ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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読者さんからご依頼がありまして、キャラの能力を忘れてしまうから能力説明回を置いておいてほしいとのことでした。
確かにほぼこの作品オリジナルのキャラクターについては、そういうのを置いておいてもいいのかなと思いまして。(時間そんなかかりませんし)

ただ、原作と全く同じ能力のままのキャラクターの能力の紹介は……いりませんよね?え、いる?いる、のだろうか……。
なので少しの期間だけアンケートをとろうと思います。




第185局 終わらせる

 

 恭子の親番が続いている。

 そして恭子の親番が続くにつれて、会場の雰囲気は異様なものへと変貌していた。

 例えるなら、タネのわからないマジックを延々と見せられているような。

 圧倒的な力でねじふせられるのではなく、強烈なインパクトを残すような和了りなどもなく。

 プロの対局で見るような派手さは、そこにはない。

 

 けれど、解説の咏が事細かに説明していることもあり、観客、そして視聴者が『これは偶然の産物ではない』と意識するのは当然の流れだった。

 

 配牌から誰が見ても和了れそうな状態からの和了りではなく。

 鳴いたから手牌がどんどん勝手に完成に向かっているのだ、などと思う人間は、もう誰もいない。

 

 

 「すごいわね……」

 

 「姫松の大将……超やばいですねキャプテン」

 

 都内のホテルの一室でインターハイを見守る2人。

 備え付けの浴衣のようなものに着替えた2人は、長野の名門風越女子に所属する麻雀打ちだ。

 

 「末原さんの仕掛け……全て今の常識に囚われない、前衛的なものが多いです」

 

 「確かに!あたしなら絶対鳴かないようなところから鳴いていきますよね!さっきの{六}チーなんかびっくりですよ!」

 

 片目を閉じて冷静に恭子の打牌を分析しているのが、インターハイ個人戦に出場予定の福路美穂子。そしてその応援に来ているのが、美穂子の隣でともすれば猫耳でも幻視しそうな容姿の少女。同じ風越女子2年生の池田華菜だった。

 美穂子は長野予選を個人戦トップで通過したものの、団体戦は清澄に押し切られ敗退。団体戦である同級生にリベンジを誓った美穂子であったが、それは叶わぬ夢となってしまった。

 

 けれど、美穂子は後悔していない。これから始まる個人戦に、自分の全てをぶつけるだけだ。

 

 ただ、後輩達に全国を経験させてあげたかったな、とは思う。この隣にいる華菜も、全国大会を経験できていない。

 だからせめて、自分が残せるものは全て残していこう、と美穂子は思っていた。

 

 「華菜、絶対鳴かないじゃなくて、この鳴きにはどんな意味があるのかを考えるのも立派な練習よ?」

 

 「ドキィ……。そ、そうですよね……勉強します」

 

 「ふふふ……もしかしたら、対戦してたのかもしれないのよ?華菜大将なんだから」

 

 「確かに!!どこもめちゃくちゃ強いとは思うけど……対戦するなら負けないし!」

 

 ふんす、と意気込む華菜のことを美穂子は高く買っている。県予選では後れを取ったが、その身に眠る才能は、今この決勝戦を戦っているメンバーとも遜色ないとすら。

 

 (けれど……末原さんはきっと、そんなこと(才能の有無)は考えなかったんでしょうね)

 

 テレビに映る恭子を見る。

 その表情は真剣そのもので。

 その雰囲気は昨今のプロの対局とは全く違う。

 

 思い出してみれば、今日見てきた全ての対局で全員が同じような表情をしていたように美穂子は感じた。

 絶対に負けたくないという思い。積み重ねてきたものを存分に発揮しようとする心意気。

 

 (本当に、素晴らしいですね……)

 

 自分が見てきた中でも、歴史に残る大会に今大会はなっている。そう思う。

 

 だからこそ美穂子はこの最後の舞台に、自分がいないことが少しだけ悔しくて、静かに唇を噛んだ。

 

 「……キャプテン……」

 

 そんな美穂子の心の機微を敏く感じ取った華菜が申し訳なさそうに肩を落とす。

 大将ということもあって、華菜は責任を感じてしまったのかもしれない。

 

 そんな華菜の頭を美穂子が優しく撫でる。

 

 「いいのよ。十分頑張ってくれたの、わかってるから。来年、必ずここに来るんでしょ?」

 

 「うん……うん!そうだし……!来年は、絶対……!」

 

 この熱い戦いを見て、華菜も感化されるものがあったようだ。

 それだけでも、華菜が東京に来た意味がある。

 

 美穂子はこの過去稀に見る大激戦となった団体戦がどのような決着を迎えるのかを期待しながら、この隣に座る愛する後輩と、そして何より個人戦に挑む自分への刺激になってくれれば良いと強く思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決勝大将後半戦 東3局 2本場 点数状況

 

 1位  姫松  末原恭子 132500

 2位  晩成   巽由華 128200

 3位 千里山 清水谷竜華 109400

 4位 白糸台   大星淡  29900

 

 

 

 

 東3局2本場 親 恭子

 

 

 『好配牌……!親番の末原選手以外の手に好配牌がやってきました!これはぶつかりそうですね……!』

 

 『ああ。3校だってこのまま姫松の親が続いたらどうなるかなんてわかってんだろ。勝負に出るはずだぜい。知らんけど!』

 

 東3局は2本場に突入した。ここまで恭子の3連続和了。

 息もつかせぬ猛攻は、点数以上に他3校の精神を削っている。

 

 そんなところで舞い降りた好配牌。

 もちろん全員自分以外に好配牌が入っているなどとは知らない。

 

 知らなければどう考えるか。

 自分がこの親の連荘を止めるしかない、と考える。

 

 

 由華 2巡目 手牌

 {①②②11一二三白白中南南} ツモ{白}

 

 由華は一つ息をついてから全員の一打目を見渡した。

 

 (末原さんは打{北}。どういった方針かはわからないけど、この局も最速の手順を辿ってくるはず。大星が打{白}……。前半戦の反応も見るに私が切られた役牌を重ねられるってことくらいはわかってるだろうから、間違いなく前に出る手牌なんだろ。清水谷さんが打{四}……ここが一番読めない。変則手なのかもしくは……極端に早いか)

 

 一打目でも得られる情報はある。

 字牌から切り出してきた恭子と淡。淡は役牌を切ってきたことから恭子よりもこの局のやる気を比較的感じる程度。

 対面に座る竜華は中張牌からの切り出しでまだ手役を狙っているか、単純に早いかはわかりにくい。

 

 (清水谷さんに和了られても点差が詰まる。ここは私が、自力で切り開く)

 

 手牌は一向聴。

 2巡目で一向聴なら自分が速度一番手であると考えるのは普通のこと。

 

 しかしこの局だけは、周りも同様に早かった。

 

 3巡目 竜華 手牌

 {⑥⑦⑧⑨45789二二六七} ツモ{3}

 

 

 『聴牌!3巡目聴牌は非常に早いですね清水谷選手!』

 

 『さっすがにこりゃ和了ったかあ……?けど晩成のコも一向聴だし、まだわかんねえか』

 

 3巡目の平和聴牌。

 竜華は持ってきた{3}を手の中に収めた後……{⑨}を縦に置いた。

 

 

 『リーチはせず!ここはダマ判断になりました!これは……?』

 

 『……さっきの末原ちゃんにかわされたのが効いてるねえ……確かに末原ちゃんの捨て牌と仕掛けはなんか気色悪いし、一旦様子を見たいのかもしれないわな』

 

 恭子は2巡目に竜華が切った{九}をチー。

 河には今のところ中ごろの牌が切られている。

 

 (リーチで素点上げにいくのも大事やけど、一旦ここは末原ちゃんの親を終わらせよか。念には念を入れて、確実に)

 

 3巡目の平和聴牌であれば、リーチが定石。 

 たとえ周りから出てこなかったとしてもツモれることが多々ある上に、打点上昇幅が大きい。

 3着目の竜華としては立直をかけたいのはやまやまだったが、そうしてかわされた記憶がどうしても脳裏によぎる。

 これ以上恭子に親を続けさせたら勝負が決まりかねない。その上での判断。

 この親番を乗り越えれば、また大きな手を和了れるチャンスは来る。

 そう信じて。

 

 

 同順 由華 手牌

 {①②②11一二三白白白南南} ツモ{③}

 

 恭子から切られた{③}をスルーして、ペンチャンを埋めた。

 これで、白、チャンタの聴牌。南の方なら満貫。

 

 (末原さんは役牌バックかチャンタか上の三色。リーチか……?)

 

 {1}の出和了りでは5200。満貫には届かない。

 けれど由華であれば、出た時にスルーして自分でツモる可能性が大いにある。

 

 少しだけ迷ってから、由華はそっと{②}を河に縦に置いた。

 

 『巽選手もダマテンに構えました!!これは清水谷選手と巽選手のめくり合いになるのでしょうか!』

 

 『いや、ダマだから他2人からの出和了りも十分ある。やっぱりなにがなんでもこの姫松の親は降ろしたいってことなんだろうねい。知らんけど!』

 

 

 同巡 淡 手牌

 {③④13999五六八九発発} ツモ{南}

 

 『ああ~っと!!ここで当たり牌を掴んでしまったのは大星選手……!これは止まりませんね?』

 

 『まー止まんないねえ。そのためのダマだからなあ~あとはこれを晩成のコが和了るかどうかって……』

 

  

 と、咏が続けようとした瞬間。

 淡は、手から{③}を切り出していた。

 

 『放銃回避、になりました。しかしこの打牌はかなり手牌を崩すことになりましたが……』

 

 『おいおいマジか……断トツラス目で是が非でも和了りてえってのに……オリ、たのか?わっかんねー!』

 

 

 淡は元々直感型。

 今まで何度も好配牌を受け取ってきた淡にとって、この配牌は決して良い方ではない。

 

 そして自分にとって最高の配牌ですら、和了らせてもらえなかった相手。

 淡は直感的に、この手はもう和了れないと見切りをつけた。

 

 (いいよ。この局は。最悪親が連荘してくれても良い。局は多い方が良いし)

 

 恭子に突き抜けられるのは淡としても歓迎はしていない。

 優勝までの道のりを考えれば、トップとの点差は少ないほうが良い。

 けれど、ここで自分がいたずらに点棒を減らすことはもっと違うのだ。

 幸い、残り1回の親番がある。

 そこで手さえ入れば、淡はまだ、戦える。

 

 

 6巡目。

 

 

 「ロン……!」

 

 竜華 手牌

 {⑥⑦⑧345789二二六七} ロン{八}

 

 「2000は2600」

 

 この局の軍配は、結局ダマを貫いた竜華に上がった。

 

 『長かった姫松末原選手の親番を終わらせたのは、千里山女子の清水谷竜華選手!!!ダマに構えて同じく聴牌を入れていた巽選手からの出和了りです!』

 

 『まー2枚山のシャンポンと5枚山の両面じゃ厳しかったねい』

 

 『まあでもこれは姫松の末原選手としたら、良い親流れということになりますか?』

 

 『……あの手牌見ればわかるだろ』

 

 

 

 由華から竜華への横移動を見届けて、恭子が手牌を静かに伏せる。

 

 

 

 恭子 手牌

 {①赤⑤⑧28一東西西発} {横九七八}

 

 

 

 

 『完全なブラフ。ひどい手牌で相手の速度に完全に追いつかないことを感じ取って……リーチを封じ込めた。考えうる限り最高の決着でもって親を流すことに成功ってわけだ』

 

 『なんという麻雀……!結果的にリーチに出辛くなった2人の横移動で東3局は決着です!末原選手は親番にもっと執着するかと思いましたが……』

 

 『これが南場の親番だったらもうちょっと粘ったかもねい。けど、一番ダメなのはせっかく積み重ねた点棒をふいにすること。末原ちゃんは示したんだ。とんでもない酷い配牌でも、やれることはある。それはさっきまでの超早和了りがあったからこその、脅しではあるけどねい。な~んかこんな麻雀中堅戦に出てた子もやってた気がするよなあ。知らんけど!』

 

 『姫松高校の麻雀……本当にできることを全部やってきますね……決勝大将戦は東4局に入ります!』

 

 

 

 東4局 親 由華

 

 由華にとっては放銃となったが、打点が高かったわけではないので恭子のあの親を終わらせたということで及第点。

 問題は、この親番。

 

 (点差はほとんどない。ここで大きいのを1つ和了れば……一気に有利な局面になる)

 

 由華の平均打点を考えれば、この程度の点差はなんでもない。

 怖かった連荘を乗り越えて、今度はこっちのターン。

 

 由華 配牌

 {①4一一二三四六九東東南白発}

 

 配牌を理牌すれば役牌対子も入っている。染め手まで伸ばせるか、どうか。

 この手の配牌は得意分野。

 最大打点に持っていくことを心に決めて、由華は第一打を切り出す。

 

 

 

 

 

 

 一つ、竜華と由華が忘れていたことがあるとすれば。

 

 麻雀は別にターン制のゲームではない。

 あなたが和了ったから、次はあなたの番。

 

 そんなことは、決して、ない。

 

 

 

 

 

 

 《――、―――――》

 

 

 

 

 

 

 「ツモ」

 

 

 由華はその単語の意味を理解するまでに数秒を要した。

 

 

 

 

 

 恭子 手牌 ドラ{⑥}

 {④⑤⑥789九九北北} {横213} ツモ{北}

 

  

 「500、1000、やな」

 

 

 先ほどまでと何も変わらず。

 

 ただただ淡々と点数申告するこの打ち手は。

 

 

 

 

 『おいおいおいマジかそりゃ……』

 

 『な、なんという速さ……!東4局はわずか4巡で決着……!』

 

 

 『皆よく聞いとけ。こりゃマジもんだ』

 

 

 咏が思わず扇子を持つ手を震えさせながら口元にあてがう。

 こんな感覚が自分に残っていたのかと半分驚きながら。

 

 

 あの表情。あの闘気。

 

 

 一瞬、咏は解説という立場を忘れて思ってしまった。

 

 

 あのコと、この状況で打ち合ってみたい、と。

 

 

 

 『末原ちゃんはこっから全員の南場の親番を蹴って終わらせるつもりだ』

 

 

 

 チャンスは、砂一粒も残さない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 恭子の和了りが早すぎたため、自動卓はまだ次の局の山を作れていない。

 ガラガラと内部で山を作る音だけが、無機質に響く。

 

 

 由華が。

 淡が。

 竜華が。

 

 ただ自らの刑を待つ罪人のように。

 

 頬に伝った汗を拭うことすら叶わない。

 

 

 

 

 南1局 親 淡

 

 

 

 

 

 姫松の誇る最速の騎士が、まず、淡の喉元に剣先を突きつけた。

 

 

 

 

 

 


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