ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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なんとなんと!!!
このたびファンアートを頂きました!!見て見て!!



【挿絵表示】




ドットクラリン、可愛すぎか?
匿名希望とのことでしたので、名前は伏せますが、本当にありがとうございます!
ファンアートもらうのって夢でもあったので、めちゃくちゃ嬉しいです!

モチベーションバリアップしました!

それでは、本編です。




第179局 満天

 『さあ皆さんお待たせしました。本日最後の半荘が、始まろうとしています』

 

 『ついに決まるぜ~皆。お手洗いとお風呂はもう大丈夫か~?……こっから先は、ただの一度も見逃すことのできない半荘になるぜい……知らんけど!』

 

 

 長い一日の最後の半荘。

 

 早朝から始まった5位決定戦。そして昼前から始まった決勝。

 全てを合わせれば今日このメイン対局室で行われた対局は、実に14半荘。

 最初から最後まで会場で見届けるファンは多くないが、それでも常に満員の会場を見るだけでどれだけの注目度があるかは一目瞭然。

 

 まさしく歓喜と熱狂が渦巻く夏の祭典。

 

 そんな会場の中に、この大会を駆け抜けた高校生たちも多くいる。

 

 

 「部長、どこが勝つと思いますかね?」

 

 「……難しか」

 

 新道寺のダブルエース、鶴田姫子と白水哩も会場で最後の半荘を見守っていた。

 

 「ここまで来たけん、白糸台は厳しか戦いになっとる。あの1年生の爆発に賭けるには、相手が悪すぎっよ」

 

 「確かに……どの高校も強か選手ばかりですし」

 

 足を組んで真剣な眼差しでモニターを見つめる哩。

 その横顔は真剣そのものではあるのだが、長い、本当に長い付き合いの姫子はわかる。その表情に、一抹の寂しさがあること。

 

 「すみません、部長」

 

 「ん?姫子が謝っことなかやろ」

 

 敗退が決まったときは、それは泣いた。たくさん泣いた。

 哩と戦える最後のインターハイだったこともあって、姫子にとって今年は特別な年。

 

 願わくばこの舞台で、最後まで戦っているのは自分でありたかったと、心の底から思う。

 

 「それにな」

 

 ぽんぽん、と姫子の頭を哩が軽く撫でた。

 

 「悔いはなかよ。こうして決勝を戦っとるメンバーも、納得の顔ぶれやけん。ウチらはやれることはやったってそう思えとる」

 

 開局のブザーが鳴り響く。

 それと同時に、哩がモニターの方へと視線を移した。

 

 (倉橋……。ここまで来たら優勝せえ。倉橋の……姫松高校の麻雀が1番強いんやと証明してみい)

 

 もはや1つのチームの優勝というだけではない。

 

 ここまでで敗退したチームの想いも背負って。

 

 最後の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メイン対局室。

 そこには既に4人の選手が集まっていた。

 

 全員の表情に、絶対に勝つという意志があるからだろうか。

 ピリピリとした緊張感が、既に充満している。

 

 「んじゃ、場決めしよか」

 

 「……せやな」

 

 卓の上には、再びセットされた4枚の牌。

 竜華が先導して、その4枚をシャッフルする。

  

 それぞれが手元に1枚ずつ牌を裏側のまま引き寄せ、牌の手前側を軽く押し込む。

 それだけで、簡単に牌は表向きに裏返った。

 

 そこにははっきりと、「北」の文字。

 

 

 「北家は、私ですね」

 

 「……せやな」

 

 北家を引いたのは、由華。

 

 

 

 

 

 

 

 

 決勝大将後半戦 

 

 東家 白糸台   大星淡

 南家 千里山 清水谷竜華

 西家  姫松  末原恭子

 北家  晩成   巽由華

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東1局 親 淡

 

 

 『さあ、泣いても笑っても最後の半荘が始まります。東家に白糸台高校大星淡、南家に千里山女子清水谷竜華、西家に姫松高校末原恭子、北家に晩成高校巽由華。この席順になりました。解説は引き続き三尋木咏プロにお願いしています。最後まで、よろしくお願いいたします』

 

 『お~!よろしくねい!』

 

 『さて三尋木プロ、この席順になりましたがどこがポイントになりますか』

 

 『いや~知らんし!多すぎて言い切れねえってのが本音かなあ?……けどま、まず間違いなく最初のポイントは』

 

 

 淡 配牌 ドラ{⑤}

 {①②③赤⑤46888一二三西西}

 

 

 

 『窮地に立たされた白糸台の親番、なんじゃねえの?知らんけど!』

 

 

 

 

 淡の手には、またもダブルリーチの手牌が入っていた。

 

 (ダブリーのみ。壁牌は……)

 

 淡が山に目をやる。壁牌は、またも数巡かかるところに置いてあった。

 

 (親番はあと2回……ここで連荘しなきゃ、そもそも始まらない)

 

 淡の追いかける点差は、実に10万点以上。

 その差をひっくり返すには、親番2回は余りにも少ない。

 

 淡の目からすると、どこかでダブリー裏4は欲しい。

 前半戦はただの1度も和了ることができなかったが、あの火力は力だ。

 照に言われたことを含めても、やはりどこかでダブルリーチは打ちたい。

 

 けれど、それがこの局なのかはわからない。

 ダブルドラの{赤⑤}が浮いている。

 こちらにくっつけば、打点は作ることができる。

 

 (どっちが正しいかなんて、今の私にはちっともわかんない。けど……自分で選ぶ!他でもない、白糸台の大将の私が!)

 

 大きく振りかぶった手。

 

 河に勢いよく叩きつけたその牌は、{4}。

 

 

 『聴牌外し!前半戦でも見られました聴牌外しをここでも行います大星淡選手!』

 

 『難しいねい……確かにダブルリーチを打ってるだけじゃ、勝てねえ相手だ。けど、前半戦と席順変わって、一番厄介だった姫松の末原ちゃんが下家にいない。どっかでダブルリーチは試したいはず。けどま、ここはダブルドラの{赤⑤}を使って良い変化を狙った。いいんじゃねえの?1年生とは思えない、肝の据わりかたしてるぜ』

 

 

 淡の一打目に、全員の注目が集まる。

 

 (大星さんは、きっとまた聴牌やったんね)

 

 (くっつきの一向聴牌に構えたって考えるのがよさそうやな)

 

 (いいね……そうじゃなきゃ面白くない)

 

 淡の目は死んでない。

 そのことを理解した3人に、油断はない。

 

 

 

 2巡目 淡 手牌

 {①②③赤⑤6888一二三西西} ツモ{⑧}

 

 {赤⑤}を使うなら、この{⑧}はおおよそ使うことの難しい牌。

 淡はこの牌を、そっと河に置く。

 

 

 「チー」

 

 (……ッ!)

 

 淡の鋭い眼光が、素知らぬ顔で淡の河から{⑧}を抜き去る竜華へと向けられた。

 

 

 竜華 手牌

 {④赤⑤⑥45二二赤五六北} {横⑧⑥⑦}

 

 

 『動いていったのは清水谷選手!これはタンヤオドラドラ赤で満貫級の手組みですね!』

 

 『っかあ~容赦ねえなあ……動けるのはなにも姫松だけじゃない。下家が変わったからって、鳴かれないと思うなよ。そう言いたげだねい』

 

 

 (ウチが動けへんとでも思った?)

 

 (……いいよ。別に。それくらいくれてやる。有利なのはまだ、私!)

 

 ツモる手に力が入る。

 

 淡の瞳はまだ戦う意志で溢れている。

 

 

 3巡目 恭子 手牌

 {①①2233一一九東南南北} ツモ{発}

 

 (清水谷に和了られるんも嫌やな……満貫2回でほぼ並び。ウチは今回七対子くらいしかやることが無くてそれでもって……)

 

 チラリ、と下家に目をやった。

 

 そこには瞳に炎を燃やす晩成の剣士が一人。

 

 (晩成に……役牌を降ろしたくはないな)

 

 人の捨て牌で加速する打ち手。

 怖がり過ぎも良くないとはわかっているものの、下手を打てば白糸台にぶつけて即死抽選なんてこともあり得る。

 それだけは、絶対にさせてはならない。

 夢を、終わらせてはならない。

 

 

 (厄介やでホンマ……)

 

 最善を尽くす。

 言葉では簡単だが、恭子はもう一度このメンバーの中でのやりにくさを感じていた。

 

 

 

 

 淡に、選択の機会が訪れる。

 

 

 

 4巡目 淡 手牌

 {①②③赤⑤6888一二三西西} ツモ{7}

 

 

 『ああ~っと聴牌し直しですが、またもダブルドラの{赤⑤}は使えない聴牌!これはどうしますか……』

 

 『流石にリーチじゃね?知らんけど。もう待てないっしょ流石に~!』

 

 再聴牌。

 待ち自体は良くなったが、それでもドラはやはり出て行ってしまう。

 これならダブルリーチを打った方がマシだったのでは?そう思ってしまいそうな、そんな聴牌。

 

 

 だが。

 

 

 

 (……)

 

 

 

 淡の目は、この卓上全てを見渡していて。

 

 

 『大事なのは、ただ使うだけじゃダメだってこと』

 

 

 脳裏に聞こえてくるのは、敬愛する3年生の言葉。

 

 (使う。使う。使う。つかう)

 

 意識が深く、沈んでいく。

 使うとは?自分が今までやってきたことの他に、使えることとは?

 

 考える考える、あまりにも少ない経験、知識。

 それでもできることがあるはずだ、と。

 

 記憶から全てを取り出す。

 引き出しを全て開ける。

 

 牌理じゃ勝てない。

 真っ向勝負じゃ、勝てない。

 わかっているから、自分に使える武器を探す。

 

 

 『……いいね。そうだ1年生。考えて考えて、悩んで悩んで。それで、あとは自分を、仲間を、信じて打て』

 

 

 咏が小さく呟いた言葉が聞こえているはずなどない。

 が、その言葉を聞いた視聴者が、会場が。

 静かにその様子を見守っている。

 

 

 

 

 対局者も、その異様な雰囲気は感じていた。

 

 

 淡のその表情があまりにも冷たく、浮世離れしているように見えて。

 

 

 

 

 

 その姿に、恭子は背筋がゾクり、と震えた。

 

 

 (……なにを、なにを見とる、大星淡)

 

 

 

 

 

 何十秒経っただろうか。

 

 淡は、{赤⑤}をゆっくりと持ち上げて。

 

 

 

 

 ()に置いた。

 

 

 

 

 

 『え?リーチせず……役がありませんよ大星選手!この手をリーチせず!そしてドラも手放しましたよ!?』

 

 『……わっかんねー……なんだ?なにが見えてる?』

 

 

 

 

 騒然とする会場。

 誰一人として、この打牌の意図が見えない。

 

 諦めたか?誰かがそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 否、一人だけ。

 

 一人だけわかっていた。

 

 

 

 

 

 

 「淡。そう、あなたなら……輝ける」

 

 

 

 

 

 

 

 照がそう呟いた次の瞬間。

 

 淡は次に持ってきた牌を。

 

 

 ()()()()横に曲げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『テルテル―見て見て~!あの星超~キレイじゃない?!』

 

 『……そうだね』

 

 帰り道。

 星空を歩いていたある日のこと。

 

 楽しそうにはしゃぐ淡の姿を、照はいつも通りの無表情で見守っていた。

 

 

 『テルはあれかな!あのいっちばん輝いているやつ!で、あれが亦野先輩で、あれがたっかみー!あれが菫先輩で~』

 

 踊るように、軽やかにステップを踏みながら楽しそうな彼女は、やはり照とは対照的。

 けれど、心の底から楽しそうな彼女を見ている事自体は、照は嫌いではなくて。

 

 『私は~あれかな!テル~の次に輝いてるやつ!』

 

 真っすぐに指さした、綺麗な星を。

 

 その姿に、小さく笑みをこぼしたのは、照。

 

 

 『違う、かな』

 

 『え?!なんでなんで?!いいじゃんいいじゃんテルーの次でも!』

 

 自分の星を全否定された淡は、抗議のふくれ顔。

 

 再び自分のもとまで走り寄ってきた淡に、照はそれでもなお小さな笑みを崩さず。

 

 

 『淡は、まだ見えない星』

 

 『え~?!なにそれ~!抗議しまーす!』

 

 『東京の空では、まだ見えない』

 

 『え?』

 

 

 

 

 

 

 ―――知ってる?東京の空には見えなくても、確かに輝いている星はあるんだよ。

 

 

 

 

 

 

 ―――それがたとえ、今はまだ、淡い光でも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ツモ」

 

 

 

 

 

 

 

 淡 手牌 裏ドラ{8}

 {①②③67888一二三西西} ツモ{8}

 

 

 

 

 

 

 

 「6000オール……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――いつか満天の星空に、変わるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大将戦の行方は、まだ、わからない。

 

 

 

 

 


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