ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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お待たせしました。




第130局 狙われる者

 

 東2局 親 泉

 

「ロン」

 

 

 打牌の音だけが響いていた空間に、突如として発声が起こる。

 と同時、姫松の制服を着た少女の肩が小さく震えた。

 

 

 

 

 10巡目 紀子 手牌

 {③④赤⑤2345二二二六七八}  ロン{2}

 

 

 

 

 

 「2600」

 

 「……はい」

 

 

 点箱を開きながら、漫が今の局を振り返る。

 

 8巡目に親の泉からリーチが入り、紀子はその後ツモ切りのみ。

 ということは泉のリーチ時点から紀子の手牌は変わっておらず、あの形であったはずだ。

 

 

 (親の現物とはいえ、最初からダマ……{三}とか持ってきての手変わり待っとったって考えるのが自然なんやけど、どちらかといえば親からのリーチを待ってたみたいで嫌やな……)

 

 親の現物でもある{25}待ちは、ノベタンの形であるとはいえ悪くない。

 タンヤオドラ1の打点であることから考えても、リーチに行く打ち手もそこそこいそうだ。

 

 しかし今相手には、明確に削りたい相手がいるのだろう。

 

 

 (それが、ウチってことなんやな)

 

 漫の額に汗が流れる。

 多恵が勝って帰ってきてくれた時点で、こうなることはある程度予測していた。

 自然なことだ。漫が相手チームの監督であったとしても、そう指示するだろう。

 

 

 

 

 『今度は晩成の次鋒丸瀬紀子!こちらも姫松の上重漫選手からの直撃となりました!打点はさほど高くありませんが、トップから直撃は大きいですね』

 

 『いやートップからの直撃ってか……姫松からの直撃ってのが大きいよねえ?』

 

 

 『……?それは何か違いがあるのでしょうか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 清澄高校控室。

 

 

 

 「大アリね」

 

 控室の椅子に足を組んで腰掛けていた久が、針生アナの言葉に反応した。

 

 

 「まあ確かに、姫松のここから先は鬼じゃからのう」

 

 まこが机に頬杖をつきながらため息をこぼした。

 久の言いたいことは、言葉にせずともよくわかっている。

 

 

 「私が戦った守りの化身……愛宕洋榎は言わずもがな、和が対戦した副将の真瀬さん、そして咲が対戦した末原さん……総じて守備力が高すぎるメンバーなのよね。守りの化身に関しては直撃なんてとれる気がしないし、副将の真瀬さんは公式戦マイナスゼロなだけあってリスク管理が徹底されてるから不利状況では崩せない。末原さんに関しては自分が手作るより先に和了られちゃうから削れない……『姫松をトップで中堅に回してはいけない』とはよく言ったものね」

 

 「……確かに、真瀬さんは押し引きのバランスが徹底されていた気がします。点数状況に応じた打ち回しがとても上手でした……」

 

 久の言葉に、和も同意を示す。

 対戦して強さを身に染みて感じているからこその心からの言葉だった。

 

 

 「だから、ここで姫松をできる限り削らなくちゃいけない。それはきっと、他3校の共通認識になっているはずよ」

 

 「……なんだか可哀想だじぇ」

 

 

 タコスをくわえた優希が、同じ1年生でありながらこの決勝という舞台で戦っている漫を見つめる。

 

 その表情は、まだまだ闘志にあふれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東2局 親 菫

 

 

 (気に入らない……)

 

 リーチ棒を一本損した泉は、次局の手牌を理牌しながら、複雑な感情を抱いていた。

 

 先輩たちから託された仕事は、もちろんできる限り点数を稼いで帰ること。

 そしてできれば、狙えるなら姫松を削りたいということだった。

 

 ここは決勝。

 2位以内に入ることが条件だった今までのトーナメントとは違い、純粋に1位を目指しに行く舞台のはず。

 それなのにもかかわらず姫松を狙う理由は一つで、この後の姫松のメンバーが守備に優れ過ぎているからということは、もちろん泉もわかっていた。

 

 頭では理解していても、感情の部分では許せないこともある。

 

 

 (同じ1年なのに……!)

 

 姫松の次鋒、上重漫は泉と同じ1年生だ。

 だというのに今の状況はどうか。

 

 白糸台と晩成の2校は、あからさまに姫松を狙っている。

 

 自分のことなど、ハナから眼中にないかのように。

 

 泉が、強く手を握りしめる。

 準決勝で菫に良いようにやられてしまった記憶は、今も苦い記憶として泉の脳に焼き付いている。

 

 しかしその菫は、準決勝の時とは違い、明らかにこちらを狙ってきてなどいない。

 同卓しているから、肌でわかる。

 

 その事実が、どうしようもなく悔しかった。

 

 

 

 11巡目 

 泉 手牌 ドラ{二}

 {②④④23467二三四八八} ツモ{③}

 

 

 

 (張った……!確定三色。ダマでもツモれば跳満。だけどウチは今最下位なんだ。行かせてもらう!)

 

 

 「リーチ!」

 

 

 

 泉が千点棒を卓へと放り投げる。

 勢いよく曲げられた{④}が、乱雑に泉の捨て牌へと並んだ。

 

 

 『二条泉選手リーチに打ってでました!!ダマでも十分な打点に見えましたがここはリーチです!……って、三尋木プロ?』

 

 実況にも熱が入る針生アナに対し、落ち着き払った様子で咏が扇子を閉じる。

 その目は、菫の手牌を見ていた。

 

 

 『……なるほど。エグいねえ、シャープシューター』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 菫はツモ切り。紀子は手出しで安牌を切り、手番は漫へとやってくる。

 

 

 

 漫 手牌

 {①②③④7888赤五六七九九} ツモ{白}

 

 

 持ってきた牌は生牌の{白}。

 一向聴とはいえ、あまり真っすぐいって良いような状況ではない。

 幸い、宣言牌の{④}があるのでオリることには困らないが、ここで安易に{④}を切っていいものかと漫は思考に入る。

 

 

 (当然、山越しで狙ってくる可能性も考慮せなあかんわけやし、あのツモ切りはあてにならん。現状最下位の千里山から和了するより、ウチから和了った方がいいに決まっとるんやからな)

 

 菫がこちらを狙ってきていることはわかっている。

 しかし、安全牌が潤沢にあるわけではない漫からすれば、この{④}は早いこと処理したい牌の一つだった。

 

 そして漫にはもう一つ、この{④}を切れる理由がある。

 

 

 (弘世菫のクセ……この局、指が動いた時に視線が行った先は晩成やった。つまりこの局はウチ狙いではないはず……)

 

 白糸台の次鋒、弘世菫にはあるクセがあった。

 シャープシューターと呼ばれる彼女は狙い撃ちを得意としているのだが、その狙いを定める時……弓を引くような予備動作を伴う。

 その指が動いたタイミングで菫が向いている先が、菫が狙う相手。

 

 この世界の麻雀には不可思議な現象がつきまとう。その不可思議な現象さえもデジタルに解明する、を目標にしている姫松のデータ班が、菫のクセを見逃すわけはなかった。

 

 

 (白糸台も晩成も、このままオリるとは思えん。{④}先切りが、今の最適解や)

 

 漫のはじき出した答えは、{④}切り。

 狙われているのは承知の上だが、逃げ回っていても勝機はつかめない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1ヶ月前。白糸台高校。

 

 

 インターハイを直前に控えたある日。

 突如として照に呼び出されたチーム虎姫。

 

 照は外向けの記者会見を終えた後、チームの全員をミーティングルームに集めていた。

 

 

 「テルー!きたよー!」

 

 「どうした照。お前が全員を集めるなんて珍しいな」

 

 机の前で読書をしていた照に対し、淡と菫が後ろから声をかける。

 続くように誠子と尭深も部屋に入ってきた。

 

 ゆっくりと本を閉じると、照が全員を見渡す。

 その目はいつも、どこか遠くを見ているような儚い雰囲気を感じさせた。

 

 そんな照から飛び出した言葉は、4人を驚かせることになる。

 

 

 「今年の団体戦……去年までみたいに私が大差をつけて帰ってこられないことがあるかもしれない」

 

 「……それは……どういうことだ?」

 

 「言葉通り。去年もギリギリの戦いだった。負ける気はないけど、私がダメだったらもう終わり……なんてことにはなってほしくないから」

 

 白糸台のメンバーにとって、照の存在は絶対的だ。

 当時そこまで強豪校ではなかった白糸台を優勝するほどにまで押し上げた圧倒的エース。

 

 人の本質を見抜く力と、自身の強烈な連続和了は誰もが高校麻雀界の頂点であると信じて疑わない。

 

 そんな照が、自身が負ける可能性を示唆したのだ。

 こんなことは今までは無かった。

 

 

 「……やはり、去年の個人戦を気にしているのか」

 

 菫が思い浮かべるのは、去年の個人戦。

 照はインターハイチャンピオンになったとはいえ、とても喜べるような状況ではなかった。

 

 照が黙って、後ろを向く。

 

 

 「去年の個人戦、私はあの場の誰に負けてもおかしくなかった。個人戦はまだいいけど……団体戦で、負けたくないから」

 

 その言葉に、菫を含む4人が驚く。

 照はそこまで白糸台の3連覇に興味を示していないのかとも思っていたが、どうやらそれは思い違いだったようだ。

 

 

 「はっきり言うと、皆今のままだと、勝てないかもしれない」

 

 「「「「……!」」」」

 

 照の発言に、全員が息をのむ。

 

 今のままでは優勝には足りない、とはっきりそう告げられたのだ。

 他でもない、打ち手の本質を見抜くことができる照から。

 

 

 「確かに……今までは宮永先輩に頼りすぎていた感はありますね……」

 

 「……」

 

 誠子の言葉に、尭深も無言で首肯。

 去年の団体戦も、簡単な勝利ではなかった。

 

 

 「……だから、これから1ヶ月、全員に別メニューで練習してもらう。練習の内容は……私が決めさせてもらった」

 

 「……やけに本気だな、照」

 

 あまりにも用意が良すぎる照に、菫も一瞬言葉を忘れる。

 高校生活で一番時間を共にした仲だが、ここまで本気の照は見たことがなかった。

 

 照が、改めて全員の方へと振り返った。

 

 

 

 「……負けたく、無いから」

 

 

 

 

 

 その日から、白糸台のメンバーは全員照に与えられた練習メニューをこなしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (お前が負けたら白糸台は勝てない。……確かにそう思われているのだとしたら、少し……癪だな)

 

 菫の瞳が鋭く光る。

 

 ぎりぎりまで引き絞られた弓は、勢いよく矢を放つ。

 放たれた矢は寸分違わず。

 

 

 漫の喉元を貫いた。

 

 

 

 「ロン」

 

 

 (は……?!)

 

 

 

 菫 手牌

 {赤⑤⑥⑥⑦⑧567二二三四五} ロン{④}

 

 

 

 「12000」

 

 

 

 

 

 

 『決まった!!!山越し!!徹底していますシャープシューター弘世菫!!またもやトップ目の姫松から直撃!これは大きすぎる一撃になりました!!』

 

 『やっぱり千里山からは和了らないみたいだねい……こりゃあ姫松も安泰ではなくなりそうだねい。知らんけど!』

 

 

 

 

 漫が混乱する頭と、早くなりだした心臓の鼓動を抑えつけながら河を見渡す。

 確かに、今の局狙いは千里山の泉に向かっていたはずだった。

 

 

 (クセを気付いてる……?!いや、準決勝までクセはそのままやった……やとしたら、千里山に絞っていたのに、和了らなかった……?!)

 

 卓の中央に牌が流れていく。

 混乱する頭を必死に落ち着かせ、次の局への対策を練る。

 

 

 (今答えを出すのはあかん……!休憩中に末原先輩に確認しにいくしかあらへん……!とにかくこの前半戦はこのまましのぐしかないんや!)

 

 点棒表示を見る。

 多恵の強い意志でつかみ取った点棒が、みるみる内に減っていっている。

 

 このままズルズルと行くのだけは、許されない。

 

 

 (ウチは皆の代表なんや……この数か月……無駄にしてたまるか……!!)

 

 漫も、自分の性質は理解している。

 しかし不確定な物に頼ることは漫はしない。

 

 思考の放棄は、姫松のプレイヤーとして一番やってはいけないこと。

 

 片手で頬を叩いて、漫は次の局へと意識を移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな様子を、苦虫を嚙み潰したような表情で二条泉が眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 





感想なかなか返せずすみません。
更新遅くなるかもですが、必ず完結までは書ききります。

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