ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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第47局 マヨヒガ

高校として初のインターハイ準決勝の舞台に来た宮守女子。

 

 

しかし、2回戦を終えて、監督の熊倉トシは、無策では次の準決勝では勝てないことを確信していた。

この子たちが弱いとは思わないが、相手が悪すぎる。下手をすれば中堅あたりまでで勝負が決まりかねない。

 

なので2回戦が終わってから準決勝までの1日を使って、熊倉監督が選んだ選択は、対戦相手の研究よりも、チームのレベルアップだった。

 

中でも、おそらく1番過酷な戦いになるであろう、先鋒戦。

超高校級の2人に加えて、おそらく今大会の1年生の中では1、2を争う素材を持つルーキーが相手だ。

 

シロの強化は、必須事項だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シロ……!」

 

宮守女子高校控室。

先鋒戦は今まさに優希が2100オールを和了ってリードを伸ばした所。

エイスリンが心配そうに画面を眺めている。

 

ここまでは完全に優希のペースだ。白望は一度ツモずらしのアシストをしたのみ。表情はいつもと変わらないが、流石の白望もどこか緊張しているように見える。

 

宮守女子からすれば、十分インターハイ自体が緊張する舞台なのだが、準決勝までくると会場が変わり、雰囲気がもう1段階変わる。

放送するテレビ局は増え、記者の数も増える。

 

そんな中で自分の最大のパフォーマンスをしなければならないのだから、緊張するなという方が難しいだろう。

 

白望と昔からの仲である塞と胡桃が、ソファに座ってモニターを見つめる。

 

見守りながら、ハラハラとする塞とは対照的に、胡桃はいつもの表情で、白望の様子を見ていた。

 

 

「大丈夫。シロ珍しく、気合入ってたから」

 

「え、そんな風には見えなかったけど……」

 

白望は基本無表情だ。麻雀はしっかりと打つのだが、ことあるごとにダルいと言い、無気力。

 

 

そんな白望が今日は気合が入っていると、胡桃は言う。

別段なにも変わらないと思っていた故に、どこにそんな根拠があるのかと疑う塞。

 

 

「昨日、麻雀打ち終わった後、言ってたの!」

 

昨日も体調に影響が出ない程度に、調整のための麻雀を打った宮守メンバー。

 

その最後の卓。いつものように椅子に座ったまま背もたれにへばりついて動かなくなった白望を胡桃が動かそうとしたとき。

 

胡桃も、先鋒戦が厳しくなることはわかっていたために、胡桃が白望に聞いたのだ。「頑張れそう?」と。

 

 

返ってきた言葉はいつも通りの「ダルい」だったけれど。

少し違ったのは、その後。

 

 

 

『ダルい……けど……どこまで今の私がやれるのか』

 

 

――――少しだけ、楽しみだわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ツモ……!500は700オールだじぇ……!」

 

 

先鋒戦は東1局2本場。

この局も、早めにしかけを入れた優希が制した。

 

白望はまた少し顔をしかめる。

 

(やっぱメンドいな、この子)

 

打点は低くなってきているが、俄然早い。

 

打点を消してでも速度に比重を置いている理由はなんとなく白望も感づいていた。

 

 

優希がまた積み棒を増やすことに成功。

だが全く油断はできない。

 

今しがた伏せられた、強烈な気配を放つ多恵とやえの手牌に優希が視線をやった。

 

(こいつら……東場の私についてきてる……これ以上速度を落とすと……()られる……)

 

 

 

 

多恵 手牌

{⑧⑧22234567二三四}

 

やえ 手牌

{④赤⑤⑥三四四五五45677}

 

 

 

 

 

東1局3本場 親 優希

 

 

4巡目 優希 手牌 ドラ{⑥}

{⑥⑦⑧⑨23456赤五七九九} ツモ{八}

 

(嬉しくないほうだじぇ……けど、準決勝からは速度優先って部長からの言いつけがあるじょ。ここは手堅く……!)

 

優希が選んだのは{赤五}だった。もちろん赤を使い切るために{九}あたりを切るのも悪くはないのだが、どうしてもロスが存在する。

更に、部長の久から、速度優先と言われていることもある。ここは受け入れ枚数を最大にとる{赤五}切りとした。

 

その牌に、少し止まったのは白望。

 

 

「……ちょいタンマ……お願いします……」

 

いつものちょいタンマに、お願いしますがついたのはだいたい2回戦の多恵のせいなのであるが。

 

 

(今日は早いね、ちょいタンマが)

 

2回戦でも、白望はこの小考を頻繁に使っていた。

 

小考するということは、あまり良いことではない。今回のように、鳴くか鳴かないかの小考も、相手に鳴ける牌があることを教えてしまうからだ。

 

鳴くか鳴かないかは事前に考えておくべきだし、手牌についても、なるべくなら早めに切ったほうが、余計な情報は与えないで済む。

といっても、今回の場合は赤が出てきたケースで、赤なら鳴くという選択肢も出てくるので先に決めておけというのも、なかなか酷な話なのではあるが。

 

 

「迷ったけど、チーで」

 

そういって白望がさらしたのは、{六七}。

 

 

白望 手牌 

{⑥⑦一一二三五九白白} {横赤五六七} 

 

 

『できメンツから鳴きましたね……これはどう見ますか?三尋木プロ』

 

『いやあー普通なら間違いなく悪手だけど、そういった定石の物差しじゃあ、測れないよね。特にこの卓は』

 

完成している面子から、鳴きを入れる。特殊な状況下や、役が絡むとありえなくはないのだが、この場面は可能性のあった一気通貫などの役も殺すことになるため、褒められた打牌とは言えないだろう。

 

しかし、そうして白望が切った牌に、波紋のような気配が出る。

 

その気配に気付いたやえが、小さく嘆息する。

 

 

(……マヨヒガ……ね)

 

小瀬川白望の特性。2回戦のビデオを見て、やえは白望に対しての対策も考えてきてはいた。しかし、想定よりも、ゾーンに入るのが早い。

 

(どいつもこいつも……簡単には、多恵との一騎打ちにはならなさそうね)

 

 

 

 

優希 手牌

{⑥⑦⑧⑨234赤56七八九九} ツモ{1}

 

(聴牌……一瞬迷ったけど)

 

手牌から、優希は{⑨}を取り出す。

 

 

「リーチ……!」

 

(ここはダマじゃ済まさない)

 

優希が牌を曲げる。

 

少し悩んだが、ここはリーチ効率がもっとも高い翻数。もちろん他家は気になる。それでもここはリーチが吉と優希は考えた。

 

リーチを受けて、白望が山牌に手を伸ばす。

 

伸ばした手から、小さな波紋が広がる。

 

 

白望 手牌

{⑥⑦一一二三五九白白} {横赤五六七} ツモ{九}

 

「……」

 

白望がまた小考に入る。

親のリーチを受けたのだから、ここは素直に{五}を切るのが、白を鳴いて聴牌も取れるので、正着に見える。

 

 

「変だけど……これで」

 

白望が選んだのは、親のスジである、{⑦}だった。

 

 

「チー」

 

これに間髪入れずに鳴きを入れたのは、下家の多恵だ。

先ほどは一発を消すために鳴いたが、今回はそうではない。

 

 

多恵 手牌

{③④赤⑤赤⑤⑤二二二三四} {横⑦⑥⑧}

 

 

(これで、追い付いた)

 

強い牌を切ってきたことで、優希も追い付かれたことを確信する。

さらに、優希の上家であるやえも、一発目に手から危険牌の{⑧}を切ってきた。

 

やえ 手牌

{⑨⑨⑨789五五東東東発発} 

 

(宣言牌には間に合わなかったけど……私と多恵がそのリーチ、タダでは帰さないわよ)

 

威圧的な視線を、優希に向けるやえ。

リーチを打った優希は、もうそのリーチ棒を戻すことができない。

 

 

(こいつら……攻めてきてる……!1度鳴けないだけで、こうも苦しくなるのか……!)

 

優希が持ってきた牌をツモ切る。

幸い、ロンの声はかからなかった。

 

 

そして白望がまた、持ってきた牌を見て左手を顔の付近に当てた。

白望は悩むとき必ずこの仕草をする。

 

 

「……じゃあ……これで」

 

白望が切ったのは、ドラの{⑥}。

また、白望の捨て牌から、波紋が出る。

その波紋は、しだいに、大きく、やわらかくなっていく。

 

 

 

 

 

『宮守女子高校、小瀬川選手。リーチの親にも通ってないですし、他2人も攻めてきていることを考えれば、このドラは無謀すぎませんか?』

 

『まー正直常人には信じられん打牌だねい。けど、この卓を制するには、そういった「理」じゃダメなのかもねい』

 

ケラケラと笑い飛ばすのは咏。

3人聴牌のまま、数巡が過ぎる。今回は多恵の待ちは4面張だが、枚数の少ない4面待ちなので、即決着というわけにはいかない。

 

卓全体が、深い霧の中に覆われる。

 

 

 

『迷い家、って知ってる?』

 

『……なんかの伝説でしたっけ』

 

また始まった、と言わんばかりに、針生アナが少し頭を抱える。

咏の語りは唐突に訪れて、いつも何を言っているかわからないので、対処が大変だった。

咏もそれをわかっていてやっているのが質が悪い。

 

 

『そうそう。森の奥深くにあるとされている幻の屋敷。金品を1つ自由に持ち出していいって言うもんだから、たくさんの人がその屋敷を目指して森を歩いたらしいんだよねい』

 

『はあ……』

 

やはりわけがわからない。

しかし、例によって例のごとく、的外れな話をしているわけではないという信頼があるので、針生アナは咏に先を促した。

 

 

『ケド、迷い家を目指した者たちは、誰1人としてその屋敷にはたどり着けなかった。たどりつけたのは、迷って、迷って、たくさん迷ってしまった旅人ただ1人』

 

『迷う……ですか』

 

咏がうなずく。

迷うことで、誰もたどり着けない境地にたどり着く。

 

 

 

 

『黒き門の中、庭一面に紅白の花咲き乱れる』

 

遠野物語。その屋敷に辿りつき、成功した者の名は。

 

 

 

 

 

「ツモ」

 

 

12巡目 白望 手牌

{一二三四五九九白白白} {横赤五六七} ツモ{六}

 

 

「……2300、4300」

 

 

 

 

 

 

『彼女もまた、常識の外にいる打ち手ってことだねい』

 

会場から歓声が上がる。

ここまでの対局内容は、予想を大きく裏切るものだったが故に、観客の盛り上がりも加速した。

 

 

 

 

『長い連荘を止めたのは、宮守女子、小瀬川白望選手!ここまで、去年の個人戦決勝卓にいた2人が和了れていません!』

 

『王者の宣言牌殺しもかわして、全員の当たり牌止めて和了りきった……今日のこのコ、かなり調子良さそうじゃねーの?知らんけど』

 

 

 

 

 

 

東2局 親 白望

 

 

(ぐっ……実力で親を流された……!でもまだ東場は東場。戦える……!)

 

手放したくなかった親番を落とされた優希。

しかしまだその手牌は落ちていない。

 

 

3巡目 手牌 ドラ{八}

{①②③④赤⑤⑥⑦⑧三四四西西} ツモ{⑨}

 

 

(来たっ!ダマで満貫確定。ここは確実に和了りに行く……!)

 

3巡目でダマ満貫聴牌。

部長にも速度が重要と言われている以上、ここはダマで確実に和了りに行く。

 

優希に少しだけ焦りがあったのかもしれない。

 

手牌からそっと{四}を切る。

 

しかし。

 

 

「ロン」

 

優希は頭を無理やり卓に叩き伏せられるかのような感覚に襲われる。

牌を曲げようが曲げなかろうが、王者には関係がなかった。

 

 

やえ 手牌

{234678三三四五五八八} ロン{四}

 

 

「8000」

 

 

卓の絶対的王者が、自由な麻雀は打たせてくれない。

 

 

(……忘れてたわけではないけど……まだ3巡目だじょ……!)

 

 

2回戦での苦い記憶が甦る。

東場であっても、簡単には和了らせてくれない。分かっていたことだが、改めて実感する。

 

 

 

東3局 親 多恵

 

「ポンだじぇ!!」

 

それでも優希は折れない。折れるわけにはいかない。

 

この局も優希が動き出した。

2巡目で仕掛けを入れる。

 

 

2巡目 優希 手牌 ドラ{9}

{⑥⑦⑧⑨345678} {白白横白}

 

速度優先。まさにそれを体現するかのような手牌。

打点はかなり厳しいが、やえよりも早く聴牌し、聴牌打牌が複数選択できるようにすることで、今回はやえの宣言牌縛りから逃れることに成功した。

 

しかし今度は、別方向からの刺客。

 

 

「リーチ」

 

(今度はこっちか……!)

 

静かに、流れるような動作で牌を横に曲げたのは、優希から見て対面に座る、多恵だった。

 

やえは静かに現物を合わせる。

 

優希のツモ番。

 

 

優希 手牌 ドラ{9}

{⑥⑦⑧⑨345678} {白白横白} ツモ{9}

 

(うっ……どれだ……?どれなら通る……?)

 

 

優希はこのツモで、聴牌を継続する打牌が、5種類あることになった。

{⑥⑨369}のいずれかで、打牌として、{⑥6}はあり得ない。ダブル無スジだ。

実質優希の打牌の選択肢は{⑨39}のいずれか。

 

待ちとして優秀な3面張を選ぶなら打{⑨}。

 

 

(こんなところで、弱気にはなれないじぇ……!)

 

優希が選んだのは、{⑨}だった。

多くの人がその選択をするだろう。

 

しかしこの場では、この場だけの正解は「オリ」だった。

 

 

 

 

「ロン」

 

 

瞬間。()()の輝く剣が、優希の身体を貫いた。

 

 

多恵 手牌 ドラ{9} 裏ドラ{⑧}

{⑦⑧⑨⑨⑨33345678}  ロン{⑨}

 

 

「7700」

 

 

(何を切っても当たるのか……!!!)

 

 

正確に放たれた剣が、優希の四肢を貫いた。

聴牌を継続するために切れる候補があると優希は思ったが、実はそんなものは存在していなかった。

どれを切っても、正確無比な剣によって切り裂かれる。

 

一歩前に出れば、確実に切られるような感覚は、優希が2回戦で戦った侍と、少し似ていた。

 

 

 

点棒のやりとりが終わり、優希は深く息をつく。

今でこんな状態なのだ。

 

東場が終われば、もっと厳しくなることは間違いない。

 

なら、なおのこと、ここで折れるわけにはいかない。いかに相手が強大だろうとも。

 

優希には、ここにいる3人の3年生が、とても大きな壁となってのしかかってくるような重圧を感じていた。

 

 

 

(バケモノどもめ……!)

 

負けられない。優希はもう一度、気合を入れなおした。

 

 

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