多恵の冷徹な瞳が、怜を貫く。

 

怜は開幕早々ため息をついた。

 

 

(そら一筋縄ではいかんよな……)

 

対局はまだ始まったばかり。

 

周りをもう一度見渡す。

警戒しなければいけないのは、全員。

 

 

 

怜が少しでも体を休めるために、ゆっくりと背もたれに体重を預けた。

 

 

 

(キツイ一日になりそうや)

 

 

次の局の配牌が、上がってくる。

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