ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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麻雀を愛する少女が、全国の頂点を獲りに行った日『インターハイ団体戦決勝先鋒戦観戦レポート』

 

 

 

 

 

 姫松高校 倉橋多恵

 

 

 

 麻雀を愛する少女が全国の頂点を獲りにいった日

 

 

 文・Hand Brother【姫松担当ライター】8月18日

 

 

 

 

 

 インターハイ。

 

 麻雀を極めた高校生雀士達が集い、しのぎを削り、頂点を決める戦い。

 

 高校生活の全てを麻雀に費やす彼女たちの戦いは熱く、見ている者の心を揺らす。

 

 そんなインターハイの観戦記事……姫松高校視点の観戦記事をこのたび書かせていただくことになって、至極光栄に思う。

 しがない一人の麻雀打ちでしかない自分が、どれだけ彼女たちの熱量を伝えられるかは不安な部分もあるが、それ以上に今は皆さんにインターハイの魅力を知ってほしいという気持ちでいっぱいだ。

 

 

 

 

 少し、自分語りを許してほしい。

 

 私は、ちょうど五年ほど前まで麻雀が嫌いだった。

 

 どこにでもある、至極普通の話。

 学生の頃、私はネット麻雀でそこそこの成績を残し、麻雀の実力には少しだけ自信があった。

 牌効率の本を熟読し、様々な戦略本を読み漁り、麻雀にのめり込んだ。

 

 私が大学を卒業してしばらく経った頃だっただろうか。

 古くから親しい友人の娘さんが、麻雀に興味を持ったらしく、私はその友人に呼び出された。

 

 曰く、麻雀を教えてやってほしいとのこと。

 幸い麻雀を打てる人間が4人ほどいたので、その小学生の女の子に麻雀を教えることになった。

 

 

 勘の良い人はもうお気づきだろう。

 

 その日、麻雀を覚えたてのその少女に、誰一人として一度も勝つことができなかったのだ。

 

 無邪気に和了を続ける少女の姿は、最初は微笑ましくあったが、日が暮れるころには、麻雀の残酷さをつきつけられているようで。

 

 

 

 帰宅した後、私は家にあった麻雀本のほとんどを捨てた。

 

 意味なんてないのだろう。こんな本には。

 

 このように、私も世間の例にもれず、才能という圧倒的な力の前に屈したのだ。

 

 

 

 

 

 しかし、五年前のことだ。

 私の人生に転機が訪れる。

 

 

 

 

 『はい!どうもみなさんこんにちは!フリーで思わぬ放銃をしても、とりあえず頷いて「まあ当たるよね」みたいな顔をする、クラリンです!今日も元気に麻雀動画やっていこうと思います!』

 

 

 

 《クラリンの麻雀動画上級編 三着目の和了価値指標》より

  https://youyaru.be/XzfheYrvxka

 

 

 知っている方も多いだろう。

 多くの麻雀戦略動画を配信し、全国の麻雀好きを虜にした少女、クラリンだ。

 

 彼女の麻雀動画はどの層に対しても受けが良い。

 麻雀を覚えたいという初心者向けの動画から、玄人を思わずうならせる、上級者向けの動画まで。

 

 最初は私もバカにしていた。

 どうせ簡単なことしか解説しないのだろう、と。

 

 しかし私のそんな考えは、彼女の動画を見るたびに否定されることになる。

 

 声と手は幼い少女のものであるはずなのに、出てくる戦術は歴戦の麻雀打ちのそれだ。

 あり得ないと思った。牌姿理解に対して造詣が深く、とても難しい清一色の待ち選択まで、失敗しているのを見たことが無い。

 

 気付いたら私は、彼女のファンになっていた。

 そして私と同じように、多くの麻雀ファンが彼女に惹かれたのだろう。

 

 「クラリン」は瞬く間に麻雀界のスターになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故、私は今こんな話をしたのか。

 

 

 ご存知の方も多いだろう。

 

 インターハイ決勝前日の姫松高校の記者会見で、事件は起きた。

 

 

 

 

 『……はい、どうもみなさんこんばんは、1日1回、ドラ確認し忘れて初打にドラ切る、クラリンです。……明日はインターハイ団体戦決勝に姫松高校の先鋒として出場します。頑張るので、応援してくださいね!』

 

 

 

 

 

 

 麻雀界に、激震が走った。

 

 “常勝軍団”と呼ばれるほどの強豪校である、南大阪の姫松高校。

 一年生からその先鋒を務める倉橋多恵選手こそが、あの「クラリン」の正体だったのだ。

 

 

 何故今まで気づかなかったのかわからないほどに、確かに声は似ている。

 その麻雀スタイルも酷似しており、清一色の打牌選択などはもうクラリンそのもの。

 

 麻雀界はそんなどよめきに包まれたまま、インターハイ団体戦の決勝を迎えたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 長くなってしまったが、ここから先鋒戦の観戦レポートに入っていきたい。

 

 栄えあるインターハイ団体戦決勝。

 その四校に名を連ねたのは、一校を除き、言わずと知れた強豪校が残った。

 

 まず、常勝軍団、姫松高校。

 

 優勝したことが無いというのが信じられないほどに、インターハイでは有名な高校だ。

 一昨年、去年と準優勝に終わり、今年こそ優勝旗を持ち帰るんだと、士気は高い。

 

 

 同じく関西の強豪校、千里山女子高等学校。

 

 部員数は100人を超え、インターハイに出たいなら千里山に行けと言われるほどにこの高校は毎年素晴らしい選手をそろえてくる名門校だ。

 

 

 次に、言わずと知れたチャンピオン、白糸台高校。

 

 彗星のごとく現れたチャンピオン、宮永照を絶対的エースに据え、ここ2年連続で全国優勝を果たしている高校だ。

 

 

 そして最後に……奈良県代表、晩成高校。

 

 今年のダークホースとなったこの高校は、王者小走やえをエースに、その小走やえを慕う強力な後輩達でメンバーを固めている。

 ダークホースであるはずなのに、優勝候補と呼ばれる所以は、王者の下戦う彼女たちの結束力の高さ故だろう。

 

 

 

 エース区間である先鋒戦は、始まる前から激戦必至だろうと言われていた。

 なにせ去年の個人戦決勝に出場していた選手が三人もいるのだ。

 間違いなく、高校トップクラスの対局。

 

 始まる前から会場は熱気に包まれていた。

 

 前半戦が始まる。

 

 

 

 前半戦 

 

 東家 白糸台    宮永照

 南家 晩成    小走やえ

 西家 姫松    倉橋多恵

 北家 千里山女子 園城寺怜

 

 

 

 

 東一局 

 

 

 「リーチ」

 

 

 開局一番、その発声をしたのは千里山の園城寺選手だった。

 彼女はインターハイ出場全選手の中で、一番一発率が高い。

 一巡先を視ていると言われているが、そう言われても納得がいってしまうほどに、彼女はよく一発でツモってくる。

 

 

 先制パンチは、千里山の園城寺選手だった。

 

 

 

 園城寺怜 裏ドラ{北}

 {②②②⑧⑧789二三四北北} ツモ{北}

 

 

 リーチ一発ツモ裏三で跳満。

 いきなりの裏三にどよめく会場だったが、私はあまり動じなかった。

 これくらいのことは当然のように起こってしまうのが、インターハイ。まだ戦いは、始まったばかりだ。

 

 

 

 東二局 

 

 

 

 この局も、園城寺選手に聴牌が入った。

 

 

 園城寺怜 ドラ{⑥}

 {①②③赤⑤⑥8889三四五六} ツモ{9}

 

 

 役なしドラドラの聴牌。

 普通なら勢いよくリーチといきたいところだが、園城寺選手はダマを選択した。

 

 園城寺選手は、一発ツモが多い理由の一つに、リーチ率が低いことがあげられる。

 一巡先が視えるから放銃の危険を回避するために、ツモでない時はリーチをしない……などと言われているが、真実はわからない。

 

 

 倉橋多恵

 {④④⑤⑦⑧⑧⑧345三三三} ツモ{⑥}

 

 

 その間隙を縫って、愚形ドラ1でタンヤオのダマテンを入れていたクラリン……倉橋選手がツモる。

 1000、2000の和了。会場の誰もがそう思った。

 

 

 「リーチ」

 

 

 しかし倉橋選手は迷いなく{④}を横に曲げた。

 会場がどよめくなか、私は拳を握りしめる。

 

 そうだ。その牌姿なら、クラリンなら、きっと振聴リーチを敢行する。

 

 そんな予感が当たったことが、私は嬉しかった。

 今私は、間違いなくあの「クラリン」の対局を見ているのだと、実感したからだ。

 

 

 

 「ツモ」

 

 

 よどみなく、倉橋選手がツモ和了る。

 

 1000、2000だった手牌を、跳満にまで仕上げた。

 やはり、クラリンは強い。

 

 

 

 

 

 前半戦終了時 点数状況

 

 1位 晩成  小走やえ 112300

 2位 千里山 園城寺怜 104900

 3位 姫松  倉橋多恵  95700

 4位 白糸台  宮永照  87100

 

 

 

 前半戦が終了して、トップに立っていたのは晩成高校の小走選手だった。

 要所要所で高い打点をものにし、ゲームメイクをしていた印象がある。

 去年よりも一回りも二回りも大きくなった晩成の王者が、貫禄の打ち筋を見せてくれた。

 

 我らがクラリンは、原点から点数を少し減らし、3位で前半戦を終えた。

 

 千里山の園城寺選手も死力を尽くして打ち続け、その努力が実を結んで点数を上回られたような印象を受ける。

 今は少し劣勢だが、後半戦は行ける。私だけでなく、クラリンを応援する人間は皆そう思っていたのではないだろうか。

 

 

 そして一番の番狂わせは、あのチャンピオンがラスで前半戦を折り返したということ。

 

 いままでの公式記録でも、チャンピオンがラスで折り返した記録は無く、これが初めてのことだった。

 

 

 そんな嵐の前の静けさのようなものを感じながら、前半戦が終わる。

 

 

 

 後半戦 席順

 

 東家 千里山  園城寺怜

 南家  晩成  小走やえ

 西家  姫松  倉橋多恵

 北家 白糸台   宮永照

 

 

 

 

 

 東二局 

 

 

 

 恐れていた事態は、あまりにも早く訪れた。

 

 

 宮永照 

 {④⑤⑥⑦⑧⑨13456四四} ツモ{2}

 

 

 

 

 

 東三局 

 

 

 宮永照

 {⑦⑧⑨57二三四六七八中中} ツモ{6}

 

 

 

 

 東四局 

 

 宮永照

 {2345688三四五七八九} ロン{1}

 

 

 

 

 徐々に……徐々に打点が上がっていく。

 あまりにも早い巡目に決着していく局の数々。

 

 三人が必死に色々な仕掛けで和了りを阻止しようと試みても、止まらない。

 

 

 

 東四局 一本場

 

 

 「リーチ」

 

 

 間違いなく、悪夢の時間だった。

 

 チャンピオンから切られた最初の打牌が、横を向く。

 

 

 親番でダブルリーチ。そして。

 

 

 宮永照 

 {12377789四五六八九} ツモ{七}

 

 

 ツモ。容赦のない満貫のツモ和了で、差はさらに開いていく。

 

 

 

 東四局 二本場

 

 

 この局は、全員がチャンピオンの和了を止めようと必死だったことが伺えた一局だった。

 

 当たり前の話ではあるのだが、次の和了を許してしまえば、跳満以上。

 これ以上の和了は致命的だ。

 

 チャンピオンの一人舞台の様相を呈してきたことで、会場の空気は一変していた。

 

 これが見たかったとばかりに騒ぐ者、お通夜のように見つめるしかない者……。

 

 私は紛れもなく後者だったが、それでもあきらめるわけにはいかない。

 今まさに対局室でクラリンが戦っているのだ。

 それを勝手に、あきらめてしまうわけにはいかない。

 

 

 

 「ロン」

 

 

 切っちゃダメだ!

 

 そんなのは、神の目線から見ている我々だけが知ること。

 たとえ今まさに聴牌が入り、前に進んでチャンピオンを止めようとする小走選手の手から出ていく牌が、恐ろしい当たり牌であることを知っていたとしても、そんな願いは届かない。

 

 

 宮永照

 {①③112233一二三九九} ロン{②}

 

 

 

 

 はっきり言おう。

 グロテスクだった。

 

 配牌はあり得ないレベルで良く、ツモも有効牌しか引いてこない。

 

 こんなのは、麻雀ではない。

 

 いらない牌を切っていれば自然と高くなるような競技は、麻雀ではない。

 

 全ての戦略性を無視して、ただただ和了が積み重ねられる。

 

 

 吐き気がした。

 私が、麻雀をきらいになった時と同じ感覚。

 

 所詮才能の前に、崩れ去る他ないのだと、思い知らされるような感覚。

 

 

 何かに八つ当たりしたくなるような感覚をこらえて、私は席に座っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この和了によって、チャンピオンがトップ目に立つ。

 

 

 点数状況

 

 1位 白糸台  宮永照 114900

 2位 千里山 園城寺怜 100000

 3位  晩成 小走やえ  94800

 4位  姫松 倉橋多恵  90300

 

 

 

 東四局 四本場

 

 

 流局を挟んで、東四局は四本場になった。

 ここで初めて、チャンピオンの配牌が落ちる。

 

 

 宮永照 配牌 ドラ{5}

 {⑧⑧224四五六六六西西北}

 

 

 良い配牌ではあるのだが、先ほどまでのグロテスクな配牌ではない。

 

 

 

 実はこのような現象が、準決勝でもあった。

 あり得ないレベルで好配牌をもらっていた清澄の先鋒の選手の配牌が、急に悪くなったことが。

 

 偶然かもしれない。

 しかしこれは、クラリンの魂の叫びではないだろうか。

 

 ひたすらに麻雀を愛する彼女が、「お願いだから麻雀を打たせてくれ」と、そう願っているように見えてならない。

 

 

 

 以前、こんなことがあった。クラリンの麻雀生配信の際に、私と同じように、才能に押し潰された打ち手の一人がポツリとコメントでこぼしたのだ。

 「デジタルを勉強したところで、才能には勝てない」と。

 

 その時彼女が答えた言葉を、今でも私は鮮明に覚えている。

 

 

 

 

 

 

 

 『皆もプロの対局とか見てて、もうこれデジタル関係ないじゃんって思ったこと、何度もあるんじゃないかな』

 

 

 『それでも、私は無理を承知でデジタルを勉強してほしいと思う。才能は努力して手に入れることは難しいかもしれないけれど、基礎を勉強することは、誰にでもできるから』

 

 

 『だから私は、麻雀で頂点を取るために、才能だけじゃ麻雀が強くなれないってことを、証明したい』

 

 

 《クラリンの麻雀生配信!中級者編 リーチ者の捨て牌にあるサインを見逃すな!》

  https://youyaru.be/RzhtewoJuNmeka より抜粋

 

 

 

 

 感銘を受けた。

 

 こんな人物にこそ、麻雀で頂点を獲ってほしいと、心から思った。

 

 

 今日こそ、それを示せる日ではないのか?

 

 

 

 

 そんな私の思いとは裏腹に、クラリンの手は絶望的に悪く、そして反対に、宮永照選手の手が伸びていく。

 

 

 二巡目 宮永照

 {⑧⑧224四五六六六八西西} ツモ{6}

 

 

 良いツモだ。

 ドラ受けができたことで、タンヤオにわたる打{西}などが候補に挙がってくる。

 

 解説の三尋木プロも、「打点を狙うためにも、ここは打{西}ではないか」と言っていた。

 

 しかし宮永選手は、その予想を裏切り、{八}を切り出していく。

 

 

 この打牌は受け入れ枚数を減らしてしまうため、手狭に受けた印象だ。

 三尋木プロも言っていたが、七対子等の対子手を見ているように思える。

 

 

 倉橋多恵 

 {①②⑤⑦1368二三四東東} ツモ{④}

 

 

 

 対してもどかしいほどに、倉橋選手の手は重い。

 実況の針生アナウンサーもこの手は流石に遅すぎるのではないかと言っていたほどだ。

 

 先制をとれるとは、とても思えない。

 守備も考えれば、役牌の{東}も鳴いていきにくい。

 

 

 

 

 宮永照

{⑧⑧224四五五六六六西西} ツモ{2}

 

 

 

 瞬間、寒気が背筋を襲った。

 

 私だけではない、おそらく、解説の三尋木プロもある可能性に気付いてしまったのだろう。

 

 

 しかし、そんな上手くいくはずがない。上手くいっていいはずがない。

 狙いはわかる。

 高打点を和了しなければいけないチャンピオンの狙いそのものは。

 

 

 

 

 

 多くの人間が、麻雀という競技に絶望し、やめていった。

 私はそんな夢破れた人間を何度も何度も見てきた。

 

 この競技は理不尽で、正しい努力が報われるとは限らない。

 

 しかしそれでも、この少女は麻雀の楽しさだけを全国に発信してきたのだ。

 

 

 

 私はクラリンの努力を知っている。

 彼女がどのように麻雀と向き合ってきたか知っている。

 

 笑顔で麻雀を布教する彼女の姿を知っている。

 

 

 彼女の麻雀に対する、深い、深い愛を知っている。

 

 

 

 

 俺はそんな彼女のおかげで、もう一度牌を持つことができたんだ。

 麻雀という競技に絶望するのは、俺達だけで十分だろう。

 

 

 

 彼女は今までもこれからも、麻雀界の希望であって欲しいと願うから。

 

 

 

 

 だからお願いだよ。麻雀の神様どうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宮永照 

 {⑧⑧222四五五六六六西西} ツモ{⑧}

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの時の俺達の絶望を、クラリンにまで与えないでくれ……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宮永照

 {⑧⑧⑧222五五六六六西西} ツモ{赤五}

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 願いは届かなかった。

 

 

 

 終わった。

 

 

 私の近くで、誰かがそう言った。

 

 

 

 現実は残酷だった。

 結局は圧倒的な才能の前には、屈する他ないのだとそう言われているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 点数状況

 

 1位 白糸台  宮永照 167100

 2位 千里山 園城寺怜  81600

 3位  晩成 小走やえ  77400

 4位  姫松 倉橋多恵  73900

 

 

 

 

 

 もう、見るのをやめたかった。

 

 現実から目を背けたかった。

 

 拳を強く握りしめすぎて手のひらから出てきた血に気付くのに……少し時間がかかった。

 

 

 2位の園城寺選手にダブルスコアの大差をつけて、チャンピオンが独走。

 ここからの逆転は、奇跡に等しい。

 

 

 私は下を向いて、頭を抱えることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 「ポン!」

 

 

 

 大きな、大きな声だった。

 

 

 何度も聞いた、クラリンの声。

 

 顔を上げてみれば、必死に食らいついて、和了を目指す倉橋選手の姿があった。

 

 その表情は、必死に盤面を見つめる、いつもの、皆んなが大好きなクラリンだった。

 

 

 

 

 《画像表示》

 

 

 

 

 倉橋多恵

 {11222699南西} {横888} ツモ{8}

 

 

 

 形は悪い。なんならこの{8}は手で使いたい牌。しかし頼りの{7}は3枚切れ。

 

 だからだろう。この牌を、倉橋選手は迷いなくポンしている牌の上に置いた。

 

 

 

 「カン!」

 

 

 

 そうだ、点差は大きい。

 それでも、最善を尽くすことはやめない。

 それがクラリンの麻雀ではないか。

 

 私は、自分を恥じた。

 勝手に絶望し、あんなに麻雀に対する愛情が深いクラリンでさえも私と同じく、麻雀に絶望してしまうのではないかと恐怖した。

 

 しかし、彼女は強い。

 私が知っている中で、誰よりも深く麻雀を、牌を愛する人間だ。

 

 彼女の瞳は、輝きを失ってなどいない。

 

 

 

 いけ!クラリン!

 

 

 私の心は叫んでいた。

 

 私だけではないだろう。全国のクラリンファン全員が、クラリンの背中を押している。

 

 

 

 宮永選手から、リーチがかかった。

 

 倉橋選手が聴牌打牌で切っていく牌は、{6}。危険牌だ。

 

 

 それでも私は……いや、全国のクラリンファンは思っただろう。

 

 {8}は全て見えて、{69}はノーチャンス。手出しの順番が{5}→{7}であったこともあり、{36}ターツも考えにくい。

 

 

 人読みもあっただろう。打点を求める宮永選手の手形は、捨て牌から染め手を想像できる。

 

 そしてなにより、今回は自分の手牌の価値が高い。

 

 

 

 

 前に進め!

 

 

 

 

 クラリンの切った{6}に声がかかることはなかった。

 

 

 

 諦めない姿勢に、ようやく、ようやく牌が応えてくれた。

 

 

 

 リーチを打った宮永選手のもとに、{3}が渡る。

 

 

 

 

 

 倉橋多恵

 {1122233999} {横8888} ロン{3}

 

 

 

 

 

 まだ戦える。

 

 今、クラリンファンの気持ちは一つになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 南四局 

 

 

 

 勝負はオーラスを迎える。

 

 点差はほぼ無いが、前局のチャンピオン宮永照選手の和了は、なんと倍満。

 

 連続和了の最初の打点は低いはずのチャンピオンが、その掟すらも破って、勝ちをとりにきている。

 

 宮永選手も、全てを以てぶつかってきているのだ。

 

 

 親番で次の和了が倍満よりも高いとすれば、恐ろしい手牌になるだろう。

 

 

 しかしそれでも、クラリンは進む。

 

 

 

 

 

 

 さあ、準備はいいだろうか。

 

 

 見届けよう。

 

 

 ひたむきに努力を続け、どんなことがあっても前に向かい続けた。

 

 麻雀を、牌を愛する少女が、頂点を獲りに向かう。

 

 

 その最後の戦いを。

 

 

 

  

               

 

 

  <<   —3—    >>最終ページへ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・Hand Brother

 

  現在のネット麻雀において最高ユーザー数を誇る「雀鳳」において、最高クラスの段位である九段を学生時代に達成した麒麟児。

  ネット麻雀の年間リーグにおいても数多くのタイトルを獲得し、その中でも年間最優秀成績者に与えられるタイトルである「雀鳳位」を二度獲得。

 

  しかしある日を境に、ネット麻雀から姿を消し、その後は麻雀フリーライター兼記者として活躍。○○○○年より、本誌近代ネット麻雀の観戦記者として日々麻雀と向き合っている。

 

 

 

 

 

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