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『大会8日目を迎えました!ついに準決勝も第2試合!決勝の椅子は残り2つ……今日の戦いで2位までに入った高校が決勝戦へと進むことになります!』
インターハイ8日目。
降り注ぐ太陽の日差しがまぶしい。まさに真夏の気候。
雀士たちの熱い夏は、佳境を迎えている。
ついに準決勝第2試合の日がやってきた。
『昨日の準決勝第1試合で、白糸台高校と千里山高校が決勝へと駒を進めました。こちらは順当といったところですかね?』
『まー先鋒戦であれだけ点差開いちゃうと、後はキツいよねえ。中堅戦辺りから千里山が徐々に3着を離して、大将戦が始まる頃には3着とかなりの差だったからねえ』
準決勝第1試合は、白糸台の完勝。先鋒戦でつけたリードを、最後まで危なげなくリレー。千里山は中堅戦まで団子状態が続いた3校の中で、セーラの活躍で3着を突き放し、決勝進出を決めた。
今日の実況解説も、針生アナと三尋木プロの2人組。昨日の第一試合でもラジオの解説を務めていただけに、ここ数日この2人はずっと解説しっ放しだ。
『決勝で白糸台、千里山と戦うことになるのはどの高校か。三尋木プロ、今日の見どころはどこになるでしょう』
『わっかんねー!接戦になるんじゃねーかとも思うし、案外差が開くかも……ただまあ……』
今日も和服姿に扇子を持つ三尋木プロ。その扇子をパタリと閉めて、口に当てる。
『……先鋒戦は、目が離せない展開になることは、間違いないだろうねえ?』
『やはり注目は先鋒戦に集まりますね……!』
どんなメディアも、準決勝1番の見どころは、口をそろえて第2試合先鋒戦だと報じている。
それもそのはず。今日の準決勝先鋒で当たるのは。
『去年の個人戦決勝も記憶に残ってる人はたくさんいるのではないでしょうか。インターハイチャンピオンをあと一歩まで追い詰めた、言わずと知れた
『幼馴染というのもドラマチックだし、メディアは好きだよねえ……!今日朝から来たほとんどの人はこの戦い楽しみにしてるんじゃないの?知らんけど!』
晩成の王者と、姫松の騎士。去年の個人戦で宮永照をあと少しのところまで追い詰めたコンビが今日、激突する。
『まだ朝の早い時間帯だというのに、会場が超満員なのはそういった意味合いも強いかもしれませんね……!改めて、今日の出場校を紹介します!』
会場は超満員。団体戦は開始が早いというのにも関わらず、立ち見のチケットも完売だ。
そんな注目を集める今日の好カードは、出場校の紹介へと移る。
『1校目!晩成の孤独な王者が、ついに強力な仲間を得て、団体戦準決勝に初出場です!!』
「……いくわよ、あんたたち」
「「「「おおっ!!」」」」
小走やえを先頭に、王者晩成が歩みを進める。
去年までのような、やえだけに頼るチームではない。
凛々しく歩くその姿は、チーム全体を、王者と呼ぶに相応しい。
『晩成が勝ち上がったCブロックの2回戦は、まさに大波乱!シードの臨海女子と、春の大会でベスト4まで上がった永水女子を押しのけ、晩成高校がトップ通過!……もう去年までの孤独な王者はいません。中堅戦では1年生の新子憧が区間トップをとるなど、若い力も躍動しています!……後輩達にも支えられた晩成王国が、悲願の決勝進出を狙います……!』
『あれだけ個人戦で活躍していたのに団体戦ではいつも初戦で姿を消し、日の目を浴びることのなかった王者小走やえ。……その王者がこの舞台にどれだけの強い想いを持って臨んでいるか……言うまでもないだろうねえ』
大歓声が晩成を後押しする。Cブロック2回戦を見て、もう晩成をワンマンチームと揶揄する者はいなくなった。
狙うは全国制覇。主将であり柱であるやえを中心に、王者晩成が準決勝に挑む。
『2校目は、同じくCブロックの激戦を勝ち抜きました、清澄高校!!前評判は低めでしたが、インターミドルチャンピオンの原村和を副将に据え、バランスの取れた得点力でここまで進んできました!2回戦を見ても、その実力はまだ底が知れません!』
『副将のコが注目されがちだけど、それ以外のメンバーも粒揃いなんだよねえ……案外勢いに乗らせたら一番怖いチームかもねい」
「原村和だ!」
「インターミドルチャンピオン!なにか一言!」
久を先頭に会場へと向かう清澄メンバーに、記者が集まる。
2回戦開始時には、副将以外は評価が低く、準決勝進出は難しいだろうと言われていたとは思えないほどの人気ぶり。
主将の久は、夢にまで見たインターハイの舞台を実感していた。
「ついにここまで来たのね……」
「まだ途中……じゃろ」
まこの言葉に、久がうなずく。
あの日見た全国優勝の夢に、あと少しで手が届きそうなところまで来た。
ここで止まるわけにはいかない。
『大将戦では恐ろしいほどの和了りを重ねた、大将宮永咲にも注目したいですね!』
『先鋒のコも格上と思われる2人を相手に真っ向勝負してたからね……今日も相手は格上ぽいけど、さあ、暴れてくれるかな?』
『3校目!Dブロックは、2回戦としては異例の視聴率を誇りました!その死闘の中で、準決勝進出を見事勝ち取った、宮守女子高校!』
白望を先頭に、宮守女子が姿を現した。
2回戦では対局後に疲労で倒れてしまった塞も、元気にその姿を見せている。
「ダル……」
「先頭なんだから!シャキッとして!」
小声でダルそうにつぶやく白望を、塞が後ろから急かす。
『宮守女子が準決勝まで残ると予想してた人は、かなり少ないんじゃないかねい?でも、間違いなくマグレなんかじゃないよ』
『今大会1番のダークホースは、いったいどこまで行くのか!期待がかかります!』
『そして最後の4校目……!今年こそは全国制覇へ。常勝軍団が、最高のメンバーを揃えて、準決勝の舞台へやってきました。言わずと知れた関西の雄、姫松高校!』
会場の熱気が高まる。大本命の登場だ。
「風格あるな……」
「今年こそは優勝してくれ……!」
会場も姫松の登場ににわかにざわつき始める。
洋榎を先頭に、多恵、由子、漫と続き、1番後ろから冷静に殿を務めるのが、恭子だ。
「いやー今年は一段と盛り上がっとるな」
「レベル高いよね。今年は……」
準決勝自体は慣れている洋榎と多恵。しかし今年の空気は、例年と違う。2人はそう感じていた。
『昨年も白糸台高校の前に涙を飲んだ姫松高校。今年こそ優勝旗を関西へ。今日は善野前監督も応援に駆けつけています!史上最高の常勝軍団が、悲願の全国制覇に向けて、まずは決勝進出を狙います!』
『3年生が4人。姫松としては今年が1番の全国制覇のチャンスだと思ってるだろうねい。地元の期待も大きそうだ。……今日の4校の中では1番評価の高い姫松だけど、勝てる保証なんてない。インターハイってのはそういうもんだからねい』
『4校の紹介が終わりました!CMの後は、オーダー発表の後、先鋒戦開始です!』
準決勝第2試合。開始―――――
初めて会った時は、なんてつまらなそうに麻雀を打つんだろうと思った。
「あんた見ない顔ね。悪いけど、ここらの中じゃ、私が一番強いの。ニワカは相手になんないわよ」
「……はぁ」
伸びかけていた私の鼻は、この日真っ二つに折られた。
「なん………で……ッ……!」
「じゃあ、これで」
「ッ……!ちょっと待ちなさい!もう一回!もう一回よ!」
思えば私の運命は、ここから変わっていったのかもしれない。
「偶然ね。こんなところで会うなんて……さあ、勝負よ!」
「えぇ……」
負けた。何度も。完膚なきまでに。
偶然では片づけられない、実力の差。
「もう1度……!もう1半荘よ!」
「いやもう帰る時間だし……」
それでも私は挑むことはやめなかった。
「……ぐ、偶然ね!私のこと、忘れたとは言わせないわ!」
「いや、忘れてはいないけど……」
雀荘という雀荘を周り、片っ端からしらみつぶしに探した。
探しては、麻雀を打った。
「ハァ……ハァ……!ぐ、ぐうぜんね……!こんなところにいたのね……!」
「いやもう夕方だけど……」
倒したかった。どうやっても越えられない壁。同級生の、ライバル。
「また負けた……なんで勝てないのよ……!」
もっと強くなりたかった。だから、彼女のあの提案には驚いた。
「……もしよかったら、私の行ってる麻雀教室、来る?」
「え……?」
わざわざ私探すのも大変だろうし、と言ってはにかんだ彼女の姿は、今も脳裏に焼き付いている。
これが、私と。
多恵の出会いだった。
目を開ける。
スポットライトに照らされた、最高の舞台で私は友を待っている。
階段から昇ってくるのは、幼い頃からいつも一緒にいた親友の顔。
銀髪をなびかせて、彼女は私の前に立つ。
「……偶然ね。こんなところで会うなんて。いえ……必然かしら」
環境は変わった。高校も違う進路を選んだ。
それでも、麻雀を一緒に打てば、いつもあの頃に戻れるような気がして。
「……いっつも私のこと探して大体遅くに来てたけどさ」
最愛の友の口ぶりは、少しだけ嫌味っぽく。
「それにしたって、3年は待たせすぎじゃない?」
「……ちょっとだけ道に迷ったのよ」
長い道のりだった。たどり着けないかと思った。
でも今、私はここにいる。
そんな私の表情を見て、彼女が言う。
「ふうん……じゃあ、連れてきてもらったんだ」
「……ええ。それはそれは力強く」
感情が昂る。抑えられない。いつも夢に見ていた。彼女と、団体戦の先鋒戦で戦う日を。
お互いの
「この日のために、あんたの対策は死ぬほどしてきたのよ。悪いけど……今日だけは勝たせてもらうわ」
「ふうん……そんな程度で私を倒せると思ってるんだ?……確かに晩成は強くなった。今年は一味違うのかもしれない。でも相手は
多恵はあの時と同じ、無邪気な笑顔で言ってのけた。
「ニワカは相手にならんよ?」
―――あぁ、きっと私はこの日のために3年間晩成で麻雀を打ったんだ。
「……ッ!!上等……!!!」
また今日も2人で遊ぼう。
いつもとは少し違う、もう一度のない、最高の舞台で。