ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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番外編7 クラリンと裏側の男たち①

 全国高等学校麻雀選手権大会、通称インターハイ。

 高校生雀士にとって夢の舞台であるその大会は、多くの麻雀ファンを魅了し、熱狂させる。

 

 少女たちが全力で覇を競い、ぶつかり合う。3年間という短い期間の中で必死に高みを目指す姿は、時に儚く、時に美しい。

 

 そしてそんな少女達を見守るのは、麻雀ファンや、子供たちだけではない。

 

 

 これはインターハイの裏側で走り回る、とある男たちのお話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は遡り、インターハイ団体戦決勝先鋒戦終了後。

 歓声とどよめきで興奮冷めやらぬ空気の中、関係者以外は入ることのできない会場の控室と控室の間の通路で、その男2人は話し合っていた。

 

 

 「……いやそれにしても信じらんねえ……まさか本当にチャンピオン倒しちまうなんてな……」

 

 「だから言ったじゃないですか先輩!!俺たちのクラリンは絶対勝ってくれるって信じてたんですよ!!」

 

 「いやお前チャンピオンに四暗刻ツモられた時発狂しながらメモ帳床に叩きつけて半ばあきらめてたよな?」

 

 「え?そんなことしてないですよ?僕は最後までずっと信じてました」

 

 「この野郎……」

 

 

 スーツ姿に身を包んだ2人。

 先輩と思わしき短髪をツーブロックに刈り上げている男が、後輩の方の手のひらドリルに舌打ちしながら手元のメモに目を落とした。

 

 そこにはこのインターハイに出場している選手の中でも、特に注目度が高い選手がピックアップされている。

 

 

 

 「まあどうでもいい。これで他の1位指名が変わる可能性が出てきちまった。大宮はどうせチャンピオン宮永照変わらず。問題は札幌と仙台、東京の2チームが1位指名を変えてくる可能性があるっつーことだ。今まではチャンピオンを1位指名するって声が有力だったが、個人戦はまだとはいえ、最後の大会で倉橋が勝ったとあっては、考えを改める可能性があるだろ」

 

 「確かに……そうすると競合は避けられませんね」

 

 「クソッ。兵庫とだけ戦うんだったらまだ可能性はあったが、他も指名してくるとなっちゃ確率は一気に下がる。倉橋が勝ったのはシンプルに嬉しいが、俺たちにとってしてみればライバルが増えちまったってわけだ」

 

 心底めんどうだという風に頭を掻き、先輩らしき男はメモを閉じて歩き出す。

 その後ろに後輩が続いた。

 

 

 「え、じゃあどうするんですか?まさかクラリン指名をやめるとか言いませんよね?」

 

 「んなわけあるかアホ。俺らにはどうしたってあいつが必要なんだ。死ぬ気で獲りに行くさ。……ただ、そのために周りに釘刺しとく必要があるだろうな」

 

 

 この二人の職業。それは「スカウト」。この世界に存在する麻雀プロチームに、有望な選手を引き入れる仕事。

 引き入れる、というと少し語弊があるかもしれない。あくまで彼らにできるのは情報収集。結局誰を1位指名することに決めるかはあくまでチームの決定。

 今の彼らにできるのは、他のチームがどの選手を狙っているのかという情報や、選手たちに軽く接触して、その選手の性格や実力を探ること。そして選手たちにうちのチームに来て欲しいという旨の話をすることくらいだった。

 

 

 

 「げ、先輩またここですか……」

 

 「お前も一本吸うか?」

 

 「勘弁してくださいよ、僕はたばこは吸わないって決めてるんです」

 

 2人が来たのは会場に設置されている喫煙所。

 昨今は喫煙者に厳しい世の中。タバコを吸える場所は限られ、タバコの価格は日々高騰している。

 一昔前は麻雀をする者であればタバコを吸う人が多かったが……今はその限りではない。

 

 男がアイスブラストの紙タバコを一本取り出し、ワイシャツの胸ポケットに入れていたジッポを使って火を点ける。

 その間後輩は所在なさげに自分のメモ帳を見つめていた。

 

 「それにしてもすごかったですね……まさかあそこで打{一}とは思いませんでしたよ」

 

 「お前完全にはてなマーク浮かんでたからな……あれができるからこそ、俺たちはあの選手が欲しいんだよ」

 

 「普通の心臓じゃないですよ!目の前に役満が転がってるんですよ?!誰だって飛びつきたくなるじゃないですか……!」

 

 興奮冷めやらぬといった様子で、後輩がまくしたてる。

 それも無理のない話。彼は元々クラリンのファンで、昨日の記者会見で倉橋多恵がクラリンであるということが確定したのだ。

 

 そしてそのクラリンが、先ほど行われた団体戦決勝でチャンピオンを破り、一位で区間を終えている。

 

 その直後の選手と接触できるかもしれないとあっては興奮を抑えろという方が難しいだろう。

 そんな様子をため息ながらに見守っていると、2人と同じくスーツ姿の男が1人、喫煙所に入ってくる。

 その顔は、2人も知っている顔だった。

 

 

 「……これはこれは、札幌の田中さんじゃないですか。どうです?お目当ての選手とは接触できましたか?」

 

 「……君たちか……いや、君たちと同じく、記者たちに邪魔されて接触どころじゃなかったさ」

 

 「今日の試合で記者が集まらないわけがないですからねえ……」

 

 札幌グリフォンズ。北海道に本拠地を構えるプロ麻雀チーム。

 目の前の男は、そのスカウトだった。

 

 札幌は2年前からチャンピオンを指名すると息巻いているチーム。おそらくはチャンピオン宮永照への接触を試みて失敗したのだろう。

 後輩は相変わらず居心地が悪そうに会釈を繰り返すだけだ。

 

 

 「……試合結果を受けても、札幌はチャンピオン狙いは変わらないんですね」

 

 「……腹の探り合いか?……まあウチの意志は変わらないよ。今回は倉橋君にやられてしまったが、総合力では宮永君の方が上……それがウチの見解さ。……それにウチのチームのスタイルとも、彼女はよくあっている。彼女には是非、ウチのエースになってもらいたい逸材だよ」

 

 「……まあ、確かに彼女の力は恐ろしいほど強力ですからね」

 

 「……そう言う割には、君たちは宮永君を指名する気はなさそうだが?」

 

 「ウチも変わりませんよ。ウチは倉橋多恵を獲りにいきます」

 

 「……そうか。君たちも意固地だね」

 

 札幌のスカウトが、吸い終わったタバコを灰皿に押し付けた。

 その表情は、あまり優れない。

 

 去り際、チラリと札幌のスカウトがこちらを振り返る。

 

 

 「しかしあまり意固地だと……万年Bリーグを脱出するのは難しいんじゃないかな?」

 

 「……肝に銘じておきますよ」

 

 男のあまりにもあからさまな挑発にも、一歩も動じない。

 つまらなさそうに、札幌のスカウトは会場の廊下へと消えていく。

 

 

 「な、なんなんですか今の!めちゃくちゃ感じ悪い!」

 

 「……俺たちが万年Bリーグなのは事実だ。それに、札幌は結果も残してる。ファイナルシリーズには毎年のように行ってるし、毎年シーズン開幕前には優勝候補に名前が挙がる。今の実力差は歴然だろ」

 

 「それにしたって……!」

 

 あまりにも傲慢な物言いに、後輩の方は憤りを隠せない。

 

 

 「今は言わせておけ。……今年のドラフト。これに勝てさえすれば、俺たちのチームも変わる」

 

 「……!そうですね……」

 

 今年のドラフトは、間違いなく壮絶なものになる。

 まさしく10年に一度あるかないかと言われる逸材揃い。

 

 それもお飾りなんかではなく、紛うことなき最強世代。

 去年の個人戦決勝卓が全員2年生であったことが、なによりの証拠。

 

 その中でもこの男は、2年前から姫松高校の生徒に目をつけていた。

 

 麻雀に対する姿勢、実力、性格……どれをとっても唯一無二。だからこそ、ウチのチームの看板となってほしい。

 それがこの男の想いだった。

 

 

 (それがやれクラリンだ、関西四天王だで目立ちまくっちまったからな……競合は避けられねえか)

 

 彼女が有名になることが悪いことではない。

 しかしそれは同時に、他チームからも1位指名をされる可能性が高くなっていくということだ。

 

 それでも彼女の指名を諦めるという選択肢だけは、なかった。

 

 実はそれはこの2人が所属しているチームのスタイルに起因する。

 

 

 「でもなぜ先輩と上層部はそこまでクラリンにこだわるんですか?」

 

 「……最近の麻雀プロは、能力全盛期だ。正直見ているこっちがげんなりするほどの……な。確かにそれを否定はしねえ。派手だし華やかだし、ファンがつきやすいのも理解してる……けどな」

 

 能力。

 偶然では片づけられないほどの超常的な力を持った雀士が、世の中にはたくさんいる。

 それは共通の認識であり、麻雀ファンのほとんどがそれを理解している。

 

 

 「それは、『麻雀の面白さ』じゃねえ。能力だってなんだって使ったっていいが、『麻雀の面白さ』ガン無視で、麻雀が何の戦略性も無いただの運ゲーになっちまったら、いずれこの競技は人気を失っていく」

 

 観ている人に麻雀の面白さを。

 それが彼らの所属しているチームのモットー。

 

 それを現実に成し遂げられると思える人材が欲しかった。

 

 だからこそ、男にとって姫松高校というチームは、他のどんな高校よりも魅力的に映っていた。

 

 

 「能力が無いわけじゃねえ。けど、俺は初めて能力すらもねじ伏せるような効率(デジタル)を見た。あの日から、俺はこいつなら今の麻雀界を変えてくれるんじゃねえかって気がしてならねえんだよ」

 

 今でも鮮明に覚えている。

 2年前、姫松のルーキーがあまりにも恐ろしい力に押し潰されながらも、決して諦めずに、チャンピオンに最後に一太刀浴びせたあの姿を。

 くわえていたタバコを思わず落としてしまうほどの衝撃を、あの少女が持ってきた。

 

 あの日から、男は倉橋多恵の麻雀に可能性を感じていたのだ。

 

 

 「……俺たちにはクラリンが必要なんですね!!なんとしてでも我らが横浜ベッセルズにクラリンを……!」

 

 「わかったらとっとと行くぞ、狙うのは昼休憩。そこもだめなら団体戦終了後だ」

 

 「はい!」

 

 男たちが会場の廊下に消えていく。

 

 

 

 これはまだ、選手たちは何も知らない裏側のお話。

 

 

 

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