ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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第26局 恩返し

 

姫松のいるDブロックが大将戦を迎えるもっと前。

Cブロックの先鋒戦が終わった頃。

 

「みんなもちろんわかってると思うけど」

 

晩成高校控室の空気はおおよそ普段とは比べ物にならないほど緊張した空気になっていた。

先鋒戦。我らが絶対王者、小走やえは、後半戦南3局で臨海女子の辻垣内智葉への親3倍満の放銃で、2着で終局を迎えた。

親の3倍満という大災害を受けてなお、40000点のプラスを持ち帰っていることがまず驚異的なのであるが、この結果を本人がどう思っているのかなど、対局室に1人座ったまま動けなくなっているやえを見れば一目瞭然だろう。

 

そんなモニターを見ていた晩成のメンバー。

1番前にいた2年生の大将、巽由華が口を開く。

 

「……私たちは今までやえ先輩におんぶにだっこだった。メディアからも散々叩かれた。やえ先輩に、自分が1人をトバさないと勝てないと思わせてしまった。……本当に情けない」

 

その言葉は、全員に向けているようで、そして1年間、その批判を浴び続けた自分にも向けている。

この場に3年生はいない。晩成のレギュラーに入っているメンバーはやえ以外全てが2年生以下だ。

 

「初瀬。あなたなんで晩成に入ってきたの?」

 

静まり返った控室の中で、由華に問われたのは1年生ながらにしてレギュラーを勝ち取った1人、岡橋初瀬だ。

 

「……やえ先輩の姿に憧れたからです」

 

初瀬の言葉に、その場にいた全員が、頷く。動機は違えども、やえに憧れたのが、晩成に入る前か入る後かの差でしかない。

 

「でしょうね。私も、入学してすぐ、とんでもない人が1個上にいることを知った。2年はみんなそうだと思う。不器用で、勘違いされやすいやえ先輩は、最初は怖いと思ってた。でも全然違った」

 

紡がれる由華の言葉に、異を唱える者などこの場にはいない。

全員が静かに耳を傾けている。

 

「優しくて、照れ屋で、そして誰よりも居残って努力を惜しまない姿を、忘れたとは言わせない」

 

1年生ながらにしてエース、先鋒という誰もが夢想するポジションを確立させてなお、小走やえは驕らなかった。誰よりも最後まで練習し、洗牌も後輩任せにしなかった。

 

「……今日の先鋒戦、厳しい戦いになることは予想できてたよね」

 

相手は去年の個人戦準優勝者。

やえ本人は必ずトップを持ち帰ると豪語していたものの、簡単なことではないというのは全員がわかっていた。

だからこそ、由華は他のメンバーにだけ、もしやえがプラスで終われなくても動じるなと既に伝えてあった。

 

「……初めて、やえ先輩がトップで私達につなぐことができなかった。それでも、4万点もプラスに浮いている。相手が強い?全国5位以内の高校2校と、去年のMVPを倒してきた大将がいる高校??……それがなんだ!私たちができることはなんだ!」

 

「やえ先輩からの点数を!!守りきって準決勝に進むことです!!!」

 

叫びにも似た声を発した憧の目にはもう涙が出てきている。

 

憧れの先輩が初めて目の前で敗れ去った。

これで団体戦敗退するようなことがあれば、私達の存在意義はなんだ?

どんな弱小校であろうが、やえ1人で、全国2回戦までは来れるということではないか。

そんなの許さない。許せない。

私達が晩成である理由を、ここで示せ。

 

ヒートアップしてしまった自分を抑え、チームメイトも抑えるため、由華が一呼吸置く。

 

「……全員わかっているようだな。選手、控え、関係ない。全員で、この2回戦、必ずもぎ取る。ここからは私達ができる初めての……恩返しの時間だ」

 

その場にいる全員の目の色が変わる。

誰1人として勝利をあきらめているものなどいない。

下馬評ではやえが先鋒戦でどこかの高校を刺しきれなかったら、晩成が勝つ可能性は限りなく低いと言われていた。

晩成のメンバー全員の瞳に炎が宿る。

 

下馬評通りになるかは、まだわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Dブロック、大将戦開始前。

 

「ただいまなのよ~」

 

「さすが由子!!!私の見込んだ由子~~!!!」

 

多恵は大喜びだった。苦戦が予想された副将戦でのプラス。

帰ってきた由子をこれでもかと撫でつける。

わわわ、なのよ~、と由子も嬉しそうだ。

 

オーラスのツモもそうだが、多恵が1番嬉しかったのは白水哩の勝負手を役牌のみの1300でかわしたこと。

あれこそ由子に目指してほしい麻雀の姿を体現したかのような和了りだった。

他家の動向を目敏く感じ、下家の白水に筒子が高いと見るやいなや、役牌を絞る。最終的には待ちにまで持って行った。

 

「流石由子や」

 

「由子先輩~!」

 

洋榎と漫も笑顔で由子を迎え入れる。

何度この盤石の打ち回しに助けられてきたことか。

心強い味方の帰還に、全員が破顔する。

 

そんな喜びもそこそこに、由子から恭子へ、新道寺の鶴姫コンボの情報が伝えられる。

副将戦が終わったということは、大将戦が始まるということ。

 

どの場面は怪しい、ここはかけていない可能性もある……など。

短い交代の時間を縫って、最大限の情報のやり取りを行う。

 

「ほないってくるわ」

 

恭子はギリギリまで由子と一緒に、新道寺の白水が和了った局を見ていたが、それを終えて、控室を出ていこうとする。

 

「恭子。相手は新道寺の他も未知数な部分も多いよ。無理せず立ち回ってみて」

 

「せやな。バケモンみたいなやつらに凡人のウチが正面から叩きあうのはごめんやし、そーさせてもらうわ」

 

そう言って出ていった恭子を眺めて、漫が少し不安そうな表情をする。

 

「末原先輩、珍しく弱気でしたね……」

 

「相手も手強そうやし、恭子が弱気になってんのは確かやけどな」

 

今日の相手は未知数な部分が多い。1回戦でかなりの点差をまくりきった、有珠山の絶対的エース獅子原爽。

コロコロと変わる雀風で、手数の多い宮守の大将、姉帯豊音。

そしてリザベーションで鍵を得た鶴田姫子。

 

大将戦はどう転ぶかわからない故に、何点あっても正直安全圏とは言えないだろう。

それでも。

 

「ウチは負けるつもりで卓についたことなんて過去1度もあらへん。でも恭子は雑魚相手でも負ける可能性を常に考えてる」

 

「だからこそ強い!……でしょ?」

 

最後まで言い切る前に多恵に言われてしまい、ニヤリと笑みを返す洋榎。

恭子の強さは何度も多恵には言っていることだった。

そして多恵も、その強さを認めている。

2人の言葉を聞いて、漫も少し安心できたようだ。

 

「その強さ、全国に見せつけてきて。恭子」

 

ちょうどモニターには、続々と大将戦のメンバーが集まってきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『Dブロックは大将戦に入ります!!ここまでは常勝軍団姫松がその実力を十分に発揮し、先鋒戦で稼いだリードをがっちりキープ!プラスの点数状況で、愛宕洋榎、真瀬由子、末原恭子の並びで点数がマイナスになったことは過去1度もありません!他3校はその牙城を崩せるのか!泣いても笑っても、この2半荘が終わった時の2着までが準決勝進出となります!』

 

 

「「「「よろしくおねがいします」」」」

 

 

東家 新道寺 鶴田姫子  83000

南家 姫松  末原恭子 166000

西家 有珠山 獅子原爽  50200

北家 宮守  姉帯豊音 100800

 

 

 

(さて、1番嫌やったんやけど……新道寺が東家)

 

開局前、恭子は白水哩が和了った手と、配牌、その時の宮守の臼沢塞の表情までチェックしていた。

 

(東1局は十中八九かけとるやろ。和了った手は3翻。ということは、や)

 

跳満が、来る。

 

6巡目。

 

「リーチ」

 

親の姫子からのリーチ。

 

(ま、そうだよねー。ここは好きにしてくれ)

 

西家に座る爽ももちろん白水が和了った局はチェックしている。

だからこそ、ここは新道寺が和了るのは織り込み済み。

 

 

 

「ツモ!!6000オール……!」

 

姫子 手牌 ドラ{8}

{二三三四四赤五七八南南南白白} ツモ{九}

 

 

 

『決まったああ!!!挨拶代わりの親跳ツモ!!一撃で準決勝進出ラインの宮守を捉えました!』

 

(部長。東1局跳満(キー)……ありがとうございます)

 

姫子が使った鍵が、泡のように消えていく。

それを見送って、改めて姫子はこの場のメンツを見た。

ここからは自力で守っていかなければならない場面。

 

相手は、なにやら怪しげな雰囲気を放つ対面の有珠山と上家の宮守。

そして下家には常勝軍団屈指のスピードと、頭脳を持つ強敵。

 

(全員が強敵や。部長ん稼いだ点数……必ず持ち帰る……!)

 

姫子の道のりは、まだまだ長い。

 

 





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