ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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【お知らせ】

 いつも感想ありがとうございます。全て大切に読ませていただいています。

 申し訳ありませんが、先鋒戦終了まで、感想返しをストップさせていただくことにしました。
 

 先鋒戦が無事終了しましたら、また少しづつ返していこうと思いますので、よろしくお願いします。

 





第122局 勝負できない悔しさ

 

 

 モニターの中では、照の猛攻が続いている。

 

 あり得ない速度と打点で決着していく局の数々を見届けながら、洋榎が静かに呟いた。

 

 

 

 「……おもんないな」

 

 洋榎の視線が、鋭く照を見つめる。

 勝負を投げたわけではない。多恵のことを信じる気持ちは、姫松の中でも断トツだ。

 

 その洋榎も、この状況は良くないと感じている。

 

 

 

 「ふざけてるやろこんなん……!!」

 

 「多恵ちゃんラスなのよ~……」

 

 「多恵先輩だけ配牌おかしくないですか?!こんなの……こんなのって……!」

 

 

 

 点差はそこまで離れていない。

 とはいえこのままでは一瞬の内に点差がつくことを、わかっている。

 

 次が決まってしまえば、もう取り返しのつかない点差になる。

 

 

 「多恵……」

 

 恭子が、モニター内の多恵を見つめる。

 

 その時、恭子だけ気付いた。

 多恵の表情が、静かに暗くなっていっていることに。

 

 普段の多恵が持つ温かい心とは反対の、冷たい、冷徹な力が目覚めようとしていること。

 

 

 (多恵には勝ってほしい。……せやけど、これはウチのわがままや……)

 

 恭子が顔の前で両手を握る。

 多恵へこの願いが届くように。

 

 

 

 全国優勝はもちろんしたい。

 

 

 

 

 しかしそれ以上に恭子は。

 

 

 

 

 

 多恵が笑顔で対局を楽しんでいる姿が見たかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東四局 三本場 親 照

 

 

 

 

 

 

 点数状況

 

 1位 白糸台  宮永照 114900

 2位 千里山 園城寺怜 100000

 3位 晩成  小走やえ  94800

 4位 姫松  倉橋多恵  90300

 

 

 

 

 『後半戦が始まって……まだ20分。20分しか経っていません。しかし……前半戦ラスで始まったはずのチャンピオンが、既にトップを走っています……!』

 

 『キツいねい……正直今の局は他の3人のできること全部やったはずだと思うよ。それでも……止められないか』

 

 

 照の右手が暴風を纏っている。

 

 圧倒的なチャンピオンの力の前に倒れ伏し、地面で必死にもがくことしかできない3人。

 その中でも、点数的には現在二着目であるはずの怜が体力的に厳しい状況に追い込まれていた。

 

 霞む視界の中で、必死に手元に牌を落ち着かせる。

 

 

 (そんな……選択肢から分岐する未来ですら、チャンピオンには……届かへんのか……)

 

 既に体力は限界。

 手元すらおぼつかない状況で、隣には荒れ狂う暴風。

 

 今のチャンピオンの和了は跳満。次もし和了を許してしまえば……倍満。親番であることを考慮すれば、24000点だ。

 そんな打点が決まってしまえば、決定打になってしまってもおかしくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 千里山高校控室。

 

 

 

 

 「あかん……」

 

 顔面を蒼白にして対局室が映っているモニターを見るのは、千里山の大将、竜華だ。

 現在怜は2着目とはいえ、その手は震え、肩で息をし、必死で倒れそうになるのを我慢しているように見える。

 

 

 「……次食らったら24000……流石にあかんな」

 

 「違う!!そっちやない!!怜の身体の方や!!!」

 

 

 セーラがソファの上で小さく呟いた言葉に過剰に反応する竜華。

 状況的に厳しいのは確かにそうだが、今はそんなことはどうだっていい。

 このままでは怜が、対局終了を待たずに倒れてしまう。

 

 親友だからこそわかる。今の怜は間違いなく限界だ。

 

 竜華の悲痛な叫びを聞いて、周りのメンバーも顔色を曇らせる。

 今まさに持ってきた牌を一つ取りこぼし、手牌の手前に落としてしまった。

 

 

 「園城寺先輩……!」

 

 泉は大会が始まる前に、怜が言っていたことを思い出した。

 あれは自分がレギュラーに選ばれて、次鋒になることが決まった日のこと。

 怜に対して、「プロに興味は無いんですか?」と言った時だった。

 

 珍しく帰りが怜と泉だけで、夕暮れの校舎で怜から言われたのだ。

 

 

 

 『私はな、千里山の皆に恩返しがしたくて、麻雀してるねん。……だから、別にプロになるとかそういうんは、いいんよ。』

 

 『で、でも、園城寺先輩くらいの実力やったら、絶対プロになれますって!』

 

 『そう言ってくれるんは嬉しいんやけどな……私は』

 

 

 

 

 あの時の怜の表情は、今でもよく覚えている。

 とても控えめな笑顔で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『千里山の皆で全国優勝できたら、それで夢はかなうんやから』

 

 

 

 

 

 

 怜があの時語った夢は、もう他人事ではない。

 

 泉も既に、怜の仲間の中に入っているのだ。

 

 

 (園城寺先輩……!)

 

 今はただ、祈ることしかできない。

 無事に帰ってきて、笑顔で自分にバトンを渡してほしい。

 

 泉の心中は今はそれだけだった。

 

 

 「園城寺先輩の配牌、出ました」

 

 画面を注視していた船Qが、モニターに怜の配牌が映ったことを報告する。

 

 

 

 怜 配牌

 {223344⑤⑥⑧三四七八} 

 

 

 

 「……!」

 

 竜華が思わず絶句する。

 手牌で一盃口が完成しており、かなりの好配牌。

 

 好配牌であるということは、どういうことか。

 

 

 

 怜が、目を閉じる。

 

 

 次に開いたときには、怜の両目は、金色に光り輝いていて。

 

 

 

 「あかん……!」

 

 

 

 

 

 それは紛れもなく、命を削ぎ落す諸刃の剣。

 

 竜華が我を忘れたように、よろよろとソファから立ち上がりモニターに歩み寄る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あかん……!あかんやめて!!!やめて!!!怜!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 麻雀が楽しいと思えるようになったのは、いつからだろうか。

 

 

 

 千里山の皆と過ごす時間が楽しいと感じたのは、いつからだろうか。

 

 

 

 この千里山女子で、『全国優勝』したいと思ったのは、いつからだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 (ごめん、竜華)

 

 

 

 

 

 

 怜の両目と、額が、()色に光り輝く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 

 怜 手牌

 {223344⑤⑥⑧三四七八} ツモ{⑧}

 

 

 

 

 ターツ選択。時間が無い。どちらかを間違えれば、和了りは無いだろう。

 

 

 怜だけが視える金色の世界が、必死に正解の道へと導く。

 

 

 打{七}の場合。

 

 

 次巡

 {223344⑤⑥⑧⑧三四八} ツモ{一}

 

 ツモ切り

 

 次々巡

 {223344⑤⑥⑧⑧三四八} ツモ{二}

 

 打{八} 

 

 

 

 

 『ロン』

 

 

 

 照 手牌

 {二三三三四四五六七七八九九}

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 (打{八}からなら……!!!)

 

 

 思わず卓に突っ伏したくなるほどの頭痛を感じながらも、怜は見つけ出す。

 この手を仕上げる、最善の方法を。

 

 幸い、照の最終形は見ることができた。

 

 

 

 

 震える手に必死に鞭を打ち、{八}を切り出す。

 

 

 次巡に持ってきた{一}はそのまま河に放ち、そして次巡目に、{二}を引き入れた。

 

 

 

 

 (これで……!間に合った……!)

 

 

 なんとか聴牌を入れて、{七}を切ろうとする。

 

 念のためもう一度、一巡先だけを視ることを決めて、怜は右目を緑色に光らせ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 (え……?)

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ロン』

 

 

 

 

 

 照 手牌

 {二三三四四五六七七七八九九}

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 

 

 

 照の手形が、変わっている。

 

 3巡前に見た形ではない。

 

 よく見てみれば、照の前巡に切り出した牌が変わっている。

 

 しかしそんな変化に気付けるほど、今の怜の体力に余裕は無かった。

 

 

 

 怜が、今まさに手に握った{七}を悔しそうに手に戻す。

 

 

 (なんでや……!チャンピオンの待ちは{八}だったはずや……!)

 

 

 確かに、怜が視た未来で、照は{八}待ちになっていた。

 しかし照は照魔境のおかげで、怜の能力を知っている。

 

 だからこそ、打点に関係のない待ち選択の時は、ランダムで待ちを選ぶようにしていた。

 

 怜の逡巡があった後は特に。

 

 

 

 

 (ぁ……)

 

 心臓が痛い。

 頭が痛い。

 

 考えられない。

 

 この{七}はもう手牌には使えない。照の手を見れば萬子の周辺が使われていることはよくわかる上に、{八}を切ってしまっている。

 

 {七}を切らずの和了は、見えなかった。

 

 

 頭の中をぐるぐると、牌姿が回る。

 どうすればよかったのか。どこで間違えたのか。

 

 どうしてこの手に持ったたった一枚の牌を、自分は切れないのか。

 

 

 

 手に持った{七}を、怜が見つめる。

 

 

 

 

 

 

 (どうせ、どうせ和了れへんくらいやったら……こんな未来……こんな未来()()()()方が……!)

 

 

 

 そう。

 

 

 

 視えてしまうから、この勝負の一牌が押せない。

 

 この一牌を押せないから、和了を勝ち取る気分を感じることができない。

 

 

 

 

 

 

 千里山のエース園城寺怜は『放銃』というリスクを回避できるようになったと同時に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『勝負』することの楽しさを奪われたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 刹那。

 

 

 

 

 

 ひどく冷たい()()が、その卓の中を突き抜ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (……?!)

 

 

 

 

 

 

 瞬間、照から発生していた暴風が止む。右手の動きが、止まった。

 

 

 

 

 

 怜の右目に見えていた光が、消えた。

 

 

 

 

 やえが、息を飲むように下家へと視線を移す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「多恵……あんた……」

 

 

 

 

 

 

 やえの視線の先。

 

 

 

 

 

 

 多恵の瞳が、()()に染まっていた。

 

 

 

 黒い波動が、卓全体を突き抜けたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全く手にならない配牌。

 オリる暇すらなく、あり得ない速度と打点で決着していく数々の局。

 

 

 

 叫びが聞こえる。

 

 『こんなの麻雀じゃない』という叫びが。

 

 『つまらない、くだらない』と蔑む叫びが。

 

 

 

 

 

 こんな未来、視たくないという心の叫びが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全てを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 無に返せ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナラビタツモノナシ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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