牌画像変換ツール使ったの久しぶりすぎてめちゃくちゃ時間と体力を使いました。
こんなに難しかったっけ……。
インターハイ最終日。
個人戦決勝が行われるこの日は、試合開始となる午前中から会場は既に満席。
全国の麻雀ファンが、この戦いを見届けようとしていた。
『さあ、今席決めが終わり、全員が席に着きました。1回戦は東家から千里山女子江口セーラ、南家に姫松高校倉橋多恵、西家に同じく姫松高校愛宕洋榎、そして北家に晩成高校小走やえという並びになりました』
『面白そうな並びだねい。そんで、この決勝戦のルールってどんなんだっけ?』
『基本的には個人戦これまでの戦いと同様に、25000点持ち、30000点返しの赤4枚です。ただ、この決勝戦に限り、1戦終えた段階でウマとオカ……つまり順位点が入ってスコアが決まり、それを4回戦繰り返す形をとります。トビ終了もないですね』
『ほお、プロの対局に近い形をとったってことかな?知らんけど!』
決勝戦は3回戦。
1半荘が終わるごとにトップに+50、2着に+10、3着に-10、4着に-30の順位点が加わる形。
点数をそのまま引き継ぐ形よりも、最後まで逆転が見込めるルールと言えるだろう。
「このルール……トップ取り」
「流石だな宮永。その通りだ。このルールにおいて重要なのはトップの回数。オカ(全員の点数から5000点ずつ引いたトップにつくボーナス)が20つくこのルールであれば、1回でもトップをとればその選手が有利になることは必至。2回トップをとれば確実に優勝だろう」
会場に用意された一室でそう話すのは、昨年まで2年連続でチャンピオンとなった宮永照と、昨年準優勝だった辻垣内智葉だ。
「しかしまさか来るとは思わなかったぞ。見ないか、と誘ったのは私の方ではあるが」
「……」
静かに、宮永照がモニターを眺める。
その瞳には、悔しさはもちろんあれど……どちらかといえば、今から始まるこの戦いを、楽しみにしているそんな雰囲気がして。
智葉は笑った。
「……時代の転換期となるか……見せてくれ。麻雀の面白さを」
「おい、サイドテーブルにおしぼりってないん?」
「あ、串落としてもうた」
あまりにも緊張感を感じられない関西弁2人組に、やえがため息をつく。
ここは多恵に任せるしかないか、と、やえが対面に座る多恵に声をかけた。
「なんか言ってやりなさいよ、多恵」
にこにこと笑みを崩さない多恵が、え?と言って。
次に口から出たのは。
「皆でこんな舞台で麻雀……楽しみだね!」
……と、そんな言葉で。
思わず、3人共笑ってしまう。
ああ、そうだ。いつだって倉橋多恵はそういう奴だった、と。
一瞬の、昔を懐かしむような間。
……が、それも本当に一瞬。
「ほな……やろか」
洋榎が椅子を引き、自動卓のボタンを押す。
言葉など無くても良い。
これだけで私達は、すぐに気持ちを切り替えることができるから。
――さあ、始めよう。
決勝1回戦 開始
東家 江口セーラ 25000
南家 倉橋多恵 25000
西家 愛宕洋榎 25000
北家 小走やえ 25000
「「「「よろしくお願いします((!))」」」」
東1局 親 江口 ドラ {3}
配牌
{東南西白中12①赤⑤⑤一三八} ツモ{北}
セーラが配牌を開ける。
その瞳に、特別な色は無い。どのような感情も、ゲームが始まったこの場では見せるべきではない。
「……」
正面から、特徴的なタレ目が、無気力にこちらを射抜いている。
自らの配牌を理牌もせず、不気味なほどに静かに。
(……ったく、いきなり静かになりやがって……相変わらず気味悪ぃ……せやけど)
対面に座る女は、読みの頂点にいる存在であることをしっているから。
『気になる親番江口選手の配牌です……が、これは……』
『っは~!悪い、悪いねえ!これは流石に悪い、けど悪すぎて逆に、この子にとっては良いんじゃねえの?知らんけど!』
使った時間は5秒ほど。
セーラが{八}を切り出した。
『8m切りを選択しました。これは……?』
『役満国士無双はもちろん切らない。赤が対子で組み込まれてるからチートイツも残す。ドラ3sだから123三色も消さない。マンズのホンイツだけを見切って、8m切り。まあそんなとこなんじゃねえの?』
『なる、ほど。単純に国士だけやるなら赤5p切ってしまいそうですし、普通にやるなら字牌切りたくなりますね』
『なんであの子が打点女王って言われるかって話だよねい。ギリギリまで打点の種を残す。その精度があまりに高いから、彼女はここまで勝ち上がってこれたんだ』
セーラ 3巡目手牌
{東南西北白中12①赤⑤⑤一三} ツモ{発}
セーラが持ってきた牌を眺めて、そして河を見渡す。
多恵は一打目{東}そこから役牌の切り出し。それに合わせるように、洋榎もやえも、役牌を合わせに来ている。
(ったくこいつら……ほんまに可愛げがねえ。せやけど……関係ねえ!)
セーラが選ぶは{⑤}。対子の牌を切り出して、これで狙う役はひとつ。
(楽しもうとしとるとこ悪いんやけどな……一撃で終わらせたる)
姫松高校控室
「5pのトイツ落とし!ってことはもう」
「まあ国士無双やろうな」
「いきなりすごいこと狙うのよ~」
相変わらず、テレビ前のソファに座るのは漫と由子。
その後ろで、恭子がタブレットも触りながら対局を眺めている。
「この3巡の間だけで、全員河を通してやりとりがあったんやないかな」
「やりとり、ですか?」
恭子の言葉に、漫が思わず振り返る。
「江口セーラの第一打{八}。これはもちろん色んな可能性があるけれど、多くの場合この初打28の牌を切る選手は、役牌を重ねたがっていることが多い。だから多恵はダブ東になる東から。洋榎もやえも、役牌から切り出した。江口に重ねられる前にっちゅうことやな」
「な、なるほど。確かに洋榎先輩の手はともかく、多恵先輩の手は役牌重ねたら嬉しい手でしたもんね」
「もちろんリスクリターンは分かった上で、やな。全員分かってるんや。麻雀は毎回自分がアガれるゲームちゃう。じゃあ自分がアガれないとして。この局最悪の結果はなにか」
はっとした表情で、漫がモニターに視線を戻す。
そこには、好戦的な表情で笑うセーラが映されていて。
「親番江口セーラの、高打点でのアガリ……!」
「まあ、そういうことやな」
「セーラちゃん、怖いのよ~」
戦いは、始まったばかり。
それでも、この僅か数巡の間だけで既に。
この始まった最終決戦。
この戦いのレベルの高さを、漫は実感するのだった。
江口セーラ 6巡目 手牌
{東南南西北白発中12①一三} ツモ{9}
『ちょ、ちょちょちょっと待ってください!あまりにも早い、江口セーラ選手役満国士無双イーシャンテン!親の役満48000はいきなり勝負を決めかねません……!』
『っかー!打点女王がいきなりぶっちぎっちまうのかよ!しかもこれ、9pも9mもまだまだ山にめちゃくちゃいるんじゃねえの?知らんけど』
『え、嘘……います。めちゃくちゃいます!9pも9mも3枚ずつ……!』
針生アナの実況に熱がこもるにつれ、否応なしに、会場のボルテージが上がる。
会場だけではない。
全国でこれから始まる決戦を楽しもうとしていた視聴者のテンションを、いきなり最大値まで上げるような、そんなイーシャンテン。
7巡目 多恵 手牌
{33577①③⑦⑧七八北北} ツモ{白}
多恵ももちろん、セーラの捨て牌に強烈な圧を感じていた。
(まずいな……間に合わない。セーラの捨て牌は一見ただ遅い手をやっているように見えるけど、セーラは親番で無理に国士に行く選手じゃない。赤5p入りのトイツ落としをしている以上、相当できあがってると思った方が良い。ここは……)
多恵の思考は一瞬。
白を手の内に留めて、切ったのは7s。
「……チーやな」
その7sを見て、つまらなさそうに発声したのが、洋榎だった。
洋榎 手牌 7巡目
{44③④⑥⑥⑥二三四} チー{横768}
『タンヤオのテンパイを取りました愛宕洋榎選手!まだ巡目は早かったですがここはとりましたね』
『いや~この巡目が早い、なんて感覚は、もうあの子たちにはねえんじゃねえの?その証拠に、クラリンは愛宕ちゃんに鳴かれそう且つ、急所になり得る7sを切ってる。なんの情報も無い人が親番であの捨て牌でも気にしないかもだけど~あの子達は私達以上に、あの親番で打ってる選手を知ってるわけだろ?そりゃ正確に把握してるよねえ、知らんけど!』
それを見て、ツモ山に手を伸ばしたやえも、静かにセーラの方を見つめる。
(嫌な感覚ね……特に……)
やえ 手牌 7巡目
{13688⑤⑥⑦一一一六七} ツモ{八}
やえが直前のセーラの手出しを見る。直前の手出しは……{2}。
(私のテンパイを1巡間に合わせてくる時のセーラは……本当に嫌いなのよね)
やえが黙って{6}を切り出した。
『小走選手もテンパイ……ですがここはダマテンに構えました!』
『直前に切られたカン2s。リーチドラ1でドラ表示牌にも1枚。これはリーチには行きにくいねえ。とくに場況も良いわけでもない。まあダマテンが普通じゃねえの?』
(嫌な予感がする)
セーラが山に手を伸ばす。
その瞳に宿った炎が、紅く燃えている。
セーラ 手牌 8巡目
{東東南南西北白発中19①一} ツモ{⑨}
『……ッ!』
実況が息を吞むのと同時に。
会場もまた、息を呑んだ。
『テンパイ……!役満国士無双のテンパイです!待ちは{九}ある……3枚あります!』
『恐ろしいねい……決めちまうかよ、打点女王……!』
セーラが、ひとつ息を吐いた。
見渡す。
洋榎の仕掛け。多恵の7s切り。やえの気配。
それらを考慮して、脳で処理して。
冷静に、河に牌を――
「リーチィ」
横に曲げた。
『リ、リーチ……?!リーチ宣言です江口セーラ……!』
『はっはっは!おもしれー!リーチすんのかよこれ!』
千里山女子控室。
「り、リーチ?!ホンマですか?!」
こちらも最前線で見守っていた泉が、素っ頓狂な声を挙げた。
「洋榎ちゃんがタンヤオで捌きに来ていること、小走ちゃんもテンパイが入っていてもおかしくないこと。それらを考慮して、リーチしてオろしてもうたほうが勝てるってセーラは踏んだんかな?」
竜華の太ももにちゃっかりと膝枕をしながら、怜が推論を述べた。
「それもあるでしょうけど、単純に{九}がめくりあいに勝てるだけの待ちであるのも大きいのかもしれません。江口先輩は確信しているんじゃないでしょうか、この牌が、まだ山に残っていることを」
「セーラは大胆やなあ……」
「ええ。でもこれ、正解かもしれませんよ」
フナQが冷静に状況を見守る。
眼鏡を通してみたその視線の先には、明らかに表情が強張った他3人の姿が映っていた。
個人戦決勝は東1局から嵐が巻き起こっていた。
セーラから放たれたリーチ。
その河。
{八六⑤赤⑤4三}
{五2横南}
明らかな異常。
5pが対子落としなことから、チートイツすらも否定されたこの河は、役満国士無双であると雄弁に語っている。
(やってくれるね……ほんとに、強くなったよセーラ!)
苦しくも、どこか楽しそうに。
セーラがリーチ棒を場に置くのを待ってから、多恵が山に手を伸ばす。
(できれば洋榎のタンヤオ仕掛けに差し込みたい……だけど)
多恵が苦しそうに、自身の手牌と、洋榎の河を見る。
その様子を一瞬だけ見て、洋榎が誰にも聞かれない音で舌打ちをした。
(……多恵が持ってへんか。ちーとばかし面倒なことになったな)
その逡巡だけで、この上家に座る倉橋多恵が自分のアガリ牌である25pを持っていないことを悟る。
案の定、多恵から切られたのは{③}。
最終のチー出しが{④}だからこそ切られたそれはしかし、洋榎のアガリ牌ではない。
声がかからなかったことに、ダメか、と僅かに頭を下げる多恵。
(ま、やえも流石に……っ)
この異常事態を、もちろん下家に座るやえも感じ取っているはず。
だからこそ、この1回のツモ番をスキップできれば、と思っていた、そんな洋榎の元に。
洋榎 手牌 8巡目
{44③④⑥⑥⑥二三四} チー{横768}
ツモ{1}
不幸を運ぶ鳥が、やってきた。
『愛宕選手が掴んだのは1s……!これは役満国士無双に当たり得る牌です』
『っか~!いくらなんでもキツすぎねえか?!てっかこれ愛宕ちゃんオリたらいよいよ打点女王のアガリになっちまいそうだぞ?!』
打てば、48000。
膨大なリスクで、自身はタンヤオのみ。
到底行ける牌ではない。
「……」
洋榎が河を見つめる。
じっと。ただ静かに。
『手が、止まっていますが……え、これ打てないですよね?』
『打てるわけねーだろ!相手は役満国士無双。当たる確率が12分の1かもしれねーけど、それで当たった時はもうこの決勝の大勢が決まっちまう。そんなギャンブルをする守りの化身とは思えねーって!ってかむしろそれなら江口セーラがツモった方がまだ自分の優勝確率残るだろ!』
洋榎が、ため息をついた。
会場中が、更に役満国士無双成就を期待した、その瞬間。
{1}
『へ?』
その鳥は、静かに河へと羽ばたいた。
セーラが、やえが。
目を、見開く。
『き、切った、切りました!?役満国士無双に当たり得る{1}を、守りの化身愛宕洋榎が切り飛ばした……!』
会場が、異様な歓声に包まれる。
『……先に言っておくぜい。これはさっき言ったように、12分の11の確率に賭けたわけじゃ絶対にない。なにかあるんだ。愛宕洋榎の中で、この{1}が通るというロジックが』
『それを解説してくださいよ三尋木プロ!解説でしょ?!』
『あっはっは!わっかんねーー!!!わかるわけねー!』
「……江口の捨て牌、か」
「……どういうこと?」
静かに見守っていた智葉が、ぽつりと呟いた。
「江口の切り出し、つまり手出しの順番は、{八⑤赤⑤三2}の順番だ。このことから何がわかると思う?」
「……国士に行った」
「それはもちろんそうなんだが。あの打点女王の手口を、愛宕洋榎はよく知っている。だからこそ、あの切り順から、江口セーラがなにかしらの役と国士無双を天秤にかけていたことを読み切ったんだ」
「天秤……?」
照が分からないとばかりに、身を乗り出す。
その姿があまりにも去年と違うから、思わず智葉は小さく笑った。
「江口は一直線に国士に向かわなかった。赤5pを残していたのがその証拠。だからこそ、何かしらの手役と、国士無双に行くかをギリギリまで保留したんだ。その手役は、123の三色。だとしたら、最後に江口が切った牌は、なんだった?宮永」
「そっか……{2}」
そこまでの説明で、照も理解した。
最後までセーラが手の内に留めた{2}。
この{2}をもし、国士以外で使おうと思っていたならば。国士と天秤がかけられるのは、123の三色や純チャンで。
その場合、{2}を単独で持つことは無く。
多くの場合、手の内に{1}が無いと説明がつかない、と。
江口セーラが、この{1}を持っているのならば、国士無双に{1}は、当たらない。
「……面白いね」
照の言葉に、智葉が頷く。
「ああ、本当に。このゲームは面白いんだ」
やえ 手牌
{1388⑤⑥⑦一一一六七八} ツモ{⑧}
やえが、ゆっくりと山に手を伸ばした。
(相変わらず……やってくれるわね。悔しいけど、読みであんたには敵わない。けどね)
やえが、手の内から選ぶ牌。それは。
(これくらいは、できるわよ!)
切り出された、{⑤}
「今回は褒めたるわ、やえ」
洋榎 手牌
{44③④⑥⑥⑥二三四} チー{横768} ロン{⑤}
「ロン……1000やな」
『なんという決着……!東1局は、親番江口セーラの国士無双テンパイを掻い潜った……愛宕洋榎選手の1000点で開幕です……!』
国士無双が成らなかった、という落胆と。
どうしてあの牌が押せたんだ、という困惑と。
絶対にこの半荘は面白くなる、という期待が混ざって。
観客が巻き起こす歓声が、会場を揺らす。
そんなことを知ってかしらずか。
洋榎がやえから受け取った1000点棒を、器用に掌で転がした。
「はい、おおきに。や~そんな怖い顔すんなってセーラよお」
「洋榎てめえ……!」
口調は心底忌々しそうに。
しかしてその声は、憎悪よりも楽しそうな声音が混じっていたのも、また事実。
「ウチがアガったのはたった1000点……おっと、このリー棒も込みで2000点か」
多恵が、始まったよ、と苦笑いし。
やえが無視よ無視、とそっぽを向く。
セーラだけが、好戦的にその煽りを受け止めていて。
「――ゆっくりやろや、お嬢ちゃん?」
個人戦決勝、東1局は。
――大きな熱狂と、そしてそれを刈り取る静寂で、幕を開けた。
個人戦決勝
東家 江口セーラ 24000
南家 倉橋多恵 25000
西家 愛宕洋榎 27000
北家 小走やえ 24000
久しぶりにも関わらず多くの感想、ありがとうございます。
最近全く時間が取れずにかけなかったのですが、本当に奇跡的に時間ができたので連日投稿させていただきました。
ただ、ここから先はまた投稿間隔が空いてしまうかもしれません。
期待させてしまっていた方、申し訳ありません。
ですが、完結から3年ほど経ったにも関わらず、未だにこの作品の感想や、面白かった等の意見をSNSで言って下さる方がいたので、個人戦決勝も書きたいな、と思ってしまいました。
以前と違い、完結をお約束することはできませんが、書けるタイミングを見つけたら書いていきたいと思っておりますので、どうか見守って下さると嬉しいです。