ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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臨海はまだ原作で決勝が残っているので、ここから知らん能力がたくさん出てきたらどうしようと怯える日々です。





第38局 暗闇

動悸が早い。

呼吸もままならないほど、息苦しい。

 

震える手を必死に抑えながら、巽由華は点数状況を確認する。

先鋒戦が終わった時は20万点以上あった点数は、もう8万点無い。

もう2着目との点差は1万点以上を超えた。

 

 

(私が……私があきらめたら……やえ先輩は……!)

 

膝が震えている。

1年生ながらにして副将を任された由華は、これ以上ないピンチを迎えていた。

 

相手は強豪校の3年生。削られていく点数。

明らかに、狙われている、という自覚。

 

 

「……はあ……はあ……」

 

切り番だ、1家からはリーチ、親の上家は2副露。聴牌は濃厚。

 

回らない頭を必死に回転させる。

これ以上の失点は命取り。

 

上家は染め手っぽいが、幸い、リーチ者が切った{②}に反応はなく、上家はツモ切りだ。

 

助かった。安牌が尽きかけていたが、これで1巡はしのげる。

震える手でなんとかツモり、{②}を切る。

 

 

「ロン」

 

 

上家 手牌 ドラ{⑨}

{③④赤⑤⑥⑦⑨⑨} {横②①③} {横⑧⑥⑦}

 

 

 

「24000」

 

 

 

鈍痛が走る。

山越し。最初(ハナ)から他家など眼中にないのだ。

徹底した晩成潰し。

 

対局中だというのに、涙が出てきた。

 

悲しさ、いや、悔しさか。

 

無情にも自動卓は動き続ける。

無情にも、次の配牌は上がってくる。

 

待ってなど、くれない。

 

 

 

巽由華は3万点を失い、晩成はラスに転落した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合後、涙が止まらなかった。

1年生で、やえ先輩の助けになれると思っていた自分が恥ずかしい。

1人、会場のトイレで、ただただ泣いていた。

自分の無力さ故に。晩成は敗れた。

 

号泣する由華。

トイレに入ろうとした学生も、あまりのことに他のトイレを探しに行く始末。

 

もう何分経っただろうか。

何分あったとしても、己の罪は償いきれはしないだろうが。

 

 

(なんて弱いんだ私は……!やえ先輩を助ける?なにもできちゃいないじゃないか!ただ、足を引っ張っただけだ……!)

 

頭を冷やすために冷水を頭にかぶったため、髪はびしょ濡れだ。

もう自分の涙なのか、水なのかも判別はつかない。

 

そんな時。

 

 

「……?」

 

後ろから、ハンカチを頭に乗せられた。

大好きな、そして誰よりも強い、先輩に。

 

 

「みっともないわよ。……あんたは悪くない。悪いのは、私」

 

「……っちが!」

 

由華の言葉は、最後まで言い終わる前にやえに抱きしめられたことによって止められる。

 

 

「……あんたはよく頑張った。あんなバケモノばっかの卓に、1年生のあんたを送り込まなきゃいけない私達が弱いの」

 

「私は……やえ先輩の……力になりたくて……!」

 

頭を拭いてやりながら、やえと由華は廊下に出る。

 

文脈もなにもない。

今はただ、己の無力さ故に、敬愛する先輩にこんな顔をさせてしまっている自分が、ただただ恥ずかしい。

 

やえ先輩が悪い?そんなことあり得るはずがない。

この人はいつだって1人で戦って、そして勝っている。

 

 

「……また来年、来ればいいわよ。その時は、……力を貸して」

 

 

その言葉に、由華は自分の耳を疑った。

今日の試合、やえ以外は全員マイナス。それも大幅な、だ。

やえ1人で突き抜けたこともあるが、それ以降のメンバーは集中砲火。

先鋒戦で1位だった晩成は、いつの間にかラスにまで落ちていた。

 

そして由華もその例にもれず、大きな失点をしてしまっている。

それなのに、この先輩は今何と言った?

「また力を貸してくれ」と、そう言ったのだ。

 

こんなにも力になれず、ただただお荷物になった由華にとって、この言葉は信じられなかった。

 

だからこそ。

 

 

(悔しい……!!!なんで私はこんなに弱いんだ……!強くならなきゃいけない。この先輩を、こんな顔にさせてはいけない。私は、この人の力になりたい……!)

 

やえを抱きしめる手に力がこもる。

 

晩成のメンバーが、近くに何人も集まっていた。

奇しくもその状況は、もしかしたらあったかもしれない未来の姿に、とても良く似ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『副将後半戦は南2局に入ります!晩成の岡橋初瀬!他校のエース級の選手を相手にして、ここまで全く引く素振りが見られません!』

 

『いやー、いい選手だねい。トップってのはどうしても守りに入りたくなるもんだけどー、全然守る気がないねい』

 

 

 

目を開ける。

 

去年の、悲劇。

由華は団体戦1回戦で敗れ去った去年のことを思い出していた。

 

今年は違う。

1回戦はやえが全てをなぎ倒した。

先鋒戦で1校をトバすという、偉業。

 

やっぱりこの人はすごいという感動と共に、私達を頼ってほしいという少しの寂しさも感じていた。

しかし去年までの体たらくで、そんなことを言う資格はない。結果で、示すしかない。

 

 

2回戦では強豪臨海のエース、辻垣内によって、やえは止められた。

2着で先鋒戦を終えたのだ。

 

 

このまま、なにもせず敗退するわけにはいかない。

2回戦に来たとはいえ、ここで負ければ、結局去年の二の舞。なにも変わっていない。

 

またとない、チャンス。

 

次鋒以降も、頑張ってくれている。

それぞれが抱える想いと共に、それこそ初瀬など、今の所去年の自分なんかよりよっぽど良く戦えている。

 

 

(……私が、王者の(ツルギ)になる)

 

ここまでくれば、初瀬がここからトぶことはほぼありえないだろう。

何着で終えるかはわからないが、自分に出番があることは確か。

 

 

見せつけよう。去年から血のにじむような努力をしてきた、その結果を。

見せつけよう。晩成には王者の(ツルギ)がいることを。

 

 

 

大将戦。相手は強豪校の化け物揃い。

だからこそ、お披露目の舞台には丁度いい。

 

 

 

 

 

(やっと……やっと去年の借りを返せる)

 

 

 

 

 

 

 

 

同刻、控室でチームメイトの奮闘を応援していた、宮永咲と、ネリーヴィルサラーゼに悪寒が走る。

 

「……!な、なに……この感じ……怖い……」

 

「……!清澄か……?いや、永水か……?」

 

 

 

 

 

 

 

発生源はわからない。

誰も晩成の大将などとは思わないだろう。

 

 

(全員ブチのめす……!誰が相手だろうと、私()の勝利は揺るがない……!)

 

 

由華の目には稲光が走っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後半戦南2局がやってきた。

 

 

(さーてきたよ。最後の巫女幼女の北家……)

 

現在の点数状況は、

 

晩成  144200

臨海  125300

清澄   81100

永水   50400

 

こうなっている。

幸い、ゲーム展開的にはもう1度くらい永水に役満をツモられたところで大局は動かない。

しかし、まだここは副将戦。

大将戦が残っている以上、何が起こるかわからない。

 

 

(やえ先輩が言ってた秘策……試してみるのもありかもしれない)

 

インターバルで、初瀬はやえからちょっとした秘策を受け取っていた。

それはまだ初瀬がやったことのない類のものだったが、幸い、今は点差も少しある、やってみる価値はあるだろう。

 

 

南2局 親 和 ドラ{③}

 

「ポンですよ~!」

 

さっそく初美が鳴く、東からだ。

これで初瀬とメガンの手には制限がかかる。

 

 

(デスが……今回は割と良い感じですヨ……?)

 

5巡目 メガン 手牌 

{③③③赤⑤⑥赤59三四五五七七} ツモ{6}

 

タンヤオドラ5の一向聴。

この12000を決められれば、一気にトップの晩成まで手が届く。

 

とはいえ、警戒も怠らない。

メガンは、次巡、初瀬から出てきた{7}を鳴いた。

 

 

『面前で行けばかなり高くなりそうな手でしたが、鳴きましたね』

 

『まあーこれは普通に打ってても鳴く人も多そうだけどね。彼女の場合は聴牌することが大事なんじゃねーの?知らんけど』

 

 

(さテ……お!)

 

この聴牌で、メガンは誰が聴牌なのかを確認する。

おあつらえむきに、初瀬のみが聴牌だった。

 

 

(さっきの打{7}で聴牌でしたカ……それでは遠慮なく……決闘(デュエル)!)

 

この時、メガンは失念していたわけではない。

が、東場でもそうだったように、初美は2つ鳴かなければ基本は怖くない。

そう思っていたからこその、決闘。

 

一歩また一歩と初瀬とメガンの距離が離れる。

その直後。

 

 

 

 

 

 

「ポンですよ~!」

 

 

 

 

メガンに戦慄が走る。

 

初瀬の姿がブレたかと思うと、その姿を飛び越えて、ランチャー幼女が上から飛び出してきた。

 

 

(……!晩成……!!)

 

 

初瀬 手牌

{⑦⑧⑨345567三四白北} 

 

 

もとより初瀬は、この手で和了るつもりはない。

最後の最後で、やえから預かった秘策を試す材料が整った。

 

メガンが仕掛けてきたタイミングで、北を手放す。

リスクの高い賭けだ。

 

 

(グッ……!)

 

メガンがつかまされたのは{九}。

かといってメガンには安牌がない。

完全に初瀬との決闘態勢だっただけに、手形はもはや勝負形だ。

 

この{九}はタンヤオのメガンにはもう使えない牌。

オリるか、押すか。

 

 

(こんなんで当たってたまるか……デス!)

 

切り出した。{九}を。

 

まだ初瀬を侮る心が、メガンには残っていたのかもしれない。

故に、出る。

本来は河に出ないはずの牌が、導かれたように。

 

 

 

「ロンですよ~!」

 

 

初美 手牌

{七八南南南西西}  {北横北北} {東東横東} ロン{九}

 

 

「32000ですよ~!」

 

 

 

特大のランチャーが、火を噴いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(もう、許しまセン)

 

次局、メガンは一度自身の頬を叩くと、気持ちを切り替えた。

あろうことか、10万点を下回ってしまった。

これも全て、自分が相手を侮った結果。

 

 

(ネリー、すみませんね、やらせてもらいマス)

 

 

メガンが、手牌を伏せる。

そして、下を向いて目を閉じた。

 

メガンのその動作に、初瀬と初美は訝しむ。

それはそうだろう。手牌を伏せて打牌、なおかつ目を瞑るなど、普通はありえない。

他家の手が見えないのだから。

 

 

 

 

 

「やめろ……メグ……!」

 

控室のネリーがメガンに警告を発する。

しかし、当のメガンには聞こえてなどいない。

 

 

(やめま……っセン!!)

 

 

 

 

 

「ツモ!4000、8000!」

 

メガン 手牌 ドラ{⑨}

{赤⑤赤⑤⑥⑦⑧667788六七} {八}

 

 

 

 

(ぐっ、倍満!?)

 

初瀬が驚くのも束の間。

 

 

 

メガンの猛攻は止まらない。

最悪なことに、ここからはメガンの親だ。

 

 

「ロン!12000!!」

 

メガン 手牌 ドラ{一}

{78一二三四五六七八九西西}  ロン{9}

 

 

(5巡目……!早すぎる……!)

 

(なんかまずいですよ~?!)

 

さすがの初美も涙目だ。

役満を和了れたのはいいものの、このままではその分取られてしまう。

 

インターハイのルールは、オーラス、親は連荘しなくてもいい、和了りやめのあるルールだ。

しかし、メガンは止まらない。親をやめるはずが、ない。

 

 

 

 

 

「ツモ!6100オール!!」

 

メガン 手牌 ドラ{3}

{⑨⑨⑨11179東東東西西} ツモ{8}

 

 

 

(この……!!)

 

 

『臨海女子高校、メガン選手!高打点3連続和了であっという間にトップを取り返しました!!』

 

『これはちょっと止めらんないねえ……』

 

 

 

 

 

 

「ロン……!3900は4500……!」

 

なんとか早めに聴牌できた初瀬が、ダマで和了りきることで、終局。

 

 

(こいつ……ヤバすぎる……!私が、リーチを打つのをためらわされた……!)

 

思わず初瀬が歯噛みする。

初瀬も奮闘したが、結局3着目との点差は縮まってしまった。

 

 

 

『副将戦、終局です!!トップを奪い返しました、臨海女子高校!!』

 

 

最終結果

 

臨海  129000

晩成  128100

永水   71800

清澄   71100

 

 

「「「「ありがとうございました」」」」

 

 

和が、すたすたと対局場を後にする。

初美もそこそこご機嫌で帰っていった。

区間トップは初美。これだけの点数を稼いだのだ。それはそうだろう。

 

 

「楽しかったデスヨ?晩成のヒト」

 

残ったのは、メガンと初瀬。

 

初瀬はどこが悪かったのかを反省する。

メガンに役満を直撃させ、晩成以外をほぼ並びにすることで、大将戦を楽にする。

そのつもりだった。

 

しかし、結果はメガンの闘志に火をつけ、怒涛の3連続和了。

止められなかった。

 

トップを、まくられてしまった。

 

 

「次は……負けない」

 

「楽しみデス」

 

初瀬とメガンも会場を後にする。

 

 

 

対局室を出た廊下。

 

 

「……くそっ……!」

 

初瀬の目には、悔し涙がこぼれていた。

 


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