これは、まだインターハイが始まる前。
県予選を控えた清澄高校での出来事である。
「う……うっ……」
「咲……?」
麻雀部部室にて。
県予選を間近に控えた清澄高校のメンバーは、打倒龍門渕を達成すべく、部長の久から与えられた個人の特訓を開始していた。
ネット麻雀を極めすぎた和は打牌を繰り返すことで、ネット麻雀の感覚をリアルに落とし込む練習。
咲は自分の感覚に頼りすぎてしまうきらいがあるので、逆にネット麻雀を重点的にやることで、感覚に頼らない理詰めの麻雀を。
何が得られるかはわからないが、今は全国に行くために必死で努力を重ねていた。
和がよくプレイしているサーバーでネット麻雀を打ち始めた咲だったが、ここでいきなり壁にぶつかることとなる。
「ダメだよ……ぜんぜん見えないよっ……」
「ど、どうしたよ……」
部室の自動卓で本を読んでいた須賀京太郎が、幼馴染である咲の声を聞いて様子を見に来る。
まだこの特訓をはじめて2時間程度。
音を上げるにはまだ早い時間帯だ。
京太郎がパソコンの画面をのぞき込むと、そこには咲の対局データが。
みやながさき
ー60
-48
-43
まずネット麻雀をリアルネームで登録するなと言いたくなる京太郎だったが、結果もひどい。
ここ1週間ほどで、咲の神がかった麻雀を見てきたからこそ、この結果は京太郎からすると意外だった。
「いつも牌がもっと見えてるのに……これって……これって麻雀なの……?」
「おまえ……何言ってんだ……?」
京太郎でなくとも、ほとんどの人間はこう思うだろう。京太郎は一般人の感想を代弁したに過ぎない。
しかし咲からすればこの画面の先の麻雀の
慣れ親しんだ麻雀であれば、咲はどこかに自分のカン材があるかがわかり、嶺上牌もすぐにわかる。
しかし、このいわば無機質な麻雀は、咲の麻雀というものに対する認識を根底から覆すものであったのだ。
ひどく混乱する咲。
しかし彼女はここで諦められない。
こんなことで諦めるくらいなら、最初から姉に会いに行こうなどとは思わない。
「でも……今のままの私じゃ……全国には行けないんだよ」
咲は涙を拭いた。
やれることは全てやるしかない。
ただでさえ決意してから県予選まで日がない上に、咲にはしばらく牌を触っていなかったブランクもある。
課題は山積みだ。
そしてその決意表明を聞いていたのは、京太郎だけではなかった。
「……」
京太郎の対面。
自動卓に座っていた和は、ひたすらツモ切りの動作を繰り返していた。
これが久から和に与えられた課題。
ネットでの感覚をリアルに落とし込むために、余計な情報を取り払うための特訓。
咲と京太郎の会話が耳に入ってしまっている時点で、雑念が振り払えてはいないのだが、彼女もまだ特訓をはじめて2時間足らず。
すぐに成功するのは難しいだろう。
「宮永さん。あなたに見せたいものがあります」
「……原村さん……?」
もう一度パソコンと向き合いに行った咲の隣にきたのは、先ほどまで自動卓でツモ切りを繰り返していた和だった。
和はおもむろに咲の目の前にあったパソコンを操作し出す。まだネット対局を始める前だったので、ためらいなくブラウザを立ち上げる和。
(あ、いい香り……)
急に和がパソコンを操作し出したのでびっくりした咲だったが、頭の中はいつも通り百合畑だった。
「これを見てください」
和が開いたのは動画サイト。
あまりパソコンを使わないうえにスマートフォンでもろくに動画を見ない咲は、目新しいものを見るような顔つきで、その画面をながめた。
「くらりん麻雀講座……?」
画面には動画のタイトルと、サムネイルが並んでいた。
もっとも、咲はこの画面をサムネイルと呼ぶことすら知らなかったが。
そんな咲の様子は置いておいて、和が説明する。
「この人は、私のデジタルの先生にあたります。彼女の動画で学んだ内容や、再確認できた知識ははかり知れません。幸い、この方は初心者用や、中級者向けの動画も配信されてます。私は見たことはありませんが、デジタルに関心のない宮永さんも、これは見ておいて損はないと思いますよ」
「原村さんの……先生……」
咲は和の言葉を聞き終わると、改めて画面を見る。
全中王者である和が師と仰ぐのだ。相当なものだろう。
「確かに、クラちゃんの動画を見るのも、いい特訓になるかもしれないわね」
「部長まで……」
外の長椅子で牌譜を眺めていた久が部室に戻ってきてパソコンをのぞき込む。
久もこの動画は知っていた。と、いうより、現代で麻雀を打つ人間からすると、この動画を知らない人の方が少ないと言ったほうが適切かもしれない。
「部長。クラちゃんとはなんですか。この方はクラリン先生です」
「え、いいじゃないなんか可愛くて。声も可愛いし」
和は納得いかないといった顔で久を睨みつけている。
和にとってクラリンはデジタルの先生。
気安くあだ名などつけていいような存在ではないのだ。
「とにかく、この動画を見て、基礎を勉強してください。その後、ネット麻雀で実践する。この方も言っていることですが、ただ打つよりも、勉強して、それを実践に落とし込まないことには意味がありません」
「わ、わかったよ……」
しばらくして。
和も何回打牌を繰り返したかわからない。
流石に手のしびれもひどくなってきた頃合いだ。
最後の方は持ってきて切るまでがスムーズになり、思考がクリアになってきた気がする。
和は、久のアドバイスが適格であるかもしれないと素直に認めていた。
(宮永さんは、どうでしょうか)
咲の方をみるとイヤホンをつけて動画を視聴している。
どうやら言われた通りに動画を見て、ネットで打つの繰り返しをちゃんと行っているようだった。
咲の後ろに立つと、和はパソコンをのぞき込む。
画面を確認した和は、1つため息をつくと、イヤホンジャックをパソコンから抜いた。
途端にパソコンから流れ出す音声。
聞こえてきたのは和にとっては聞きなれた、クラリンの声だ。
『ここまでで、だいたい頻出の役は覚えられたかな?役はたくさんあって最初は覚えられないかもしれないけど、実はたくさん出る役っていうのは限られてるんだ。なのでこのあたりの良く出る役を覚えて、まずはたくさん対局してみよう!』
「なんで初心者用の動画を見ているんですか宮永さん!」
「うわああ!原村さん?!」
和が咲の耳についていたイヤホンを無理やり外す。
咲が見ていたのはクラリンの動画の中でも1番難易度の低い初心者講座。
いくらデジタルによった知識がないとしても、ルールを覚える段階の講座など咲には必要ないはず。
「いや、この人の説明本当にわかりやすいなあ~って……」
「それはそうですが……!!」
呆れたように頭を抱える和。
こんな調子では県予選までに咲が実用的な知識を覚えることができない。
パソコンをパッといじると、和は中級者編の再生リストを画面に表示した。
「この中の動画を見てください。きっと宮永さんにとって初めて知る知識もあるはずです」
「ご、ごめんね、迷惑かけて……」
機械慣れしていない咲はこの手の操作に疎い。
こんなことで自宅での時間を使って動画を見ることはできるのか不安になってきた和は1つの提案をした。
「帰る前にいくつか動画のリンクを宮永さんに送っておきます。それをタップしたらすぐ見れるようにしておくので、ちゃんと見てくださいね」
「あ、ありがとう!」
思いがけないきっかけで和の連絡先を得ることに成功した咲は、自分の機械音痴さとクラリンの存在に感謝したのであった。
時は少し流れて、清澄高校麻雀部合宿初日。
「疲れたじぇーー!!!」
バタンと勢いよく布団に飛び込むのは優希だ。
今日だけで何局麻雀を打っただろうか。
強くなるためとはいえ、過酷な訓練は、体の小さな優希にとってはとても辛かった。
景観もとても良い温泉でリフレッシュし、やっとこさ寝室に戻ってきた清澄1年生トリオ。
「とってもいい宿だね!」
「宮永さんは体力あるんですね。優希ほどではないですが、私も少し疲れました」
布団が敷いてある和室の最奥。
庭にほど近いスペースには、2つの椅子が置いてあった。和はその1つに腰をかける。
もう外はだいぶ暗くなっている。
これから小休憩をはさんで最後に2半荘を打って、今日の日程は終了のはずだ。
「おーい、1年生諸君!息抜きにこの辺散歩しにいかないかねー!」
ふすまを開けて入ってきたのは、部長の久だった。
さすが最年長ということもあって、まだまだ元気そうな久。
「このあたりは街灯が点いとるけえ、道も安全じゃ」
「えー疲れたじょー……」
本来なら、いの一番に外に飛び出していく優希だったが、今日ばっかりはコンディションが悪い。
頭を使うのが苦手な優希にとって、理詰めの麻雀を1日やったのは、体力的にかなりの負荷がかかっていた。
「私は……原村さんが行くなら……」
チラリと和の様子を伺うのは咲だ。
優希も和もいかないというのであれば、自分もここに残りたい。
と、いうよりは和と一緒にいたいというのが本音か。
そして注目を浴びる和。
和は時計を確認すると、すっ、と自身のポケットからスマートフォンを取り出した。
「すみません。今日は20時からクラリン先生の生配信対局があるので」
「あら……」
生配信対局。
最近リアルが忙しいとのことであまり動画投稿をしていないクラリンが、せめてもの償いとして最近おこなっている動画投稿。
それが生配信対局だ。
文字通り実際にネット麻雀を打っている所を実況するだけなので、動画編集がいらない分、アップする労力は少ない。
クラリン信者の和としては、最近動画が上がらないだけに、この生配信は逃せないのだ。
「優希も疲れてるみたいだし、じゃあみんなでクラちゃんの生配信見ましょうか。勉強会よ」
「そ、そんなみなさんを付き合わせるわけには……」
「お、うちも丁度クラリンちゅうもんの麻雀見たかったけえ、ちょうどええ」
久はこれも悪くないと思っていた。
基本は打たないと強くはなれない麻雀だが、ただ打てば強くなるものでもない。
ただでさえ清澄には残された時間が少ない。効率的に雀力のアップを狙うのであれば、こういった勉強法をとるのもやぶさかではなかった。
『はいどうもみなさんこんばんは、クラリンです。最近動画投稿できずにすみません。リアルの大会に出場するのでその訓練をしてまして……』
時刻は丁度20時。
クラリンの動画が始まった。
:こんばんわー楽しみにしてた
:この時期っていうと女流名人戦か?
:いや朝日杯っていう線もあるぞ
:おまいらクラリンは学生だゾ
コメント欄は今日も賑わっている。
和は基本個人で見る時はコメントはオフにして見ているのだが、今日は皆で見ているので特にオフにはしていない。
『はい、今日は東風戦ですね~。東風戦でもバチバチ勝っていこうと思います。さ、対局開始ですね。対戦者さんよろしくお願いします』
対局が始まった。今日は東風戦らしく、クラリンは北家の席順になっていた。
「このクラリンさんは何者なんだじょ?」
「本人曰く、しがない麻雀好きと言っていましたが……実力はトッププロにも匹敵すると、私は思っています」
古くからの和の友達である優希は、もちろん和がクラリンの動画をいつも見ているのを知っていた。
最初はほとんど他人に興味を持たない和が興味を持ったことに驚いたものだ。
「でもネットではおそらく学生っていわれてるわよ?……どうする?インターハイ予選に出てきたりしたら」
久の言葉に、和はしばらく顎に手をやって考える。
和自身はこんな知識を持った人間が、自分と同世代であるとはとても思えないので学生説はあまり信じてはいないが、もし対局の機会があるとしたら。
今のままでクラリンに収支で勝てるとはあまり思えない。しかし偶然の勝利に意味はない。
和は特にそう思うタイプの打ち手だ。
「……勝てるかはわかりませんが。戦ってみたいですね。勝って、お礼を言ってみたいです」
和はそう答えた。
対局は東3局、東風戦なので、ラス前。
クラリンはしっかりオリ判断をしながら、原点を維持している。
オリに転じる時の説明や、オリ方も非常にきれいで、流石の久も賞賛の声しか出ていなかった。
まこも優希も咲も、ただただ感心して、動画を眺めている。
そんな時、画面の先のクラリンに、好配牌が舞い降りた。
多恵 配牌 ドラ{⑤}
{②79一三四四四五五七八東}
『おっ!勝負手になりそうな配牌きましたね!萬子が伸びて混一、清一色まで見たい手牌!頑張りまっしょう!』
クラリンの期待通り、手牌は萬子に伸びてくる。
無駄ヅモもあるにはあったが、9巡目にして、清一色ができあがった。
多恵 手牌
{一三四四四赤五五六六七八八東} ツモ{四}
『おお~っと想定外の聴牌!待ちが{二}だけなんで、ここはダマっておきましょ。ツモれば倍満だしね!』
:待ち把握早すぎ
:いや、これは誰でもわかんだろ
:おてては……
多恵が、清一色赤の聴牌を入れた。
コメントにもあるように、これは牌姿が歯抜けになっていることもあり、待ち把握は割と難しくない。
しかし次の言葉で、コメント欄は驚愕に染まる。
『ほい、東切って~。{八}ポンだけしよーかなあ。あ、{八}ポンできれば{二三五六八}待ちの五面張でタンヤオもついてお得ですよん』
:wwwwww
:バケモンかこいつは
:清一色の待ちと聴牌形への理解でクラリンより優れてるやつなんかこの世にいるの?
「こ、こりゃ驚いた……」
思わず驚愕の声を発したのは、染め手を得意とするまこだ。
自身もよく染め手をするので、待ち把握には長けているほうだと思っていたが、何を仕掛けて何待ちになるかまでをここまで瞬時に行う打ち手を、まこは見たことがなかった。
まこの家が経営する雀荘でも、ここまでの人はきっといないだろう。
「クラリン先生より清一色が上手な人は日本にはいませんよ」
得意気なのは和だ。
自らが(勝手にだが)師と仰ぐ人物が皆に認めてもらえるのは嬉しい。
そして更にクラリンの手牌が進む。
10巡目 多恵 手牌
{一三四四四四赤五五六六七八八} ツモ{九}
『かあー!渋いところ持ってくるなあ!待ちがよくならなかったですがイッツーついたんで倍満確定!あ、ちなみに{一}を切っても聴牌とれますけど、待ちが{七}だけになるんでここは{八}切りが強いですね』
またまたほぼノータイムで{八}を切るクラリン。
「ノ、ノータイムだじょ……本当に{二}しか待ちがないのかあ?!」
優希がモニターにグッと近寄り、待ちを確認し始めた。
疑うのも無理はない。清一色で新しい牌を持ってきて待ちが変わらないなどあまりないことだからだ。
更に多恵の手牌が進む。
11巡目 多恵 手牌
{一三四四四四赤五五六六七八九} ツモ{五}
『おお~っと待望のツモ!これで{一}を切ればイッツーは消えますが{二四五六七}待ち!!ま、{四}無いんですけどね~。これはさすがに待ちが偉いので{一}切ります。手替わりほぼないんでリーチ打ってトリプル狙いに行きますか』
:ヤバすぎ
:誰かトッププロ呼んできて
:すこやんとか呼べば解説してくれるかな
「とんでもないわね……」
「私もこれぐらいになってみたい……」
必死で紙に牌姿を書き起こしていた久だったが、クラリンのあまりの打牌スピードに、ついていけていない。
「これ、もしかしたらお姉ちゃんより……」
咲もあまりのことに驚いている。
咲の知る人物の中で、一番麻雀が強いのは姉である照だ。
しかし照であったとしても、ここまでの速度と正確さで待ちを把握できたかどうか……。
見たことがないのでわからないが、そんな考えが、咲の頭をよぎった。
そしてその後すぐ。
『ローン!!裏は乗りませんでしたが倍満!勝ったなコレ。お風呂いってきます』
:誰があの河で面前清一色張ってると思うんだよwwww
:切ってるのもほぼノータイムだし、こんなん清一色考慮しないわ
:クラリンそれ負けフラグ……
:お風呂?!(ガタッ
結局、東家が放銃。
クラリンがトップに立った。
2着目との点差は17000点、オーラスの親番を迎えるクラリン。
『オーラストップ目で迎えた場合、点差が4000点差以上あると終局時トップ率が格段に上がるって話は前上級編でお話ししたと思います。まあ親なんで少しボーダー上がるんですけど、今17000点差あるんで、まあ、だいたいトップでしょ、こんなもん』
オーラスの打牌を始めるクラリン。
その言葉に、優希が疑問符を浮かべる。
「なんで4000点差あるとトップ率が高まるんだじょ?」
「ノーテン罰符でひっくり返らないからです。オーラスのトップ目はオリを選択する場面が多くなるので、当然と言えば当然ですね」
統計データを見れば一目瞭然なのだが、オーラストップ目で迎えた時、トップ者だけがノーテンで他3人が聴牌だったとしても詰まる点差は4000点。
ここが1つのラインと言えるのだ。
ちなみに得意気に話している和だが、クラリンの動画で得た知識である。
まあラインなだけでもちろんまくられることはあるのだが、条件が難しくなることは間違いない。
「リーチ!」
機械的な音声が、2着目がリーチを打ってきたことを示す。
『ええ……3着争いをしてる2人が刺さる横移動もあるので、ここはオリ有利ですかね~流石に。2着目も本当にワンチャンスのハネツモにかけた感じかな?』
クラリンの言う通り、今回のドラは{⑨}。それも早々に2枚切られているし、2着目の河は順子手には見えない。
高い手は作りにくい状況だ。
「私もここはオリを選択しますね」
「わ、私もここはオリます」
各々が見解を述べる清澄の面々。こうした仲間との議論も、成長につながることは間違いないだろう。
そして2巡後。
「ツモ!!」
2着目 手牌
{①①③③4499南南西西白} ツモ{白}
『は?!チートイ?しかもこれドラなし……ってことはツモってウラウラ条件ですね。はあーないないそんなの。ありえないから。そんな都合よく裏ドラ乗ったら麻雀簡単よ』
2着目の役はリーチツモ七対子の25符4翻。このままでは1600、3200だ。
しかし七対子という役の性質上、もし仮に裏ドラが乗ると、2枚乗ることになる。そうなれば一気に跳満、逆転だ。
裏ドラがめくられる。
裏ドラ{南}
『バイーーーーーーーーーン!!!』
:wwwwwwwww
:マジで草
:これだからクラリンのファンはやめらんねえよ……!
:速報 麻雀は簡単だった
終局だ。見事にクラリンは負けフラグを回収してしまった。
今日の配信はこれで終わりだろう。
しかし、終わりの言葉を待つまでもなく、和がパソコンの電源を急に落とした。
「……原村さん……?」
「のどか……?」
わなわなと肩を震わす和。
どうやら今の対局に思うところがあったらしい。
なにやら小声でつぶやいている。
「ハネツモ条件で七対子ウラウラなんて……!なんたる偶然……!そんな偶発役で先生を……!」
「のどちゃん!?落ち着くんだじぇ!」
怒りに震えていた。
麻雀観戦とは不思議なもので、応援している人がひどい負け方をすると、自身が負けたかのような悔しさ、怒りに襲われる。
普段自分が打っているときはほとんど感情を表に出さない和だが、ことクラリンの対局に限っては思わず感情が昂ってしまうことが多々あった。
そして何より今日の負け方は今まででもトップクラスにひどい。
まあ負けたと言っても2着なのだが、トップが偉いルールであることは、ネット麻雀を愛する和はよく知っていた。
だからこそ、やるせない。
パッとふせていた顔を上げ、悔しさのあまり少し潤んだ目をこすって和は一言。
「七対子でリーチかければ毎回裏が乗るだなんて……!そんなオカルト、ありえません!!!!」
その後和を落ち着かせるために30分近くかかったとかかかってないとか。