ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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第141局 鳴かされる

 

  白糸台高校控室。

 

 

 「上手くハマったな……準決勝まで手の内を見せなかったことが功を奏したか」

 

 「渋谷先輩が三元牌を仕掛けてること自体すごく珍しく感じますね」

 

 尭深が満貫のツモ和了りを決めたことで、1位から4位までの差はぐっと詰まった。先鋒戦で照がまさかの3着という結果だったものの、菫の奮闘によって白糸台はまだこの位置につけている……という表現が正しいのかもしれない。

 菫は照の敗戦を受けて少なからず衝撃を受けていたものの、他ならぬ本人から「今年は負けてもおかしくない」と聞かされていたのだ。正直、まさか。という気持ちの方が大きかったが、本当にその結果になってしまったのだから驚きだ。

 

 「準決勝まではあ~別に三元牌の対子落とししたって大丈夫な相手でしたけど~……流石に決勝でそれは無理そうですもんね~」

 

 「オーラスは絶対に逃せないが……それ以上にオーラス以外をどう切り抜けていくかも重要だからな」

 

 麻雀は何もしなければ点棒が減っていくゲーム。放銃しないというのは聞こえはいいが、放銃ナシ、和了ナシで4着など麻雀ではあまりにも多い話だ。

 

 オーラスまで静観を決め込んでいても勝てていた準決勝までとは違い、この決勝卓は猛者揃い。白糸台を除いたら優勝候補筆頭である姫松などは、中堅にエースを置くと名言しているほどなのだ。激戦は必至。

 

 いつも尭深が飲んでいるお茶を照が飲みながら、また無表情でモニターを見つめる。

 

 

 「大丈夫。尭深は、強いよ」

 

 周りが強いことは百も承知。それでも対抗できる力があると、照は信じている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東4局 親 憧

 

 

 東3局での尭深の和了りを受けて、この中堅戦、誰一人として油断は許されないことを確信する憧。

 あと何回肝を冷やせばいいんだとこの後の展開に気を揉みながら、憧は自動卓から上がってきた配牌を丁寧に理牌する。

 

 (ってか今更だけど私北家なのよね……絶対役満とかツモられたくないんですけど……!)

 

 忘れていたわけではないが、オーラスは必ず尭深が仕掛けてくる。今まで蒔いてきた種を使って育てた果実を、収穫しにくるのだ。

 そして仮にそうなった場合、横2人が放銃をするということは考えにくい。セーラならまだしも、守りの化身の放銃を願うなんて初瀬に対して倍満聴牌をオリろと命じるくらい無理な話だ。

 であるならば、もし尭深の和了が成就してしまうとすればツモ和了の可能性が一番高い。つまり一番被害を被る位置にいるのが、憧ということだ。

 

 まだ少し先に控えているオーラスに少し嫌気が差しながら、憧は第一打を切っていった。

 

 

 

 3巡目

 

 

 「ポン」

 

 (……また?!)

 

 またもやセーラから出てきた{白}を鳴いたのは、尭深。ゆっくりとした動作で手牌から2枚の{白}を晒すと、セーラの河から{白}を拾い上げる。そして手牌から1枚の牌を切りだした。

 一連の動作を終えてから、尭深は自前の湯呑みでゆっくりと緑茶を嚥下する。

 

 (今回は一打目に{発}を切ってるからあんまり考えてなかったけど……そりゃ{発}切って{白}鳴けるなら鳴くか……)

 

 第一打が三元牌である以上、先ほどよりは警戒度は高くならない。先ほどは自身の強みをわざわざ殺してまで、和了りをとりにきたのだから警戒もするが、今回は自分の力をしっかりと活かした上で仕掛けを入れている。

 しかしそれでも、拭えない違和感はあった。

 

 

 (ん~……白糸台は連荘してくれた方が都合がええから、自分が親やない時はおとなしくしとることの方が多いはずって船Qゆーてたんやけどな)

 

 データに無い動き。

 あまり敵の動きを気にしないセーラであっても、ここまであからさまに聞いていた情報と違うと違和感が残る。

 

 

 5巡目 洋榎 手牌 ドラ{9}

 {①②⑧⑧⑨334二四七九東} ツモ{白}

 

 (さっきっから配牌がよくならんなあ~……ま、ええか)

 

 洋榎の配牌はこの半荘始まってからイマイチパッとしない。せめて良形が残る3向聴くらいで上がってきてくれればまだ和了りを目指す気にもなるのだが、ドラも赤もなくあまり真っすぐ打つ気にならない配牌が続いていた。

 

 

 そんな配牌から進まない形を見ていた針生アナが、そういえばといった表情で手元の資料を漁る。

 

 

 『あ、これも結構面白いデータがあるんですけど』

 

 『おっ、いいねいいね、そういうの好きなんだよねい』

 

 『姫松の愛宕洋榎選手、実力者としてかなり有名じゃないですか』

 

 『そらあそーだろーな!あたしも手牌読みとか教わりてーよ』

 

 『今大会の、決勝に出ている全メンバーの配牌平均向聴数を非公式で調べてる人がいまして』

 

 『なにそれ!くっそめんどくさい作業だったろうによくやるなあ……ありがたいけどねい』

 

 『その結果がですね……まあ一番良いのはチャンピオン宮永照選手だったんですけれども』

 

 『まーそうっぽいよなあ……あ、マジ?話読めたかも。知らんけど』

 

 『お察しの通りでですねえ……この20人の内、一番配牌の平均向聴数が悪いのが、愛宕洋榎選手だったんですよねえ』

 

 『はっはっは!!それでいてこの成績とか大概バケモンだな!いやー現代麻雀に真っ向から喧嘩売りに来るスタイル、あたしは大好きだよ』

 

 

 

 

 そんな話をされているとは露知らず、洋榎の視線の先には、尭深の捨て牌。

 

 

 尭深 捨て牌

 {発8五⑦⑧}

 

 

 (白糸台は……染めっぽいな)

 

 色濃い牌の並び方になっている尭深の捨て牌を眺めて、洋榎はそう結論付ける。

 親番でもない今は安い手で和了りにくるとは考えづらい上、{⑦⑧}の両面ターツは場況的にも良いターツだ。

 

 的確に相手の手牌を読みながら、洋榎はこの後の展開をどう作っていくべきかを考える。自分が和了れない時に、どういった局を作るべきか。

 愛宕洋榎という打ち手は、そういった局運びにも異常に長けていた。

 

 

 

 

 10巡目

 

 

 「ツモ」

 

 

 尭深 手牌

 {2345699西西西} {白白横白} ツモ{1}

 

 

 「……2000、4000」

 

 結局この局を制したのは、またも尭深だった。

 

 

 

 『白糸台高校渋谷尭深選手!2連続の満貫和了で一気に点数を回復!!これは本当に勝負がわからなくなってきました!!』

 

 『配牌がかなり索子に寄ってたからねい……オーラスの一撃が決まっちまえば、白糸台が抜け出すことになる。いよいよ面白くなってきたんじゃねえの?知らんけど』

 

 

 

 点数状況

 

 1位 千里山 江口セーラ 105600

 2位  晩成   新子憧 100900

 3位 白糸台  渋谷尭深  97500

 4位  姫松  愛宕洋榎  96000

 

 

 『なんとなんと!ここで姫松が4位まで順位を落とします!中堅戦のこの時点で姫松が最下位にいるのは今大会は初めてじゃないですか?』

 

 『いやー知らんし。ま、流石の守りの化身といえどもツモでこんだけ削られちゃったら点棒は減るよねえ……まあこのまま黙っているわけはないはずだけどさ』

 

 『さあ大混戦のまま中堅前半戦は南場へと入っていきます……!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 南1局 親 尭深

 

 

 尭深がゆっくりと息を吐き、配牌を理牌する。その所作に淀みはない。

 そんな様子を眺めながら、憧はまた警戒心を高めていた。

 

 (守りの化身と打点女王に意識が行きがちだったけど……この人も強い……!この2人がいる卓で平然と和了ってくる……!)

 

 正直憧にとってこの展開は予想外だった。

 自分が和了るのはベストだが、それ以上にセーラと洋榎の叩きあいになることが予想されただけに、オーラス以外でもこれだけ和了りを奪ってくる尭深の存在は、脅威そのもの。

 

 (それよりも意外なのは、あんだけ準決勝で暴れまわった守りの化身が大人しすぎ……って)

 

 チラリと上家に座る洋榎を見れば、配牌を眺めながら魂が抜けたように呆けた顔をしている。

 

 

 (え。なに?どうしたのこの人。あんだけ普段煽りマシーンなのにマジで生気感じられないくらい魂抜けてますケド?!)

 

 

 

 

 洋榎 手牌 ドラ{6}

 {①②⑤14一一四八九東南西} 

 

 (牌にやる気が感じられへんなあ~……)

 

 配牌に文句を言うのは弱者の思考。そうは言ってもこの半荘始まって以降一度もまともな配牌と巡り合えていないのは、単純に洋榎の運が悪かった。

 

 「なんや洋榎。大富豪で途中まで勝ってたのに調子に乗って全ベットして勝ち分全部溶かした時の顔しとるで」

 

 「……やえが爆笑してたんを思い出して腹立ったわ」

 

 流石に学校行事に麻雀卓を持っていくことはできず、代わりにトランプで駄菓子を賭けていた時のことを思い出すセーラ。

 

 (ま、コイツの場合よゆーでシャミ使ってくるもんやから油断はできんけどな……)

 

 こういった表情さえも、洋榎は自分の手札として使ってくる。今回はたまたま本当に手牌が悪いが、平気で手牌悪いフリをして捨て牌一段目辺りで和了ってくることがあるのだから、洋榎の三味線は悪質だ。

 

 

 

 5巡目

 

 

 「ポン」

 

 もう何度目になるかもわからない、尭深のポン発声に、憧の眉がピクリと動く。

 

 (そりゃそうよね……今までの局数は5……このままだと最短で8局消化後にオーラスに行くことになる……普通の相手ならそれで十分だろうケド、配牌に三元牌が無い場合がこれから先あるかもしれないワケだし、連荘は絶対にしたいはず)

 

 基本的に尭深は親への執着が強い。当たり前ではあるのだが、オーラスまでの局数がオーラスの強さにモロに響いてくるわけで、自分で連荘を狙えるのであればとことん狙ってくる。

 

 

 (でも悪いケド。鳴き仕掛けで負けて……らんないっ!)

 

 

 「それポン!」

 

 洋榎から出てきた{白}に憧が反応する。

 

 

 憧 手牌

 {②②④3赤57六七九九} {横白白白}

 

 

 切り出したのは{1}。{赤5}を使いつつ、ドラまで使えば3900点まで見える。憧にとっては絶対に鳴く{白}だった。

 その切り出しを見て、もう一度洋榎が憧の捨て牌を凝視する。

 

 

 

 

 

 9巡目

 

 

 尭深の捨て牌から脂っこい牌が出てくるようになり、警戒が必要になってくる頃合い。

 

 (渋谷尭深から中張牌が出てきた……打点は求めてないはずだし、そろそろヤバイか……?)

 

 憧の手牌は進んでいない。

 このままだと尭深に先に和了られてしまうことは必至。

 

 そんな、タイミングだった。

 

 

 

 「……」

 

 上家の洋榎が持ってきた牌を手中に収め、卓を一通り見渡した後……小さくため息を吐く。

 そしてゆっくりと……目を細めた。

 

 

 その目には一体、何が見えているのか。

 

 

 (なに……?愛宕洋榎の雰囲気が……変わった?)

 

 普段の適当さからは考えられないほどの真剣な視線が、憧の緊張感を加速させる。

 

 一九字牌だらけだった洋榎の捨て牌に急に並んだ牌は……{4}だった。

 

 

 「……ッ!チー!」

 

 憧が仕掛けを入れる。いや、入れざるを得ない。このリャンカンは急所だから。

 手牌から{3赤5}を晒し、{7}を切り捨てる。ドラの{6}が入ってくれれば最高だったが、そうも言っていられない。

 

 (な、なに、今の感じ……手を、強制的に進めさせられたみたいな……)

 

 じっとりと背中に汗が滲んでいるのを感じながら、憧は洋榎の方を見やる。

 表情は変わらない。卓の全てが見えているかのような視線は、今もまさに変わりゆく卓の状況を逐一に把握しているようで。

 

 

 またも、洋榎の切り番がやってきた。

 

 ゆっくりと出てきた牌は……{②}。

 

 またも憧の全身を駆け巡るは悪寒。

 

 

 「……!ポン!」

 

 憧がこれも鳴く。いや、鳴かされる。

 見事に急所を射抜く洋榎の牌が、瞬く間に憧に両面聴牌をもたらす。

 

 しかしそんな順調な手牌とは裏腹に、憧の感情は嬉しいとは正反対の位置にいた。

 

 

 (怖い怖い怖いこの人怖すぎるでしょ……!なんで私の欲しい牌……しかも急所をわかったように切ってくるワケ!?)

 

 いつの間にか入った両面聴牌。

 両面からの鳴きであればためらったであろうが、両面聴牌ならなんの文句もない。

 

 ひとつ言えば、{6}を切ってくれれば打点が上がったのにということくらいか……。とそこまで考えて、憧の全身からもう一度鳥肌が立った。

 

 

 

 

 (まさか……()()()安目から鳴かせたの……?!)

 

 

 

 

 考えすぎかもしれない。ただ単純に急所になりえる牌で、ドラは流石に鳴かれたく無いというだけかもしれない。

 しかしそれぐらいのことを平気でやってしまいそうな不気味さが、この打ち手にはある。

 

 

 「ロン!2000点!」

 

 「……はい」

 

 

 結局、尭深から零れた{八}を憧が仕留めて2000点の和了。

 しかし憧は、この和了を全く自分で和了った気分になれない。

 

 何事もなかったかのように卓の中央に自分の手牌と目の前に積んであった山を流し込む洋榎を見て、憧はわずかに震える自身の身体を左手で抱いた。

 

 

 

 

 (ヤバすぎる……!守りの化身……!)

 

 とてつもない和了りをされたわけでもない。

 準決勝の時のような相手をかわしきった和了りをされたわけでもない。

 

 それなのに。

 

 

 

 手牌を全て見透かされているかのような、心臓を正面から握られているかのような感覚。

 

 こちらの命は、向こう側に握られているかのようなこの感覚。

 

 

 

 新子憧は今この瞬間、ハッキリと愛宕洋榎に『恐怖』を抱いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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