ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

170 / 221
第147局 一打目

 

 点数状況

 

 1位  姫松  愛宕洋榎 117500

 2位  晩成   新子憧 111500

 3位 千里山 江口セーラ  97000

 4位 白糸台  渋谷尭深  74000

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ツモ」

 

 静かに手牌を開いたのは、西家に座る渋谷尭深だった。

 

 

 東2局 1本場 尭深 手牌 ドラ{③}

 {②③⑥⑦⑧⑨⑨} {白白横白} {東横東東} ツモ{①}

 

 

 

 「2100、4100」

 

 

 『白糸台高校渋谷尭深選手!満貫のツモ和了りで点数を回復です!』

 

 『ふ~ん、本当に真っすぐに混一向かって、素直に和了りを手にした感じだねえ……。このコにしたら相当珍しいんじゃねえの?知らんケド!』

 

 

 

 そんな尭深の和了り形を見て、憧は眉をひそめる。

 

 (今度は一巡目に{中}……?渋谷尭深は一体何を考えてるの……?ってか{白}鳴いてるし……)

 

 疑念は尽きないが、そうも言っていられないので憧は点箱から五千点棒と百点棒を一本ずつ取り出して、尭深の方へと差し出す。

 

 

 (ここまでの手出しは{④③中}で、三元牌は一度だけしか切り出していない……普通のメンツ手をオーラスで組むとはとてもじゃないけど考えられないし、本当になにやってるの?渋谷尭深は……まさか諦めた……ってそんなわけないよね)

 

 渋谷尭深の能力の性質上、普通のメンツ手を作ることはあまり推奨されない。

 天和狙いで普通の手を作ろうにも、最後の方になって面子手に必要な素材が配牌に来てくれる保証はないし、そしてオーラスの一歩手前にもなれば天和に必要となる素材の条件はかなり厳しくなる。

 

 だからこそ基本的に彼女は三元牌をより多く集めることで、大三元という比較的成就しやすい役満を目指しているのだ。

 それが一番効率的だし、他家にとっても脅威になりやすいから。

 

 では今回は、渋谷尭深は何を狙っているのか?

 それを憧はわからずにいた。

 

 

 

 

 

 東3局 親 洋榎

 

 洋榎が配牌を受け取り、いつものように洋榎は理牌をする前に1枚の牌を切りだしていく。

 放送対局であるからこそ洋榎は理牌をするが、プライベートで対局してる時などは、洋榎は基本理牌をしたがらない。

 

 本人曰く、『別に理牌なんかせんでもわかるし、たまに理牌で手牌を読んでくるめんどくさいヤツもおるしな』と。 

 だから彼女は最初に配られた牌をすぐさま頭の中で理牌して、第一打を切り出す。

 

 このあたりは最初から鳴く牌と手牌の方針を決める恭子や和、それこそ憧などとは違った感覚だった。

 

 南家に座る尭深が山から牌をツモって、一打目を切る。

 

 この尭深の一打目の瞬間は、この決勝中堅戦を通じて、3人全員の目が常に光っていた。

 今回の一打目は……{白}。

 

 (え?なに?どゆこと?結局本命は大三元狙いってコト?もうよくわかんなくなってきたんですけど……)

 

 1、2局目の中張牌連打から一転、今度は従来と同じ三元牌切り。

 憧は尭深がオーラスで何を狙っているのかがついにわからなくなってきていた。

 

 もし仮に前半戦と同じ大三元を狙うのであれば、先ほどまでの中張牌の切り出しはそれこそ意味不明だ。

 

 (まああんまり考えすぎるのも良くないのかな……)

 

 敵は渋谷尭深だけではない。

 初めて北家に座った渋谷尭深は脅威だが、今回の相手はそこばかりを気にしていられる相手でもない。

 

 

 11巡目 憧 手牌 ドラ{三}

 {①①②123567三三四五} ツモ{六}

 

 (うわ……嫌な聴牌しちゃったなあ~……)

 

 今回の憧の牌姿は鳴ける形でもなく、かといってドラが2枚あるので店じまいするほどでもなく。

 それなりに手を進めていたらこの巡目での愚形聴牌が入った。

 

 (河が濃くなってきてるのは渋谷で……愛宕洋榎の河もそこそこできてそうなのよね……)

 

 冷静に相手の河を分析する憧。

 リーチが危険なことは百も承知だが、流石にドラを2枚持っているのにリーチをしないのは消極的すぎる。

 

 小考終了。

 晩成で育った憧が、この手を諦めることはあり得なかった。

 

 

 憧が手牌から{②}を持ち上げる。

 

 「リーチ」

 

 「お、それや」

 

 しかし憧が千点棒を場に置くよりも早く。

 

 下家に座る洋榎から声がかかってしまった。

 

 

 洋榎 手牌

 {①③12334566一二三} ロン{②}

 

 

 「7700や」

 

 「……はい」

 

 捕まってしまった。

 しかしこの打牌に後悔はない。

 

 もう一度河と洋榎の手牌を見て、きっと何度同じ状況が来ても、この三色聴牌は読み切ることができなかったであろうと結論をつける。

 

 うん、と1つ頷いた後、点箱を開けて洋榎に点数を渡した。

 

 「まいどあり~……っと。あ、そうそう、やえんとこのおませさん」

 

 「お、おませ……?わたしのこと?」

 

 「せやせや。一つアドバイスしといたる」

 

 「……?」

 

 「……リーチするんかせえへんのかは先に決めとき。その一瞬の逡巡で愚形リーチなんやってまるわかりや」

 

 「……ッ!」

 

 「ん~愚形リーチで最終が{②}ねえ……わっかりやすいところで言えば{①}のシャボ、ペンカン{③}、カン{⑤}……なんやろなあ?」

 

 まただ、またこの感覚。

 全てを見透かされているかのような、気味の悪さ。

 

 「おい洋榎うるせーぞ!そんなんだからやえに性格の悪さナンバーワンとか言われるんやで!」

 

 「あいつが勝手に言っとるだけやろ……多恵や恭子は涙を流しながらウチの聖人っぷりを褒めてくれるっちゅうに……」

 

 「120%嘘やろそれ」

 

 セーラが卓の中央のボタンを押して、捨て牌達が自動卓に吸い込まれていく。

 

 憧はしばらく気味の悪さに寒気を感じていたが、それもほんの少しの間だけ。

 

 「……ご忠告……ありがとうございます」

 

 「おお。素直なんは好きやで」

 

 土台、この相手達に自分が実力で勝っているなんて思っていない。

 こんなことをいちいち気にしていてもしょうがないのだ。

 

 むしろこれを気にして手が縮こまってしまっては相手の思うつぼ。

 

 憧はもう一度深く息を吸った。

 

 (別に関係ないんだから……実力で負けてるのはわかってる……けど、今日の勝ちを譲るとも言ってない!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東3局 1本場 親 洋榎

 

 

 「ツモ!」

 

 

 憧 手牌 ドラ{四}

 {②②④赤⑤⑥⑦⑧三四赤五} {横六七八} ツモ{③}

 

 

 「2000,3900は2100、4000!」

 

 

 『晩成高校新子憧選手!失った点棒をすぐさま取り返しました!!』

 

 『いやー良い仕掛けだねい!もうあのコのなかでは{七八}の両面ターツは愚形ターツなのかもしれないねい……知らんけど!』

 

 『一気通貫も狙えそうな手形でしたが、タンヤオに踏み切りましたね』

 

 『まあ~なんかあのコは一気通貫とか三色にするときは、鳴き仕掛けと手の内で完成させて置くタイプなのが良い所だよねえ』

 

 『それは、どういうことですか?』

 

 『ほら、三色とか一気通貫ってさ、手牌と晒している所で完成していない……つまり当たり牌で完成する形だと、必ず待ちって1つだけになるっしょ?待ちの形は両面であっても、和了れるのは片方だけ……つまり片和了りの状態になっちゃってるってこと』

 

 『ああ、確かにそうですね。しかしそれがなにか問題が?』

 

 『じゃあ例えばさ、一気通貫の仕掛け、ペン{三}待ち聴牌でウキウキしてたら対面が{三}を暗槓、そしてリーチ』

 

 『ああ~……』

 

 『終わり!って感じだろ?けど、あのコは常に良い最終形で勝負しようとしてる。そこらへんも鳴きを得意にしてるってことなんじゃねえの?知らんけど!』

 

 

 咏の解説は当たっていた。

 元々鳴き仕掛けが得意だった憧が、晩成に入ってやえに指摘されてから更に意識するようになったポイント。

 

 最終形をよくして、戦う。

 ことこの決勝に関してはより一層その意識は憧の中で強くなっていた。

 

 

 

 

 東4局 親 尭深

 

 

 (さて、渋谷尭深の親番……か。本人的には是が非でも連荘したいだろうけど……)

 

 憧と洋榎がそれぞれ1度ずつ連荘したことにより、ここまでの局数は5。

 尭深としてはここで連荘をもぎ取れば最短でも10枚が保証される。

 なんとしてでも和了りに食らいついてくるだろう。

 

 (渋谷尭深は親の時はかなり押してくる。今までのデータからも、けっこう無理な押し方をしてた。安易に愚形でリーチとは行きにくい)

 

 これくらいのことは洋榎にもセーラにもデータとして入っているだろうことは予測できる。

 セーラはわからないが……洋榎は確実にこの親番を1回で終わらせようとしてくるはずだ。

 

 憧 配牌

 {④⑤⑦13赤58二四七西中白}

 

 (う~ん!微妙ね……!途中で形が良くなれば仕掛けも考えたいところだけど……!)

 

 理牌を素早く終えて、憧が鳴くべきところがあるかどうかを確認する。

 

 この形からだと、鳴けるところは無さそうだ。

 

 そこまで確認を終えて、今度は親番の尭深へと注目する。

 セーラと洋榎も、もう既に鋭い目つきで尭深の第一打を待っていた。

 

 

 (渋谷尭深のここまでの第一打は……{④③中白白}……結局大三元狙いっぽい。でも1局目に配牌で字牌をもってたことは確定してる……じゃあなんで字牌を切らずに{④}だったんだろ……)

 

 前半戦は、おそらく三元牌が無いタイミングは字牌の{南}を切っていた。

 しかしこの後半戦、渋谷尭深は明らかに意図して中張牌を切ってきている。憧にはその意図が読めずにいた。

 

 理牌を終えた尭深が、ふう、と小さく息を吐いたのが伝わってくる。

 

 走る緊張感。

 

 

 

 尭深が、ゆっくりと一打目を河に置いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その牌は……{赤⑤}だった。

 

 

 

 

 

 

 

 (ッ……?!)

 

 

 

 

 

 

 

 わからない。

 渋谷尭深の意図が。

 

 何を見ているかもわからない尭深の視線が、憧には妙に気味悪く映っていた。

 

 

 

 

 

 




【お知らせ 麻雀動画投稿始めました!】

はい!いつも『ニワカは相手にならんよ(ガチ)』を読んでくださってありがとうございます。作者のASABINです!

なんと!この度、麻雀アプリゲーム「雀魂」を使ったゆっくり実況動画を上げていくこととなりました!!
クラリン……は残念ながら出てきませんが、東方projectの霊夢と魔理沙が楽しく麻雀を打つ短めの動画となっております!
長々と半荘打っている動画ではなく、面白かった局だけ切りぬいて今後も動画をちょこちょこ上げていこうかなと思っていますので、良かったら見てください!

チャンネル登録と高評価もよろしくお願いしますね!(言ってみたかった)

URL→ https://www.youtube.com/watch?v=UEfhnoc6qus


いや、動画は興味ねえわ、って人もね、いると思いますのでこのへんで。
本作のほうの更新を疎かにすることは無いですので、あしからず……。

それでは、今後とも『ニワカは相手にならんよ(ガチ)』をよろしくお願いいたします!




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